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グルベリアダンジョン 3

 全員が食べ終わってからゴザを敷く。少し厚手のものだ。そこに着ていたローブを敷き、タオルを三つ折りにして、枕を作ると寝そべる。


「ソルレイ様。隣で寝てもいいですか」

「このゴザの定員は、3人だな。靴は、脱ぐことが条件」

「分かりました」


 アレクに答えると、朝が早かったことや腹が満たされたこともあり、瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちた。

 その後、ゴザの取り合いがあったことは、起きるまで気づかなかった。




 ふと目が覚めた。時計を確認すると、夜だった。ダンジョンというのは、 一日を通して薄暗いために時間が分かり辛い。

 寝返りを打つと、アレクではなく、お人形さんのようにまつ毛がバサッと長いノエルがいた。身を起こすと、狭いゴザの端に3人が固まって寝ている。


 皆は、リュックに何を入れているんだろう。ゴザとかリュックの下に丸めて挟むだけなのに。


 着ている服は、良い物なのに地べたにゴザだからか貴族には見えない。ノエルに視線を戻すと、ノエルだけはやっぱり貴族に見えるので別格だ。


 視界の隅で影が動く気配がした。最初の部屋に繋がる扉のない部屋に何かいる。魔物だろうか。

 なんだ?と目を凝らすと、骸骨の集団だった。


「ひぅっ」


 喉から変な音が鳴った。

 こっちにも部屋があるとばかりに歩いてくる。

 嘘だろう。入って来るぞ。

「うぅっ、うぅ」

 唸っていたからか『どうした?』『どうしました?』と声がかかった。

「何か怖いのが、いっぱい来た」


 言うやいなや全員が一斉に身を起こす。

 動きが素早かった。武器を持ったり、魔道具を構えて立つのを見上げて、慌てて立った。


「ああ。アンデットですね」

「夜は縄張りなのか。しかし、聞いていなかったが……ソルレイ。ローブを着ろ」


 ノエルに言われて、ごそごそと下敷きにしていたローブを着こんだ。


「説明があってもよさそうなのに変ですね」

「スケルトンは、魔法を使う者も多いです。調べておくのも大事だという意図かもしれませんが、少し危ないような気もします」

 まだ2階層なのに、とクラウンが言う。

「ああ。アンチマジックエリアを作ることもできる。来たのは、唯の一兵みたいだが、このダンジョンは情報が少ない。調べるのは、難しいぞ」


 こっちの部屋を調べるように歩きまわるが、ドームには触れようともしない。

 そこで部屋が終わっているかのように、見て回って、引き上げていった。助かったと詰めていた息を吐く。


「行きましたね」

「見えていないようでした。声も遮断されているようでしたので安心ですね」

 怖かった俺は、大きく息を吐いた。

「ごめん。怖くなって、起こしてしまった」

「「「「プッ。ハハハハハ」」」」


 皆、最初の俺の短い悲鳴で目を覚ましたらしいが、その後は、何も言わないので、寝言かと起きなかったのに。すぐに唸るような声が聞こえたことから一応声をかけてくれたらしい。


 見てしまったことで怖くなり、逆に目が離せなくなって余計怖くなったのだと話して、あれと戦うにはどうしたらいいのかを聞くことにした。


 怖かったので、緊張で喉が渇いた。紅茶を作る。

 何か作業をしていた方が落ち着くからだが、手も震えておらず、心と体は別物のようだった。自分の体に裏切られた気分だ。


「魔法が効く個体だと何でも効きますよ。風魔法だったら細かく切ればいいだけですし、火魔法なら業火で焼くという具合です。ただ、中には魔法を使える者や魔法を無力化するフィールドを作る者がいるんです。厄介なのは、見た目が同じで見分けがつかないことです」

