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文化祭の話し合い 後編

 貝当ては3✕3の9マスで1列揃えばクッキー、2列揃えば、刺繍のハンカチ、クッキーの袋か天然素材、ハーブの詰め合わせから選ぶ式で、3列全て揃えばハチミツの小瓶を渡すことになった。

 ハチミツの小瓶は銀貨8枚相当なので、目玉商品だ。

 制限時間も、幼児は制限なしで子供と大人は時間を設けた。

 実際に皆でやって時間内に可能かどうか事前に検証をすることで話がついた。

 この文化祭は、国内外から人が来る。

 生徒の親や関係者も来るためだ。

 そして、平民も来るので上から目線での物言いは厳禁だ。

 全員で担当を割り振り、俺はグルバーグ家の領内でハチミツを取る係だ。

 家の領内でハチミツが取れるアインテール国の貴族は強制的にハチミツ採集だ。

 小瓶やクッキーの袋や材料は予算から出し、オーブンは高等科の調理室を借りる許可をもらう。

「裏方の事前準備班は小瓶や小袋を用意してもらう。袋や瓶が粗悪品だとまずいからラッピングの専門店で購入して欲しい。事前準備班のビアンカ嬢やソラ嬢は店の案内を。あとクッキーの作る量で袋の大きさも考えないと。女子は女子同士、刺繍班とクッキー班に分かれるのか、刺繍をやってからクッキー作りも全員でやるのか。製菓材料で採集できるもの、ハチミツもそうだし、言ってくれれば集める。そういうものを女子達で話しあって欲しい。決めたら紙に書いて見せて。男子も集まって。素材はなにをどこで回収するのかを決めようか。品数が悪かった場合も考えないとね」

「男子生徒は前へ。女子生徒は後方で、それぞれ話し合うぞ」

 ノエルが声をかけ、それぞれに分かれて話し合う。

 男子生徒は、現実派が多く、ノエルも俺も全員に意見を求める。

 他国から来ている生徒も、自国ではこんなのが獲れるんだけど? と言う感じで言い、そうなのか、と楽しく話ながらアインテール国でも獲れるかな? 皆で知っている情報を持ち寄る。

「ハーブと、ハチミツはグルバーグ領で採れるから手伝いに来て欲しい」

 お菓子もその時でいいだろうくらいだ。

「分かった。素材もセンザの皮は獲れるだろう?」

 走り回っているのを見た、と言われる。

 センザは兎より大きめの草食獣で、食味も良く食肉にもなるのだが、柔らかい皮を鞣した財布や鞄は平民には少しお金を貯めていけば1年に1回は購入できる質の良い物だ。

 貴族にはやや安価だが、嫌がられたりはしない。

 使い道の多い皮だからだ。

 俺とラウルは頭を撫でたりするだけだ。

「狩りは一度もやったことがありません」

 そう言うとノエルも含めた男子達からも驚かれる。

「ソルレイ様。狩りはやっておかないと、大人になったら困りますよ」

「そうですね、センザくらいは獲れた方がいいです」

「怖いかもしれませんが、慣れですよ」

「やっぱり? そうだよな。得意なら教えてくれないか? 領地には普通に歩いているんだ。でも、俺は短剣の握り方しか分からないし、来てくれるだけでも助かるんだけど……」

