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動き出したカインズ国 後編

 初日から3日間は優勢で乗り切り、ルファー殿は更に軍を進めようと言ったが、第2騎士団長として罠である可能性を述べ、反対の意見を出すと頷いた。

 安心したのも束の間で、態度の悪かった第12騎士団の1部隊を躊躇なく囮に出した。


 当たらなければいいと思った予想は当たり、地中に全員が引きずり込まれた。大規模な罠はカインズ国らしいものだった。

 各騎士団長は、犠牲になった者に哀悼を捧げると、集まって今後の検討に入った。


「初めて見るが、あれはなんだと思う。皆の意見が欲しい」

 ルファー殿が口火を切ったが、皆、口が重い。

 自分の役回りだと口を開いた。

「魔道具の類でしょうが、どこに引きずり込んだのでしょうか」

「地中ではなくどこかに繋がっていると?」

「可能性はあります。ゲートは貴重な鉱石をかなりの数を使うため作れないと思いますが、転移の魔道具をカインズ国は持っているのでないでしょうか」


 ソルレイ様にどうやって密入国をしているのか聞いたら、絶対に言わないことを条件に、ゲートだと教えてもらった。

 作るのが非常に難しく、特性として、ゲートは必ず二組一対なのだそうだ。

 一つは用意できても二つ用意するとなると難しく、距離が長くなれば石の摩耗は激しくなり、数年で壊れる為、滅多に作られないそうだ。


 ソルレイ様とラウルツ様がせっせと魔力を充填させているらしい。

 アインテールとグリュッセンの距離だから大丈夫なのだと言っていた。

 事も無げに、初等科の図書館の禁書庫には更なる隠し部屋があり、そこの密書に作り方が書いてあったと言われた時は眩暈がした。顔に似合わず、やることが大胆すぎる。


「ゲートではないと仮定して、多くを移動させられないのであるならば、何か投げ入れてみては? 人ではなく物で試すのです。例えば木を投下すれば、深さも分かります」


 それをどこかに固定をして、何であるのかをある程度特定しないと危ないと意見を述べた。

 他からも特定するのに水魔法を使うことや、固定の土魔法が利くかを試す案が出され、一ずつ検証をしてから進むことになった。


「ここで足止めをして魔道具を修理しているのやもしれぬ」


 兄上の意見も尤もだ。その可能性はありますね、と返した。

 一日検証した結果、6メートルある木は突っ込まれたままで魔法の水は吸い込まれ、土魔法は効かなかった。

 範囲を計ったところ20メートル四方であることが分かり、先に進むこととなった。

 危なくなる前に先鋒を務めて功を上げておきたい第4騎士団以下の騎士団長が話し合い、第6騎士団と第7騎士団が進むことになった。


 そんな中、第2騎士団と第3騎士団では、何かおかしいと話していた。

 誘いこまれている気がしたのだ。

 しかしながら、何事もなかったため、勘でおかしいと報告するわけにもいかず、杞憂であったかと注意しながら進軍して、またカインズ国と三日三晩戦った。


 それでも不安は拭えず、第2騎士団では、密かに捕虜をとることにした。

 弟のグエンダが調合した自白薬を用いて試そうと兄上達と話して試みたところ、やはりカインズ国の手前で大規模な罠があることが分かった。


「捕虜をとって吐かせることも計画の内だとしたらまずいね」

 捨て駒であった場合、これより先の計画は知らされておらず、それすら罠であるということがある。

「引き返した方がよさそうですね」

「ルファー殿が聞くかどうかだな」

 猪突猛進だといったウェイリバ兄上の言葉が思い出された。聞く耳があればいいが……。

「とにかく報告をしてみましょう」

 足取りの重いまま、報告をしに向かう。

「罠が分かったのは僥倖だった。では迂回して進むとしよう」

 何の検討も無しに決断したことに驚く。

「いえ、それこそ罠です」


 第3騎士団長のエイレバ兄上が自白剤をつかったことにして、第2騎士団長としてそれに乗るということで、第4騎士団の副団長は、初等科の時の教諭であり、ハインツ家とも親しかった。

