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休みの日は楽しい。夏休みはもっと楽しい!

 座学の試験は、思いがけず手に入れた音楽や茶会の自習時間のおかげで全て回答することができた。

 詩の試験でも手紙の冒頭の時節の挨拶は、前世が同じように四季のある日本国であったので、綺麗な言葉の言い回しは覚えていたので助かった。

 先生から返って来た手紙には、エクセレント!と書いてあったので合格なのだろう。

 魔道士学の試験3つもちゃんと書けた。

 お爺様と家族しか行けない秘密の修行場所に出かけたことをカルムスがやたらと羨ましがるので、逆に授業で分からないところを質問攻めにしたのだ。習っていない細かいところまで教えてくれるので勉強になった。



 こうして夏の試験は終わり、夏休みに突入した。


 他国から来ている生徒たちは、親離れの意味で今年は帰ることを禁じられている。ノエルも今夏は寮だし、同じレリエルクラスだと、クラウンやハルドもそうだ。

 話を聞くと、盗賊に襲われるリスクもあるのでそう帰りたいものでもないらしい。『微妙です』と言っていた。遠い国から来ていると尚更そうで、下手をすると卒業まで家族とは手紙のやり取りだけになると聞いた。

 夏冬の長期休みを寮で過ごす学生や勉強熱心な学生のために、図書館は書庫整理中以外は開放され、音楽室も許可を申請すれば使用できるという。


「他国から来ている子は大変なんだね」

「うん、そうみたい」

 カラッと晴れた日に庭でランチをしていた。

 楕円形のテーブルに真っ白いテーブルクロスが敷かれ、夏の花が中央に品よく飾られている。

 目の前のお皿には、御爺様の好きな牛肉が薄く切られ、たっぷり入ったローストビーフのサンドイッチに瑞々しいトマトが挟まれていた。

 それを本能のままに大きな口を開けて頬張った。

「来年も帰れるかどうかは分からんがな」

「?」

 カルムスの言葉に、どういう意味? と、表情だけで返しつつ、咀嚼してからピンク色をしたオレンジジュースに手を伸ばす。

「来年になれば分かる。なるべくクラスをまとめ上げておけ」

 ジュースを飲み干し、グラスをテーブルに置くとすかさずメイドのミーナがお代わりを入れてくれた。

 ありがとうと小声でお礼を言い、カルムスに笑う。

「ノエルがいるから大丈夫そう」

「お兄ちゃん、ノンはそういうの苦手そうだよ」

「そうかな?」

 入学式の初日に全員で自己紹介をしたからか、挨拶は皆し合うという感じだし、ノエルは偉そうに物を言わないから過ごしやすいと思う。穏やかな性格で休み時間もほぼ本を読んでいるからな。

「なに、成功しても失敗しても学びは多いからの」

「うーん、来年何かあるのだけは分かった」

 笑うお爺様を見て、大したことではないのだろうと頷く。

「ソルレイ様」

「ん?どうしたの?」

 ダニエルに真剣な顔をされたので、目を瞬きながら両手で持っていたサンドイッチを皿に置いて聞く姿勢を取った。

「この料理のソースはなんですか?」

「ん"!? ああ、アハハ。ダニーの好きな味だったんだね。アーモンドだよ。アーモンドソース!」

 びっくりした。事業の話かと勘違いをした。

「アハハ! 僕も好きだよ! おいしいよね! お母さんが忙しいとお兄ちゃんが作ってくれたの」

 うんうん、食育、食育。覚えていてくれて嬉しい。

「なんだこれはソルレイが作ったのか?」

「この料理は、ソルレイが料理長にレシピを渡して作らせたものだの。コクがあって実にいい」

「ありがとう」

 なんだか照れてしまう。

 皆が美味しいと言ってくれたこのソースは、とっても簡単で、細かく刻んだアーモンドとアンチョビとケッパーとオリーブオイルを混ぜ合わせたものだ。

「料理長に作ってもらったんだ。ダニーが好きなのは納得だよ。これ、ラルド国の伝統料理なんだ」

「そうなのか?」

尋ねたのはカルムスだった。

「うん、すごく簡単なんだよ。パスタ生地を転がして太い筒状にするでしょ。素揚げしたナスをその上に並べるんだ。そこにこのソースをかけてチーズを削って焼くだけ」

 トマトがあれば入れるし、バジルがあればバジルも入れる。野菜もズッキーニでもカボチャでもというお手軽料理だ。平民料理なので肉は入らない。

「通りで懐かしく感じたはずですね」

「ワインが進む味だぞ」

「夕飯だよ? みんなで分けて食べるの」

「!?」

 そんなにびっくりすることなのか? ラウルの言葉に衝撃を受けているカルムスに衝撃を覚える。

「……グラタンみたいな感じでこれが夕飯だね。フライパンに材料を並べてパン屋さんに持って行くと無料で焼いてくれるんだ」

「……そうか」

 何でカルムスがショックを受けているんだろう。美味しければいいじゃないか。姉弟仲良く、一緒にパスタ生地を手のひらで転がして上手に丸めたほのぼのとした思い出なのに。

「ラウル、デザートはベリオットのムースだって」

「本当? もううちで育ったの?」

「ハッハッハ」

「アハハ、流石にまだだよ。来年はそうなるといいね」

「うん!」


 気持ちのいい風が吹く昼下がりをそのまま庭で過ごし、お爺様達と他国に遊びに行く計画を来年の夏休み分まで立てた。

 ノエルも遊びに来ると言っていたし、忙しくも楽しい夏休みになりそうだ。

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