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推理を聞かせてみよう

 ルファーに会う前に、謁見の申し込みを先に行うことにした。

 極めて私的なもののため、なるべく側近は排していただきたいと記しておこう。

 もちろん護衛騎士などはいてもらって構わない。

 謁見者は、ソルレイ、ラウルツ、クレバの三名だけを書いた。

 これでルファーは黙るしかない。

「この謁見で戦争が終わってくれればいいな。各国にも行きやすくなる」


 書き上げたものは、アドリューに頼もうか。

 前も城に行っているからロクスに頼むより早いだろう。

 部屋で書き上げ、執事長のアドリューを呼んだ。


「謁見申込書だ。明日の朝一番に頼みたい」

「かしこまりました」

 封書を受け取ったアドリューが、机や床にあるものを見ていた。

「こちらは?」

「クレバに頼んでいたカインズ国の魔道具だよ」

 壊れている物もあるが、仕組みを調べる分には問題ない。

「殺傷能力が高いものばかりだよ。危険だから魔法陣で起動しないように抑えてある」

 俺しか外せないことを告げておく。

「そうでしたか」

「解析は早い方がいいだろう」

「そうでございますね」


 抑揚のないいつもの静かな声で、小さく頷くと、頭を下げて出て行った。




 翌日。ウェイリバさんの魔道具を探知して、そこへ皆で飛んだ。


 隔絶魔法陣を転移魔法陣で飛ばしての安全確保など、二度とやりたくない。カルムスと俺とラウルの共作の複合魔法陣となり、何度も見直して、距離を徐々に広げての運用だった。

 元々、これは緊急事態が起こり、その場からの離脱を目的に研究していたものだ。

 空間魔法陣同士の複合は例がなく、最終的な安全確保は、俺の作る魔道具で、心配の尽きない魔法陣だったのだ。


 不安を抱えながら飛んだ先にいたハインツ家の長兄であるウェイリバさんは、第2騎士団の副団長だ。第1騎士団にも上がったことのある優秀な人でもある。すぐに状況を察してくれた。


 だが、そこへピンポイントで飛ぶということは、軍の真ん中に現れるということだ。

 当たり前だが、周りは騎士だらけだ。

 敵だと思われ、あっという間に幾重にも囲まれていくのを他人事のように見ていた。

 

 隔絶魔法陣はまだ生きているのだが、それがどうしたと言わんばかりに、声も上げずに素早く攻撃態勢に入るから呆気にとられたのだ。

 前を見ていると、側面にもすでに人がいるという……。


「待て! ソルレイ様とラウルツ様だ!」

「魔法を放つな! 武器を下せ! 敵ではない!」


 すぐに一緒に飛んできたクレバと幕間にいたウェイリバがそう言ってくれたことで事なきを得た。

 皆が俺を真ん中にして行こうと言った意味が分かった。完全に固まってしまった。


『攻撃してくるかもしれないから武器は慣れたものにしておくか』

 エルクがそう言っていたのを、

『そんなことはないよ。飛んだ先も恐らく、幕間のはずだよ』と笑っていたのに。


「ふむ。練度はいいな」

「魔力感知が早いですね。さすが、第2騎士団です」


 そうか。ここって騎士団の中でも精鋭部隊だ。幕間の中にすぐに何人も騎士が転がるように入ってきて、素早く両サイドに広がって行ったので焦った。

 ラウルにも『ソウルは中央にいて』と言われた。視界が良くないと魔法や魔法陣が遅くなるからか。


「ソウル。大丈夫か?」

「……驚いただけだから大丈夫だよ」


 つい、正直に焦ったと言葉にしてしまうところだった。


 外の騎士達にも伝達してくれたようなので、隔絶魔法陣を壊して、ぞろぞろと外に出ると、多くの騎士達からの視線が突き刺さる。

 視線に含む色は気取らせないようにしているのか分かり辛い。攻撃的なものはないのか。

 魔法陣を展開していた部隊もあり、思わず何を使っているのかとラウルと足を向けると、慌てて消した。


「もう1回書いて欲しい」

「うん、見せて?」


 一番近くにいた女性にそう言うと、目を泳がせる。俺とラウルはクレバに注意をされた。


「ソルレイ様、ラウルツ様。ルファー殿と先にお話を致しましょう。展開させていたのは、アイスホールです。こちらへ」

「分かった。ラウル行こうか」

「うん」


 何か知りたかっただけなので、分かればそれでいい。空気中にある水を利用して、魔力量を減らしているようだ。

 大人しくクレバの後ろをついて歩いた。

 陣の中を歩いていると、視線の数が凄い。


 先頭を歩くのはウェイリバさんで、その後ろをカルムスとダニエルが並んで歩き、モルシエナとベンツが武装して両端を警戒するように歩き、その中をクレバ、その後ろを俺とラウルが歩き、最後尾を帯剣したエルクが歩いている。


