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バタバタの文化祭 後編

 意気揚々と運びに行き、ちゃんと戻って来たので、子供用のジュレを切ってふるまった。


「あー美味しい」

「ハーブもいいですけど、これも美味しいですね」

「黄色い蝶々はハチミツですか」


 黄色い蝶を取り出して食べるのに目を瞑る。ご褒美で、試食会じゃない。


「生き返ります」

 しみじみと言うマクベルに笑ってしまった。

「外は、暑いからな。少し回ってきたいんだけどいいかな? お腹も減っているんだ」

「どうぞ、どうぞ」

「行って来て下さい」

「ソルレイ様は、朝からずっとここですからね」


 気持ちよく送り出してくれる言葉を貰い、やることの指示を出すと、クレープを3つ持って調理室を後にした。


 廊下に出ると凝った肩を解すように首を回して、初等科の2年ファリスクラスに向う。


 調理室で売ってもらったと3つのクレープを見せ、1つは皮だけもらって調理室で食べたので4つだと申告をし、銀貨4枚を支払った。


「あの、ソルレイ様。なんとかなりそうです。ありがとう存じます」

 最初に調理室で声をかけたツインテールの子だ。

「そうか、よかったね。よく頑張った。あともうひと踏ん張りだ」


 頭をポンポンと撫で褒めておく。

 嬉しそうに頬を染めて笑った。

 お客さんが来たので、手を挙げてじゃあね、と手を振り場所を譲った。


 冷えたクレープを持って中庭を覗く。

 ラウルは、いないな。レストランかもしれない。

 クレープに喜ぶ顔を思い浮かべていたので、残念な気持ちになった。


 白服はクラスを引っ張る役目がある。

 ラウルが忙しいのも分かっているので、先にノエルの方に向かうことにした。


 ローズガーデンに行くと、並んでいる人はおらず、“終了時刻まで席は埋まりました”との即席の看板がある。木箱に紙が貼ってあるだけだが、その横には、“時間が記載された受付票をお持ちの方は予定時刻までこちらでお待ちください”と書かれていた。


 ローズガーデン内に入ると、こちらは相変わらず、優雅な時間を楽しむ紳士淑女達が集まっている。

 邪魔にならないルートで、作られた飲み物やお菓子を用意するアイランドキッチンに見立てたカウンターまで歩いた。


「ソルレイ様、お疲れさまです」

「お疲れ様。今から休憩なんだ。お腹が減ったから食べてくるよ。ノエル様も食べてないかもしれないと思って、迎えに来たんだ」

 食べていたか尋ねると、ケイトは首を振った。


「そういえばノエル様も……」

「迎賓館に在庫数の確認に行かれましたわ。こちらは作って頂いた整理券で落ち着きましたの」

「そうか。調理室で作っていたレアチーズケーキや最後のジュレも全て運んでもらった。ただ、鑑定をしてもらって安全が確認されたジュレが、まだ冷蔵庫に入ったままなんだ。ノエル様と相談もしたいから行って来るよ」


 休憩を取っていない子がいるか確認したら大丈夫とのことで、俺とノエルが1時間食べに行くことも『行って来て下さい』と言われて終わった。


 迎賓館は、どうだろうかと心配になりながら向かったが、並んでいる人の多さは相変わらずなものの、ちゃんと列を作って順番を守っているので心配はなさそうだ。


 冷蔵庫のある厨房へ向かうと、ノエルとビアンカがいた。

 尤もビアンカはゼリーを出しているだけで、会釈をしてすぐに運んでいた。


「ノエル様、お疲れさまです。お腹が減りました」

「ああ、ご苦労だったな」


 回っていないのは俺達だけだから食べに行きましょうと告げクレープを渡す。

 見えない位置に移動をして隠れるように二人で食べる。冷凍していたので、カスタードクリームが少しアイスのようになっていた。


 もう14時を回っている。朝の6時から来ている俺達は、腹ペコだった。

「氷菓は喜ばれていたぞ」

 ちゃんと口元をチーフで拭っているのを見て、真似ておく。


「そうなのですか? 試食もせずに出したから心配でした」

「昼に来てよかったと言われていた。眺めて時間が経っていても冷えたジュレとして食べられるからな」


 そうか、二度おいしいのか。

 お爺様も来たと聞く。来たいと言っていたメイドや執事を連れて来たらしい。

 テーブルは、4人席だと言ってあったので3人を選んで連れて来たようだ。

 ノエルがカルムス同様、ブルーローズの席に案内をしてくれたそうなので丁重にお礼を言った。


 侯爵家の給仕はこれが最初で最後だろうな。

 嫌がらずにやってくれたノエルに感謝だ。


「今の話で冷凍のチーズケーキが調理室に入ったままなのを思い出しました。それと鑑定の結果ですが、イタズラされていたのは、2つだけでした。あとは大丈夫です。その2つは間違わないように移動させましたから調理室にはありません」

