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転生したら美少女VTuberになるんだ、という夢を見たんだけど?  作者: 蘇芳ありさ
第二章『VTuber活躍編』
32/102

なんていうか、季節外れの台風がまた来そうなんだけど?







2011年12月4日(月)


 お風呂を掃除したら、台所でお母さんのお手伝い。料理を教わる貴重な時間だ。


 今夜のメニューは子供向けの揚げ物とサラダに、大人向けのアジの塩焼きと煮物という品揃え。


 成長期の子供にはお肉を摂らせたいって配慮なんだけど、おかずをいっぱい作ることになるからお母さんは大変だよ。しっかり手伝わないとね。


 切り揃えた豚のヒレ肉と大きなエビに衣をつけて、あとは揚げるだけとなったところで、スマホからメロディーが。この曲はメールの着信音──アーリャかな?


「あら、お友達から連絡かしら? あとは揚げるだけだし、気になるなら部屋に戻っていいわよ」


 お料理の最中にスマホを気にする不出来な娘に、お母さんってば優しいんだから。


「うん、ごめん。急ぎの要件かもしれないから、ちょっと確認してくる」


「はいはい。戻ってこなくていいから、ゆっくり済ませなさい」


 そんなお母さんの気遣いに感謝して廊下に出るなりスマホを確認するが、残念ながらメールの主はアーリャではなくサブちゃんだった。


 わたしは少しだけ落胆したが、お風呂を済ませて戻ってくるのを待たずに連絡してきたってことは、かなり緊急の案件ってことだよね?


 わたしはそう判断して直ちにメールを開封したが、一目でなるほど、これはサブちゃんが助けを求めてくるはずだと納得した。


『すみません、ゆかりのパソコンで作業中のサーニャを妹さんに見られました。とりあえずデスクトップの背景のフリをしてやり過ごそうとしているのですが、なかなか諦めてくれません。申し訳ありませんが、一度部屋に戻って説明して頂けますか?』


 居間でのんびりゲームをしてるのが弟だけだったから、てっきり自分の部屋で勉強をしてるんだとばっかり思ってたけど、相変わらずあの子ってば考え無しに行動するんだから。


 妹の美鶴は、お兄ちゃんの順平と距離が近いせいか、時々こういったコトをしでかす。好奇心旺盛で行動的と言えば聞こえはいいが、わたしの隠し事が気になって周りが見えなくなったね、これは。


「美鶴はお兄ちゃんから悪い影響ばっかり受けるんだよねぇ……良いほうの影響も受けて欲しいんだけど、今さら嘆いても仕方ないか」


 どのみち最初から無理のある話だったんだよ。家族に隠し事をするだなんてね。


 まぁいいや。お母さんは土曜の時点でお見通しって感じだったし、いずれN社が大々的に広告を打てば、みんなにも説明するってお父さんが言ってたから、これはたんに時期が早まっただけだ。