 尋ねると何人かが名乗り出てくれるので、頼むことにした。

「ソルレイ様は文化肌なのですね。私には兄がいるのですが、剣術も来年になったら授業で始まるそうです。ダンスも剣舞に変わります。慣れておいた方が得です」

「ああ、前に聞いたから覚えてるよ。剣術か。参ったなあ」

「ペアダンスよりはいい」

 ノエルの言葉に全員が大きく頷く。

「去年は6人に断られたよ。今年の学年末も地獄だ」

「ソルレイ様がですか?」

「そうだよ。先生と踊るかの瀬戸際だった。今年さえ頑張ればなんとかなる」

 思い出してしまい遠い目をしていたが、ノエルが咳払いをしたので話を戻す。

 他国の者を領地に入れたがらない家もあると聞くが、お爺様は笑っていいよと言ってくれるはずだ。

『家に来て手伝ってよ。国に遊びに行った時は宜しく』と言うと、他国から来ている者は笑いながら『もちろんです』と言ってくれた。

 他の皆も家に来たいと言うので、いいよ、と言い条件は狩りのことを教えてくれることにした。

 本当に何も知らないから準備とかあるのなら言ってと言うと、皆持って行くからいいと言う。

 じゃあ、お願いと頼み、全員の都合のいい日を決める。

 うちの領地で獲れなかった物を他の誰かのところで獲ろうかと話して男子は簡単に話がついたが、女子の方が白熱していた。

 さっきノエルが気をつけるように言った言葉遣いも飛んでいる気がする。

 男子達はそれを冷静な目で見ていた。

 きっとあれがその人の本質なのだ。

「近寄らない方がいい。全員前の席にいろ」

 ノエルの言葉に全員が無言で頷いて、手分けをして書類の作成をした。

 ボードに書かれた内容を清書した俺の紙を見て書き写すだけなので、皆も手伝ってくれたのだ。

 作成し終わり、場所は教室と中庭にしようかと話していると、女子達から終わりましたわ、と声がかかり、可愛いアイシングのクッキーやブロッククッキーを作ることにしたようだ。

「アンジェリカの家でレモンが獲れるそうですの」

「へーレモンか。いいね。ハチミツ漬けにすればクッキーのトッピングにもなるし、ハチミツが取れたら早目に渡そう。砂糖は高いからハチミツクッキーだね。うん。いい案だ」

 用紙には刺繍も、クッキーも全員参加とある。

「ハンカチや刺繍のデザインは女子達に任せるよ。1人1枚作れば11枚だからね。同じ柄でも違う柄でも好きにして」

 得意な子も苦手な子もいるだろうから難易度を同じにする必要はないよと伝える。

「ええ、お任せくださいませ。刺繍は得意でしてよ」

 笑顔で刺繍が得意なアピールを、恐らくノエルにだろう、している。

 ノエルが俺を見てくるが黙殺して、『期待しているよ』と代わりに返し、調理室使用の希望日を聞き、前日と念のため当日も使えるようにして書類の作成を終えた。

「とりあえず場所決めは中庭と教室にしようか。皆も気づいたと思うけど、場所って取り合いになるんだ。調理室もそうだけど、早い者勝ちだよ。今日中に決まって良かった。申請書類は完成したから教務課に提出しよう。場所どりのマクベルはこの後、俺と一緒に教務課だ。抑えられていたら違う場所を検討して確保するのが仕事だ」

 マクベルを見ると、しっかり頷く。

 それを見てこれで終わったと、ノエルを見る。

「決めることは終わった。やっている内にイレギュラーも出るだろうが、その都度相談だ。臨機応変に対応していく。試験も終わり夏休み期間になる。2週間後は文化祭だ。文化祭までに全員で集まる日を決めておきたい。裏方も裏方同士集まるべきだ」

 裏方は、3日後に集まることに決め、全員で集まるのは5日後となった。

 時間はいつも通りの時間に集合だ。

 夏休み期間中は教員棟の近くのレストランとカフェが空いているので心配はない。

「解散」

 ノエルがそう言うと、全員が自分の役割や決めたことを紙に書いて片付けを始める。

 俺も書類を必要な申請ごとに仕分けをして、まずはマクベルと教務課に提出する書類を仕分けた。

 設営に必要な書類も、長机や椅子の貸出し許可を貰わないといけないので、受付や貝当てのマスを作るための机なども、皆の持って来てくれる貝当ての数から計算し、お金を保管するための鍵付の箱などの申請もしなくてはいけない。