 嫌でも目立つか。


 大きな幕間に着くと、ウェイリバが中に入り、中から目つきの鋭い騎士が数人出てきた。


「ほう。これはこれは、英雄カルムス殿もおいでか。して何用ですかな。ご助勢ならば喜んでお受けしますがね」


 余計な話はしないタイプの人のようだが、こんな騎士達が取り囲むように見ている中で話をするのか。会話は全部筒抜けだな。


「話があるのは、俺ではない。ソルレイが貴殿と話をしたいと言うのでな。俺は必要ないと言ったのだが、作法を気にする性質なのだ。我々は、ただのつきそいだ。騎士団は、昔、ソルレイを暗殺しようとしたからな」


 大きな釘を刺し、それ以上近寄るなよ、と周囲の騎士達に言い捨てる。

 あれは第1騎士団だけで、というフィルバの言葉を信じているものの、周囲はピリッとした緊張感がある。

 攻撃もないとは言い切れない空気だ。


「随分と昔の話ではあるが、動いたのは、第1騎士団の中でも第一王子のとりまきの者たちだ。一部の者がしでかしたことを全体に広げられては困るぞ。要件が話であるのであれば、こちらも軍への復讐という線は捨ててもよい」


 なるほど、そういう解釈もできるのか。

 俺が復讐しに来たと思っているのか。違うと言った方がいいな。


「復讐したいと思うほど、心を病みませんでしたね」


 カルムスの後ろからそう言うと、カルムスが前を開け、ダニエルも一歩隣に避けた。


 改めて顔を見ると、疲れた顔をしているな。


 相手の出方を見るのは貴族の悪い癖だな。聞かなくていい話を、他国の侯爵家だから聞かないわけにはいかないという。ある意味気の毒ではある。


「初等科の時の話でしたが、よく覚えていますよ。14歳でしたからね。ここにいる騎士達が詳細を知っているのかと言われれば疑問ですが。ちょうどいいので、あの時、取り調べた者はどうなったのかを聞いても?」


 ため息を吐き、本題をお願いしたいのですが、というので、頷き本題を話す。


「第2騎士団及び、他の騎士団もダンジョンの罠にかかりましたね。その時に禁術の人柱に使われた中にグリュッセンの第一王女がいたとか。私たちがいるのも丁度グリュッセンです。王への謁見申し込みをしておきました。軍がやるよりは邪推されなくていいでしょう。私と弟のラウルツ、第2騎士団長のクレバ殿の 3人での謁見となります」

 言った途端に睨んでくる。

「結論が先。過程は後の方が、話は早くていいかと思いましたが、ご不満そうですね」

「その顔を見るに、怒って当たり前だということはお分かりいただいているようですね。この軍の責任者は私ですぞ」

「確かにそうですね」


 この際だ。怒らせついでに欲しい情報ももらっておこう。


「では、過程の話です。話を初等科の頃に戻します。復讐に興味はありませんが、この戦争のきっかけが始まったのは、あの時からでしょう?」

 そう言うと、目を丸くする。

「聞く耳はおもちですか? ないなら帰ります。私はもうアインテール国の貴族グルバーグ辺境伯家ではなく、フェルレイ侯爵家ですので、あなたと話をするのは、これが最初で最後になるでしょう」