 事前に話をしてから臨んだ軍議であった。が、それすらもすっ飛ばすようなやり方に自分の中の危険信号が点った。


「引き返した方が宜しいかと」

「私もそうすべきだと考えます。カインズ国前に大規模な罠があった場合、一撃も入れることなく一網打尽にされます」

 他の騎士団長からも、慎重な意見が出た。

「これまでが少々できすぎている。正攻法ではなく知略を武器にするのが、カインズ国の戦い方ですからな」

「さよう。カインズ国側に引き寄せられすぎている」

「ここからは向こうは回復しやすい領域にあり、手柄を譲り引き込む作戦でしょう。ここはその手には乗らぬと引き返すのが上策です」


 第5騎士団以下の騎士団長の意見が同じことにほっとした。

 中には副団長が、そうなのか、という驚いたような顔をしている者もいるが、騎士団長は総じて優秀なものがなるため罠だという意見で一致した。


「たとえ罠だとしても王都が火の海になったのだぞ。戦わずしてどうする?」


 不機嫌そうにルファーが言い、第1騎士団は、王族護衛専門というだけあって、王の不名誉を払うことに重きを置いているのだなと心が冷めていく。


「王都が火の海になったことと、戦場で無駄死にするのは別です」

「我らは、部下が死ぬと分かっていて行けなどと命を出す気はありません」

「王族の警護と戦場は違います」


 暗に変な命令を出さないでくれ、と言った第5騎士団長は、以前に部下をアーチェリーに殺されており、未だに処刑されていない事実が今回露見したことで怒っていた。


「聞くところによると、此度の王都が火の海になったのもカインズ国と手を結んでいたアーチェリーを生かしていたからだそうですね。魔道具を持ちこまれていたそうではありませんか。王子が大臣や各機関の長を前に、『グルバーグ家であるために処刑せず』と言ったとか?」


 その話は初めて聞いた。

 各騎士団長も驚きの顔でルファーとルファーが連れてきた第1騎士団に所属する4人の騎士を見た。


「王都を火の海にして、多くの民たちを殺害したアーチェリーは、今度こそ処刑したのですか?」


 さっきまで不機嫌そうにしていたルファーが、鋭い視線を向けられ、ため息をついて首を振った。

 非難の声を上げようとした第5騎士団長に左手の甲を顔の横に上げることで押し留めた。

 これは、こちらは争うつもりがないことを示す所作で、驚いた第5騎士団長は開いた口を閉じた。


「今からする話は内密にせよ」


 全員が静かに頷くと話を始めた。

「第1騎士団の団長が、遠隔攻撃を受けたのは、アーチェリーが差し入れを受けた日の翌日であったことから、すぐに疑い、尋問願いを出したのだ。はっきり言っておくが、私を含めて多くの者は、既に処刑されているものだと思っていた。第1騎士団の王族派閥の中でも、とりわけ王子に親しい騎士達しか知らなかったのだ。そして、騎士団長に報告をした者は、偶々地下に行く上官を見つけて声をかけてしまって知った者だ」


 もの凄く嫌そうな顔をしているのが、少々意外だった。


「死刑判決が出た者を生かしておいた結果、多くの犠牲者が出たなどと恥もいいところだ」

「性能の良い魔道具を所持しており、カインズ国との繋がりがあると報告をしておいたのですが、重要視されなかったのですね。尋問の許可は下りたのですか?」


 差し入れを認めるなど、警戒が甘いのではないだろうか。

 聞くと、頭を指でトントンと叩きながら眉間に皺を寄せる。


「尋問の許可ではないが、取り調べの許可は下りた。場所は王の間だったと聞いているが……。まだ、魔道具を隠し持っていたのだ。取り調べを行っていた団長が危うく殺されかけた。カインズ国とのつながりを認め、渡された魔道具を発動するとカインズ国から遠隔攻撃を受ける仕組みだった。混乱に乗じて逃げる気だったと自白したのだ。その時にアジェリード第一王子が、グルバーグ家が断絶するから処刑はする気はないと口にした。殺されかけた団長は、家柄で処罰を免れるなど軍の規律が乱れると諌めたが、聞き入れられなかった。その場で辞意を表明して辞職したのだ。後を追うように何人も騎士が抜けたため、次の騎士団長すら決まっておらぬ中、ここに連れて来られるのは5人だけだったのだ」


