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ハーフ・ヴァンパイア創国記  作者: 高城@SSK
第五章 創国編
235/239

15 ダビド=サルーニⅡ

 夜、ダビドの山小屋にて。

 寝台(ベッド)の上でウィノナがぐったりと寝転がっている。連日の畑仕事でかなり疲れているらしい。


「そんなにキツいなら手加減してもらったらどうだ?」


 箱型の長椅子にすわり、ティアは衣服を(つくろ)っていた。この山小屋に寝泊まりする以上、なんらかの作業が課されるのはティアも例外ではない。


「あの男は何も言わない。俺が勝手にはりきっているだけだ」


 枕に顔を押し付けたまま、ウィノナが返事をしてくる。


「なぜ?」


 縫いながらティアが訊くと、「これも経験だな」とウィノナは答えた。


「せっかくやるなら全力でやらないと、時間の無駄だろう?」

「そうだな……」

 

 ティアは目を落としたままちいさく笑う。


 そこへ、夕食の片付けを終えたカホカが二階に上がってきた。


「あー、めんどくさ」


 ボヤきながら別の寝台に座る。口ではなんのかのと言いながら、やりだしたら手抜きをしないのはカホカも同じである。この数日で山小屋のなかはずいぶんと片付けられていた。


「疲れているところ悪いが」と、ティアはカホカに言った。「ウィノナがへたってる。マッサージをしてやってくれ」

「いや、いい」


 ウィノナはすぐに断る。


「カホカは上手いけど痛い」

「なんだとお、やっておいてもらって文句かよ」


 カホカは仏頂面を作り、言った。


「んじゃ、ティアにやってもらえば?」

「私がするのか?」


 カホカはティアから裁縫途中の針と衣服とを受け取る。


「ご指名ってことで」


 わかった、とティアはうなずき、うつぶせになっているウィノナの背に馬乗りになった。


「ティアもできるのか?」


 顔を横にしてウィノナが見上げてくる。やるとなればやる。ティアはにっこりと微笑んだ。


「まかせろ。私はカホカより優しい」


 言って、ウィノナの顎下に両手を回し、つかんだ。そのままウィノナの身体をのけ反らせる。うぐぇ、とウィノナの口から変な声が出た。ティアは笑っている。手を放すと、ウィノナの顔が力なく寝台の上に落ちた。

 

「……ふざけんな、どこが優しいんだ」


 恨みがましい声が聞こえてくる。まぁまぁ、とティアは笑顔のまま、ウィノナの首から腰にかけてを両の親指で()み込んでいく。その度にウィノナが悲鳴をあげてティアを振り落とそうとするも、ティアは両足でウィノナの胴をはさみこんだ。まぁまぁ、とティアは楽しそうに舌なめずりする。


「思い知ったか、セリーズのお坊ちゃんめ」


 カホカはカホカでほくそ笑んでいる。


「懐かしいな」


 ティアはウィノナにマッサージをほどこしてやりながら、言った。


「修行時代を思い出す」


 こうしてカホカと疲れた身体を休めたものである。


「シダは元気にしてるかなー?」


 手早く繕いながらカホカが言った。この時代、女子は裁縫ができて当然だし、ティアもタオとして聖騎士を志してからは、裁縫を学んでいた。騎士が自分の服を自分で直すのは当たり前だった。


「にしても、ダビドってのはかなりデカいね」


 カホカが裁縫途中の服を広げた。上衣である。弟子の男の服のサイズではないから、ダビドのものだろう。ティアとカホカのふたりがすっぽり入れそうだ。


「ダビドは相当の手練れなんだろうな」

 

