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楽しいディハール国の日々

 朝から掃除に取りかかる。借りた家は2階建てのこじんまりとした家に見えたが、中は広かった。

 冒険者達がシェアハウスとして借りることもあるらしい。


 玄関の扉を開けるとすぐにテーブルと台所があり、1階に1部屋。2階に4部屋がある。

 貴族には狭い部屋かもしれないが、平民には申し分のない広さだった。


 ここでは、みんな対等だと決めた。でないと息が詰まる。

 綺麗に管理されていたので、埃を落として掃き掃除を済ませ、備え付けのテーブルなどを拭き上げれば綺麗になった。

 雑巾を絞って、玄関脇の木の棒に引っ掛けて干しておく。


「ラウルー!市場に買い物に行くけど行くかー?」

「行くー!」

 玄関から家の中に向かって声を上げれば、階段から身を乗り出して返事をしたラウルが玄関まで走ってくる。

 その後ろをモルシエナも追いかけて来ていた。

「二人だけで行こうとしないでください」

「あーごめん。この前ノエルと行った広場だったから。つい」

「ラルド国は毎日市場出てたけど、ここは二日おきだもんね」

 そうなのだ。その時に買わないと高い店で買う羽目になる。

「懐かしいですねえ」

 3人で市場に向かって歩き出すと、ベンツが全速力で追いかけてきた。

「何かあったらエルクシス様に殺されます! 声をかけてください!」


 大げさだと声を上げて笑ったが、笑い事じゃないですよとモルシエナとベンツが呆れたように言った。

 並んで広場に出ている市場へ向かう。閉まるのも早いので昼には夕飯までの材料を揃えておかないといけない。


「そういえば奉納祭には商隊も来て店を出すらしいですよ。ラルド国で良く食べた、モツ煮込みが食べたいです」

「食べ物系の屋台が立つの?」

「そう聞きましたよ」


 ノエルの護衛に話しかけたら嫌そうにしながらも教えてくれたらしい。


「そういえば、ラルド国にも屋台が来てたねー」

「うん、ハチミツがいっぱいかかった揚げパンを食べたかったけど、お金がなかったからな。売っていたら食べたいな」

「僕も食べたい。キラキラしてたよね」

「うん、美味しそうだった」


 裕福な商家の子は親に強請れば食べられるが、眺めて終わりの平民の子が殆どだ。

 今にして思えば、収穫祭ならともかく奉納祭に屋台っておかしいよな。自分の食べ物を奉納して秋に収穫できるように神様に頼む祭りだったような……。


 ディハールでは、リンゴを納めるらしい。


 着いた広場では、市場のテントや荷車をそのまま店として使っている野菜屋なんかもあったりして活気があった。なんとなしに麻袋に入ったリンゴを見ると、木札に銅貨6枚と書かれていた。