 ノーシュの説明は分かりやすかった。

「……そうなると、剣で戦うことになるのかな」


 剣は自信がないので、短剣すら持って来ていない。ナイフはあるが、正直なところ料理用だ。


 投擲訓練の授業中には、やっているが、合格も先生がおまけをしてくれたのではないだろうか。


 でないと、取れていない実力なのだ。ポリコス先生が、

『合格を出してやってくれ』

 と、までは言っていないのだろうが、おまけしようと思ってくれるくらいの何かは言っていそうだ。

 先生同士でかなり配慮してくれている気がする。


 言いたくはないが、眉を下げながら正直に肉弾戦はできないことを伝えつつ、輪になって座った皆に、淹れた紅茶を渡す。


「逃げるのがいいと言われています。魔法を使うだけなら対処できますが、アンチマジックエリアは厄介です。教会の聖職者でもいないと厳しいです」

「そうですね。我が国でも逃げるように言われます。討伐されるのを待つということです」


 クラウンもノーシュも自国でそのように教えられたという。


「魔法を使える者がいたら、同じ様に魔法を無効化できる者もいると言われている。そこは、既に危険な領域ということだ。2層だから使える者はいない、唯のスケルトンだけだとは思うが、気をつけるに越したことはない。ダンジョンでは、昼も夜もないように思えるが、アンデッドは、夜の方が力を増す」


