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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-2

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第八十二話 厄日…なのか?

 翌朝、スッキリ目覚めて体が軽い。

 随分と寝たようだ。明り取りの窓の隙間から漏れる日差しが強い。感覚的に朝の8時くらいかな。一人寝は寂しいが、疲れが取れるのは確かだ。


 しかし、その代償として、ごく一部が重くなっている。

 やれやれと思いながら、自己処理で済ませる。

 ふう~…


 自己処理では一時的に性欲が治まっても、ムラムラする気持ちは静まらない。やはり女と交わる充足感がないと心が満たされない。

 もっとも、どんなに娼婦と回数を重ねても、ジリアーヌと交わった時のような幸福感は得られない。やはり、愛が必要なのかね。


 虚しさを覚えながら、今晩は『熟練の薔薇』に行こうと思う。

 ノイティは性欲を押さえてくれたが、やはりその場しのぎにしかならないようだ。本人が目の前にいないと効力は発揮されないらしい。

 娘のいる父親はこんな感じなのかなと思ってしまう。



 さっぱりしたくて、朝風呂を浴びようと部屋を出る。

 この宿『爽やかな風』の良いところは、一日中いつでも風呂に入れることだな。深夜から早朝にかけては、宿泊客だけが利用できるようになっている。


 紹介してくれた組合のカーミュイルには感謝だな。鬱陶しかったフロントマンと守衛が居なくなってせいせいしたしな。


 一階の廊下に下りた時、食い処『春風と共に』の入口に人だかりができているのが見えた。何事かと見に行くと、店内では女将さんと娘の二人が困ったように立ち尽くしていた。朝の営業はしてないようだ。


 二人が並んでいるのを見ると、やはり親子なんだなと思うほど似ている。

 女将さんが俺を見つけると、萎んでいた狸耳がピンと立ち上がった。


「良かったよ、あんたが居てくれて。助けておくれ。」

「何かあったのか?」


 女将さんに店内に導かれ、指差した方を見るとフレィたちが居た。


「早くあっちに行け!コンナード!」

「どきやがれ、コンナード!」

「とっとと居なくなれ、コンナード!」

「どっか行っちまえ、コンナード!」

「ぶっ飛ばすぞ、コンナード!」


 その光景に、俺は膝をついてしまった。

 なんということだ。この連中は昨夜からずっと練習に没頭していたのだ。

 俺が去った時の状態のままになっていて、食いかけの食器に残された料理が乾燥してカピカピになっている。


「なんとかしておくれよ、仲間だろう。昨夜からこの調子で注意しても無視するんだよ。近寄ると、邪魔するなとばかりに剣に手を掛けるから、怖くて何もできないんだよ。」

「凄く迷惑です。」

「そ、そうか、それは大変だな。警備隊には知らせたのか?」

「馴染みの客だからね、そこまではしたくないけど、これ以上は見過ごせないからね。呼ぶしかないと思っていたら、あんたを見つけたんだよ。」

「商売にならないです。」


 女将さんは困ったように訴えるが、娘の方はゴミを見るような眼差しで俺を睨んでいる。この件には俺も関わっているので、仲間だと思われている以上止むを得ないか。

 しかし、若い娘にそんな目で見られると、心を抉られるな。


 まったく、とんでもない修行バカどもだ。フレィはなんとなく理解できるけど、他の連中もそうだったとはな。類は友を呼ぶということか、やれやれ。


 俺はフレィに自分の姿が見えるように近づいて行った。もしそれで切り掛かって来るようなら、《プレッシャー》で動きを止めるしかない。

 一瞬、フレィは剣に手を掛けたが、俺を認識したようだ。不愉快そうな表情が笑顔に変わった。


「やあ、ディケード。訓練の成果を見てくれないか。くっ…」

「ふふ、やったぜ。つっ…」

「俺たちはやったんだ。うぐっ…項の奥が死ぬほど痛いけどよ。」

「頑張ったぜ、今にも吐きそうだけどよ。くう~…」

「項が…項が痛ぇ~~~んだよ~~~」


 全員が苦痛に表情を歪めながらも、誇らしげに笑う。

 見ると、フレィの鉄球は宙にフワフワと浮いているし、他の皆のは浮かないまでもテーブルの上で円を描くように動いている。

 ビックリだ。まさか一晩でここまでできるようになるとは思ってもいなかった。


「凄い!凄いな皆!良くマスターしたな。ここまで来れば、後は《センス》の威力を増していくだけだ。おめでとう!」


 俺は素直に感心して、気がつけば勝手に祝福を言葉にしていた。それだけのことを彼らはやり遂げたのだ。

 彼らはドヤ顔で俺に親指を立てて成果を誇った。


 が、その直後に力尽きてテーブルに突っ伏して気絶した。彼らの顔には満足の笑顔が張りついていた。

 俺は心がジーンと熱くなるのを感じた。


「やれやれ、これでやっと片付けられるね。」

「そうね、直ぐに商売の準備をしないとだわ。」


 俺の感動やフレィたちの努力など関係ないとばかりに、女将さんたちはテーブルの上の食器を片付けていく。

 更に、娘の方は俺を無言で睨みつける。


 そのゴミどもをさっさと片付けて!そう眼差しが語っている。

 なんで俺が!と思うが、ある意味ホブゴブリンよりも強烈な《プレッシャー》がその瞳には込められている。


 逆らう気力を削がれた俺は、フレィたちを宿の裏庭に運び出し、芝生の上に寝せていく。一応、宿のフロントには知らせておくが、後は放置で良いな。


 しかし、困ったな。

 このまま女将さんたちからの印象が悪いままだと、これから食事をするのに何かと厄介だ。出禁を食らってキンキンに冷えたベーエルが飲めなくなるのだけは避けたい。


 俺は女将さんの所へ戻ると、そっと手に大銀貨を握らせた。


「女将さん、今回はあの連中が迷惑をかけて申し訳ない。随分と商売の邪魔をしてしまったようだ。連中にも後で詫びを入れさせる。これはほんの気持ちだけれど、受け取って欲しい。」