「そうか。とりあえず、先に食事に行くか」

「そうですね」


 俺の持っているクレープはラウルツの分だろうと言われたので、笑いながらそうです、と答え、もう一度中庭に寄ることにした。

 中庭で、他の生徒と話しているラウルの姿が見えた。


「よかった。今度はいる」

「食べていなければ、ラウルツも一緒に連れて行こう」

「うん。聞いてみるよ」

 近づくと声をかける前に気づいて笑顔を見せる。

「お兄ちゃん!」

「何度か見に来たよ。さっきはいなかったね。回っていたのなら、クレープはもう食べたかな?」

 調理室で2年生に頼んで作らせてもらったのだと見せる。


「来てくれたの? ありがとう。食べるよ! お腹ペコペコだもん」


 パクンと食べる。

 俺とノエルと同じでパクパクと早目に口に入れ、器用に歩きながら食べる。

 食べ終わると人心地ついた顔をするので、ハンカチで口を拭いてやる。


 さっきいなかったのは、お客さんにまさかの金貨を出されたので、小金貨を取りに教室まで行っていたのだという。


 同じ頃に2年生の教室にいたはずだが、ファリスクラスは4組の偶数クラスの為、奇数組とは渡り廊下を挟むくの字型の構造のためすれ違いになったようだ。


 お昼もまだ食べていないと言うので、まだ入るか尋ねる。

「もちろん、まだ食べるよ」

 元気よく返され、一緒に行くことになった。

「お昼に行こうとした時に金貨を出されちゃったの」

「そうか、そうか。朝からずっと頑張っていたんだな。お兄ちゃんもジュレが出来上がった時に一人で調理室だったから誰か来るのを待っていたんだ」

 ラウルの頭を撫でて褒める。


「ドリンク組だな。すぐに帰せずに悪かったな」

「すること自体はお茶作りくらいでなかったんだよ。ただ動けなかっただけだからね。接客の方が大変だっただろう。ありがとう」

「俺は2テーブルだけだからな。出せば1時間は楽だ。それで迎賓館の人数を厚くしたんだが、向こうはそれでも大変だったみたいだな」

「調理室からも運ばれて来るからね。ドリンクやケーキを運びに行くと食器を下げるだったり、洗い物を頼まれると言っていたね。帰って来るのが1時間後になるから笑いながら待っていたよ」