 眉間にしわを寄せたまま、お聞かせ願いたいと言った。

「見方が変われば、何か得る物もあるかもしれませんからな」


 俺は初等科のできごとを話した。

 きっかけは、魔道具教師からだったことや、休み明けを 二日早くして呼び出されたこと、騎士の検閲。

 それからレリエルクラスに仕掛けられていた無数の魔法陣と学長の話だ。


「実際に見せましょう」


 攻撃しないように言い、指で魔法陣を描き、レリエルクラスに広がっていた当時の魔法陣の映像を見せることにした。

 今も現役の魔道具の記録だ。

 あの時は、記憶石を手で持っての記録なので映像はぶれてはいるが、この中の魔法陣が大切なのだ。


 空に暗幕が広がり、映像が映画のように広がる。


 先生たちの声も入ったままだ。

 ゲートに使われていた石を喜んで分け合っているところも映ってしまっていて、少し恥ずかしい。

 教室に魔道具があったらいいな、とマットン先生との会話だ。クライン先生に嗜められている。

 懐かしい。


「これが、当時の学長レディスク家の魔法陣ですね。オリジナルです。ですが、この辺りに広がる魔法陣は、アインテール国で使われているものではないのですよ。これらは、カインズ国でよく使われる攻撃の魔法陣です」


 映像の中の魔法陣を示し、そう言うと、訝しんだまま尋ねる。


「この頃よりカインズ国とつながりがあった者たちが、戦争を引き起こしたと言いたいのですかな?」

「断言はできません。魔道具教師が持っていた魔道具の内、発動せずに壊れたものを軍に渡さず、先生方は解体していたのですよ。レリエルクラスでは、魔道具だと気づいて生徒たちが投げつけたので一部は壊れましたからね。教室で爆発は起こらなかったのです。使われた魔道具の作り方は、カインズ国のそれだと言っておられましたよ」


 これは高等科になってからマットン先生が研究室で教えてくれたのだ。

 作り方の癖でどこの国のものか、誰の作であるのかも分かることがあると先生は言ったのだ。


 俺も作るのでよく分かる。やはりその国の癖はある。

 これはその国でよくとれる鉱石が関係してくる。何度も作り慣れた鉱石を用いるのだ。


 マットン先生は確かめるために、魔道具を全部解体したというので頭が下がる。

 俺に、『カインズ国を通る時は注意しなさい』そう言ってくれたのだ。


「次はおまえたちの番だ。ソルレイの最初の質問に答えろ。魔道具教師は、クレオンスの鎖で捕まった。自害も他殺もできない。その者の取り調べは行ったのか。それともアーチェリーのように、また第一王子が匿っているのか」


