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悪役令嬢の決断

「お嬢様の言いたいことは分かりました、ですが先程述べたように結婚とは家と家との繋がりが関わってきます、ですので安易に婚約を破棄する等という真似はできません」


 あったりめーだ、個人でも破棄する場合慰謝料やらで面倒臭いんだ、そんなポンポン破棄出来るなら誰だって簡単に婚約するわ!


「むぅ……、じゃあどうすればいいんですの?私はカイン様の下で平民のように、惨めな扱いを受けなければなりませんの?そんなの嫌ですわ!」


 自らの自由、そんな彼女にとって当然すぎる思いが現実に押し潰されていく未来に、酷く納得のいかない表情を浮かべ、むぅむぅと唸り続けるアルテミジア。


 なんつーか相変わらず極端なお嬢様だわ……、と言うかお前は平民をそんな風に見ているんかい!


 つってもまぁ、この世界の貴族ならそれは普通か、実際攻略対象にもそんな奴が居たような気がする、無口系ネクラーの三馬鹿だっけか?たしかアイツは最初アリス嬢をバカにした態度を取っていたなぁ……。


 このゲームに限らず現実だって貴族ってもんは、平民なんて一部の優秀な奴以外、ほっときゃ畑から取れる位にしか考えない奴も多い、何処の世界も持つ者持たざる者の差がある、これはどんな世界でも有り得る話だと思う。


 人は生まれ育ちで決まるものがある、それは住む世界で非常に大きな認識の壁になる、全ての事が理解できる人間なんてこの世界には一人も居ないのだ。


 だからこそ貴族だって色々居るだろうし平民も一緒と言うのもある、王妃様の様な優しい方も居れば、彼女のお父上のような平民を道具としてしか見ない人も居る、平民だって真面目に働いて頑張っている人もいれば人を食い物にするような奴も居る。


 だからこそ今まで屋敷という狭い鳥籠の中、大事に歪められて育った目の前の少女が、現実を見ることが出来なかったアルテミジアが、そのように考えても仕方がないのだろう。


「手がない事はありません、カイン様の方から婚約を破棄させればいいのです、カイン様は素直な女性がお好きな様子、ですのでこのまま放っておいてもいいのですが、そのままですとお嬢様の経歴に傷が付きます」


 アリス嬢に全てを任せればいい、まぁイベントの幾つかがお嬢様の嫌がらせなので、そこをなんとかしなければいけないが、まぁ物語の話を元にした夢の世界だ、俺がこうして違う行動をしているように、別に個々の演者が違う事をしても許されるだろう。


「やっぱりあるのではないですか!ブルックリンはさっきから可怪しいです!どうして私を不愉快にさせるような事ばかり言いますの!今日の貴方は意地悪ですわ!」


 うわーお前がそれ言うのかよ、つうかさ言えないのは解ってるけど敢えて言いたい、知らんがな!それ言った場合の被害を考えるのは恐ろしいから言わんけどさぁ……。


 もしここで言ったら不満を感じて即座にストライキを敢行する凶悪な団体(両目のハイライト)があるからなぁ、うちの業界(胃壁)に直接被害が多すぎる以上は、その圧力に屈しないとは口が裂けても言えんのよねぇ……。


「いえいえ、これは聞かれていない事ですよ?道具というのは使い様、お嬢様は平民を道具のように扱います、ですが道具は使わないのに勝手に動くような事は無いでしょう?ですから申し上げなかったのです」


 そんな悲しい現実を考えながら、とりあえず適当な事をぶち上げて二人のヘイトをこれ以上稼がないようにした、俺には守りたい胃壁(モノ)があるんだ!


 そんな何処かの不殺系で全方位攻撃主人公みたいな事を考えていると、妙に納得したような表情を浮かべたお嬢様が口を開く。


「じゃあ、ちゃんと聞けば教える、そう言っているのですね?」


 目の前の少女はモノ知らずではあるがバカではない、だから正しい問題を与え正しい解き方を教えれば、自ずと正しい答えを導き出す、今回もちゃんと自分で考え選んだ答を俺に返してきた。


「その通りです、貴方は漸く私というモノの使い方を理解したのです、それは他の平民も一緒です、お嬢様が正しい使い方をしなければ、お嬢様が望む解答は得られない、そういう事です」


 ノブレス・オブリージュという言葉が脳内辞書にない彼女に、これからそれがどういうものなのか俺は教えなければならない、だが一般庶民の俺がそんなもんを上手く教えられるのか疑問もある。


 だけどまぁやるだけやってみてもいいかと、目の前の少女のやる気に満ちた顔を見ると思ってしまう。

 