 騎士団の団長と副団長は何があったのかおおよそ理解したため、少ない第1騎士団の人数に納得して頷いていた。

 どうやら混乱していたようだ。

 騎士団内で知っていた者と知らない者がいればそうなるのも頷ける。

 知らなかった者はこれ以上王や王子に忠義を見せるより、領地に戻ろうかと検討したに違いない。

 信頼されていないから言われなかったのならば、私も同じようにするだろう。


「はっきり言うが、王都が火の海になった以上、我らがやらねば国が蹂躙されるだけだぞ。援軍に期待などできんのだ。今いる戦場の人間が全戦力だと思え」


 苦い顔を見せたことで、守りたいのは王ではなく国だと分かった。

 指揮官の本音を聞いたことで、幾分、空気はマシなものになった。


「しかし、あれはどう見ても罠です。捕虜をとることなど分かっているのだから。それに、手ごたえが少々。こちらの隙を狙っているような気がします」

「クリヒーの丘まで下がるべきかと」

「最初の罠を見るに、軍の分断を狙っている気がします」


 そこからは、一度退いて再びここまで来られるのかという議論なども始まり、無理だいう結論に達した。

 次はもっと複雑な罠になると話し、罠にかかり突破するか、迂回するかを話し、軍を半分に分け罠組と迂回組に分けることになった。


 ルファーにどちらが正しき道かも分からぬのだからクジで決めようとまさかの発言をしたが、不思議と誰からも文句が出ずに騎士団長がクジを引いた。


 12騎士団の内、第2騎士団と3騎士団は割れずに同じ組になり、第4騎士団も同じ組だった。

 後は11騎士団、12騎士団となったが、これは戦力が偏ったな。


 引き直すべきかとルファーを見ると、不敵に笑って、これでいくと言った。


「第5騎士団長は嫌かも知れぬが、私と5人もそちらだ。進むのはカインズ国一直線だ。迂回は性に合わん」

「嫌なのはアーチェリーがのうのうと生きておることです。ルファー殿に部下を殺された恨みなどありませんぞ」

「かっかっか! では頼んだぞ。情報を持っておる騎士団も引いた。必ず突破する!」


 迂回組の指揮権は第二騎士団長の俺が預かることになり、重要な任を拝命したと気を引き締め、翌日から二手に分かれて行軍することになった。




 パキン!


「あ」


 部屋のシェルフに並べていた豆皿の上のウサギの陶器が一つ弾けた。

 魔道具を渡した相手に何かあった時に分かるようにしてあった。

 近づいて誰のものかを確認する。

 弾けたのは、クレバのものだった。

 でも、同じ豆皿に座っているクマの陶器は無事なところを見ると、力作のもう一つの魔道具は無事だ。


「無茶をしたな。あれは早々、壊れないのに……」


 ついでに、お兄さんたちの物も無事かを確かめておく。

 大丈夫なことにほっとする。

 どこにいるのか知りたくなり魔道具に対しての探知魔法を使う。


 反応がない。


「どういうことだ?」

 では、お兄さん達はどうかと魔道具を頼りに試し、探知魔法と探査魔法の複合陣を描き捜索範囲を拡大していくがそれを以って調べても結果は出ない。


 居所が不明?


 クレバの背中に描いた魔法陣を使って調べるべきか。

 ノエルが体育祭でラピスの身体に描いたオリジナルの魔法陣なら覚えている。ノエルが自身に描いたものもグルバーグ家オリジナルの魔法陣と交換で教えてもらった。


 クレバの背の魔法陣とこちらで描いた魔法陣とを無理につなげれば、居場所は特定できるだろうが、後から干渉するため背は焼け爛れるかもしれない。


 これは最後の手段だな。


 それに探知魔法と探査魔法を遮断する方法はいくつかあるはずだ。

 軍で出陣しているわけだから敵に探知されないように特別な魔道具があるのかもしれない。

 魔道具の仕掛けすら動かないことは気になるからカルムスに相談だ。


 お爺様がいない今、魔道具に詳しいのはカルムスしかいないのだ。


 廊下に出て、ハタと止まる。

 まずは、ラウルとエルクに相談だと思い直す。

 多くの人間に聞く方が良いだろうと、先にラウルの部屋へと向かうのだった。

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