 夜は、ダンジョン内を徘徊しているのだろうとノエルに教えられる。

 紅茶を飲んで落ち着く。


「……夜のトイレはどうすべき?」

 切実なことなのに皆が笑う。

「昼間は、空いていた部屋で交代でしたけどさ。夜も行きたくなるよ。で、出くわすとか地獄だよ」


 俺は、どうしていいか分からなくなるので、戦力に含めないで欲しい。ただ、必要なら進んで守護魔法陣を描くと提案をした。


「アハハ。昼間と同じように交代ですかね。やる方と見張りと」

「それがいいだろうな」

 別に、気にしないでいいのに、魔力は節約が基本ですとクラウンにもお説教を受けた。

「あのさ、ちょっといい」


 俺は目を泳がしながら、『誰かついて来て下さい』と頼むのだった。

 寝起きで紅茶も飲んだのだから、全員行くと言うので、小部屋を探して用を足した。

 大をしたい人は壁側に尻を向け最後にするのがルールだ。

 マナーで浄化魔法は使う。


 魔道具の水筒は、水が勝手に溜まるので、小部屋の前で手を出してもらいかけるのが俺の役目だ。

 ノエルに言われて見張りは免除なので有り難くやる。


 帰りの通路でスケルトンとは出くわさなかったが、アビキニオンが走って何かから逃げているところに出くわした。


 犬型の中型魔獣だ。課題の魔獣でもある。

「これで課題はクリアだな。やるぞ」

「「「「はい」」」」


 何事もなくあっさりと討伐は終わり、討伐証明として先生達に見せる爪と突き出した牙のような犬歯を取り、魔石もとっておくことになった。


 俺は解体にも参加しないので、皆で分けてくれればいいと言ってある。見張り役だ。

 終わった皆にご苦労様と言い、また紙石鹸を出して手を洗ってもらった。


「このまま先生に持って行く?」

「それで実習の課題は終わりますからね。そうしますか?」

 アレクが、ノエルに判断を仰ぐ。

「そもそも先生達はまだいるのか。昼間だけ入って来るとか、初日と最終日だけいるのではないのか」

「14時の時点で皆は、1層だと言っていましたよね。本来なら先生を見つけるのも難しいと思います」

「となると、今は……21時ですか。先生達もまだいるかもしれませんね」


 クラウンとノーシュは、課題を終わらせてしまいたいようだ。


「うーん。調べてみようか。リリス先生とポリコス先生ならはっきりと位置が分かるんだけどな……」


 俺は探査魔法陣と探知魔法陣の複合魔法陣に、知覚魔法陣で参加している先生達の特徴を記載した補助魔法陣を組み込んだ。


 この魔法陣は、高度な分魔力を使う。


 グルベリアダンジョンは、それでなくても魔力を倍も食うのだ。何度もやるのは嫌だ。“先生達いてくれよ”と、願いながら魔力を込める。


 近くにはいない。ここを起点にして、捜索範囲を広げていく。

 調べている間、2人ずつ背を向けて前後を警戒してくれる。


「今、ダンジョン内にいる先生は……2人……エンディ先生とジョエル先生だ。ダンジョンの外にルベルト先生がいる。……ポリコス先生とリリス先生は学校の教員棟だ」


 生徒が負傷してダンジョンから出てきた時の為に、3年目の生徒を教えているルベルト先生が詰めているようだ。他学年からも駆り出されているのか。


「エンディ先生は……3階かな?」

「かな?」


 ノエルが曖昧な言い方に引っかかったが、それしか言えない。


「2階か3階か曖昧なんだ。下りるところの付近か3階の下りた最初の部屋にいるのかもしれない」

「そういうことか」

「動いていますか?」

「いや、微動だにしていないから、恐らくどちらも部屋にいるのだと思う」

「夜は、本来ならば魔物や魔獣の時間だ。念を入れて部屋で守護魔法を使っているのかもしれない」

「一応聞くけど、どっちに行く?」

「「「エンディ先生で」」」

「うん。分かった」


 魔法陣を教えているエンディ先生の人気があるのではなく、魔法を教えるジョエル先生の人気がないのだ。


 俺が魔法理論を推したせいで、今年も魔法理論の座学となり、生徒達はいい加減、実践に移れ!と思っているのだ。


 ちなみに俺も1年目は理論が大事だけれど、2年目はさすがに実戦だと思っていたと保身のためにクラスメイトにはそれとなく意見を述べている。


 動かれていると厄介なため、部屋にいる方が都合はいい。


 このまま持って行こうと、先生がいる方へ向かうと、一本道になった曲がり角でスケルトンとばったり出くわした。

 時折、魔法陣で先生が動かないか確認していたために、油断していた俺はパニックに陥り、必要以上の魔力を篭めた火魔法を使った。


「わぁ!?」

「ソルレイ! そこで止めろ! 魔石まで砕ける!」

「あ。ご、ごめんなさい」


 目の前からスケルトンはいなくなっており、そこには、魔石だけが落ちていた。


 前にいた二人は、スケルトンからではなく、俺の放った過剰な火魔法の熱から素早く身をひるがえした。


「スケルトンって焼けきることができたのか」

 ノーシュは、何だか楽しそうにしていた。

「初めて見たな。ボロボロの灰になってそれすらも燃え尽きた」

「うーん。ただの焚き火用の火魔法でこれはすごい」

「魔力が多いと、火力の強い魔法でなくても火柱になるのですね」


 やってしまった俺は、ノエルが怒っていないか見たが、よくやったとばかりに背を叩かれて終わった。上官っぽい仕草が様になるのはアヴェリアフ家だからか。


