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初等科卒業年 後期授業の始まり

 最後の夏休みの日はラウルと遊び回り二人でぐっすりと眠った。


 残暑は厳しいが、暦の上では秋になり学校が始まった。


 初日の朝に、全員に封筒を配ったところ収入申告書を見てとても喜んでいた。

 税金も取られているのだが、そういうのも含めて嬉しかったようだ。貴族が税を納めるのは最初で最後だな、とノエルも笑っていた。



 後期の授業は応用だが、基本はできているものとして一気に進むため初日から難易度が高い。

 買ったノートに必要事項を足して、オリジナルノートになっていく。ちなみにラウルには俺のノートをあげている。


 フロウクラスから退学者は出ず、停学者も出なかったことから団結して頑張ったようだ。停学って一生記録に残るからな。素行不良のレッテルは、剥がすのが大変だ。貴族には致命傷なため避けたようだ。



 ただ、図書館の貸出し予約は、厳しくなった。魔道具の本だけではなく、応用の魔法陣の本でもやっていたため、各学年の教員で協議してフロウクラスは貸出しが禁止という措置だ。


 図書館で本を読むことはできる。

 クラスで協力し合って何回も同じ本を予約し続けるなど悪質であると判断されたのだ。

 こうして他クラスの生徒が安心して本を借りられるようになった。


 尚、魔道具の時間に俺にこの話をされ、早くから知っていたノックス先生は、

『生徒から申し出があったのに報告していないなんてどういうことですか!』と、他教員達に怒られたそうだ。

『ラウル君聞いてよ、酷いんだ』

 ラウルがノックス先生から話を聞き俺の耳にも入った。

 小賢しい人ではなく天然な人なので、嫌味ではなくただ単にラウルに話を聞いて欲しかっただけだと思うが、困った先生だ。 

 次からは相手にしなくていいよ。話を聞いてくれる人がいない寂しい人なのだろうと言っておいた。



 音楽の授業は、初等科に新しい先生が入って来たため、その先生に教わることになった。


 宮廷楽師を引退した人で腕はいいらしい。

 女性教諭と男性教諭が入って来た。3人で教えるようだ。

 男性教諭は、自己紹介を聞く限り、横笛にも明るいらしいが、またごちゃごちゃされると面倒なので、手を上げた。


「後期の試験は、6弦楽器に致します」と、申し出た。

「選択は横笛なのだろう? 選択した楽器以外は認められない」

 頭の固い人のようだ。それならそれでいいか。

「分かりました」

 素直に席に着くと、じっと見られる。

「なにか?」

「思っていた感じとは違うね。とても音楽室を破壊したようには見えない」

 責めるような物言いだ。咄嗟のことに上手く言えず、言葉が出なかった。

「ソルレイは、音楽室を破壊などしていない。音楽室に逃げ込んだ犯罪者を捕縛する時に、軍から依頼を受けたカルムス魔道士と音楽教員と学長との激しい戦闘があり、結果として壊れた。楽器の寄贈も弟と働いた金で寄贈している。事実と異なることを持ち出して何をしたい?」


 詰まってしまった俺の代わりに正しい説明をしてくれた。新任の先生は、ノエルに鋭く睨まれると咳払いをしている。


「音楽の才能はあっても、教師として今の発言はどうですの?」


 女子を纏めているビアンカが振れば、他の女子達が連携をする。


「殺されかけた生徒より音楽室の心配なんて……」

「逃げ込んだ犯罪者が音楽室にいたのだからどうしようもありませんのに酷い方。一人は音楽教師でしたのよ」

「初日にそんなことを言うなんて威圧的ですわ」

「また試験前に、失格だと言われないように申し出たソルレイ様のお気持ちをまるで理解していらっしゃらないようですわ」


 女子達が声を上げるのを男子は静かに見守っていた。

 14歳にもなると、女子はしっかりした物言いだ。

 にしても、こんなに庇ってもらえると思っていなかった。照れくさくなる。


「皆、気にしていないよ。ありがとう」

「うむ。ゴーヤン先生。今の発言は違うぞ。今までは、6弦楽器は私物だった。グルバーグ兄弟からは、25の寄贈をして貰っている。弦の換えも十分だ。下級貴族でも触れられるようにと放課後の練習用の物も別で貰っている。4年生の中には、少しでも触りたいと放課後に来る者もいるのだ。こういったことは、音楽への愛がなければできぬ」


 うん、うん。

 そこへは気を遣った。所蔵する楽器は増えているはずだ。


「どうやら私が聞いた話とは齟齬があったようだ。ソルレイ殿、失礼をしたね」


 なんだろうか。

 謝っているようには聞こえないのだが、貴族っぽいと言われればそんな気もする。嫌味ではない声色だった。


「誤解が解けたのであればかまいませんが、試験前に汚らわしい楽器だと不合格にしないと約束してもらえますか? 前期は試験を受けられませんでした」


 そう言うと、『なるほど、そういうことか』と何度か頷いた。

「私の父は横笛奏者であったのだ。幼いころより親しみがある。気にしないでいい」

 おお!それは凄い!

「そうでしたか。分かりました。では、横笛でお願いいたします」


 ゴーヤン先生は、初日こそ印象は悪かったが、指導は熱心で、俺の横笛の腕前を評価して、お父さんを連れて来てくれるようになった。

 このお父さんも、『ようやく横笛を選択する生徒が出たか!』と喜んで来てくれたため、マンツーマン指導の成果からか、俺の演奏技術は無駄に上がっていった。


 “レミオルベ”通称グレパスの泡沫を演奏するように3年生の時に言われたから練習をしていると言うと、

「こっそり弾く分には良いが、公衆の前で弾くと捕まるぞい」と、教えられる。

「!?」

 ダンスの時に年配の先生にリクエストされた話をすると、校内のことなので笑い話で済むが、王族の前はもちろん、招かれた貴族家のパーティーでもタブーだそうだ。


 ユナ先生は、俺を宮廷楽師になれるコンクールに誘った。

 そうか。俺を貴族社会から引きずりおろしたかったのだな。なんとなく動機が見えてきた。


 グルバーグ家から俺を追い出したい?

 どうして?


 ここに鍵がありそうだった。

 ともあれ、そういう勢力があるということが分かった以上は、卒業までに打てる手を打っておこう。助けてくれたクラスメイト達を思い浮かべた。


「せっかく練習していたのなら、演奏するのもよいだろう。前期の試験は、免除されていたとすれば、受けておらずとも試験結果には影響すまい」

「そうします。辻褄を合わせてもらえるようゴーヤン先生へお話頂けますか?」

「もちろんじゃ」


 なんだか負けるようで悔しかったのだ。

 6弦楽器はラウルが弾いてくれるはず。きっと大丈夫だ。

 明日からは、合同練習が始まる。二人で頑張ろう。

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