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グルベリアダンジョン 5

 16時を大幅に回ったが、2階には戻って来られた。昼を抜いたので、お腹が減った。


 前とは違う中ほどの部屋を狙うことにした。魔獣を討伐して、やっとご飯の準備にとりかかれる。リュックの中は、乾物だらけだ。重いものから使っていこう。


「あのさ、パスタにする? 乾麺を持ってきているんだ。ただ、俺の主食が減るから、皆からは、パンを貰うことになるけどいい?」


 そう聞くと、ノエルから無言でパンを差し出されたので、『ありがとう』と受け取る。


「私も渡すのでパスタがいいです」

「俺もパスタがいいです。固いパンで良ければどうぞ」

「私もです。渡します」

 一斉に鞄から出そうとするので、断った。

「待って。今、ノエル様からもらったから、明日はこれを食べるよ。また今度貰うよ。パスタは全員分作る」


 いつもパンを焼くトレイに水筒の湯を入れていき、干し貝柱とパスタを少ない湯で一緒に茹で、スライスしたニンニクと小口切りの唐辛子の入った小瓶のオイルの蓋を開けて回しかけハーブ塩を振る。


「うわー。いい匂いです」

「お腹が鳴りますね」

「もう鳴っていますよ。昼抜きでしたからね。すんなりと通りたかったのに、待つ羽目になりました」


 結局話を聞く羽目になったので、時間の無駄でしたねと、クラウンがアレクに同調して口にする。


「他の班を誘うのがいいのかも分からない以上、断るしかないだろう」

「俺もそう思うよ。せっかく課題が終わったのに、減点は嫌だよ」


 勉強のために3階までは行こうかという気楽なものだった。4階はもういいかなと思う。戻るのが大変だ。


 考え事をしながら作っていたからか、皿がないことに気づくのが遅れた。


「あ! やっぱりパン出して!」


 慌てて全員でパンをくり抜いて器代わりにするのだった。

 食べ終わるとそこにくり抜いたパンを戻して各自で保管だ。

 次のご飯の時は、そのパンを使っての料理になる。


「美味しいです!」


 皆、割とバクバクと食べる。

 こういう所に来ると平民とか貴族とか本気で関係ないよな。


 ゴザが似合わないのってノエルだけだもんな。上品に木のフォークに巻いて食べるのも優雅だった。お腹が減っているように見えないんだよな。


 食後の紅茶も飲み終り、後片付けをしていると部屋の外から大きな声が聞こえた。

「うわ、ここだ。いい匂いがする」

 ひょいと部屋の中を覗きこまれた。

 オルガスだった。

 ということはエリットの班だな。

「おお! ソルレイがいる!」

「ひとりぼっちみたいな言い方をしないでくれよ。全員いるよ」


 笑いながら答えた。

 ゴザの端に座って、道具の手入れをしていたり、俺の作った魔道具のペンライトの灯りで本を読んでいたり、身体を拭っていたり、俺の後片付けを手伝ってくれていたりと様々だ。


 ちなみに食事の後片付けを手伝うのは、当番制になっている。

 知らないところで、決まっていたのだ。


 ダンジョン内にある土壁で囲われているだけの部屋なのに、エリットが失礼すると折り目正しく入って来た。

 俺達の魔道具や紅茶を飲んで寛いでいる姿を見て笑う。


「快適そうだな。しかし、ノエル達のことだからもっと下の階層かと思ったぞ」

 名指しされたノエルが読んでいた本から顔を上げる。

「課題には合格している。先ほど3階から2階に戻って来た。ライゼンとクリスの班とは3階の中央付近で会ったが、そちらはどうだ?」

「そうか。こちらは、3階に下りたところで、ようやく課題をクリアしたのだが、先生にお会いできなくてな。素早く移動しているようで、魔獣の討伐をしている間に逃げられてしまうのだ」


 先生達は、魔物や魔獣の回避が上手いからな。それでも生徒が困らないように守護の魔道具は持っている。守護の魔道具に使われる鉱石は限られているため、そこから先生を探索できるようにしているのだ。探知魔法でピンポイントに探りたいなら何か渡して持っていてもらうより他にない。