「よし、これでいい。マクベル、行こうか」

「はい。中庭が空いていると良いですね」

「本当だね。4年生は経験者だから、場所だけ先に決めているとかありそうだ。ノエル様。設営に必要な貸出し用具についても聞いてきます」

「一緒に行こう」

「ありがとうございます」

 3人で教務課に行くと、顔なじみの職員がいたので声をかけた。

「ソルレイ様。もう申請ですか? どこも揉めるので申請書類はギリギリに出されることが多いのに……」

「そうなの? 取り合いになるから競争が厳しいかと思っていたよ」

「ギリギリに申請されると1分違いで駄目になることも多くて、他学年同士で言い合いになることもあります。止めに入るのも大変で……」

 どちらかは企画そのものをやり直さないといけなくなるため、手が出る前に担任を呼ぶのだと言う。

「「「……」」」

 バイオレンスな匂いに、全員で視線を交じり合わせ、決まって良かったと頷いた。


「……俺達は、貝当てなんだ。中庭の屋根があるパティ、1年生のレリエルの教室を使いたい。前日と当日の多目的教室は控室兼準備室に使う。それから調理室の申請は前日と、当日。使う調理台は2台。中庭で使う長机や椅子は10台ずつ。高さを変えられる調整機能付きの長机だ。それから備品の貸出しを頼みたい。備品まで買っていたら予算を食うから借りられる物は借りたいんだ。面倒をかけて悪いね」

「いえいえ、こんなに早い申請で助かりますよ。書類も…完璧です。担任の印もありますので、許可印を押します。……これで決定です。貸出しの椅子や机は第一倉庫です。備品の貸出しもかまいませんよ。これが備品の品目リストです。こちらは改めて書類を提出願います」

 申請書類を手渡され、受け取る。

 借りた数と数が合わない場合は弁済なので気をつけないとな。

「ありがとう。助かるよ」

 話が済んだのでこれで終わりだ。

「お疲れ様。マクベルの裏方の仕事はこれでお終わりだ」

「楽すぎて吃驚です。仕事をした気がしません。3日後に集まる時も来ます。何か手伝うことがあったら言って下さい」

「アハハ、ありがとう」

 笑って別れ、ノエルと昼を摂りながら設営は前々日に行って前日は予行演習にしようと話した。

 報告しようと教務課に行っても、クライン先生がいなかったので二人で顔を見合わせる。

「「ガーネルか」」

「はぁ、行きたくない。クライン先生がああ言うなんてよっぽどだよ」

「俺もだ。図書館で1冊読んでから行くか」

「うん」

 ノエルは剣を使えるのか聞きながら図書館まで行く。

 剣の練習はずっとしているらしい。

 帰ったら、魔道騎士として軍に最低でも2年入ることが決まっていると教えてもらった。

 剣舞も侯爵家の嗜みで王族に求められることも多いから小さい時から練習してできるのだと言う。

 来年にあるのなら頑張らないと俺は無理だ。


 本を1冊読んで1時間空けたにも関わらず先生は教員棟に戻っていない。仕方なくガーネルに向かうと廊下にまで激しい言い合いが聞こえてくる。

 近づくと怒声と先生の窘める声が聞こえる。

「ここに入るのは勇気がいるな。ノエル、どうする?」

「帰るか」

「え? いいの?」

厄介事を回避できるので俺は嬉しいけど、いいのだろうか。

「問題ない。帰るぞ」

「うん」

 こっちにまでとばっちりがきそうなので、教員棟の先生のポストに報告書を書いて出した。

 3日後に裏方は集まるので、詳しくはその時にでもと、無理をして体調を崩さないようになさって下さい、と労わりの言葉で結んでおいた。

 これでいい。

 ノエルとも別れ、学校を出て運河に向かう。


 水色の空に積乱雲がもこもこと湧き、虫の鳴き声、前世と眺める建物に違いはあれど、青々とした緑が運河の水面にも映って美しい。

 良い天気だ。

 いつ終わるかも分からずに悪いから、帰りは小船で帰るとロクスに言ったが、屋根付きの乗合の少しだけ早い小舟は風が気持ちいい。

 夏休みなのに、学校に行くのをラウルは面白く思っていないので、帰ったら文化祭のことを教えてお爺様と一緒に見て回ろうかと誘おう。

 “行くー!”と喜ぶ笑顔のラウルを思い浮かべ笑みが浮かんだ。

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