先生たちの決死のダンジョン 前編
「あの子達どこまで行ったのでしょうね」
「5階まで来ましたが、いませんね」
「まさか8階まででしょうか」
「3班とも揃って何をやっているんだ」
「教員5人でも、8階での捜索は無理ですよ。7階に入ったら命の覚悟をして下さい。一人でも欠けたらその時点で引き返します」
エンディ先生の言葉に全員が押し黙った。
ダンジョンに行くのは、優秀なクラスだけ。卒業後は、それぞれの進路に進むが、自国ではそれなりの扱いを受けるエリートコースの未来が待っている。
他国の優秀な人間との交流を図り、自国へ利益をもたらす。
そんな思惑もあり、2年生の夏には、ダンジョンへ行くのがお決まりだった。
他国の貴族学校とは違い、遊びではなく、本格的に行うのは、アインテール魔道士高等学校の伝統だ。
このクラスも例年通り、優秀な生徒が多かった。他国ではあるが、王族の側近候補も多い。帰国後は、王位争いに家ごと巻き込まれそうな名門家の生徒もいるほどだった。
それなのに……。
時間内にダンジョンを出たのは、10人だけだった。
“行っていいのは、4階まで”
そう誓約書を書かせたが、生徒達は、5階にもいない。
ここからは、探査魔法や探知魔法が効かず、部屋を捜索していくより手立てがない。
違う学年のルベルト先生が優秀な魔道士なので参加してもらっているが、捜索は6階までしか手伝わないと言われている。
4階層より下に行くということは、それほどに危険なことだった。部屋には、魔獣が必ずいるので戦闘になるとこちらの消耗が激しい。
「次は6階です」
足を踏み入れた途端に、魔物達から一斉に矢が放たれたので、ジョエル先生が反射魔法を使ったけれど、かなりの速さで驚いた。
普段は、魔法陣理論の好きな先生だけれど、実践での実力も本物だった。さすが、女性ながら実力重視の第二騎士団に所属していただけのことはある。
「この階にいるかもしれません。今の魔物は、また来たと言った具合の動きでしたからね。何度か5階と6階を出入りした可能性があります」
エンディ先生の言葉にジョエル先生が自身の魔法の波をぶつけ反射する生徒の魔力がないか探るが、ぶつからないと言う。
ということは、部屋にいるか若しくは7階にいることになる。7階か……。
「正直、ここまでにして欲しいものです」
エンディ先生の言葉は苦渋に満ちていた。
「そうですわね。無茶をするのはもっと実力をつけてからにして欲しいですわ」
「慎重組を見習って欲しいですな」
ポリコス先生は、深い溜息をつきながら私達に何度目か分からない謝意を述べた。これは、先生のせいではないのだから気にしなくていいと全員で言った。
ですが、私としても7階には行きたくないですね。
魔道具の教師ではありますが、生徒にそこまで思い入れもありません。
命をかけたくはありませんからね。
それにしても、4階より下層に行ったら退学だと先輩達から聞いていないのでしょうか。ツテくらいあるでしょうに。
「リリス先生。あそこの痕跡を見てもらえますか。さっきわたくしの波には当たらなかったのですが、僅かに反応があったのです」
ジョエル先生が眉根を顰めているので、よくない痕跡なのだろう。腹を括る。
「はい」
部屋の入り口に横にある痕跡を視認できる魔道具の液体をかけて確認すると、夥しい血痕が浮き上がっていく。
先生達が息を呑むのが分かった。
「これは……」
血痕のある部分をナイフで削り、違う魔道具の試験管に入れて振ると試験管の中に犠牲になった生徒の名前が浮き出てくる。私の作ったオリジナルの魔道具だ。
「ライゼン・ラハーダです」
「この血痕の量では、ポーションでも助かるまいな」
「一人だけですか……」
「複数人の血痕ならまだ希望が持てたのに……」
「大変、言い辛いのですが、魔物や魔獣ではありません。生徒の誰かに殺害されたのだと思います」
私の言葉で空気が一気に張りつめた。
しかし、事実なので黙っておくこともできない。
「血痕の位置もおかしいので、間違いありません」
「ふぅー。皆さま、騎士をお呼びしましょう。手に負えませんわ」
ジョエル先生が頭を振る。私も賛成ですね。
「同感です。助けた生徒が斬りかかってくるとなると、6階では厳しいです」