「もうすぐ 17 時半だ。アンデッドが徘徊しているだろう。例年とは少し違うらしい。2階でもソルジャースケルトンが出てくる。休むなら2階にしろ」


 エリットがその言葉に目を細めた。

 ボランティア活動を通して二人もわだかまりが解け、少しは仲良くなれただろうか。そうであれば自分としても嬉しい。初対面の印象の悪さは、俺に原因がある。


「班員には女性もいる。そうしよう」


 侯爵家同士の会話に口を挟めないため、皆と共に静かに見守り中だ。そんな中、オルガスが俺に目配せをする。


「ソルレイ。何か情報を持っていたらくれよ」


 オルガスのざっくりとした要求に笑う。俺もオルガスも貴族の面倒ごとを嫌うタイプなので、最初の印象こそ互いに悪かったが、今では気の合う友人だ。


「そうだなあ。ライゼンの班が、4階に行かないかって誘って来たけど、断った方が良さそうだ。ただの勘だけど、例年と違う活発な周期というのが気になる。現に2階でさえ違うことが起きているのだから下の階層に下りれば、影響は増えるだろう。それから、4階の魔獣を討伐する必要があるからと女子生徒に言われても気にする必要はないみたいだ。皆が言うには、課題は8種の内2種だけが4階の魔獣だったようだ。先生を見つけて、交換することも恐らく可能なはずだ。気を抜けば、命を落とすから慎重に行動するようにという助言を先生からも貰った。自分たちの命を大切にするべきだ」


 大して役に立たないけれど、息抜きにはなりそうな情報を受けて、真顔になったオルガスも口を開いた。


「あいつらには、別の目的があるんだよ」

「?」

 よく分からなくて首を傾げると、ふっと息を吐くように笑う。

「討伐したい魔獣がいるんだと。いるのは6階層らしい」

 全員が驚いてオルガスを見た。

「どういうことだ?」

「行く気なのか?」


 反射的に声を発した俺とノエルの言葉がかぶった。ノエルに頭を下げると、口を挟んだのは俺だから気にするな、と手を軽く上げられる。


 オルガスはノエルではなく、気安く話せる俺の方がいいらしい。一度、ノエルに頭を下げてから答えた。


「それは分からねーよ。ただ、話はしていたな。入学初日の班を決める時だ。実習がここのダンジョンだって知ってたぜ。誘われて勘が働いたんだ。ソルレイと一緒だ。組まない方がいいと思って、前の席のエリット様に声をかけた」


 おまえ達は先に帰ったから知らないだろうと笑われた。

 そういうオルガスも俺が言うまでは忘れていたらしい。

 まあ、初日のことなんていつまでも覚えていないよな。


「なるほどな。エリット」

「今の話を聞いて行くわけなかろう。出会って誘われたとて、断る」

 ノエルが頷いた。

「エリット様、18 時になりますわ」

 そろそろ、とマリルが話を切り上げる。

「ああ、部屋を見繕うとしよう。情報助かったぞ」

「ああ」

「エリット様。私達は、必ず2階で休むと決めました」


 他班なのでそれ以上口出しはできないが、意図を組んでくれて笑って頷いた。


「その助言を受けよう」

「ありがとうございます」


 エリット達が出て行った。他班のこととはいえ、なんとなく気まずい空気が流れていた。そんな皆には悪いけれど、空気を読まずに聞いた。


「あそこの端っこで、頭を洗ってもいい?」

 こっちには流れないように魔法で穴を掘ると説明をした。

「「「「……」」」」

「……」


 誰も何も言ってくれないので、リュックからハニハニのシャンプーとリンスを出して、じっとノエルからの了承を待つと、『俺も洗いたいが、持ってきていない』とだけ、言われた。


「一緒に使えばいいですよ。でも、スケルトンが来たら怖いから先に洗ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ」