 名産品にしては値が高いように思うが、大きなリンゴを選んで買っている人もいるようだ。大切な行事だもんな。高くても買うか。


 リンゴを売る店が多い。

 肉屋の前でも売っている。この行事に合わせて買い付けている商魂たくましい商人たちが多いようだ。


「奉納するのは、パンとリンゴにするとして。今日のお昼と夕ご飯の食材を買いたい。エルクも夜には来られるって言っていたしな」

「エルクが食べたいって言ってた鶏肉のスープ?」

「そうだな。でも、夕ご飯だな」


 夕飯は鍋にすることにして、肉屋に行くと、よく分からない鳥が並んでいる。生きているので、ここで絞めるようだ。


「おじさん、煮込みに向いてる美味しい鳥を一羽。捌いて欲しい」

「あいよ!こいつかこいつだな」

 その鳥は小さかったので、3羽頼んで、足りない調味料と野菜を買い回った。

「お兄ちゃん、昼はもう屋台で食べようよ」

「お!いいですね!」

「あそこの店は旨そうです」

 3人とも飽きたらしい。途中で惣菜屋ばかりに目がいっていたから気づいていた。

「ロクス達の分は?」

「何か買って帰ろう!」

「「そうですね」」


 全く、ラウルが最初に言ったら怒られないと思って、モルシエナもベンツも本当に子分のように振る舞うのだから。


「俺は、卵を買って来るから、そこの屋台で好きに買って食べていていいよ」

「卵は割れちゃうから先に一緒に食べよう」

 ね、ね、とラウルが腕を掴んで引っ張る。


「ラウル、共犯はモルシエナとベンツで十分だよ」

「お兄ちゃんも必要だよ。ロクスにお兄ちゃんを困らせたって怒られたくないの」

 その言葉に笑う。

「それが本心か」

「アハハ、ごめんね」

 仕方がないなと容易く引きずられながら、ラウルが食べたかった屋台に向かった。

「モツ煮込みか」

「最初はモルがいいんだよ。次に僕ね、あっちの通りにあった串焼きがいいな」


 自分の護衛が我がままを言ったことにするつもりだな。笑っているモルシエナにいいのか聞くと、これくらいかまいませんよと笑う。


「それならついでに俺も買おう。全員で食べような」


 これで皆が共犯だ。

 ふざけながら市場を回って買い食いをしつつ、買い物をした。テイクアウトの料理を随分と買い込んでしまったのは家で留守番を買って出てくれたロクス達への罪悪感のなせる業だった。


 7人での共同生活は、全員男同士なこともあり楽しい日々だ。


 一つの鍋をつついたことのないエルクシスやロクスは、驚いていたが、熱々の料理は美味しい。ハードルを下げるために、ちゃんと取り箸の代わりにお玉もトングも用意した。鳥肉を丸ごと入れて他の野菜と煮込み、締めにパンも入れて卵も落とした。