ポリコス先生とエンディ先生、ルベルト先生が考え込む。
「せめて、この階だけでも捜索しませんか」
ルベルト先生の言葉にエンディ先生も頷く。
「騎士が来るまで生徒達は持たない。全員死ぬ可能性があります。殺人者がいたとしても無事に帰れない、動けない状態であるのなら、安全だと判断する2階くらいまでは共に行動しても危なくないと思います」
「次に捜索に来るには最短でも5日はかかります。私も探すべきだと思います。すくなくとも全員が殺人者ではない。血痕の位置がおかしいということですが、武器を絞り込めませんか?」
ポリコス先生の言葉に考える。
剣の血しぶきではない。
「そうですね……棍か投函具……。いえ、槍の持ち手部分に魔力を込めて頭を潰したと見ます」
「アンデッドの可能性は? 2階でもジェネラルらしきものが出たと生徒から報告がありましたが?」
「いえ、この魔道具は、魔物や魔獣なら反応が出るのです。アンデッドも出ます。出ない限りは人です」
全員でこの階までの捜索、見つからなければ打ち切ると判断をして、6階層の部屋を捜索していくことになった。
体力と相談するなら引き返したいけれど、私がいないと魔道具の扱いに困るのも確かです。
仕方なく捜索に加わったまま、進むと、比較的近くの部屋で、クリス・ロマガベルとウエンディ・グレコス、ロロコ・ミズリー、エマレア・コーカスの4人がいた。
5人班である上に、メンバーまで変わっていることに気づき足が止まる。
警戒は、解かない方がよさそうです。
「先生!? 助けに来てくれたのですか!?」
「うぅっ。助かったのね」
「うわぁぁん」
「ぁああっ」
負傷している生徒が二人。泣ける元気はあるようだ。嘘泣きの可能性もあるので、距離を取って不審な点がないか服装や顔や身体の傷などを見ておくべきでしょうね。
部屋に入るなり、ポリコス先生が早速聞き取りを始めようと近づいて行く。
「おまえたち進んでいいのは、4階までだと言っただろう! 何があったのか話せ。連れて帰るかは、話を聞いてからだ」
女性生徒達がその言葉に更に泣き、クリスがそんな女子生徒達にため息を吐き話し始めました。
「僕から先生に話すから少しでいい。静かにしてくれないか」
さめざめと泣いている女子達を見て、クリスが足を引きづりながらこちらに来て頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。4階まで一緒に行かないかとライゼン班に誘われました。最初は、断ったのですが、最終的に了承しました。その時に、ノエル様達が偶々通りかかって、同じ様に誘われて断っていました。僕たちは、エマレア嬢に4階にしかいない魔獣を引いてしまった、と言われて、ロロコ嬢も行きたいと言うので分かったと返事をしたのですが、ノエル様達が、断る時に、4階にいる魔獣は8つの内2つしかなかったと言ったのです。わざわざ選んだのかと勉強熱心だなという言葉を聞き、おかしいと気づきました。ライゼンからおまえ達は行くって言ったんだから来いよ、と言われて4階までだと一緒に行きました」
「おい、ここは6階層だぞ」
ポリコス先生の言葉に頷く。
「はい、分かっています。ライゼン達は元々、6階層にいる“エルドーラ”が狩りたかったようです。4階でエマレア嬢の言っていた魔獣を討伐するのを手伝ったので、3階に戻ろうとしたら、班員のガーケンとヴェインの二人が6階に行って狩りたいから班を抜けると言い出して、そこにいるロロコ嬢も初めから抜けるつもりだったと言ったのです。それでウエンディ嬢と二人で戻るか、狩りを手伝って全員で戻るかの2択になりました。ただ、4階で討伐をしていたリンダ嬢の班に会ったので、一緒に戻らせてもらおうと思ったのですが、声をかけると6階に一緒に行ってもいい、これだけいれば安全に魔獣を狩れるということになって、もう行くしかなくなりました」
安全な選択として手伝う方を選んだということですか。
これは、責められませんね。
「ライゼン達の班はどうした? お前たちと別れたのか? そこにいるのはエマレアだから、班は空中分解か?」
あえて知らぬふりで聞くと、眉根を寄せてエマレアさんの方を見ます。
