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バタバタの文化祭 前編

 ラウルを迎えに行くとラウルも俺を迎えに行こうとしていたようで3階の階段の踊り場でばったり会った。


「お兄ちゃん!」

「ラウル!」


 笑顔でお疲れさま! と、カバンを持ったままハイタッチの手出すと、音を立てて手が重なった。


「レモンケーキ、美味しかったよ! クッキーもちゃんとみんなにもあげたからね」

「うん、偉かったね。アーモンドは、ファリスクラスの子に貰ったんだ。スコーンだったんだけど、クレープの方が売れそうだから変更になった」


「ふふ。売れないよって言ってあげたの?」

 ラウルにはバレてしまったようだ。

「2年生でペナルティーは辛いからな」

 お互いのクラスの進捗状況を話しながら階段を下りる。


「僕も来てくれるか心配だよ」

「調理室とローズガーデンを行き来することになりそうだから様子を見に行くよ」

「うん!」


 時間があれば遊びに行くんだけど、どうなるか分からないなと伝える。ラウルもカフェに行く気だったけど、行けないかもしれないと顔を曇らせた。


「ジュレならまた家で作るよ。まずは、ペナルティ回避だ」

「そうだよね! 頑張る!」


 終ったら打ち上げをすることを話すと、行きたい!と言われた。ノエルがいいって言ってくれたら、クラスに迎えに行くと約束をした。


 家に着いてから明日学校でハチミツがいるかもしれないので、ベリオットと養蜂の施設に出向いた。働いている皆にハチミツが欲しいと伝えると笑って大瓶を用意してくれる。


「いつも無茶を言ってごめん」

「いやいや、これくらい構いませんよ。ハニハニシャンプーでしたか? あれは、とてもいいです。ここで働いているからと二月に一辺は無料で貰えて有り難いです」

 孫が喜ぶのだと言う。

「いい匂いだもんね。俺も弟も好きだよ」


 洗い心地がいいと働いている人達の感想を貰う。

 昨春からようやく売り出したもので1瓶で金貨2枚なのだが、美容に煩い女性達には買われているそうだ。


 リンスの方が売れるらしい。

 どうしてだろうと、我が家では皆で首を傾げているのだ。シャンプーを減産するほどの差ではないので当面はこのままだ。


 礼を言って、屋敷まで戻ったが、こっそりカルムスの研究室に行く。確認しておきたいことがあるのだ。


 まだ研究室にいたことにほっとした。

「今いい? 相談事があるんだ」

「ああ、いいぞ。片付けていたところだ。座って少し待っていろ」


 大人しくソファーに座って待つと、カルムスが向かいに座った。目で問われ、ハインツ家のクレバに決闘を申し込まれて、断ったことを話した。


「ハインツ家?」

 聞き覚えのない家のようだ。

 理由を聞かれたので、経緯を話し、下らないので断ったと伝えた。


 お爺様やラウルが心配するといけないので、内緒にしておいて欲しいが、この対応で良かったのかを知りたかったのだ。


 ついでに嫌がらせをされたので、子供用のジュレを買い取らせたと言うと、物はあるか聞くので調理室の冷蔵庫にあると言うと、見てやると言われた。


「?」

「何をされたか知りたいのだろう?」

「うん」

「俺が見てやる」

「分かるの? 売りつけたから商品も渡そうと思っていたから置いてあるんだ」


 フロウクラスの生徒に食べさせたくないけど、仕方がない。子供達が食べて何かあったら嫌だ。

 それに、皆が一生懸命作ったものを簡単に捨てられなかった。


「そんなことはしなくていい。労働代金としたのなら何も問題はない」

「本当?」

「ああ。見てやる代りに、明日はダニエルと行くからいい席に案内してくれ」

