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情報収集の筈だったのに……

 メリッサとお嬢様の未来を救うと約束を交わした以上、出来る事をやりたい。


 まず今の時間の有効活用として、物語に出てこない屋敷の住人達である使用人についての情報を聞こう、あとは俺が知らないブルックリンへの他者からの評価や、これから必要になるであろう設定の外の世界の話を色々話を聞くべきだろう。


 そう考えた俺は親愛の情を表すように穏やかな笑顔を浮かべるかメリッサに声をかける、と言うか本当にこの黒髪メイドさんは俺の好みにストライクで目のやり所に困る。


 彼女が動くたびに揺れる母性の塊に目を奪われそうになるが、そこは紳士として理性で抑えているつもりだ、でもさ、干物に言わせると男のそいういう目線ってモロバレらしい、彼女は心をある程度まで読めるらしいから完全にアウトかもしれんなぁ……。


 その場合はこれからフォロしていくしか無いだろうし、まずは質問に集中しておくか。


「済まないが少し聞きたいことがあるんだ、最初は私自身、というかブルックリンについて色々教えてくれないかな?出来るだけ詳しく教えてくれると嬉しい」


 これはあまりゲームの中で語られない部分だ、例え攻略キャラや物語出てくるその他キャラの重要な設定を知っていたとしても、現状は乙女ゲーにそっくりなだけで全てが一緒とは限らない、その事実は話しているメリッサ自身の行動で理解が出来た、だからこそまずはブルックリン自体を詳しく知りたい、そして周りがコイツに持っている感情も知っておきたい。


 相手の顔も性格も全く知らない上、どう思われているかも解らない状況で上手くカバー出来る程簡単じゃない、さっきの忌まわしい記憶___屋敷の前での使用人からドン引きという悲しい事件だって、普段のブルックリンとの差が酷すぎたから起きた事だ。


 これから上手くお嬢様を鍛えて行こうと考えいるなら、彼女の意見と情報はしっかり聞いておくべきだろう。


「はい、貴方と入れ替わる前のブルックリンさんは、人嫌いらしく仕事以外では寡黙な方で、それ以外では天文学の事ばかり考えおられ、とても神経質な気難しい人物でした」


「そのようだね、整理整頓がしっかりなされた部屋の様子からなんとなくは想像がつくよ、それにこの部屋には天文学の書籍や望遠鏡しか目立つものがない、これで剣が趣味と言われたら少し困るね」


 俺は少しだけ冗談めかしてメリッサに返す、彼女は少しだけ笑って返事を返してくれる。


「ふふ、確かにそうですね、ですのでやはり使用人の中に親しい人物も居らず、独りで食事をするような方でしたし、屋敷の者は皆、お嬢様と同様あまり触れないようにしていました」


 助ける約束を交わしてから彼女は随分と親しみやすい、だが同時に妙に距離が近い!お願いだから少し離れてくれませんかね?そんなに近くで嬉しそうに語られると、モテない男としては滅茶苦茶落ち着かいないんだよ!しかもなんだか妙にいい香りがする所為で、正直言って色んな意味でキツイっす!

 

 そんな心中を知ってか知らずか、俺が己の熱いパトスと熱戦を繰り返しているのを見ながら彼女は説明を続けてくれる。

 

「その教養の高さと武芸の腕前からでしょう、平民の身でありながら旦那様直々に教育とお目付け役に抜擢されました、ですが天文学に全く興味のないお嬢様に絶望してからは、ただ我儘に言いなりになって日々を過ごすしている人、無気力な人と言う印象でしょうか」


 ああやっぱりそこら辺は一緒なのね、そこまで違ったら流石に無理だと思って荒ぶる鷹の逃走ツヴァイを発動しようと思ったぜ。


「なるほど、なんとか予想の範囲内で安心したよ、まぁそれでも君のフォローがないと俺は早々にお尋ね者になってしまい、公爵家に消される前にこの国から逃走を考える所だったよ」


「ふふ、そんな冗談を言わないで下さい、えぇ……、例えどんな事があってもお嬢様を助けて頂くまで逃がしませんよ?絶対に……」


 メリッサの表情は変わらないのに、妙に冷たい汗が背中に一筋流れる、きっと多分彼女の綺麗な瞳のハイライトが仕事していないのに気付いたせいだと思う、何?何なのこの子、やっぱり怖いじゃん!