「怖かったのは分かった。皆もいるから大丈夫だ。少し落ち着け」

「うん、ごめん」

 魔石を取ろうとするノーシュを止める。

「待って! まだ熱いかもしれない!」

「ハハハ。大丈夫ですよ。魔石は熱を通しません」

 ほら、と掴んで俺に渡す。

「ああ、いや。えっと。ありがとう。1つだけ貰うよ。大きな声を出して、本当にごめん。すぐに砕けてしまうかもしれないけれど魔石を貰って欲しい」

「では、遠慮なく貰います。アンデットの魔石って意外にレアですからね」


 クラウンは魔石や魔導石が好きなようだ。1階でも素材の中なら魔石が欲しいと言っていた。


「俺も貰います」

「私も貰います」

「俺も貰うぞ」

「うん」


 戦場でも国の中でも徘徊されると困るので聖職者や僧侶が供養はきっちりとやるから確かに貴重か。

 今ので終わりでもういないかなと言いながら、進み、武器を持ったスケルトンと遭遇したが、今度は落ち着いて対処できた。


「2階層でこれってどうなんでしょうね?」

「ソルジャーは、アンデッドでも滅多に出くわさないぞ」

「このダンジョンは、強い魔物がいるってこと?」


 そんなの家では聞かなかったけどな。カルムスが強すぎるのかな。


「夜に力を持つダンジョンなのかもしれません。下層の魔物や魔獣が強いとアンデットも瘴気を浴びて強くなるといいます」

「昼間3層に行っても寝るのは2層の部屋が良さそうだな」


 課題が終わったため、そうするとノエルが決めたことに頷く。


「分かった」

「それがいいと思います。無理をするのはよくありません。まだ私達は学生で経験が浅いです」

「罠も多いですからそうしましょう」


 方針を決めて、歩きまわり、先生がいる部屋をようやく見つけた。壁に凭れて寝ているようなので声をかける。

「エンディ先生、課題の報告を宜しいでしょうか」

「?」


 反応がない。


 ノーシュが、私の声は大きいですよと笑いながら声をかけたが、やはりピクリとも動かなかった。

「ソルレイ様、エンディ先生の顔色が悪いような気がします。どうですか?」

「見辛いからよく分からないな。寝ているだけのような気もする」

 ノーシュの意見に顔色を見るが、俺にはよく分からない。壁に凭れ掛かっていて、俯いているから顔に影が差し、暗いのは確かだ。


「エンディ先生、眠っているところを悪いが、起きて頂きたい」


 ノエルも声をかけたが、やっぱり反応がないので、どうするか話していると、先生が動いた。すかさず呼び掛けると、顔を上げた。


「ん? あれ? 君たち……」

「ああ、よかった。先生が、守護魔法をかけているのでこれ以上部屋に入れなかったんです。討伐証明を持って参りました」

 先生が笑う。

「今は、夜中だよ。ちゃんと寝ないと駄目じゃないか」

「寝て起きたところです」

「23 時から起きています。とりあえずここを入れるようにしてもらえませんか」

「ああ! そうだね!」


 通路から部屋に向かってずっと話していたが、ここは3又路になっているので、それぞれに見張りを立てなければならず、大変なのだ。

 中に入れてもらい、強い守護魔法をかけ直し、その間に守護の魔法陣を展開させ発動させた。


「グルバーグ家の魔力量は、素直に羨ましいね」


 多すぎる魔力は扱いを間違えると、さっきのスケルトンみたいに小さな魔法でも相手を灰にしてしまう。


 お爺様の魔力を引き継いで分かったが、簡単な魔法陣に魔力を入れると、すぐに溢れ出してしまう。


 魔力消費が多い難解な魔法陣を残した者が多いのは、グルバーグ家に生まれた宿命だ。


 周りが思う敬意と実情は、相反している。そちらの方が単に楽なのだ。


 適切な魔法陣の選択に適量の魔力量を素早く注ぐ。魔法にも魔法陣にも魔道具にも明るい。そういう魔道士こそが、優秀な魔道士だと言われるにふさわしいと思う。


 だから、マットン先生のことを尊敬できるし、エンディ先生もそうだ。


「エンディ先生が、本当は凄い魔道士なのに、手を抜いて授業をしているのは、気づいています。それに、魔道士の力量は、魔力量では決まりません」


 クラウン達が、討伐したアビキニオンの討伐証明を見せて、合格を下さいと迫る。


「アハハハ!ありがとう!うん。課題は合格だ。このカードを燃やせば合格の証明になるんだ」


 先生がアビキニオンの絵が描かれたカードを燃やした。


「ご苦労様だったね。おめでとう」

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 じゃあ帰ろうかと立ち上がる。

「待ってくれないかい。少し話がしたいんだ」

「「「「「?」」」」」


 話がしたいと言われると、フェルメルを思い出すな。どうするか顔を見合わせていると、困ったように呟いた。


「少しでいいんだ。ダンジョン病だよ。薄暗い中に孤独だと気が滅入って呼吸が浅くなる。気分が悪くなっていたんだ。一年に1回あるけど、今年は運が悪くてね、連絡係に回れなかったんだよ。今年は、特進化の授業を受け持ったこともあってね」


 この課題は、先生達にとっても負担が大きいらしい。魔法学や魔道士学の先生は、学年を問わず、応援に駆り出されるらしく授業を受け持っていない年もダンジョンには、来るらしい。