「ふふ。分かった。ノエルが担当をする席が一番良い席だよ。頼んでおくね」

「侯爵家が給仕か」

「うん! サービスして!って言っておいた。だって、本当にお客さん来るか心配だよ。ノエルが給仕なら女の子は来るでしょ?」

「ハハハ。大丈夫だぞ」


 残ったら買ってやると言ってくれた。

 皆そう言ってくれる。


 何もされていなければ、金のない平民にも切って出してやれと言われた。こういうところも含めて、カルムスは上級貴族なんだよな。


「カルムお兄ちゃん、ありがとう」

「ああ。頑張れよ」

「うん!」


 カルムスと食堂に行くと珍しい組み合わせに、ラウルが目を瞬いた。

 席に着き、ラウルに明日は早いから先に行くと言うと、分かったと素直に返事をした。

 今夜は緊張するから一緒に寝て欲しいと頼まれたので、いいよと笑った。


 お爺様はのんびり見て回るとしようと言っていた。


 それを聞き、忘れていたことを思い出す。

 ロクスにもミーナにも打ち上げをすることになっているから帰りは小舟で帰るし、明日はゆっくり見て回るように言わないとな。


 明日の朝は、お茶請けの花を摘んで持って行く。

 早目に寝ないと。ラウルの部屋で一緒に眠った。


 朝の目覚めはよく、寝ているラウルにお互い頑張ろうと頬に口づけて身支度を整えた。


 花を摘みに出かけようとすると、玄関で籠いっぱいのローテルの花をミーナに渡された。

 手隙のメイドや執事達が朝から摘みに行ってくれたのか。


「皆、大変だったでしょう。ありがとう」

「これくらいお安い御用ですわ。ソルレイ様、楽しんできてくださいませ」

「今日はてんてこ舞いになりそうだよ。でも頑張って来るよ」

 見送りに、笑って言える余裕がこの時にはあった。




 学校に行き、ハチミツや花を持ち調理室に向かうと既にノエル達、早い組がお茶を作って冷やしてくれていた。

 調理台を4台取っている為、ケトルも8個は使える。


 2年生はお茶を作らないと聞いていたので、その2つも借り受け、誰も来ていない調理台で黙々とお茶を作っていたようだ。


 煮出された野草茶の入ったケトルを、水を張ったボウルにボトンと入れると、皆がそうやればいいのか!と笑いながら行う。


 すぐに湯に変わるが、何回かすれば粗熱が取れるので魔道具の冷凍庫に入れれば早いよと教える。


 俺もチーズケーキ作りに入ると、ノエルがこちらにやってくる。

 ドリンクは今日やると言ったので責任感から早目に来て作っていたが、お茶づくりは飽きたらしい。


 皆も冷やせる目途が立ったとこっちにくる。

 混ぜて分量通り型に入れるだけでいいのだ。

 冷蔵庫に入れる前に皆の作ったチーズケーキの表面をフォークでマーブル模様を描き綺麗に整えた。

 

 次は花を甘めの衣で揚げていく。

 ドーナツのような甘い匂いがして窓を開けてもらった。


「ノエル様。カルムス兄上から鑑定の協力の申し出がありました。悪戯をされたかもしれない子供用のジュレを見てくれるそうです。異常がなければお金を持っていない平民にも試食だと出してやるといいと言われました。お願いしてもよろしいですか?」

 ジュワジュワと低温の油でローテルを揚げながら聞く。

「願ってもないことだ」

 じっと油の中を見ている。


「ありがとうございます。私も思わず、お願いとその場で頼んでしまったのでよかったです。お礼をしたいのですが、我が家では貰ったチケットや買ったチケットは、使用人達に渡してあげなさいと言われました。家族はジュレを食べに来てくれるそうです。家で作ると言ったのですが、寄付になるからと。カルムス兄上も来るので珍しいブルーローズが美しく咲く席に案内を頼めませんか?」