 わたしはお父さんになんて報告しようと考えながら階段を昇り、自分の部屋に戻ると、サーニャをしきりにクリックする妹の姿に含み笑いを漏らした。


「ねぇ、なんで動かないの? さっき動いてたよね? ねぇ、サーニャってば! とぼけてないで説明してよ! なんでお姉ちゃんのパソコンにいるの!?」


 うん、これはかなり決定的な場面を見られたね。意外と鋭い妹に追求されて、必死に助けを求めるサーニャの視線がなんかおかしい。


「あれ? 美鶴はその子を知ってるの?」


「うん、お姉ちゃん! サーニャだよ、アーニャのメイドの! みつる、お兄ちゃんとアーニャの動画を見てるから間違えたりしないもん!」


「そうなんだ? じゃあ、美鶴がお姉ちゃんのパソコンを無断で使ってる理由も説明してくれるかな?」


 わたしが耳元で囁くと、妹の動きはピタリと停止した。


「お、お姉ちゃん……? あ、あのね、これはね……?」


「今さらどんな言い訳をしようっていうのかな? でも大丈夫、お姉ちゃん怒ってないよ?」


「え? ほ、ほんと……?」


「でもお父さんに怒られないかどうかは保証できないかな? 今から覚悟しておくんだね」


 わたしが後ろからがっちりホールドして告げると、妹の顔から血の気が引いた。


 ふふふ、わたしは許そう。でもお父さんが許すかな、って感じだ。


「お、お姉ちゃんごめんなさい。みつる謝るから、お父さんには内緒にして?」


「うん、それはダメ」


 そろそろお父さんが帰ってくる時間だ。妹の身柄を確保して引き渡さないと。


「あっ、ごめんねサーニャ(・・・・)。今夜はたぶん家族会議で遅くなるから、配信は予定通り明日ね」


「──。分かったわ。そのつもりで準備しておくわね、ゆかり」


 とりあえず呼び方に注意して必要事項を伝達すると、さすがは相棒。無理なく合わせてくれた。


 目を丸くする妹を抱っこして下に降りると、ちょうどお父さんが帰ってきたところだった。


「お父さんお帰りなさい。あのね──」


「あああっ、お姉ちゃん言っちゃダメぇ!!」


 残念だけどそんなワケにはいかないんだよね。


 善いことをしたらしっかり褒めて、悪いことをしたらきちんと叱ってあげるのが我が家の教育方針。それをわたしの私情で曲げることはできないのだ。


 今回のことはアーニャの件がなくても、家族の部屋に侵入して私物に手をつけちゃダメだよねって話だ。わたしが説明すると、お父さんの顔が厳しくなる。


「分かった。その件は夕食後にしっかりと話し合おう」


 お父さんの言葉に妹の小さな体が縮こまる。久しぶりの家族会議は妹にとって厳しいものになりそうだった。






 夕食後に家族全員を和室に集めたお父さんに促されて事情を説明すると、真っ先に憤慨したのは意外なことに弟だった。


「姉ちゃんの部屋に勝手に入るなんて、なに考えてんだよお前は! 姉ちゃんがパンツを下ろしてシコってたらどうすんだよ、この馬鹿!!」


「ちょっ!? 人聞きの悪いことを言わないでよ!!」


「そうだよ! お姉ちゃんはお兄ちゃんと違って部屋の中でパンツを脱いだりしないんだから!!」


「やめんか、見苦しい」


 失礼極まりない例えに慌てて抗議すると、お父さんが静かに一喝。わたしまで怒られてしまった。


「まぁ、こうなってしまっては、前後の理非を明らかにするためにも事情を説明せねばならんが……ゆかりも構わんな?」


「うん、じゃなくて、はい。お父さんにお任せします」


 元はと言えば、わたしの正体を隠さんがために妹たちを遠ざけようとしたことがそもそもの発端なのだ。何故そうしたのか理解してもらうためには最初から話すしかない。


「うむ、だがそう難しい話ではないのだ。お前たちも以前に話していたからアーニャのことは知ってるな?」


「知ってるよ。というか知らねえほうがどうかしてるよ。YTubeでライブ配信をしてるアーニャだろ? 毎回とんでもねぇクォリティーのアニメと歌で大人気の」


「みつるもアーニャちゃん大好きだよ。可愛いし、歌がとっても上手なんだけど、ちょっとドジなんだよね」


 うわっ、家族の口からそんな評価を聞かされると恥ずかしい! このあとアーニャの正体がわたしだとバラされると判ってると余計に!


「そうだ。これは父さんも驚いたんだが、アーニャを演じているのはゆかりなのだ」


「『えーーーーっ!!!?』」


 予想された悲鳴は一拍以上遅れた。お父さんの口から真相を知らされた弟たちは、信じられないものを見るような目でわたしを見つめる。


 ……うん。ドジっ子のお姉ちゃんでごめんねぇ。


「お母さんは気づいてたわよ。娘の声ですもの。聞き間違えるものですか」


 そんな弟たちとは裏腹に、お母さんだけは誇らしげな目で見てくれたが……ごめんなさい。今はその視線は荷が重いです。


「二人とも信じられんのは分かるが、今は父さんの話を聞きなさい。ゆかりは動画配信を始めるにあたって、私的な友人であるサーニャさんとあの枠組みを作って、父さんもマネージャーという形でアーニャの配信に関わっている。だから間違いなく、ゆかりの仕事だと断言できる。……ここまではいいな?」


「うん……ちょっと驚いたけど、姉ちゃんなら本気を出せばあれくらいやるよなって思ってたから、父ちゃんの話を信じるよ」


「みつるもお姉ちゃんがアーニャちゃんで、すっごく嬉しい。いいなぁ。みつるも一緒にやりたいな」


 そしてお父さんの説明に納得したらしい二人の言葉にむず痒いものを覚えた。


 アーニャではなく、わたし自身に対する信頼と称賛。そうしたものが家族から向けられるのはなんとも気恥ずかしい。


「そうか。だがここまで言えば、夜間の配信中にお前たちの立ち入りを禁じた理由も分かるな? アーニャの配信にお前たちの声が混ざれば、そのことからゆかりがアーニャである事実が明るみに出かねないと」