「いえ、6階に来たものの魔物も魔獣も格段に強いので拠点が必要だとなって、僕やウエンディ嬢、クレバ、ニールといった、来たくて来たわけじゃない者はここで拠点を守る待機を言われていて……。でも、クレバとニールが手強いので手伝えと言いに来たヴェインに連れて行かれました。しばらくするとロロコ嬢とエマレア嬢だけが戻って来ました。だから、分からなくて……エマレア嬢、俺もよく分からないんだ。その話をいい加減してくれないか。ロロコ嬢もいたのだろう? クレバやニールはどうしたんだい?」
「……私が悪いの」
「……違うわ……私が、私が、ごめんなさい。ごめんなさい」
まさか、こんな可愛らしい子達が、と眉根を顰める。
「何があったか包み隠さず話せ。他の生徒も探さねばならん」
俯く生徒に私も声をかけることにしました。
「あなた達、ここは6階層で危険な場所です。そろそろ夕暮れです。ぐずぐずされると他の生徒達の命を削ることになるのですよ」
私達、教員とて一部屋ずつ探しながら来ていて疲労しているのですから、早く話して欲しい。
少なくとも巻き込まれただけなら、生徒を探さなくてはいけない。
「さっき撤退するか話をしていたところなのだよ。話すなら急いでくれないか? 1階層変わるだけでも違うんだ。話さないなら、そこのクリスとウエンディだったかな? 二人だけを5階層に連れて戻る」
ルベルト先生が、きっぱりと置き去りにするというと、目を見開く。
「これ以上、待てませんわ。アンデッドが出る前に5階へ戻りましょう」
ジョエル先生がクリス君の足の怪我を難しい治癒魔法で治していきます。
「先生……ありがとうございます」
「わたくしが、巻き込まれたクリス様とウエンディ様を守りますわ。クレバ様とニール様も気になりますが、まずは、移動しましょう。心配せずについていらっしゃい」
治療を終えると、ウエンディさんの涙をハンカチで拭い、腕を引っ張って立ち上がらせます。
「……先生。……ありがとう存じます」
二人は大きく息を吸い、気合を入れ直していた。
「待って、待ってください!」
「わ、私達も一緒に連れて行ってください!」
「他の生徒の為に、口は開かなかないくせに、自らの保身のためには口を開くか。恥を知りなさい」
エンディ先生の厳しい言葉に、涙を溜めていきますが、同情はできませんね。
「早く話せば、一人でも夕暮れ前に救えたのかもしれないのですよ。あなた達のしたことは重い。これ以上の捜索は危険のため、5階に戻る判断をしたことで、今夜誰かが命を落とすかもしれないのです。そのことをよく考えなさい」
泣く二人に、泣いても何も解決せんぞ、とポリコス先生が言い、ついてくるなら泣き止めと言葉をかけ、二人は慌てて涙を拭っている。
その様子に私は、心の中で溜息を吐いた。
教職は、やはり向きませんね。
私の心の中では彼女達への悪態が渦巻き、ポリコス先生のように彼女たちの為の言葉をかけられない。
「5階へ急いで戻りましょう」
「ええ」
そこからは5階の中ほどまで戻り、4 階まで戻りたいが、ここが限界だというルベルト先生の言葉に頷いた。魔獣を殺さずに外へ追い出し部屋に入り守護魔法陣を描きました。
こうすると、部屋の魔獣が死なない限りは、安全に夜を過ごせます。
「6階で守護魔法陣は効いたかい?」
「いえ、アンデッドが強くて駄目でしたので、二重掛けにしました」
「「二重掛け?」」
エンディ先生とルベルト先生が、興味深けに問い返します。
「守護魔法陣は二人で重ねるように、二重に描いて、そこに別の人間が一つずつ魔力を注ぐと、強度は飛躍的に上がるのだと教えてくれました」
「誰にだ?」
「誰にだい?」
「ソルレイ様です」
前に書庫室で会った時に、知らない魔法陣を教えてくれたら、それに見合う魔法陣を教えると言われ、グルバーグ家に教われるのなら、と、とっておきの魔法陣を教えたら喜んでくれて、秘密だよ、といくつか教えてくれたのだという。
「おお! グルバーグ家の子か!」
ルベルト先生が笑い、前にポストに何でもいいから何か教えて欲しいと紙が入っていたと笑う。
その紙は、私のポストにも入っていましたね。
教員の間で笑い話になっていました。
ポリコス先生が嫌そうな顔をしますが、ソルレイ様の名前が出たことに私はほっとしました。