「いや、実際この状態では誰かにフォローがないと早晩、夜逃げの未来もあり得ると思えないか?」


 何故か彼女の両目の光が戻らないのが怖い、とりあえず話を続けよう、きっとハイライトさんは休憩時間なんだろ?すぐに帰って来るさ!それまで頑張れ俺!


「安心して下さい、私は貴方の共犯者です、ちゃんと貴方が約束を守ってくださる限り、お守りしますよ?だからそんな無駄な事をお考えになるのは、もうお止めになって下さい」


 うん、さっきは命の危険を振り切ったと思っていたけど、あれ気のせいだね、うん、俺現在進行形で命の危機だ、静かな川を船が優雅に移動する映像が流れる危機を、この瞬間に全身で味わってるわ。


「君のフォローがないと大変な事になって私は生きていけないだろう、至らない部分があるかも知れないが、出来る限りの事はするつもりだから見捨てないでくれるかい?」


 とりあえず今言えるのはこれ位だ、流石に大きな事を言って首を絞めて信頼関係にヒビが入るとまずい、このくらいで留めおこう。


「はい、お任せ下さい、貴方が不利にならないように全力で尽くします、ふふ、こう言うとまるでお互い婚姻の洗礼を受けるときのような言葉ですね」


 おお!ハイライトさんの休憩時間が終わったぞ!本当に怖かったよぉ、穏やかな笑顔なのに目だけ死んでるとか本当に怖すぎ、よくもまぁハーレムものなんかの主人公はこの状況を耐えれるもんだ、正直その点は今素直に尊敬できるよ。


「ははは、君はさっきからそんな事ばかり言っているね、そんなに恋愛小説や歌劇の出てくる恋の話が好きなのかい?」


「ふふ……、恋の話は好きですよ?」


 おかしいいな、またなんか可怪しいこと言ったか?そう思った瞬間、再びメリッサの瞳は深淵の色を俺に見せる。


 やっちまった!速攻で選択を間違った!お願いハイライトさん帰ってきてー!


 俺の胃壁が何かの攻撃でゴリゴリ削られる音が聞こえるから早く戻って―、いいのかー?間に合わなくなるぞ―?さっき休憩したばかりでしょ!もうお仕事の時間ですよー!


「ええ、とても憧れますわ、自分にはもう、どんなに手を伸ばしても届くことなど無いであろう物ですから……」


 届かない夢だと評する姿、それでも憧れ絶望するその目を見ていると辛い、だから出来る限りの気持ちを込め、メリッサ自身が己に課した重たすぎる悲壮な覚悟を否定する。


「そんな事はない!アルテミジア嬢を破滅から開放し、君自身の幸せを考え手に入れる日が必ず来る、その時は例え君が嫌だと言おうが絶対に私は手伝う、そして君の諦め腐った瞳に無理矢理でも光を灯してやるぞ!今から覚悟しておくんだね!」


「ふふ……、やっぱり貴方はとても優しい人です、そして同じ位酷い人ね……、こんな何も残っていない私に夢を見ろなんて優しい言葉で、なんて残酷で甘くて苦い毒を吐き出す人なんでしょう……」 


 涙を零さないで泣く表情(えがお)は、酷く儚くて目の前の女性(メリッサ)がこのまま掌に舞い降りた雪のように消えてしまうのではないかと思わせる。


 俺はとうとう我慢できなくなり、彼女を壁際に追い詰めて悲しみと怒りに任せて壁を叩く、二人の間の僅かな空間に叩かれた壁の悲鳴が木霊した。


「いい加減にしろ!君が自分自身を諦めたら誰が君を大事に出来るんだ!メリッサの不幸は俺には理解できないかもしれない、それでもメリッサが自分を諦めてしまっているのが気に入らない!だから俺はお嬢様と纏めて無理矢理でも君を幸せにしてやる、君が否定しようと絶対だ!」