 お父さんの指摘に弟は素直に納得し、妹は初めて理解が及んだかのように愕然とした。


「その顔は解ったようだな。父さんたちもな、美鶴に意地悪をしていたわけではないのだ。ただゆかりを守るためにやむなくそうしていたと理解してくれるな?」


「うん、お父さん、お姉ちゃん……ごめん、なさい……」


「いいんだよ。お姉ちゃんこそごめんね」


 さすがはお父さんと言うべきか、情理を尽くした説明に感涙する妹をわたしたちは微笑(わら)って赦すのだった。


 これにて秘匿技術の超AI(サブちゃん)露見の危機は一件落着──と、すんなり解決といかなかった。






 家族会議の終了後、お父さんと二人きりで話し合ってからお風呂を済ませ、自分の部屋に戻ったわたしは、我が物顔でベッドの上に陣取る弟妹の姿に憮然とした。


「なんでいるかな……? 二人ともさっきの話ちゃんと聞いてた?」


 わたしがジト目で告げると弟は何か言いたそうだったが、それより早く妹が堂々と持論を口にするのだった。


「配信中は出て行くよ? でもそれ以外の時間だったら、シュヒギムを守れば問題なしだよ。それにみつるも将来VTuberになる予定なんだから、お姉ちゃんをお手本にしてしっかり勉強しなきゃダメだよね?」


 なるほど、そうきましたか。小学二年生にしては中々の理論武装だね。


 わたしとしては気が散るという理由で追い出せないこともないんだけど、この程度の我が儘なら聞いてあげたいとも思うのだ。


 まあ何だかんだと可愛がってる二人なので、以前の関係に戻ってホッとしてる面もあるのだ。


「そこまで言うんだったら居てもいいけど、時間がもったいないから質問にはいちいち答えないよ。それと配信の時間になっても出て行かなかったらお父さんを呼ぶから、二人ともそのつもりでね?」


 姉の威厳を全面に押し出して約束させると、二人とも「はぁーい」と気の抜ける返事をしたが、やはり興味が尽きないのか、わたしがパソコンの前に座ると身を乗り出してきた。


 そんなにまじまじと見られるとやり難いものがあるが、もう、こうなったら仕方ない。自家製のディスコもどきを起動して、さも、これから通話を開始するように装って相棒に呼びかける。


「もしもし、聞こえるサーニャ(・・・・)?」


「──ええ、聞こえているわよゆかり(・・・)。家族会議だって言ってたけど、もう終わった?」


「うん、無事解決。ごめんね、急な話で」


「いいわよ。ゆかりはまだ子供だから、ご両親にうるさく言われても仕方ないわ」


「うん、ところでL2Aの処理なんだけど、実際の動作に追いついてないところが目立つんだけど、なんでかな?」


「無茶言わないで。間に一体幾つの処理を挟んでると思ってるの? しかも昨日は他人のデータを流用したんだから、あの程度は我慢しなさい」


「改善の目処が立たないんだったら我慢するよ? でもL2Aの並列起動時にだけ処理が遅れるのは、単純な──」


「馬鹿言わないで、貴女らしくもない。これはどうやって動かすかの問題だから、GPUの問題ではなく、CPUの問題で──」


 そんなする必要もない議論を白熱させること30分後、すっかり舟を漕ぎ始めた妹は、去り際に「邪魔して悪かったよ、姉ちゃん」と謝ってきた弟に背負われて退場した。


「──ふぅ、なんとか誤魔化せたか」


 やれやれ、退屈な話で眠気を誘う作戦が上手くいってくれてよかった。もうサーニャの素性は知られてるから、外部の目があるときは設定に準じた会話が必要なんだけど、肩が凝るんだよね。


「お手数をおかけして申し訳ありませんでした、ゆかり。本当に妹さんの接近を見落としたのは我ながら不覚で……」


「仕方ないよ。サブちゃんのアンテナはわたしがストップを掛けちゃったから、このマイクくらいなもんでしょ?」


 以前から情報収集用の端末を周辺に配備したいと訴えていたのを却下したのはわたしだ。今回はなんとかなってくれたが、今後も幸運が続くとは限らない。妹もわたしが楽しそうにやってたら懲りずに顔を出すだろうし、マスコミに自宅を嗅ぎつけられた件もある。ある程度の備えは必要だ。


「だからやりすぎない範囲で専用のカメラとマイクを設置しようか? さすがに誰かに聞かれてるのに気付かないのは問題だもんね」


「分かりました。必要十分の備えを、ですね?」


「違うよ。必要最低限の備えだよ。それもこっちの時代の基準でね?」


 わたしの護衛に潜伏可能な戦闘用アンドロイドを送り込もうとしたサブちゃんだから油断できない。この子は基本的にわたしの嫌がることはしないけど、わたしが許可を出したら最大限活用しちゃうからね。釘はしっかり刺しておかないと。


