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ラウルツ・フェルレイの高等学校 5

「お! またいたか! 貴族の子息らしいな!」

「金になりそうだぜ!」

 レイテックのダンジョンは、本当に最悪だね。

「また? もういいよ」

 口をついて出た言葉にミュリスもラピスも同意した。

「いい加減にしてくれよ」

「さすがにうんざりしてきました」

 カイラとスイレンに下がるように言うまでもなく、気絶させる。

「早く 2階層に行きたいですね」

「ええ。ずっと、これだと辛いですわ」


 その日暮らしの生活費を稼ぐ冒険者やポーターと呼ばれる荷運びはともかく。


 なんだか、人さらいてきなのがいて迷惑なんだよね。

 しかも、グレーだから取り締まりもないようだし……。


 先生の言った意味がよく分かる。

 ここのダンジョンは入場料を取っていて、ダンジョンの運営は発見した冒険者のものだ。


 レイテックは国ではなく、あくまでもダンジョンに来る冒険者達で潤ってできた街で、冒険者のための宿、料理屋や屋台。軍や衛兵もおらず、自治はそこに住まう人々で行われる。顔役がいるくらいで、こういうことは自己責任の域だ。

 でも、だからこそやり返すのも自由なわけで。僕としてはこっちの方がやりやすかったりするんだよね。


 ソウルに言われた通りに、ダンジョン前にいる料金所の人には幾らか包んだけど、お世話になることはなさそうだ。


 装備品など、身に付けている物で、課題になっている物がないか探すが、素材一つも持っていなかった。


「ミュー。一応見たけど何もないよ」

「仕方がないか。次からは装備品を剥ごう」


 少なくともそうすれば、一旦ダンジョンからは出るだろうと言うので、この人達の装備品は、全部脱がせて適当にその辺の部屋に放り投げた。小部屋は割にある。


「また来たら面倒だもんね」

「そうですね。入場料を考えると、却って損になるかもしれませんわ」

「入って来る人数を減らしておきましょう」


 最初は悲鳴を上げていた女子もナイフで服をズタズタにして着られないようにしていた。

 これで7組目だから慣れたんだろうね。


 ミューも最初に女子の奇行を見た時は、『何をやっているんだ!?』と驚いていたけど、『ストレスが溜まっていますの』『こうすれば次は来ないかもしれません。警告です』と返され、『……分かった』と受け入れていた。