 カルムスが、あの一件には第1騎士団が動き王子が関わっていたと指摘し、

「今度も第一王子が他国と手を結んでアインテールを襲わせているのではないのか」

 直球で尋ねると、第一騎士団の4人は衝撃を受けた顔をする。

 せっかくなので、俺たちが考えた推理を聞かせると、これには異論があるようだ。


「王族派閥は、アジェリード第一王子の即位で一枚岩です」

「第二王子派閥は皆無です」

「じゃあ、カルムお兄ちゃんの推理は外れなのかな。あ! アーチェリーを愛している説は?」


 ラウルが推す。恋人説から片想い説を話し始めると、頭痛がするとばかりに頭を押さえた。


「あり得ません」

「妃を愛しておられます」

「愛妻家で知られておりますので……」

 他の第1騎士団の騎士達も否定を始めた。これはないようだ。

「アーチェリーを生かしている理由は、グルバーグ家を断絶させないためだと王の間でおっしゃったと聞いていますぞ」

「断絶させないっていうけど、アーチェリーの鑑定はしていないんでしょ?」


 ラウルが、何を言ってるんだろうね、と首を傾げる。

 牢屋に入れているようだが、釈放してアインテール国の貴族と子を成すのか? そうでもしないと血は途切れる。


「鑑定はした方がいいと思う。あと、グルバーグ家であったとしても騎士を殺害したのなら罰するべきでは……なぜ、それほど執着をしているんだ」


 最後は俺の独り言だ。

 エルクが、その魔道具教師はどうなった?と冷静に話を戻した。


「牢屋にいますよ。グルバーグ家の伝家の宝刀であるクレオンスの鎖は、威力が強く外せません。本人は黙秘を続けています。大人しく服役していると聞いております」

「ユナ先生や学長もですか?」

「黙秘をしていますが、こちらは裁判が行われ、処刑が決まっています」

 ユナ先生もか。あれから12年か。

 長い勾留だな。

「まだしていないのだろう? 本当に執行するのか? また王子が匿うのではないのか」

「……ないと信じています」

 苦い顔だった。

「その魔道具教師の囚人は、『レリエルクラス全員を皆殺しにしてやる』と叫んでいたそうですが、なぜ裁判がされないのですか?」

「……分かりません」

「「「「「…………」」」」」


 ダニエルの問いに明確な答えはなかった。

 第一王子が関与しているからだろ。

 呆れてしまった。

 たぶん、先生たちも牢屋止まりだな。


 王子に近い騎士でも持っている情報は大したことないな。

 となると、あの魔道具たちが鍵か。一段落したらマットン先生達に連絡をしたいな。魔道具組の力が必要だ。


「ルファー殿。私は、アインテール国の王族を信用していません。第1騎士団も信用できません。今もこれは変わらないので、グリュッセンでの謁見に来てほしくなくて、王への謁見申し込みをしてからここへ来ました。建前は苦手ですからはっきり言っておきますね。そうそう、騎士団は、羽休めをした方がいいと思うので、グリュッセンまで転移させましょう。謁見が終わった頃、ルファー殿たちも来られるといいですよ。海辺で休めるよう屋敷はいくつか借りておきました。話は以上で終わりです」


 そう言うと、苦笑いを浮かべていた。

 すると、ウェイリバさんが口を開いた。


「ソルレイ様。“第1騎士団が信用できないのは今も変わらない”とおっしゃいましたが、他の騎士団はいかがでしょうか」


 ああ、そうか。騎士団全てが敵に回ったと思っていたことは、勘違いだったと言わせたいんだな。でも……。


「ハインツ家は、お爺様の墓前に来てくれましたからね。他の騎士家が、自分たちは第1騎士団とは違うと言うのであれば、それに伴う行動は欲しいです。とはいえ、強要をするものでもありません」

「お爺ちゃんに会いたいのは、中年以上の騎士だよね、きっと。よければ行って話をしてあげて。帰国前にグリュッセンで休むといいよ。今からグリュッセンに行きたい人。先着20人募集だよ」


 周りの騎士を見ても誰も手を挙げない。

 転移魔法陣の準備はしてきたが、行使する側の俺も怖い。


「クレバ。不安だろうから一緒に飛んで正門から入ってくれないか」

「はい」


 頷けば、騎士の名前を呼ぶ。呼ばれた人が前に出てくるので、ラウルが収納庫を開け服を渡す。


「それに着替えてきて。武器と軍服は預かるからね。正門前に出るから入国税は自分で支払ってね。海辺の別荘地区111だよ」


 そうして急かして服を着せ、武器は預かって収納庫へ。

 転移魔法陣をラウルが瞬時に描き、二人で魔力を叩きこむ。

 強い魔力の光が色を放って具現化し始め、包み込めば、共に、パッと消える。


「ウェイリバ殿。また明日来ます」

「20人の選出はお任せください」

「いえ。明日からは100人ずつにします。そうしないと終わらないと思います。ウェイリバ殿を探知してここに来たので、また同じことにならないように、11時頃に来るようにします。魔道具も置かせて下さい」

 暗に囲わないで欲しいと伝えた。

「分かりました」


 話が終わったので、俺たちは屋敷だと魔法陣を描いて飛んだ。


 着いた屋敷の広間にほっと息を吐く。

 疲れたな。

 魔力は倒れるほどではない。大丈夫だ。ただの精神的な気疲れだ。


「お菓子を作りたいな」

 疲れている時やストレスを感じた時ほど、難しく手間のかかるものを作りたくなる。

「僕ね。ショコラケーキがいい」


 ラウルに抱きしめられ、強請られる。

 背を叩いて笑って了承をした。


「ソウル。私は、カルムスから聞いたジュレが食べてみたい。ダニエルもハーブでそれほど甘くなかったと言っていた」

「分かった。今から作っても夕飯の時になってしまうけれどいい?」

「ああ。楽しみだ」


 そうして、ショコラケーキが焼き上がる頃、クレバが報告に屋敷を訪ねてきたので、お茶会となった。


 謁見の申し込みをしてから5日後。

 グリュッセン国の王との謁見の日取りが決定したとの返事を城からもらい、エリドルドに助言をもらうべく、急いで動くことになった。

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