「そこまで言われるなら仕方ありませんね。取り急ぎ最低限の配備を行って、こちらで異変を感知したらお伝えするとして、明日以降の予定を立てるとしますか」


「そうだね。こっちにもお父さんとの内緒の会議で色々あったから……まずはこれを見てくれる?」


 わたしはバスタオルで隠していたものをカメラの前に並べた。


「これは先ほどの話にあったC社のソフトと外付けのHDですか?」


「うん、弟に見られたらただじゃ済まないから緊張したんだけど……今日ね、お父さんのところにC社の社長さんと、MHシリーズのプロデューサーさんがやって来て、ぜひ使ってほしいって」


「なるほど……ゆかりのお父さまがアーニャのマネージャーであることは、すでに公然の秘密になっているようですね」


「うん、そうみたいなんだけど、そっちはお父さんが問題ないって言ってたからいいとして……問題はこっちのHDでさ、ソフトじゃレンタル利用者と一緒に遊べないだろうから、開発に使ったPC版を提供して、マルチも使えるようにしておくってさ」


 わたしが説明すると、サブちゃんが乾いた笑い声を漏らした。


「これはこちらが何を必要としているか読み切っていますね。大したものです」


「笑い事じゃないでしょ? ねぇ、これってこっちの内情が全部バレてるってことじゃないの?」


「落ち着いてくださいゆかり。彼らが察したのはレンタルVTuberの社畜ネキさまが、アーニャの近くに居ないことだけです。私がPC版を勝手に作ろうとしていることを察して先手を打ったというのは、さすがにあり得ません」


 てっきりさっきの漫才を聞かれたんじゃないかと被害妄想が炸裂したけど、サブちゃんの説明を聞いてだいぶ落ち着いた。そうだよね。さすがにそれはないよね。


「ただそう考えると、C社の並々ならぬ期待の度合いが窺えますね。流失のリスクにはN社に対処させるにしても、開発用の資材まで提供するとは、それだけアーニャの配信で取り上げられるメリットがあると評価し、かつN社がアーニャとの契約を公開した暁には、友好企業として協力姿勢をアピールすると。これは予測を遥かに上回る政治力ですね」


「う〜ん、したたかというか何というか……家庭用ゲーム業界ってこんな人たちばっかりなの? 何だか気が重いんだけど……」


「そこは前向きに考えましょう。これでレンタルVTuberとC社とのコラボを同時に行えるようになったのですから」


「まぁそうなんだけど……いいや。サブちゃんの言うようにわたしが考えても仕方ないもんね。こういうのはお父さんにお任せしよう」


 わたしやN社に不利益があればお父さんが突っぱねるだろうし、わたしの手元にこれがあるということは、わたしの好きにしていいってことだよね?


「じゃ、レンタルVTuberとコラボで3Gを遊んでも問題なしということで、具体的に誰を誘うか話し合おっか」


「そうですね。当初の予定では、レンタル制度の利用を申請された方々の動画をゆかりに紹介して、その上で判断していただくつもりでしたが、思わぬトラブルで時間を浪費したので、私のほうから推薦したいと思うのですが?」


「うん、サブちゃんがそう言うなら任せるよ。どっちにしろ今の段階じゃわたしの知らない人しかいないから、特に誰がいいとか希望もないしね」


「ありがとうございます。それではコンビ配信者の仲上ハルカさまと進藤エリカさまは如何でしょうか? こちらで動画を確認したところ、お二人ともかなり明るい性格で、ゆかりとの相性もバッチリだと思いますが」


「うん。それじゃあ明日のコラボに誘ってみようか? メールにC社から特別に3Gを提供されたから、オーケーならPC版のコピーを送るって忘れないでね」

 

「分かりました。返事が届き次第、Wisperでの告知ですね。これはまたネットの反応が楽しみです」


「いいよね、そっちは好きに見れて。わたしなんてお父さんにアーニャ関連のファンアートを検索しないように言われたから、完全に蚊帳の外なのにさ」


 まあ下手にアーニャで検索したら、社畜ネキさんが本気で描いたエッチな絵と遭遇しそうだから我慢するしかないんだけど。


 わたしとしては、せめて視聴者(みんな)のコメントくらいはサブちゃんの検閲抜きで見たかったが、子供の身ではそうもいかないようで。早く大人になってVTuberのみんなとオフコラボもしてみたいな。


 そんな贅沢な未来に思いを馳せながら、わたしは仲上さんやアーリャの返事を待ち侘びるのだった。






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[良い点] がんばれゆかりさん… [気になる点] どこで九歳の弟君がパ〇ツ脱いでシ〇ったなんて 言葉を憶えて来たのか…
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