 コイツの笑顔って意外と憎めないんだよなぁ、でも干物にそれを言ったら問答無用でクッションアタック食らったのは苦い思い出だ。


 乗りかかった船でもあるしどうせ夢だ、ならこんなアルテミジアに付き合うのも一興だろう、どうせ目が醒めるまでだし精々出来る分だけ頑張ってやるか。


「じゃあ!まずはどうやってカイン様に婚約を破棄させるか考えなさい、この私がお母様の様な自由を手に入れれるのか、ブルックリン、教えなさい!」


 ごめんそれ無理!って言いたい、なんでコイツはこんな両極端な方向にすっ飛んでいくんだ!折角見直したのが台無しだ、畜生め!その清々しいまでのドヤ顔を両手で抓ってやりたいわ、本気で泣かしてやりたいって思う位のドヤ顔やめーや。


「まずはアリス嬢を王子にぶつけましょう、彼はお嬢様のような我儘な方よりもアリス嬢のような大人しい女性を好みます、まずは彼女と友達になってみては如何ですか?」


 こう言えばどうなるか、恐らくプライドが邪魔して怒るかもしれない、だがこれこそが彼女が唯一被害を受けない為の方法だ。


 二人が仲良くしている姿を見れば誰も疑わないだろうし、被害を与えるようなことをしなければアリス嬢が味方をしてくれる、王子だってアリス嬢と懇意にしていればそこまでの無体は考えまい。


「ふむぅ……、あの平民が嫌いな訳ではないですが……、友達なんて作った事が無いからどうすればいいか解りません……、それも教えなさい、そうじゃないと貴方を許しませんわ!」


 だから言いながら困惑して、その後ブチ切れるの勘弁してもらえませんかね?なんつうか色々痛くて見てらんないわ!


 ああ、確かに君は友達居ないぼっち設定だったね……、だけどさだけどだよ?いちいち眉を上げて人を脅さないと頼み事ができんのか!まずその行動を何とかしようよぉ~、脅される平民の身になってくださいよー。


「それはお教えますが、お嬢様のような位が高いお方が、安易に教えなければ許さない等と言えば平民は萎縮し、ただ従うだけの生きた人形のような態度になってしまいます、今までの私のように」


 暗にそういう態度だと教えない、言葉の外に隠してみたが彼女はどう反応するだろう、それによってお嬢様(もうじゅう)教育(ちょうきょう)プランは変わってくる。


「うぅ……、分かりました!教えて下さいませんか?ブルックリン先生!どう?これで良いのでしょう?」


 暫くう~う~唸ったと思うと、意を決した様に彼女は貴族の子女らしい文句のつけようのない礼と、怒鳴るようなお願いをする。


 傲慢なアルテミジアの口から出た言葉は、彼女に俺が求めた答を自ら導き出したと言ってもいい、まぁ余計な言葉も付いているのはご愛嬌だろう。


 そして思った以上にいい解答を聞いた、俺がもし北海道に王国を作ったゴロウさんなら思わず『よ~ししよしよし!この子はですねぇ』などと解説を入れたくなる見事な解答に、笑顔で彼女の質問に返事をする。


「ええ、今はそれで十分です、今までお教え出来ていなかった分、少しずつお教えしますから一緒に頑張っていきましょう」


 彼女は答えを聞いた満面の笑顔を浮かべる、ん?なんか雰囲気が可怪しいような気がする、どうしてそこでいきなり胸を張り出すんだ?おい、ちょっと嫌な予感がギュンギュンしてきたぞ、これ駄目なヤツだ!


「ええ!いつか私がお母様のような自由を手に入れる為、今は雌伏の時なのですわ!そのためなら公爵家令嬢アルテミジア、さえない平民の貴方の下でも堪えてやりますわ!」


 うおおおい!お前ってヤツはちょっと褒めた瞬間これか!そんな拳を握りながら目を輝かすんじゃねぇ!しかもナチュラルに俺をディスらないと話も出来ねーのか!これを何とかせんといかんのか?マジですげー手の掛かりそうなお嬢様(じゃじゃうま)だぞ?


 そんな彼女を見てメリッサも目を潤ませてハンカチで涙を拭い嬉しそうに笑っている、いやいや可怪しいだろ!ここそんな感動するシーンじゃないでしょ!アンタの目はどんな基準で働いてんだよ!


 あー、もうマジで早く目が覚めたくなってきましたよ―。


「これだけ私が我慢してるのです、貴方もしっかり教える気になったのでしょう?だから早く教えるのですわ!そしてあの地味な平民を私のお友達にしてやるわ!」


 尊大な態度で両手を腰に当てるお嬢様を見て、メリッサは涙を拭い、俺は胃壁を庇うように胸に手を当てるという何ともカオスな空間になった、俺の胃が溶けていくの今感じる、シクシク痛いんだわ……、この屋敷で誰か胃薬もってねーかなぁ……。


「待ってなさい!平民!貴方が嫌だと言っても私は絶対に諦めませんわ!私の自由な未来の為にも貴方を無理矢理でもお友達にしてやりますわ!お~ほっほっほっほ~~~」


 お前はどうしてそういう思考回路しか持っていないかとアルテミジアを怒鳴り付けたい俺を他所に、悪役令嬢は今日も元気に部屋の中心で高笑い(とおぼえ)をするのであった、本当にお願いだから誰か変わってぇええええええ!!!!

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