 大なり小なり仕事は任されるのか。


「だったら、朝まで一緒にいましょうか?」

「私の担当は、明日の昼までだからそうしてくれるとありがたいね」


 勝手に言ってしまったので、ノエルを見ると、エンディ先生の顔を見て頷いた。


 よく見ると先生の顔は、青白かった。

 ダンジョンは、薄暗いので表情が分かり辛い。

 完全な闇でないのは、ダンジョンの壁や天井に光虫が無数にいるからだが、明るいとまでは言えない。


「さっき声をかけた時に、反応が悪かったからな」

「そうですね」

「課題も無事に終わりましたからいいのではないですか」

「夜中にはさすがに生徒も来ないでしょうしね」

「そうだ。先生、トイレはどうしているんですか?」

「え?」


 先生は、まさかそんなことを貴族が聞くなんてという顔をするが、俺は、トイレ事情が気になった。皆も、口には出さないが、問うような視線を向けていた。


「一人で困らないのですか?」


 もう一度聞くと、先生が苦笑いを浮かべながら、1日我慢できる薬を服用するのだと教えてくれた。

 教師は最長でも一日勤務なのでそれで事足りるそうだ。1級薬店で店主に薬が欲しいと言うと作ってくれるのだと言う。


 全員すっきりしたところで、部屋に魔道具を設置した。


「これは凄い魔道具だ。ダンジョン内の空気が浄化されるなんて……」

 息がしやすいと言う。

「ダンジョン病は無自覚だと聞いたので、寝ている間に苦しくならないようにと持って来たんです。お守りは、別で持っているので、私からするとこちらがメインの機能です。入って数時間したら休むようにと助言を受けていたのですが、課題を持っている先生を見つけるのに少々時間を取られましたので、終わってから皆で寝て休みました」


 それで寝ると言ったのか、とノエル達にも納得された。

 寝ている間に体を慣らす方法で効率がいいのだ。ゴザを敷き、全員で靴を脱いで座る。


 手を拭ってリュックから取り出した無花果と胡桃のパウンドケーキを全員に渡した。

 懐紙に一切れずつ包んであるのでそのまま包みを開けば食べられる。


 フォークは、貴族として持っていた方がいいかと持って来ただけだ。


「私も貰えるのかい。ありがとう」

「甘いですよ」

「甘い物は好きだからね。いただこう」


 お茶は持っていると言うので、皆の紅茶を淹れる。

 ここでは俺がお母さん役だ。


「先生ってまともだったんですね。授業中は、おかしなテンションだからてっきり……」


 クラウンが言葉を濁すように言うが、全然濁せていない。

 “イタイ人だと思っていた”と、続きそうだ。

 それにクラウンの言葉に全員がうん、そうだよなと無意識に頷いていた。


「そんな風に思っていたのかい。酷いね」


 案の定、相手へと伝わり、生徒の本心を知ったエンディ先生は、落ち込んでいた。


「無理に明るくしようとしなくてもいいのではないかと思います」

「これが素顔なら痛々しく感じる」

「はうっ」


 先生が胸を抑える。


 クラウンとノエルの同情するふりをしながら攻撃するという器用な貴族の業を見ながら、俺は、巻き込み事故を恐れて、パウンドケーキを豪快にかじって食べ進める。

 他の二人も同じだった。バクバクと食べるものではないがそうしていた。


「先生、アンデッドがいましたが、そういうのは事前に言ってもらえないのですか?別で対策がいると思うのですが?」


 アレクが不親切だと言うと、先生が笑う。


「ボランティアを 1年生の頃からやっているだろう。川の掃除は、セイレーンの歌声を船頭から聞き、聖属性の魔法を学ぶ機会を。教会は、聖職者から対抗する祈りを、書庫では司書から禁書庫の閲覧許可を。と、普段は知らない聖属性魔法や治癒魔法へ学びの場を与えているんだ」


 それを聞き俺達は、ぽかんとする。


「しまったなあ。俺達から教えを請わないと駄目だったのか。ごめんなさい、ノエル様。気づきませんでした」


 俺のミスだ。司祭様達は好意的に接してくれている。聞いたら、きっと教えてくれただろう。


「いや、真面目にやっていれば声がかかると思っていた」

「そんなこと気づいていませんでした」

「まあ、川の掃除は気づきませんよ。教会組は、教えてもらえるように頑張ろうと話していたんです」

「あわよくば、くらいでしたね。皆さん、忙しそうなので、こちらからは言い出し辛かったですね」

「ハハハ。夏休みや冬休みに従事させるのはそのためさ」


 なるべく行くのを回避した策を後悔する。


「今からでも教えてもらおうか」

「ああ。まだ卒業まである」

「ですね。ぜひ覚えたいです」

「私も覚えたいです」

「船頭さんとは仲良くなったので聞いてみます」


 お互いに別々のものを教えてもらい、教え合おうと頷きあった。

 気づかずに、きついボランティアに従事させられたと恨み言を抱きながら卒業していく生徒が多いのだと言う。


 先生に微笑まれた。


「教えたのは、今日のお礼だよ」

「この夏休みは予定を変えて行ってみます」


 お礼と共にそう返す。

 その後も男同士でわいわいと話をして、軽い食事をとって、真夜中に全員で雑魚寝をして眠りについた。

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