 半日経っていることもあり、驚いていたけど、その光景にも慣れたよ。


 その後、ティンカーン石を持っていないかダンジョンを出ようとしている冒険者達に尋ねて、運良く持っていた冒険者から売ってもらった。


「保険はばっちりだね」

「そうだな。本物なら御の字だ」

「色は宝石商で見たものに似ていますから期待できますわね」

「そうですね。本物だと嬉しいです」

「夜に出る植物型の魔獣の根っこで、しかもランダムで他の石かもしれないとなると厳しいですよ」


 本物かは分からないが、手に入らなかった時用に買っておいた。カルムお兄ちゃんやダニーからもそうすればいいと手紙で助言をもらっていた。


 相場の倍で買うと言うと、『あるぞ!』とすぐに出してくれた。


 ソウルなら、本物かすぐに分かるんだろうけど、残念ながら石のことはよく分からないからあくまでも保険だね。


 そろそろ1階の中ほどの小部屋で少し休むことにした。

 広さはそんなにないのに、絡まれるので時間を喰いすぎた。


「2階は、3階に下りるまでに一日半はかかるって聞きました」

 ラピスの言葉に焦りそうになるけれど、まだまだこれからだ。

「確か一番広いのでしたわね」

「今日は早目に休もう」

「夜は危ないもんね。ダンジョン病にも気をつけないといけないしね」


 ソウルから入って数時間後には寝るように言われた。

 その話をすると、食事とトイレをしたら休もうと全員が賛成をしたので、そうすることにした。


「そうだ。ここでお風呂に入ってもいい?」

「「「「え?」」」」

「ん? ダメ?」

「風呂ってどういうことだ? どうやって入るんだよ?」


 ミューが入れるのなら入りたいと言うので、リュックからソウルに貰った物を取り出す。


「これを起動させると、お風呂になるんだよ。泊まるところで入りたいから 二間続きがいい。女子もいるから仕切りだね」

「それならここで食事とトイレを済ませて、違う部屋に行く方がいいか?」

「それがいいです」


 そうしようとなり、それぞれがリュックからパンやお弁当を出していた。


「さあ、カレラ嬢、スイレン嬢。お弁当は冷凍してありましたから、美味しいですよ。どうぞ」

 ラッピーがそう言って、パンやチーズ、干し肉、ドライフルーツしか持って来ていない女子に勧めていた。

 ミューは、エリエリに聞いたようで、適した保存食や日持ちする物を持って来ていたし、前日に着いたレイテックでも干し果物を買い足していた。


 僕は、ソウルの作ってくれたお弁当は、もう道中で食べちゃったから、作ってもらった材料で調理だ。


 メモも一緒に入っている。

 えっと、なになに。1日目はこれだね。番号が振ってあった。


 “このパンの蓋を開けて、水を注いで火にかければできるよ。わらべ歌の1番目くらいでぐつぐつ言うかな。火傷しないように。ラウル、頑張れ!”


 わぁ! 久しぶりの手紙だ。懐かしい!

「ふふ♪ふん、ふん♪」


 蓋を開けると、干し野菜や塩漬けの肉、作っていたキューブ型のスープの素が入っていた。

 そこに魔法で水を注いで火にかけると、いい匂いが部屋に広がる。


「ぐぬぬ。しまった!ソルレイ様ですね!」

「うん! 僕にはソウルがいるからねー♪ わらべ歌は、シュミッツ先生とよく歌ったなあ」


 わらべ歌を歌い始めると、皆が比例して嫌がり出す。音痴じゃないのに酷いね。手拍子が欲しいよ。


「うわー、滅茶苦茶いい匂いだ。ソルレイ様に相談に行けばよかった」

 ラッピーは悔しがり、ミューは顔を手で覆って、失敗した、と呟いた。

 女子から少し欲しいと言われた僕はきっぱり断った。


「兄のお手製だから無理だよ。家族限定なんだ。全部食べるって約束したからごめんね」

「「まあ。でしたら仕方がありませんわね」」


 離れていても感じる愛情たっぷりの美味しい料理を食べて、さっきまでの嫌な気分は吹っ飛んだ。


 食事とトイレを済ませて移動をして、なんとか二部屋続きの部屋を確保して手前の部屋でお風呂を楽しむことにした。

 布についていた魔導具のダイヤルを回せば、手の平サイズの布が一瞬で膨らむ。空気かな。こんなに便利な物があるんだ。


「「「おお!」」」

「「まあ! 凄いですわ!」」

「うん? 何故、ラウルまで驚くんだよ」

「初めて使うからね。ソウルが全部荷造りしてくれたんだよ」

「はぁ、うちとは大違いだ」

 顔に手を当て頭を振っていた。

「?」


 全員が入りたいと言うので、綺麗に洗って返してくれるのならと条件をつけて、皆で交代で使うことになったけど、最初に入るのは僕で、次はミュリス、その次は女子達で最後にラピスだ。


 これには訳があって、僕はシャンプーやリンスもハニハニの物を持って来ていた。


 お風呂に入れると知らない皆も、一応魔法で出した水で洗おうとは、思っていたようで、家から持って来ていたのだが、頭を流して欲しいので、次に入るのはミュリスかラッピーで頭を湯で流して欲しいと頼んだのだ。


 そうすると、ラピスが女子が入った後で入りたいから嫌だと言い、女子を大いに引かせた。


「……分かった。ミュリスにお願いするよ。いい?」

「ああ、いいよ。ラピス、よく聞くんだ。おまえの発言に女子達だけじゃなくて僕達も引いたぞ。滅多に引かないラウルも引いて、僕のことをちゃんと名前で呼ぶほどだ。お前は僕の次に入るんだ。いいな?」

「そんなあ!?」


 ミュリスもいつものからかう感じではなく、両肩を掴んで、真剣にやめろと訴えた。


「本人に決めてもらう方がいいよ。僕が女の子ならラピスの後の方が、気持ち悪いって思うかもしれない」

「「…………」」

「そ、それもそうだな」

「うん、僕はもう入るね。入るかどうかも含めて検討して。洗い終ったらミュリスを呼ぶから頭を流してくれる? 交代でやろうよ」

「分かった」


 身体と頭を洗い、ミュリスを呼んで流してもらった。


「さっぱりしたよ。浸かったらあがるからね」

「ああ。タオルは……ちゃんと置いてあるな。よし」

「うん、ラッピーとは違うよ。女の子達が気持ち悪がっていたら、今日はラッピー、明日は進むだろうから女子とか日で分けた方がいいかも。なんなら、僕が、一度浴槽を洗って上げるって言っていたって伝えて」