 あの時と同じように、

「美味しい」

 エルクはそう言ってくれたのだ。



 遊び面でも大いに遊びんだ。

 奉納祭は皆で出かけたし、ディハール国にもお金を払って遊ぶ鉱石採掘場があったので、エルクもマリエラも誘い全員で鉱石を採った。

 俺とラウルは、以前のお爺様やカルムスを参考に1級と2級の鉱石を狙い、リュックに入れていき、入口では問題にならない2級鉱石だけを見せた。


 ノエル達にも内緒でやっていたのだが、リュックの膨らみに、帰りの馬車では見せるように言われた。

 ただ、素直に見せると、『あそこでもこれほど取れるのだな』と頷いただけだった。

 馬車の向かいに座ったマリエラが気に入った物があったらしい。

「その石が欲しいです」

 と言ったので、ラウルと『いいよ』と言い、好きなものを取るように言うと、笑顔で青い石を選んだ。


 俺は、採集した鉱石でエルクと俺とラウルの三人のお揃いのネックレス型の魔道具を作って渡した。

 喜んですぐに手首にかけてくれた。


 ガンツの持っていたティルミナ石のネックレスを参考にチェーン部分の1つずつを小さなブロック状にして魔道具にしてある。

 1つのブロックでも意味はあるのだが、ブロックが組み合わせることで強力なお守りになる。

 たとえ1級と2級の力の鉱石でも組み合わせや作り方次第では、特級の石をも超えるのだ。


 魔道具は本当に楽しい。


 体育祭では階段から落ちる事故であわやという事態だったので、そういったものを防ぐのだ。


「探査や探知魔法が使えない時でもこのお守りが魔力を感知して安全な道を教えてくれる。突発的な事故も防いでくれるお守りだよ。絶対持っていて」

 魔物や魔獣との出会い頭の事故防止も兼ねている。また罠が仕掛けてあった場合も反応を示す。効果範囲を広く、できる限り探査機能を上げた。


「うん!お兄ちゃんは、やっぱりすごいね」

「ああ、ソウルはすごい」

「ふふ、ありがとう」


 ラウルには1年がかりの魔道具を渡したので、これで3つ目の作品だな。


 こうして皆で遊ぶ日々は過ぎて行き、二月が過ぎようとしていた。

 当初一月で帰ろうとしていたノエルも、高等科は忙しいので戻れるか分からないから二月いることにしよう、と執事達に告げ予定を変更していた。

 俺達がいてストレスが軽減されたので、今の内に長く帰り、来年は帰らないつもりのようだ。

 気づいていた俺とラウルは、お見合いをする度に食が細くなるのを見ているので、黙っておくことにした。



 シェアハウスの大きなベッドでラウルが今日は真ん中だった。俺が右でエルクが左だ。


「エルク。お休み取れたー?」

「取れたぞ」

「やったー!」

「じゃあ!皆でアインテール国だね!」


 お爺様にも無事に会えたことを手紙にしたため、ダニエルにも手紙を書いた。

 カルムスにもそれとなく、剣の腕が落ちるといけないとラウルはこちらでも頑張っています、と書いておいたので、指導を匂わせておいた。

 後は、ダニエルが何とかしておいてくれるだろう。

 手紙を送ってから期間も空いているので、血が上っても下がっているはずだ。


 明くる日、アヴェリアフ邸にてノエルと帰る日取りを決めていると、マリエラがやって来た。

 ソファーに座り何度もこちらを見るので、ノエルに目で断わってからマリエラに微笑む。


「マリー。どうしたの?」

「ソルレイ様、もうお帰りになられるのですか?」

「2ヵ月いたからね。帰らないと高等科の進学準備があるし、ラウルツも休学届を出しているんだ。復学の手続きをして試験に間に合うように帰らないといけない」

「そうでしたの」


 ノエルと明日に出発しようと話しが決まると、マリエラからもう一度声をかけられた。


「ソルレイ様。マリエラは来春、カインズ国の貴族学校に入学いたしますの」

「そうなのか? どうして、アインテールじゃ……ああ、そうか。貴族としては、ノエルがこっちだからな」


 てっきりマリエラもこっちで、2年はラウルと一緒かと思っていた。

 友好国の懸け橋になるように伝手を多く持つように求められる貴族は、長男はこっちの学校、次男はあっちの学校など分けることも多い。


 クラスの皆曰く、3男以下は好きでいいらしいが…………。

 ノエルは王子の関係上、アインテール国の魔道士学校へ。マリエラは貴族学校へ幅広い交友関係を求め通うようだ。

「ええ。同じ学校には通えませんの。それで……。貴族学校ではダンスの授業が多いのですわ。不安なのです。踊っていただけません?」

「ノエルとは踊らないの? 凄く上手だよ」

 試験の度に加点が凄かったのだと笑う。


「他人と踊る方が勉強になる」


 ノエルが口を挟んだ。頼んだけど断られたのかな。自分の代わりに、俺に踊れってことだな。


「なるほど。俺でよければ。ラウルツの方が上手かもしれないけど許して」

 正式な方がいいのだろう。立ち上がって、誘う所作をとった。


「マリエラ様、私と踊って頂けますか」


 声をかけてから手を差し出すと、小さな手を乗せ笑顔を見せた。

 執事達が別館にいる楽師を呼んで参りますと言うので、必要ありませんよ、と断わり、ノエルに何か弾いてと頼む。

 それくらいやってくれるだろう。


「貸しだぞ」

「え? ああ、うん」

「分かっていますわ!」


 まさかの返事に驚きながら返事をすると、ノエルに対し頬を膨らませるマリエラに首を傾げる。


 ノエルが授業で踊った時のダンス曲を奏で始めたので、マリエラの手を引いた。とても踊りやすい。

 先輩達に教わった通り、ちゃんと引き寄せる時も遠慮をせず、細い腰を引き寄せた。

 マリエラはとても上手で、アリア先輩達と差はない。

 さすが侯爵家。

 俺の方が下手かもしれない。丁寧に踊った。終ると、スカートを少し摘まんで持ち上げる。


「ソルレイ様、ありがとう存じます。とても踊りやすかったですわ」

「それはよかったです。マリエラ様が上手でいらしたので、私もとても楽しい時間になりました」


 お互いに微笑んで終わる、とても楽しい時間だった。

 妹がいるってこんな感じなのだなと思う。

 ノエルは、弟じゃないと遊べないと言ったが、これはこれで兄としてできることがあり、いいと思う。


 メイド長から宜しければ、本日もお食事をと言われたが、明日の朝の出発ですので、と丁重に断り、仮の家へと帰る。


 楽しい旅行だった。エルクをアインテール国に連れて行くこともできる。

 気に入ってくれたなら一緒に住めるだろう。

「綺麗な風景をたくさん見せて、絶対に住みたいって言わせられるようにしないとな」

 ラウルは学校だ。俺がその間にいいところをアピールだな。頑張ろう。

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