表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/244

ノエルからの手紙 

 魔道具の解析を済ませて、対抗できる魔道具を一つ。自分なりに作って先生達に送った頃。

 ずっと棚上げされていたアインテール国とセインデル国間の話がまとまった。その話題でグリュッセンはもちきりとなった。騒がしかった隣国がようやく落ち着く兆しを見せたのだ。


 セインデル国の戦時賠償金は一部を現金、一部を王家所有の金品や関税の引き下げで合意をした。

 この中には、カインズ国から提供のあった魔道具の引き渡しや使用方法も含まれており、次はないとする王家の署名を以っての幕引きとなった。


 一方、カインズ国については雲行きが怪しく、和平交渉には至っていない。


 これには理由があった。多額の賠償金の問題だ。

 敗戦を認めると、セインデル国に対してもカインズ国は賠償の一部負担をすることになる。それでなくても、カインズ国内の被害もあるのに、アインテール国だけではなく、セインデルが負った賠償金の一部を担うことは出来ないということだが、グリュッセンのシルベスト王が他国の王と共に公表したカインズ国によるダンジョンでの他国の王侯貴族殺害について、他国が色めき立っているからというのも大きい。


 こちらの賠償金もかなりの額になりそうで、実質、カインズ国は敗戦を受け入れられない状況に陥っている。


 二つ目は、カインズ国側の被害者の問題だ。


 アインテール国に向けて放った遠隔攻撃の魔道具は、一部、跳ね返され魔力を充填した者へ向かっていった。

 この魔力の充填作業をカインシー貴族学校の生徒に実習で使う魔道具だと言ってやらせていたことが明るみになった。


 学校の寮があったのは王都であったため、カインシ―貴族学校は、魔道具で守られた。守護魔法具は破壊されたものの、幸い、生徒に死亡者はでずにすんだ。


 しかし、学校は瓦礫に変わり、一部の生徒が生き埋めになったそうだ。救助に時間を要したという。

 死亡者は出なかったと言うことだが、重篤な状態や、ハンディキャップを持つことになった人が多く出たのではないか、というのがカルムス、ダニエル、エルクシスの見立てだった。


 カインズ国が珍しく打って出たのは、混乱する国に入られないように時を稼ぐ必要があったからだと各国の動きで分かってきた。


 最悪なことに自国の生徒を保護しようと、各国の騎士団が、カインズ国合意の元、国に入国したのだが、軍部が仕掛けていた魔道具の撤去が済んでいなかったため、作動したらしい。


 他国に帰ろうとしていた生徒と騎士達が命を落とすこととなった。


 不運に見舞われたのは、国が近かったことで合意前に踏み込んだセインデル国で、次に入国したバルセル国は、連絡の行き違いで、魔道具の撤去を待って欲しい旨の対話ができておらず、生徒と騎士が数名亡くなったそうだ。


 各国が、かなりぴりつく異常事態となっている。


 戦国時代にはなっていないが、一触即発の事態であることは確かだ。戦争の危険を早くから感じていたからか。カインズ国の貴族学校に通わせているアインテール国の貴族はほとんどいない。

 被害は、情報に疎いか、軽く考えていた貴族の子息令嬢だけだとアレク達から手紙がきている。


 ノエルには、戦争が始まりそうだと、雲行きが怪しくなった時から手紙を出していたこともあり、グリュッセンの王が、カインズ国の行った蛮行を公表する前に軍事同盟を解消することができたと礼の手紙がきた。


 調えられた封書に業務連絡かと思った誰かが執務室の方に回したため、開封が遅れたものだ。いつもと違う白い封筒ではなかった。封筒の隅に手の込んだ金の装飾がある。


「アヴェリアフ家専用の封筒か」


 これは間違っても仕方がないな。

 エルクにも、ガンツにお世話になっていた時期があるのだから送っていたほうがいい、と勧めたのは少し前のことだった。『戦争の兆しあり、重々注意を』と短い文を送っておいたと聞いていた。


 カインシー貴族学校に通うマリエラも戦争が始まる前に卒業。無事に帰国していることは以前から分かっていたものの、ようやく決まった婚約相手が、ラピスだと聞いた時には衝撃を受けた。

 ラウルは知っていたらしく、『ラッピーは、マリーをずっと守るはずだよ』と笑っていた。


 ノエルは、引く手あまたで、婚約もまだらしい。

 メイ先輩とは、妨害が多く、うまくいかなかったと手紙にあったが、国内の王族にも他国の王族にも声をかけられていることを考えると、向こうの家だけの問題とも言い難い。


「もてすぎるのも大変だな」


 あちこちから邪魔が入って困っているノエルを想像して手紙を読みながら笑った。


 学生時代に研究していた回復魔法陣の論文発表により、国内に呼べれば安泰だと考える各国の王が多いようだ。

 研究を続ける許可もガンツから得られており、今しばらくこのままにしておくと手紙にある。


 どうせなら、アインテール国で研究したいものだと結んであった。


 その一文に、豊かな自然に喜び、遊び回っていたノエルの顔を思い浮かんだ。

 あの頃のように、屋敷で過ごせたら楽しそうだ。

 夢物語ではあるけれど、いつか、もう一度、アインテール国にお爺様の屋敷を戻せる日が来たならば、その時は遊びに来て欲しい。そう返事を書く。


 俺は28歳になり、もうすぐ29歳だ。

 エルクは30歳くらいにしか見えないけれど、もう40歳に近い38歳だ。

 延命の魔道具も、もう少しで試作から抜け出せる。


 この世界の平均寿命は30歳。その年に近づいた。ここまで生きられたことは感慨深い。どうせならお爺様のように大往生を目指す。

 それが今の目標だ。

 だから、戦争はやめて欲しい。

 平和こそが最も尊く、世界中の人々の努力と忍耐の上に築かれるものだと思うから。壊れやすく、歪むことがあっても。どうか愛おしい世界のままであってくれと願った。

読みにきて下さった方々へ


一身上の都合で休んでおりました。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 退院おめでとうございます。 ノエルの様子が知れて嬉しいです。 マリエラも幸せになるといいな。 無理のない範囲での更新を楽しみにしています。 返信はなくて大丈夫です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