 ティアが訊くも、ウィノナはすでに抵抗もなく、返事もなかった。どうやら寝たらしい。


「よほど疲れていたんだな」


 ティアはマッサージを続けながらつぶやく。


「アタシたちの知ってる貴族とはちがうよね」

「そうだな」


 ティアは素直に認める。どこの世界の御曹司(おんぞうし)が本気で農作業をするのか。しかも、自分の領地でもなんでもない土地で。


「アルテンシアが、ウィノナほどの男が慕っている人間なら間違いないだろうな」


 言って、ティアは寝台から降りた。


「いーの? アルテンシアを待たして」

「カホカがアルテンシアならどうする?」

「ん?」とカホカはティアを見る。

「いや、なんでもない」


 水浴びしてくる、とティアは部屋を出た。



 ◇


 山小屋のある高地の、森と草地を境するように小川が流れている。

 

 ティアは服を脱いだ。川は浅い。水の中に進んで腰をおろしても、背が半分ほどしか浸らなかった。冷たい雪解けの水を頭からかぶり、満点の星空を見上げる。

 せせらぎに耳を傾けていると、濡れた身体に風があたり、ひんやりと心地よかった。


 視線を落として草地のほうを見る。傾斜をのぼってやや離れた位置に、山小屋から明かりが漏れている。

 そして逆の森側を見た。

 茂みの草花がかすかに揺れている。風ではない、とティアが思った時──


「生娘の匂いがするな」


 ぬっと、その茂みから人影が現れた。


 水のしたたり落ちる髪の、その下から瞳をのぜかせ、ティアは声の主を見やる。


「ダビド=サルーニか」

「そうだ」と男は満面の笑みを浮かべる。


「俺もまだまだ捨てたもんじゃないな。こんな若い娘に名前を知られているとは」


 ティアはじっとダビドを見つめる。


 ──猛獣のような男だな。


 というのがティアのダビドに対する第一印象だった。


 野放図に伸ばした黒茶の髪と、同じ色の瞳。肌は()けて、太い両腕には無数の傷痕(きずあと)がつけられていた。目の光は強く、笑みに屈託はない。狩りで仕留めたのだろう、背中には自分よりも一回り大きな熊を背負っていた。


「世捨て人と聞いていたが、ずいぶん想像とちがうな」


 ティアが言うと、ダビドは一瞬きょとんとした顔を作り、それから声をあげて大笑いした。豪放磊落(ごうほうらいらく)といった言葉がいかにも似合いそうな男である。


「俺が世捨て人か。たしかに言われてみればそうかもしれん。だが、俺は好き好んでここにいるからな」

「それを世捨て人という」


 ティアが裸のまま身体を向けると、ダビドが嬉しそうに口笛を吹いた。


「肝の()わった女だな。こういう女ほど激しくよがるもんだ」

「悪いがお前にくれてやるつもりはない」

「ちがうのか?」

「私はお前の客だ」

「そうか、客か。俺に何の用だ?」

「ダビド=サルーニを仲間にするためにきた」

「仲間ぁ〜?」

「私はティアーナ=フィール。この国を奪うため、お前の力が必要になった」


 ティアが真正面に告げると、ダビドは「ほーお」と目を細める。

 ダビドは背負った熊を岸辺に放ると、ためらいなく川に入った。ザブザブと音を立ててこちらに近づいてくる。


 ティアの前まで来ると、全身をなめるように見回す。それから腕を伸ばしてティアの(あご)を指でつかみ、上向かせる。


「美人だな。俺を楽しませてくれたら考えてやってもいい」

「お前を楽しませればいいんだな」

 

 ティアはダビドの腕を両手でつかみ、関節を取った。全身を返す。ダビドが宙に舞って地に伏す……はずだった。


 ──なに?


 水しぶきを上げ、倒されていたのはティアのほうだった。


「懐かしい技だなぁ、おい」


 ダビドが上から覗き込み、にっかりと笑う。それから片手でティアを持ち上げた。裸のまま、ティアは宙吊りになる。


「ちと場所は悪いが──」

 

 全身から野生の気を発散させ、ダビドはティアの腰に腕を回してつかむ。


「俺にまかせておけ。そのうちどうでもよくなる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! 最近更新が多くて嬉しいです なかなか感想書けないですが毎回じっくり読んでおります! ティアとカホカのやりとりは微笑ましいですね [一言] また一話から読み返…
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