自分でも不思議なのですが、ソルレイ様とは話も合いとても楽しいです。
生徒というよりは同士の関係ですね。
交換でもらったこの魔道具のお守りは、大きな1級鉱石で作られたくり抜きの腕輪で驚きましたが、とても嬉しかったです。
「ハハハ。魔法陣でグルバーグ家に適うものなどいませんからね。ここでもそのようにしましょう」
エンディ先生がそう言い、魔法陣を重ね、ジョエル先生が魔法陣に魔力を注ぎ入れました。
交代で魔法陣に力を込めることにして、休んでいた夜半に設置していた魔道具がカタカタと鳴り、目が覚めました。
他の先生も万が一に備えて起きて入口を見ています。
何かくる。
「皆さん、起きてください」
クリス君はすぐに起き、ウエンディさん達も身を起こしました。
魔道具の緊急事態を告げる音が鳴り、先生達に告げます。
「1級魔獣か1級アンデッドが近くにいます」
先生達が魔法陣の準備を始めていき、私も魔道具を手に持ち、準備を整え、その時に備えた。
ダンジョンの部屋には、どの部屋も扉などはないため、守護魔法陣が結界代わりになり戸の役目を果たす。
その戸を境に境界線が引かれる為、別の空間になるはずなのに、現れた黒い大きな影の水が近づき縦に伸びていく。
骸骨の顔が張りついたように頭部に浮かび上がった。
それは、ヌッと部屋を覗きこみ、明らかにこちらを見ていた。
見えないはずなのに見えている。
向こうの方が、こちらより格上だということに、嫌な汗が背中を伝っていく。
ポコンと何もなかった縦長になった黒い体からポコポコと水泡が浮かび、白いスケルトンの腕が腹を破るように現れると、守護魔法陣を弾くように衝撃波を送る。
ヒビが入り割れると思った魔法陣は割れず、魔法陣自体が揺らいで衝撃を緩和しているようだった。
先生達は、破られた時の為に魔法陣を展開させているのですが、何度やっても魔法陣は壊れず爪を突き立てられても破れることはなく、悔しそうにこちらを見ては何度も手を伸ばす。それが朝まで続き、4時頃から迷う素振りを始め、結局朝の6時に最後の大きな一撃を放って去りました。
去るまでずっと気が抜けず、長い息が漏れました。
「今のは、7階で出てくるロードですね。まさか、守護魔法陣が持つとは思いませんでした」
何度も魔力を注ぎ直したが、もったことに教員全員が驚いていた。
「重ね掛けのおかげか……勉強熱心な二人の生徒に感謝せねばなるまい」
クリス助かったぞ、とルベルト先生から微笑まれ、クリス君もほっとしたような顔で頷いていた。
「戦闘になると思ったが、命拾いをしたな」
「ここで戦えば6階層に戻って生徒達を探すことができませんでしたわね」
「ええ。クリス、今のは6階層で来ていたか分かるかい?」
「それが……身体の大きさが一回り以上小さかったと思うのです。違う個体でしょうか?」
「私も身体の大きさが違うと思います。それに爪ではなく体当たりをしていました」
クリス君とウエンディさんの話を聞くに、ロードではなさそうだ。
「6階で出会わなかった者に5階で出会うか」
「移動範囲が広がって来ているのなら、一旦出たいですが、これから捜索しますか?」
私も疲労が溜まってきている。
「学長には6日で戻らなければ増員を頼んである。しかし、4階まで戻らなければ探査も探知魔法も使えない。来たら4階で拠点を作って待機という約束だ。先に生徒達を預けるべきか……」
「戻れば、時間のロスになる。生徒達はここで 二重の守護魔法陣を張ればいいだろう。我々は6階に行く。捜索は今日の15時までにしよう」
アレが5階まで来るのなら、相当まずい事態だとルベルト先生が言い、他の先生も決断をする。
「せ、先生! ライゼン様は、私とロロコ様を庇って、ヴェインに殺されました」
顔を青くしながらも話そうと決心したようだ。
エマレアさんの言葉に教員がどういうことか聞くと、元々、6階には行きたくなったが、女が頼むと断れないだろうからとライゼン君に頼まれたそうだ。
そして、元々友人だったロロコさんに怖いから行きたくないと相談して、ロロコさんもそれなら私も一緒に行くわ、とクリス君たちが協力するように仕向けた。