「ああ。ちゃんと伝えておくよ」

「うん。よろしくね」


 ゆっくり浸かってから上がり、タオルで全身を拭きあげて新しい下着や夜着に身を包んだ。

 全部ソウルが用意してくれたもので、1日目と書いてあった。


 風呂の残り湯で洗って干しておくこと。風魔法と火魔法を組み合わせた魔法陣の紙まで入れてくれていた。

 ドライヤー代わりに使えて寝ている間に乾くからね、と書いてあった。


 お風呂から上がると、女子達がわざわざ紅茶を淹れてくれていた。


「二人共、ありがとう」


 ミューに頭を洗い終ったら呼ぶように言うとすぐに呼ばれて流しにいった。

 戻ると、女子に目ざとくボトルを確認されていた。片付ける前に紅茶を飲んでいて、出しっぱなしにしてしまった。


「ラウルツ様のお持ちになられているのは、“ハニー&ハニー”のシャンプーとリンスではありませんか?」

「手に入れるのが大変だとお聞きましたのよ」

「うん、家でいつも使っている物だよ」


 僕達が作って売っている物なので当たり前だが、欲しいと言われても困るので秘密だ。


「紹介がないと買えないと耳にしましたの」

「そうなの? 商業ギルドで予約をすれば買えるんじゃないの?」

 確か、ソウルからそうしていると聞いた気がする。

「予約……ですか」

「予約をすれば買えるのですね」

「たぶん、としか言えないね。僕達の家は、ハニハニが大きな店をかまえる前からずっと購入しているから買えるだけかもしれない」


 目を輝かせて紹介して欲しいと言われたので、アインテール国の貴族家からも頼まれたことがあるけれど、一度すると切りがないので全部断っていると伝えて引き下がってもらった。


 ノン経由でマリーが欲しがっていると聞いたお兄ちゃんは、紹介状を書いてノンに渡していた。


 帰省の時にも限定の香りが販売されていたからついでに買っておいた、と渡してあげていたけれど、一度引き受けると面倒だからね。


 僕の場合は女の子達に殺到されちゃう。


「ラウル君、女の子たちがこんなに頼んでいるのに無理なのですか?」

「アハハ。本店があるのは、アインテールじゃないからね。ラッピーがグリュッセンに行って買ってあげたら?」

「なるほど、なるほど。グリュッセン国に店があるのですか」

「そうそう。アインテール国に入って来るのは月に 1 度だけだよ。偶に近隣国でも出張販売っていうの? 商業ギルドで新作の香りが販売されるみたい」

「ふむ、ふむ」


 ラッピーは女の子のトレンドを積極的に調べている。喜ぶプレゼントを常に考えているのだろう。


 間がよく、ミュリスにもう一度いいかと呼ばれたので、再び頭にお湯をかけてあげるべく、ボトルを片付けて向った。


 ミュリスもあがり、どちらが風呂に入るのかと思っていたら、女の子たちが入り入浴した。湯は、上がる時に全て捨てて洗ったらしい。


「恥ずかしかったのでは、仕方がありませんね。でも、湯上り美人なお二人を見れて嬉しいです。私生活を垣間見ることができました!」


 女子達が無表情に見ていた。

 気持ち悪い発言をにぱにぱと笑って堂々と言うラピスが、それを言ってはいけないことだと気づかいない限り、春は訪れそうにない。表情の消えた女の子達を見てそう思った。


 ミュリスも頭を振り、『あいつにつける薬はない。これ以上は気にしても無駄だな』と呟いていた。


いつも読んでくださりありがとうございます。

171話に割り込み投稿があります。次も割り込み投稿になるかと思います。


間に挟むよりはいいかと思い、ラウルの話をまとめて進めて書いていっていますが、アーチェリーの初等科入学の話も実は書いています。


春という時間軸に合わせる方が良いのであれば、ソウルの春のできごと、ラウルの高等科の春まで、アーチェリーの春の入学と時の流れでアップできるのですが、1話ずつそれぞれに進むと、ややこしいかと思い、割り込み投稿機能を使うことにしました。

アーチェリーの入学から卒業、その後。は、ソウルとラウルが国を出る時に載せようと思います。


本編が遅れていますが、ラウルの話を書き始めてしまったため、こうなりました。

読んでくださる方には、ご面倒をおかけして申し訳ないのですが、宜しくお願い致します。

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