 きつね色に揚がった花は衣がついて一回り大きくなった。

「ああ、構わない。ラインツ様も来るのだろう。どちらも案内は俺がすると他の者にも伝えておく」

「ありがとうございます。揚がりましたけど、熱いですよ。少ししたら、おひとつどうぞ」

「分かった」


 花に甘い衣を纏わせどんどん揚げていく。

 1時間前には、お茶請けに必要だと思われる量は揚げ終った。

 早くから来ている生徒の特権で一つずつ揚げたてを食べる。


「うまい」

「「美味しいです」」

「美味しい。それにかわいいお茶請けですわ」

「ふふ。本当。」

「こんなに綺麗に花の形なのですね」


 他国から来ている寮生の皆と、お茶に合うし美味しいね、と喜ぶ。

 冷えても固い目の衣でザクザクなので油でべっちゃっとしないのがいいところなのだ。


 10分ほどすると1時間前になり、皆が来たので、一斉に動き出す。

 まずは、迎賓館に必要な物を運び出すところからだ。

 冷えたケトルを冷凍庫から取り出し、迎賓館に運んでピッチャーに移し替えだ。


 凍らせたケトルで保冷をしながらピッチャーに移したお茶を冷やすのだ。

 野草茶は黒ケトル、ハーブティーは赤ケトルだ。

 カモミールなどが一切なくなり、ハーブブレンド一本で、もはやハーブ屋なのだろうかと思わなくもない。

 クッキーもハーブのクッキーは1つだけだ。


 お茶の変更は、昨日言われたので、うん、いいよと答えた。

 ジュレも大人用のチョウチョさんだけがハーブジュレだな。


「昨日の午後に作ったジュレも運んでくれる? 型から出して型は返却して欲しい。開始時刻前には迎賓館にジュレを切りに行く」

 はーいと返事が来る。


 レアチーズケーキは型から取り出し、家から持って来たピスタチオを勝手に散らす。


「ソルレイ様。このお菓子も運んで宜しいですか?」

 見られたが、ファビルは頷くだけだった。

「うん、お願い。レアチーズケーキ切り終わったよー! 誰か運んでー!」

「了解です」


 開始まで1時間を切った頃、他のクラスが姿を見せる。

 和やかに挨拶を交わしながら、ジュレの準備だなと蜜漬けの花を用意する。

 そう言えば、ダニーが“見せる用があれば”とか言っていたな。


 ふと、ケトルを冷やしていたボウルが目に入る。

 一つ余分に作ってみるか。


 形の良い小型のボウルを手に嫌がられるかもと使わなかった虫の型を使おうかなと思いつく。


 ゼリーにアイシングをしてリアルにしよう。

 それから四季を表現する。

 デザイン案をこっそり紙に書き、細々と準備をしていると、開いたケトルや、型を持って皆が来てくれた。


「ありがとう。後はやっておくから回って来ていいよ」

「ソルレイ様。まだ早いですよ」

「それに4人はこっちでソルレイ様を手伝うように言われました」

「そうなの? 分かった」

 時計を見ると、開始まで40分あった。


「向うのジュレを切って来るよ」

「お願いします。行ける時に行ってもらった方がいいです。正門で並んでるって聞きました」

「へー今年は盛況なんだね」

 お客さんが多い方がラウルも喜ぶだろう。


「ソルレイ様のお菓子目当てですわよ?」

「え?」

「食べるために並んでいるんです! 走って行って、すぐに戻って来て下さい」

 シュレインに背中をグイグイ押される。痛い、痛い。


「いや、大丈夫、大丈夫! それぞれ400切れはあるから」

「そんな悠長なことを言っていられるのも午前中だけですよ!」

「そうですわ」

「うーん」


 さあ、早くと扉まで追い立てられたが、俺は歩いて迎賓館まで出向きジュレを切った。


 30分を切ると迎賓館からローズガーデンに運び始めたので、俺も一緒に運ぼうとジュレの皿を持つと、ノエルが向かってくる。


「ソルレイ。こちらはいい。戻るんだ」

「何か問題ですか?」

「さっき男子が正門まで見に行きましたの。子供は迎賓館で給仕することが決まりましたわ。人数が多いようですの」

 アンジェリカが言いに来る。

「400個はあるよ」

 さっきも調理室で説明したが、大丈夫だ。


「子供は銀貨1枚、お茶とお茶請けの菓子付。菓子コンクール優勝者の菓子は、こんな値段ではいただけませんもの。正門前の看板を見て並んでいますのよ」

「親子連れで来ています! 子供の分を頼んで分けてもらうようです!」

「あーそうなの? でも。看板にはコンクールのことは何も……えっと、どうしたらいいのかな?」


 少し混乱気味に、ノエルに指示を求める。

「子供用のジュレを作れ。いや大人用もだ。半々だ。出来上がりは昼になるのだろう? 報告に行かせる。4人は、午前中はそちらの人員だ」

「分かりました。出来上がりは13時くらいかと思います」

 

 俺は調理室まで駆け戻った。

 作るのはいいが、余剰にならないだろうな。


「まずいみたいだ。 親子が並んでいるって!」

「ソルレイ様。さっき言いましたわよ? 第二段階までは致しました」

「お茶も作りました」

「そこのボウルに水を張ってケトルごと冷やして、粗熱が取れたらすぐに強冷の冷凍庫へ入れて」

「「「「はい!」」」」


「15分でレアチーズケーキも作ろう!」

「「「はい!」」」


 ビスケットを砕いて、全員でレアチーズケーキ作りだ。

 1巡目の皆が回るギリギリに仕上がった。


 後はこっちでやるから大丈夫だと調理室から押し出した。

 こうしないとみんな回れないからな。


「くすくす。レリエルは仲が宜しいですわね」

「本当ね」

 あちこちで笑われているが、ここにいるのは、皆女子ばかりだからな。


「男5人で頑張ろう!」

「はい!」

 女子達がやってくれていたので第三段階まで仕上げ冷蔵庫だ。

 この固まる時間が惜しい。


「お茶はピッチャーに移して冷蔵庫で冷やした方がいいな。すぐに取りに来る筈だ」

「そうなのですか」


「席数は16だろう? だから2組で1時間なら200個ほどで足るんだよ。だから倍の400あれば足りる。400個も作ったのに、足りなくなるということは、セットの飲料も400以上出るということだ。子供は迎賓館だと言っていた。飲料もまずい。レモネードかもしれないけど、作っておこう」


 その上、お茶が単品で出るかもしれないと聞き、皆がまずいと気づいた。

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