ところが、6階層に行くと急遽加わったリンダさんの班にいたクレバ君が強かったため7階層まで行こうとなった。
休んでいる部屋で、もう怖いので行きたくないとエマレアさんとロロコさんが訴え、ライゼン君も泣いて二人が怖がったのを見て6階まででいいだろう、引き返すぞと主張した。
これにクレバ君も応じ、これ以上は付き合いきれないので班を抜けてでも戻る、と怒った為、リーダーをしていたリンダさんも、そうね、ここまでにしましょうと同意して帰ることになった。
そこで、おまえらが煩いからだぞとガーケン君が壁を叩き、ヴェイン君が狭い部屋で脅す為に槍を振り上げた。
それを見た、クレバ君が『常軌を逸している!』と言い、部屋を出たためリンダさん達も逃げるように部屋を出たらしい。
「二人で部屋から出てクリス様たちのいる部屋まで逃げようとして、そしたらそのまま槍を振り上げて、庇ったライゼン様が……うっひっく。早く行けと言われて走って振り返ったらもう、もう……」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
二人が顔を覆って泣きだした。
「よく話しましたね。立派でしたよ」
頭を撫でるジョエル先生を見て、私も罪の意識に押しつぶされそうな小さな背中を擦った。
「話した方が楽になったでしょう。クリス様とウエンディ様に謝っておきなさい。夜は4人で協力して守護魔法陣を張るのですよ」
「「……は、はい」」
教員同士で捜索は、6階までとし、時間も15時までと定めて向かった。
声を出すのはよくないけれど、時間が決まっている。魔道具の拡声器で、『教員です。誰かいませんか。いたら部屋から出て来て下さい。魔力波で位置を特定します』と呼びかけ、ジョエル先生が膨大な魔力を使う魔力の波で6階を探る。
「あ! 反応がありましたわ! 3人、リンダ様にクレバ様にニール様。生きている!」
『リンダ班3人の位置を確認できました! 向かうので近くの部屋で守護魔法陣を張って待機していて下さい! そこから動かないように!』
「なんとかなりそうですね」
「ええ」
「急ぎましょう」
「中央より奥だ。慎重に行かねばならん!」
「ええ。中央からは、同じ種類の魔獣でも強さは上がります」
時間はかかったもののなんとか、反応のあった場所まで辿り着き、部屋を覗いてまわる。
「先生! ここです!」
「先生方、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
部屋の壁に凭れて座り込んでいる。
面窶れはあるけど、無事のようだ。
「全員立てるか。すぐに移動だ。5階層でも危険な者が徘徊するようになった」
「あの、班員の二人と逸れましたわ」
立ち上がって、すぐに報告をして来るが、どうにもできない。4階層より下に行った生徒に優しくできないのなら、せめて辛い言葉をかける役目を引き受けよう。リンダ様の前に立ち、肩を叩いた。
「諦めてください。あなた方も運が良かっただけです。捜索は、昨日で打ち切る予定でした。他学年の教員であるルベルト先生が、協力してくれていて、もう一度だけ探しましょうと言ってくれたから、あなた達は助かったのです。部屋を一つずつ調べて回るしかないので、教員も疲労困憊なのです。余力はありません」
「「「…………」」」
困惑と不安の入り混じった顔にポリコス先生も捜索の打ち切りを伝えた。
「先程の声を聞いて、部屋から出たのは、おまえ達3人だけだ。捜索は本日の15時を以って終了になる」
エンディ先生が部屋から通路を確認して頷いたので、移動を始める。
「他にも戻って来ていない生徒がいるが、探し始めて、既に7日が経過している。これ以上は捜索しないぞ。4階層より下に行ったのは自己責任だ。リリス先生は私が言ったからだ、と言ったが、決めたのは教員全員だ。無事に出られたら感謝しなさい。それから、夜に恐ろしいものが来るようになった。覚悟はしておきなさい」
ルベルト先生の言葉に青くなっていた。
そんな中で、クレバ様の顔は割りとしっかりしているように見えた。確か、騎士家だったかしら。腹が据わっているようですね。
生徒達の疲労も大きいが、助けに来ているこちらも疲労が大きい。
今夜が大きな山場になりそうだ。