 最後は“ノエル様の命だ”と言うと言っていたと話すとラウルが声を上げて笑う。

 もうこの時間だし、バイキングだなとレストランで好きな物を取って食べることにした。


 2階に上がるがガラガラだ。

「もっと混んでるかと思った」

「平民の人は使えないよ?」

「学生証がいるからな」

「先生達だよ。もっと避難しているかと思ったんだ。カフェの方は、一般の人も入れるでしょ? だからこっちに流れると思ったんだ」


 四角い6つに区分けがされた大き目の取り皿を二人に渡すと、二人が可笑しそうに笑っていた。


「なに?」

「先生達はローズガーデンでお兄ちゃんのお菓子目当てだよ」

「チケットを持って来ていたぞ」


 まあ、何人かはチケットを持っていても整理券がないから断ったが、と聞き、気の毒な先生達がいたのだなと思う。


「ノックス先生も行くって言ってたよ。甘い物が好きなんだって」

「何も持っていなかったからすぐに断ったぞ」

「「ブッ」」

 ラウルと堪えたが吹き出しそうになった。いや、間に合わずに吹いてしまったか。


 茶器と交換したチケットを持っていた先生には迎賓館の方なら食べられるかもしれないと伝えたそうだ。


 ノックス先生は何も持っていなかったため、残念でしたね、と言って女子が断ったそうだ。


 オムレツを焼いてくれるシェフにチーズを取って来ればチーズオムレツにしてくれるか尋ねた。

「混んでいませんし、良いですよ」

 ラウルも頼み、ノエルも頼んだ。


 ここのクロワッサンにソーセージとコーンスープで俺は十分幸せになれる。


 まあ、いつも通り、魚のフリットとローズマリーの乗ったローストチキンは取るけどな。

 みんなお腹が減っているので、人心地つくまで無心で食べる。


 ジェラードで締め終ると眠くなってきた。

「ノン。僕も打ち上げに行ってもいい?」

「ああ、いいぞ」

「やったぁ。ありがとう」

「あ、ごめん。聞き忘れてた」

「ふふ、いいよ。ノンもいいって言ってくれたもん」


 眠いんでしょ? 僕が一緒に帰ってあげるからねと言われ、大丈夫だと虚勢を張った。


「気が抜けただけだ。でも、カルムお兄ちゃんに鑑定してもらったジュレがまだあるんだよな」

「ん? 何の話?」


 あ。本当に気が抜けていたようで、隠していた話を自分から暴露してしまった。

 目を泳がすと、ラウルに笑顔で教えるように迫られ、止む無く経緯を話した。


「それで元気がなかったんだね」

「うん。顔を洗ってから行ったんだどな」


 自分でも切り替えたつもりだったから指摘されて困ったのだ。


「もう。隠し事をするなんてダメだよ。皆に相談しなきゃ」

「アハハ。ごめん。でも、お爺様には黙っていてくれ。心配をかけたくないからな。あの日、会ってすぐにバレて吃驚した」


「今のは、ソルレイが迂闊だったな。鑑定は助かったが、10台分もあるのか」

 160切れあるとなると、と時計を見て計算を始めたノエルに訂正を入れる。


「ううん、9台だ。子供用の試食をしたいって言った男子に切ったから」

「えー!? 僕も食べたい! 行けなかったもん!」

「調理室組だけ何を勝手なことをしているんだ」


 不満気に言われる。

 ラウルもノエルも食べたいらしい。


「18時になればスペシャルなジュレができあがるよ」

 二人がじっと見る。

「上手くいってればだけどね」

「僕はそっちにする。その代り一番初めに食べさせて! それから、ハチミツのは家で作ってくれる?」

「ふふ、うん! いいよ」

「ならば二番目に甘んじるか」

「アハハ。ラウルに譲ってくれてありがとう」


 1時間きっちりと休み、充電をしたところでラウルと別れノエルと高等科の調理室に向かった。

 とりあえず、残っている物は運び出そうという話になったのだ。



 ローズガーデンは16時できっちりと終わる為、後片付けをしながらドリンクなどを迎賓館に運びこむはずだ。16時になっても迎賓館に入れない人達には帰ってもらわないといけない。


 並んでいる人達に、残っているジュレを無料で振る舞おうという話になったのだ。


 調理室に行くと、女子や男子がお茶を淹れ優雅にジュレを食べていた。ああ、これはいつぞやのクライン先生の時のようになるぞ。


「何をしている。誰が食べていいと言った」



 ノエルに冷ややかに言われピシっと固まった。

「だ、駄目でしたの? 男子にこのジュレは食べてよいと聞きましたの」

 最初に申告したソラは偉いけど、ノエルはご機嫌斜めだった。


「駄目というか、その4人は回る時間を削って働いていたからね。ご褒美的な意味合いで、切って出してあげたんだ。ノエル様に確認するまでそのジュレは扱いが保留だったからね」


 平民のお金を持っていない人達へ試食で配るジュレだと言うと全員が慌ててフォークを置く。


「ふふ。怒ってないよ。ノエル様、食べたかったようです。多目に見てあげてください」


 ノエルは、自分も食べていないのにクラスメイト達が食べているのを見てムッとしただけだろう。


「既に手をつけているようだからな。食べたら冷凍されているレアチーズケーキとジュレを運んで、迎賓館の手伝いに回れ。16時になったら並んでいる人間まででしめ切って、並ばせるな。迎賓館にいる客達には16時で終いだと伝え、出るように促せ。並んでいる者達にも16時で文化祭は終了だと伝えた上で、今から並んでいた者達に限り無料で試食を配ると伝えて、中で食べさせるように。お茶請けようの菓子もクッキーも残っている分は一緒に出すこと。男子はローズガーデンの備品の撤去だ」