 何故自分がこんなにも、激情を覚えたのかすらわからない、それでも今、彼女に俺は言わなければならない、目の前の今にも消えてしまいそうな女性(メリッサ)が居なくならないように。


「やっぱり貴方は酷い人です、私は浅ましい女ですから、そんな風に言われてしまえば自分の立場を忘れ、あり得ない夢を見てしまいますよ……?だから、責任、取ってくださいね……?」


「ああ、絶対に幸せにしてやるから、しっかりと覚悟しておけっていているだろ!」


 女性としては少しだけ背の高い彼女が見せる上目遣い、そのグレーの瞳は潤んで吸い込まれると錯覚しそうな程美しい。


 彼女が遠慮がちに俺の胸に添えられた華奢な指先はその温もりを伝え、微かだった彼女の芳香は肌が触れ合う距離になったせいで、大輪の花のように広がって鼻孔の奥を刺激する。


 メリッサが与える感覚に、自身の感情と同調し暴走する鼓動を悟らる気がして、さっきまであれほど感じていた激情が消え失せてしまった、そうすると今度は急に恥ずかしさで死になくなってくる。


 と言うか、なんで俺は自分のキャラに似合わない暑苦しくて恥ずかしい台詞を吐いちまったんだ!?絶対これは後で頭抱えながら、布団の上でもだえ苦しむパターンだぞ!?


 何だか分からないけど、何だか感情を無理やり動かされているような気がする、これは一体どういう事だろうか?問題を片付ける質問タイムだったはずが、結果として新しい疑問を増やしてしまった気がしてならない。


「誰かブルックリンを呼んできなさい!あとメリッサはどこに行ったの!?私の髪のセットを頼みたいの、誰か彼女を呼んで来て!」


 俺が今現在進行形で積み上げている黒歴史の考察をしていると、屋敷にいつも無駄に元気なお嬢様の声が響き渡った。


 メリッサはその声を聞いてゆっくりと壁と俺の間をすり抜ける様に、身体を攀じりながら耳元に唇を寄せて囁く、耳にかすかに触れる息吹に彼女が持つ熱を感じ、無駄に顔に血が上る。


「お嬢様が呼んでいますので先に行きますね、貴方の言葉嬉しかったです、それと私と二人の時は、無理に私と言わず、俺でいいですよ?その方が自然で素敵ですもの……」


 その言葉を残して、綺麗にまっすぐ伸びた背中を俺に向け彼女は部屋を出て行く、静寂と彼女の香りが残る部屋で呆然と立ち尽くし、その後たっぷり十秒ほど時間を掛けて我に返った瞬間、俺は先程の予想通り頭を抱えてベッドに飛び込み、声を殺してのたうち回る。


「ウウウアアアアアア!!!お前馬鹿なの?お前なんなの?何格好つけてるの!?なんで壁ドンとかしちゃうのさ!ああいいうの*でしょ?!なんでイキって壁ドンなんかしちゃったのよお!ねぇ?なんでええええええ?!!!」


 先程のオラ付いた自分に耐え切れなくて、予想道理開催されてしまう第何回目か解らない俺による俺のための俺罵倒祭が始まる、当然参加者は全て俺、自己嫌悪だっ!


「もう中二病はずっと昔におわったでしょおおおお!」


 室内を包み込むように己の口から低く淀んだ声が漏れて充満する、生まれて来てごめんなさいと言いたくなる程の気恥ずかしさに、己の耳に聞かせる罵倒を浴びながらハンドスピナー並みの後悔点、いや高回転で転がって、どうにか理性を立ち直らせる儀式を終わらせる。


「はぁ……、もう何がなんだかだけど、衣装を整えたらお嬢様の部屋へ向かうか……」


 諦めの境地に至った俺は、これ以上過去を振り返らないためにも未来を考える事にし、身支度と整えながら現実逃避を考える。


 結構時間が立っているし流石にいい加減目が覚めてもいいと思うんだけどなぁ、確か寝たのが4時位だからもう6時位にはなってるはずだ、あとちょっとだと、自分の折れかけた意思がこれ以上悲鳴を上げない様に願いつつ、暴れまわってシーツが悲惨なことになっているベッドに背を向けて、メリッサの香りが微かに残る部屋を後にした。


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