ハッセルで家族会議
何日か滞在すると、ラルド国の王や王族たちはディハール国に過客として滞在していることが分かった。どうやら急に来られて持て余し気味のようだ。
どういった対応をするかを決めるまでは客人として扱う。ただ招いているわけではないので、賓客ではない。客人の扱いの中では最低ラインの待遇に留めているという話だ。
夕飯をホテルのレストランで味わった後、デザートを食べながらこれまで何度か行っている家族会議を開いた。
「王族となるとそれなりの扱いをしないといけないので、大人数を迎え入れるとなると、かなりの額の税金が投入されます。ディハール国としては、嬉しくないでしょうね」
「ふむ。そうじゃな。とはいえ、ラルド国王の正妃アイネス様の祖国でもある。無下にはできぬぞ。本音では正妃だけにして欲しいはずだがの。子供は継承権がないと取り決めていても破る場合があるからのう。廃嫡にして平民落ちだが、これを呑むかどうかじゃ」
「どちらに転ぶか分かりませんね」
「だが、ラルド国に戻るという選択はもうないだろう」
カルムスの意見に賛成だ。ゴリ押ししそう。
亡命を断られたらラルド国に戻るという話だったはずだから、逗留を許可された時点である意味王の勝ちだ。
帰ってくれって言われても絶対に帰らないよな。
居座って妥協点の交渉に入るはずだ。
そのために威圧の意味で軍を引き連れていったのだから……。
「ラインツ様。我々は軍を辞めましたが、仮に王が戻るという選択をしていたらどうなるのですか? その可能性もあるということで待機命令だったのですが……」
ベンツも気になっていたようだ。エルクのように連れて行かれても、モルシエナやベンツのように待機を命じられても迷惑な話だよな。王族のご都合主義で命令されるのだ。
「どうもこうも良い未来はないのう。王は他国に留まり、ドラゴンを最後の一兵になるまで討てと命が出るじゃろう。しかし、人もいない国でそれを国と呼べるのか」
その通りだ。おじいさんの言葉に得心がいった深い息が漏れた。ドラゴンがいなくなっても国民もいない。そこに王族だけが馬車で戻るなど、笑えない冗談だ。自給自足できるようにも思えないし、先が見えている。
「思っていた以上にやばかったのか。ラインツ様誘って戴きありがとうございます」
「ありがとうございました。ダニエル様も推挙をしていただいたと聞きました」
ダニエルは、気にしないでくださいとにこやかに言い、おじいさんは、俺たちの護衛の話をした。
「その方らは、ソルレイとラウルツの護衛につくとよいぞ。グルバーグ家勤務じゃ。悪くなかろう?」
「もちろんです!」
「お引き立て感謝致します」
恭しく礼を取るのを見て、ラウルに声を掛けた。デザートでお腹いっぱいになり今にも寝そうだった。
「ラウル、二人はなんて呼ぶの?」
ぱちっと目を開けた。
「モルとベン!」
「ハハ、お好きにお呼びください」
「王より守り甲斐があります」
かわいい主君だと笑う二人はいつも温和だ。俺もこの二人なら息も詰まらない。数日一緒にいて変に力も入っていないし自然体なので好ましい。
「「よろしくね!!」」
「はっ。お任せを」
ダニエルは家庭教師の先生だ。
本人は恐縮していたが、一般常識や処世術は下級貴族のほうがあるはずで、俺たち平民にとっては、まだ理解の範疇にある身近な貴族は有り難い存在なのだ。
偶にカルムスの発言にぽかんとする時がある。
本人は貴族が嫌だというが、“え? どこから見ても貴族だよ?”と言いたくなる平民に対しての上から目線の物言いがある。
習慣とは恐ろしいものだ。本人は全く気づいていない。無自覚なのだ。
俺も平民の心を忘れないように気をつけないと。
「では、明日にはディハールに向かおうぞ」
はい!と、全員が返して個室のレストランを後にした。
今日もおじいさんと一緒に眠る。レストランで眠そうだったラウルはもう夢の中だ。
「おじいさん、本当はお爺様って呼ばないといけないのは分かっているんだ。ラウルのこともラウルツって。でも、アインテール国に着くまでは許して欲しい。ラウルのことも学校に通うまでは許してあげて。お願い」
ベッドに横になりながらお爺さんを見ると、お爺さんもこちらに顔を向けて微笑み天井を見上げた。
「ハハハ。気にしておったのか、よいよ。かわいい孫が二人で私は幸せだ。何も気にすることはないぞ」
「うん、ありがとう。俺もラウルもおじいさんがお爺さんで嬉しい」
「そうか、そうか」
「うん、本当だよ。ラウルが起きていたらそう言うはずだよ」
「目に浮かぶ。可愛らしい子だ」
「うん」
「ソルレイもだ。あまり早く大人になるでないぞ」
「ふふ、うん!ありがとう。おやすみなさい」
「ああ、よい夢を。おやすみ」
優しい声に誘われて心安らかに眠りに落ちた。