 「「「「「「「はい!」」」」」」」

 全員が利口な返事をした。


「ソルレイがわざわざ別にジュレを作っていたというのに仕方のないやつらだ」

 それに女子達が反応をしたので、悪戯心が湧いた。

「ノエル様や弟が喜ぶように作ったから女子は嫌がるかもしれないね」


「まあ、何でしょう?」

 女子達の予想を聞きながら、冷えたお茶に口をつけた。


「虫ですの? さっき冷蔵庫に虫と思われる型抜き後のジュレがありましたの」

「あ。ソラ嬢、ネタバレ禁止だよ」

 もう当たるとは早い。

「まあ! 本当ですの!?」


 ざわっとしたので、ノエルが早く食べて行くようにと言い、優雅なティータイムから早食いのように男子が席を立つ。見た目よりも味重視だな。


「美味しかったです。ごちそうさまでした」

「ソルレイ様。こちらも甘くて美味しかったです」

「ハチミツとベリオットですよね。御馳走様です」


 照れもあり、世辞はいいよと手を振った。

 運ぶ予定のジュレの皿に保冷の蓋をして一つずつ持つと、扉に向かうので開けに行った。

「ありがとう、行ってらしゃーい」


 女子も慌てて、残りを口に運ぶ。

「喉に詰めるよ。ゆっくりでいい」


 ノエルに冷えた茶と紅茶のどちらがいいかを尋ねてから紅茶を淹れ、薄く切ったジュレを添えた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 二杯目は熱いものにしようと自分の分を淹れ、空いた席に腰を下ろした。静かに紅茶を飲んでいると、じっと女子に見られていたので、首を傾げる。


「ノエル様とソルレイ様のツーショットを見られるのもあと少しかと思うと寂しいですわ」

「あれ? アンジェリカ嬢は進学希望だったよね」

「ええ、でも受かるかは分かりませんわ。それに、同じクラスになれそうにもありませんもの」

 なるほど、と頷く。


「それを言うなら俺とソルレイも同じクラスとも限らん」

「それもそうだね」


 当たり前のことを言っただけなのに、彼女達は強い反応を示した。

「そんなのいけませんわ!」

「そうですわよ!」

「なにが?」


 高等科でも愛を貫くように言われ、俺とノエルは遠い目になる。調理台の上で両拳を握りしめていたから大層な話なのかと思ったのに……まだ続いていたのか。


「早く食べて、行け」

「うん。皆、頑張っているから手伝いに行ってあげて」


 女子達が運びやすいようにジュレを木箱に入れ台車に載せてあげる。

 レアチーズは皿で持って行ってもらう。

 変なことを言われて味のしなくなった紅茶を飲み干した。


 もう十分働いたしここで休憩でもしていようかと時計を見る。

 16時になったらここも片づけようかと決め、のんびりと休んで、時間になったので調理室の片づけに入った。


 文化祭当日は18時までに鍵を教務課へ返せばいい。

 冷蔵庫や冷凍庫に何も残っていないか確認してから洗い物をしていく。

 ここは綺麗に片付いた。


 ローズガーデンや迎賓館からも洗った備品が返却されて来るので、数を確認して調理台に片づけていく。

 17時にローズガーデンのテーブルなども全て片づけ終わったと報告が来て、借り受けた備品も教務課へ返却してくれたようだ。


 迎賓館については、もう少しかかるそうだ。

 借りている台数が多いのでレリエルが最後になるかと思ったが、ロゼリアがオーブンを綺麗にするのに手間取っているので、リビア嬢に鍵をお願いすることにした。


 俺は、家から持って来た冷却ポッドの被った大皿を持つ。

 これが皆で打ち上げの時に食べるジュレだ。

 全員にもう一度総点検してもらい、確認後調理室を出て迎賓館に向かった。


 さすがにまだ食べている人はおらず、片づけていたので全員で片づけに入る。

 教員達から貰った茶器と教務課の職員から貰った硝子の取り皿は教室に置いておくことにした。


 後日、返却希望を確認して、許可が出れば売って教務課を通じて、寄付をしようと話した。


 先生に細かく報告書を書いておく。

 迎賓館の備品も全て仕舞い数を確認する。

 デキャンタやピッチャーも割れていないか確認したので大丈夫だ。


 大皿を持って教室に戻ると、クライン先生が待ち構えていた。

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