 恥より大事なのは時間だ。18 時だともう来てしまうかもしれない。ノエルは優しいのでいいよと言ってくれると思った。


 早く頭を洗いたかったのだが、エリット達が来たので言うタイミングを失っていたのだ。


 全員の魔道具の水筒を貸してもらい、頭を洗うことにした。

 ローブを脱いで袖を捲り、首にタオルを巻いて準備をする。

 自分の水筒を少しだけ振って、温度を確かめてから、頭にお湯をかけて地肌を揉み、そこから折り畳みの椅子に座ってシャンプーをした。

 魔法陣で穴を掘り、ノエルも心置きなく使えるように頼みごとをする。


「ノエル様。頭にかけてもらってもいいですか? 無理ならアレクで」

「ああ。アレクは、見張りを頼む」

「はい」


 水筒の少し温めのお湯をかけてもらい、わしゃわしゃと流していく。

 7回分の水量でようやく安心できた。

 首のタオルを外してごしごしと髪を乾かした。顔も洗ってさっぱりだ。

 ノエルも同じように洗っていた。


 湯は俺が手で温度を確認しながらかけた。

 身体もローブを羽織って全部脱ぎ、お湯を含ませたタオルでざっとたが全身を拭き清め、二人ともさっぱりしたのだが、3人からじっと羨ましげに見られていた。


「ソルレイ様。明日でいいのですが、私にも使わせてもらえませんか」

「ん? シャンプー?」

 俺は残量を確認する。

「ノエル様、明日も使いますか?」

「使えるのであれば使いたい」

「となると、俺も使うから残量は1回分だ。ハチミツ石鹸で良ければある」

 俺が液体の石鹸を見せると、喜んで頷く。

「石鹸でもありがたいです。明日お願いします」

「石鹸は残量が多いから気にしないで大丈夫だよ。固形も持って来てる」


 3人が石鹸で頭や身体を洗うというので、これは魔法の方がいいだろうと魔法陣で水魔法の範囲と時間を細かく設定して3人を一気に洗い流した。


 こっちに流れてきた水は土魔法で堰き止め火魔法で蒸発だ。

 ダンジョンではなぜか土魔法が使い辛いらしいのだが、そんな感覚はなく、魔力を多目にして強引に行った。


「水魔法で水を流して火魔法で蒸発させたら気持ちいいかも」

「明日やってみるか」

「魔法陣で守護魔法を発動させておいて、二間続きの部屋でさ、手前の部屋で壁側を向いて全員でシャワーを浴びようよ」

「疲れが取れそうですね」

「やってみましょうか」

「魔法陣の練習になりそうですね。あと洗うのが遅いと水が先ですよね」

「うん、今日みたいに一斉に流すから遅れたらアウトだ」


 俺も浴びたいので時間指定だ。さっさと洗わないと時間になったらシャワーが起こる魔法陣にしたい。


 既にアレク達は真っ裸で水筒で足を洗いながらゴザの上に乗り全身を拭いているので、もはや恥ずかしがる必要もない。


 生活を5日間共にする前に2日目の夜に絆が芽生えた。

 寝食を共にするというのは、貴族にとって大きなことのようだ。


 どうせ男同士なのだからもういいだろうと生活面でなってきている。

 誰も緊張していないので、ノエルの人柄が大きいのだろうな。



 皆で輪になってトランプに似たカードゲームをやっているとスケルトンの集団が来る音がする。カシャ、カシャと乾いた枯れ葉が舞うような音が重なり、だんだんと大きくなって来た。


「うぅっ、来たっ」


 息を詰めたのは俺くらいで、皆は一瞥してカードに戻る。

 魔道具の中なので大丈夫だとは思うが、怖いものは怖いのだ。


「ソルレイ。大丈夫だ。目に入れるな」

「大丈夫です」

「怖くないですよ」

「その内いなくなります」


 見回して、シャンプーをした辺りを探っている。触って確かめていた。土を摘まむようにしてこすり合わせていた。


「……あれは、元が変質者っぽい」

「ククク」

「ハハハ」

「アハハ。やめてくださいよ」

「アハハハ」


 笑わせるつもりはなかったのだが、ツボに入ったようで笑われた。


 大丈夫だと言うが、怖いのでチラチラ見ながらカードをやる。

 案の定負けた。


 あーもう。骸骨が来たからだ!


