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ハーフ・ヴァンパイア創国記  作者: 高城@SSK
第三章 王都編
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13 天敵

 王都ゲーケルン。二日目。


 前日に続いて太陽が蒼天(そうてん)に輝いている。


 朝、遅めの時間に目を覚ましたカホカは、宿の支払いを済ませ、外門から街へと入った。


 昼休みの時間帯ということもあってか、通りを歩く人は多い。


「すっごい人だねぇ」


 目抜き通り(メインストリート)を歩きながら、カホカはせわしなく瞳を動かした。


 煮炊(にた)きの芳ばしい香りが鼻孔をくすぐる。


「うー、腹へってきた」


 目抜き通りには様々な店が(のき)を連ねている。


 食料品店も豊富で、パン屋からはじまり、八百屋、肉屋、魚屋、果物屋、香辛料の店など。


 他にも武器や防具を扱う店があり、一般の服屋があり、雑貨屋、本屋、眼鏡屋、文房具店などもあった。カホカには何を扱っているのかさえわからない店も多い。


 形態もさまざまで、工房を持つ店もあれば、商品を取り扱うだけの店もある。


 それぞれの店には看板が(かか)げられ、字が読めない者にもわかるよう、記号化された絵が描かれていた。


 通常の街と大きく違うのは、門をくぐるとすぐに商店街がはじまっていることだった。中堅都市であるリュニオスハートでさえ、商店のほとんどが広場付近に集中している。


『人の数がちがうのう』


 イスラの言葉に『だねぇ』とカホカも同意する。


 とにかく街が大きく、人が多い。人が多ければ物の取引も多い。取引が多ければ動く金も大きい、という具合で市場に金が流れていく。その商いが活発であればあるほど、金の巡りがいい――景気が良い、ということになる。


 カホカは(ひつぎ)を乗せた馬を()きながら通りを歩く。道の幅は広く、対向の馬車ともすれ違うことができ、かつその間を縫うように人が歩いている。街路樹が等間隔に植えられ、旗や花壇の花々が通りに(いろど)りを与えていた。

 

 広場に出る手前で、カホカは大通りを曲がって路地へと入った。路地といっても大型馬車が乗り入れできそうなほどの道幅がある。


「えーっと……」


 地図を片手に目当ての宿を探す。昨夜の情報収集の成果で、カホカはルーシ人たちからおすすめの宿を教えてもらっていた。


 店主はやはりルーシ人だそうで、何かと便宜(べんぎ)を図ってくれそうだ。


 地図を頼りにさらに路地を曲がると、目当ての宿はすぐに見つかった。


『月の(しずく)亭』とある。


「ああ、ここだね」


 カホカが地図と照らし合わせて確認していると、


『うむ、なかなか良い名じゃ』


 イスラは店名が気に入ったらしい。この狼にとって、月と名のつくものは縁起物なのだそうだ。


 カホカが店に入ると、すぐにルーシ人の老夫婦が出てきた。ふたりとも気立てのよさそうな笑顔を浮かべている。


「どもども」


 カホカが挨拶をすると、


「いらっしゃい。カホカ=ツェンさんだね。話は聞いてるよ」


 どうやら昨夜の誰かが、事前に来店する旨を伝えてくれたらしい。


「料金はおいくら?」


 カホカは宿賃を値切ることはせず、言い値で払うと伝えた。すると旦那のほうが、宿賃は無料でいいと言う。


「無理しなくていいよ。金はそれなりに持ってるからさ」


 カホカが軽く言うと、「それはできない」とおだやかに断られてしまった。


「なんでもあなたはマイヨール様の玄孫(やしゃご)さんというじゃないか。あの方の身内からお金を取るわけにはいかないよ」

「ほえ?」


 聞けばイヨ婆はルーシ人にとって、伝説的な存在になっているらしい。


「うーむ……」


 カホカは複雑な表情を浮かべる。身内が()められれば嬉しいに決まっているが、そこまで持ち上げられるとかえって調子が狂う。


 ――まぁ、あんだけ化け物みたいに長生きしてたら、そう思われても仕方ないんだけど。


 とはいえ、それを聞いてしまった以上、カホカとしてはなおさら金を払わないわけにはいかなくなった。


「アタシはアタシ。イヨ婆はイヨ婆」


 カホカが譲らずに申し出ると、妻の老婦人がにっこりと笑い、カホカの頭をなでてくる。


「まっすぐな気質のお方ですね。わかりました。お受けします」


 それでも提示された金額は、昨日の宿賃よりも安い値段だった。


 宿はこの老夫婦のふたりで切り盛りしているらしく、さすがのカホカも年寄りに棺を運ばせるわけにはいかない。


 かといって自分ひとりで運ぶのは骨が折れる。


 ということで、夜まで一階の食堂に置かせてもらうことにした。


 興味本位に棺の(ふた)を開けられては困るが、それを伝えるにあたり、嘘をつくわけにはいかない。


「このなかで友達が寝てるんだよ」


 カホカは正直に話す。


「アタシの友人がド変態でさ、明るいうちは棺の中でしか寝れないんだよ。起きるまで放っておいてもらえると助かるんだけど」


 ド変態かどうかを判断するのはあくまで個人の主観である。嘘をついたことにはならない、はずだ。


 そんなことを考えていると、カホカはまた老婦人から頭を撫でられた。


「大切なお友達をそんなふうに言ってはいけませんよ」

「あ、いあ……」


 すみません、とカホカは素直に謝る。


『借りてきた猫じゃな』


 イスラにからかわれ、カホカは『うっさいな』と返しながらも、


『……だめだ。アタシは、ああいうのには勝てない』


 あたたかい家庭の雰囲気と、幸せそうな表情。そして精一杯、毎日を生きているような、それこそあの老夫婦のような人たちを前にすると、カホカはどういう態度を取ればいいのかわからなくなってしまう。


『天敵じゃな』

『……否定はしないよ』


 そうして部屋を用意されたカホカだったが、ティアが起きるまで待つのも暇なので、すぐに王都見物をすることにした。食事はすべて外で()ると伝えてある。


「せっかく王都に来たからには、有名なところで食べたい」という、ある意味とても失礼な断り方をしたカホカだったが、本心としては、この宿賃ではどう考えてもやっていけないだろうと思ってのことだった。


 店主もそんなカホカの気持ちを察したのか、「ありがとうございます」と深く頭を下げた。

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