 心の中でそう叫んだのが良くなかったのか、この日の夜中に大きな骸骨が来た。

 寝ていたのだが、ガン、ガンと遠くで音が鳴っているような気がして目を擦ると、皆が一列になって座っていたのだ。


「うぅ、なに? どうしたの?」

「起きたか。寝ていていいぞ」

「?」


 皆が座ってじっと見ているのが足元の方だったので、もそもそ起きる。

 座ってから振り返ると、大きな骸骨が剣を振り下ろして魔道具のドーム型の守護壁を叩いていた。


「――――っ」

 ガキン、ガキンと音が鳴り、剣が折れると後ろの骸骨が新しい剣を持って来る。通路にも何体かいるらしい。

「ば、ばれてるの?」

 またガキン、ガキンと叩いている。

「目が合わないので、気づいてはいないのだと思いますね」

「ただ、気になるようです」

「やるか相談していたところです」

「しかし、これはソルジャーなのかという問題があってな。これがジェネラルだった場合、次はウィッチがくるかもしれん」

「……もう、ダンジョンから出たいよ」

 切実な声が出る。

「これは教師たちが想定した難易度なのか疑問に思う」

「そうですね。でも、先生達もいるわけですよね。これくらいはできて欲しいということでしょうか」

「ダンジョンにいるのが最大で1日なのであれば、気づいていないのではないですか?とはいえ、部屋に守護魔法陣を書けば夜は問題ないです。ウィッチが来てもこちらが先に守護魔法陣を書いておけばアンチマジックエリアの発動前ですから機能します」

「部屋に守護魔法陣を書くと、5日ある俺達は、疲弊すると思ったが。描くか。それとも明日は、1階で寝るか」

 ノエルに見られたので、何度も頷く。

「1階で! 魔法陣も描くよ!」

「アハハ。ソルレイ様が怖いようなので、そうしましょうか」

「だんだんスケルトンが大きくなって来ると怖いですよ。明日で3日目ですからね」

 順当に行けば、次は、ウィッチですねと笑えるノーシュが怖い。

「温存できました。そうしましょう」

「では、これはやっておくか」

「そうですね」

「すぐには来ないでしょうから」


 皆が、それくらいの火力でやれるのかを確かめるために同じ火炎の魔法陣を描くと言うので、参加する。秒ごとに魔力を増やしていくのだ。


 “フレア”発動!


 目の前で剣の交換に来た骸骨もろとも燃やす。


 骨が焼けると、通路にいた骸骨が部屋の中に来て何が起こったのかを調べ始めるが、分からなかったようで、しばらくすると去って行った。


 ノーシュが魔石を拾いに行ったので、皆で見る。


「この前のソルジャーの魔石がこれです」

 アレクがこの前の石を横に並べた。

「大きさが違うな」

「ソルジャーって。大きさは、皆一緒だった?」

「大体、同じ大きさでしたよ」

「この前より明らかに大きいです。ジェネラルでしょうか。本気で1階の方が良さそうです」

 こういう時はどうすべきなのだろうか。なんて考えるまでもない。

「まだ死にたくない。逃げられるように泊まるなら1階を希望するよ。魔法陣は、俺が描く。皆は、魔力の心配はしないでいい」

 最終決定は、ノエルに任せた。

「ウィッチが出たら、部屋には入らず、攻撃を防ぎながらダンジョンを出るぞ。これは夜だろうが進む。課題は済んでいる。命を優先するぞ」

「「「「はい」」」」


 しっかりと頷き、逃げる時の役割を決めた。俺は強引な罠解除担当で力押し担当だ。どうせ怖くなると過剰になってしまうだろうからその時は、ちょうどいいだろうな。

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