「あら、まあまあまあ!」


 女将さんは驚いたリアクションを見せながら、脇に居る娘に大銀貨を見せる。

 娘は一瞬驚いた表情を見せるが、次の瞬間には天使の笑顔を浮かべた。


「まあ、若い時にはいろいろとあるものよね。今後はああいうことがないように気をつけて貰えればね。これからも『春風と共に』を宜しくお願いするわね。」

「朝食も、いつも通り食べに来て下さいね。」


 さっきまでの態度はどこへやら。二人はニコニコと愛想良く接してくれる。

 その態度から、十分以上の損失は補填できたようだ。金の力は偉大だな。大人の世界はいろいろと厄介だが、大概は金でケリがつくので楽といえば楽だ。


 娘は元気を取り戻して、さっそうと銀髪を靡かせながら開店の準備を始める。顔にはいつもの営業スマイルが浮かんでいる。あのゴミを見るような眼差しは、できれば錯覚だったと思いたいものだ。


 やはり、若い娘は遠くから見ているのが一番だな。

 なんにせよ、これで出禁にはならないと思う。この慰謝料は後でフレィたちにきっちりと払わせてやる。




 ☆   ☆   ☆




 風呂に入ってさっぱりした俺は、銀髪の看板娘を遠目に見ながら朝食を取り、宿を引き払った。


 フロントの老紳士が丁寧に見送ってくれるので、俺も素直に感謝を述べ、気持ち良く仕事に向かうことができる。人同士のやり取りはこう在りたいものだ。

 昨日頼んでおいた洗濯物も乾いたので、シャツや下着は着心地が良くて気持ち良い。


 もっとも、頼んだ洗濯物が絞っただけの状態で戻って来るとは思ってもいなかった。さすがに乾燥機はないか。止む無く自分の部屋で干した。皮革製の防具は血糊や汚れが奇麗に拭き取られていたが、雑な仕事のせいか、多少表面が傷になっていた。今後、防具は専門家に任せた方がいいな。



 さて、今日はオーダーメイドの靴が完成しているはずだ。俺はワクワクしながら靴屋『ショシュール』に向かった。

 そこは、防具屋の女主人が紹介してくれた店だ。小さな店だが、腕は確かだと太鼓判を押してくれたので、俺はそこで全力を出せる靴を注文した。


「できてるぞ。」


 俺が店に入って行くと、ベテラン職人の『ジョナーリエ』が迎えてくれた。

 いかにも職人気質のぶっきらぼうな態度だが、やり遂げた満足感が表情に表れている。


 出来上がった靴を見ると、足首までスッポリと包んでくれるハイカットの登山靴に似ている。実際に履いてみると吸い付くようにぴったりと足にフィットする。

 これは凄いな。日本に居た時は靴をオーダーメイドしたことなんてなかったけど、自分専用というのはこんなにも履き心地が良いものなんだな。


 しかも、足首へのホールドが丈夫にできているので、関節への負担は随分と軽減される作りになっている。

 更には、表面の仕上げにイルカに似た魔物の皮膚を加工した素材を使っているので、ツルツルで撥水性に優れているという。


「思いっきり動いてみな。」


 自信満々でジョナーリエが言うので、俺は脚の動きを確認しながら速めていった。


 床を蹴る時に足首を大きく曲げても、靴はピタリと脚にホールドする。しかし、それで動きが制限されることはない。むしろ、関節が守られているように感じる。足首を伸ばしてもそれは同様だ。


 また、動きだけでなく魔物と戦うことを前提にしている為に、防御にも優れている作りをしているという。


 身体が温まって筋肉が解れてきたので、俺は《アクセル》を掛けて全力でダッシュとストップを繰り返し試してみる。床が今にも壊れそうなくらい軋むが、靴は余裕をもって俺のパワーを伝え、止まる時には衝撃を吸収してくれる。

 これなら、森や岩場などの足場の悪い所でも、思い切った動きができる。


「悪くないだろう。」

「いや、最高だよ!まさかこれ程の物ができるとは思ってなかったよ。」


 実際、この世界の技術力ではどうかなと思っていたが、職人による技は時にコンピューター制御の精度を超えた物を作ることができるからな。ジョナーリエが作る靴もベテランの職人技がふんだんに使われていると思う。


 普通は靴一足に金貨3枚も懸けるものじゃないが、そのお陰で普段使えない高級な魔物の素材を使って作れたとジョナーリエは説明する。喋るのが苦手なのかたどたどしく話すが、良い仕事ができたと嬉しそうだ。


 『アーセナァラ』のアルティーザンもそうだが、物作りを生業とする職人は遣り甲斐のある仕事には必要以上に手を加えてより良い物を作ろうとする傾向がある。時には突っ走りすぎて暴走してしまう時もあるが、それも拘り故だ。


 作って貰った方としては実にありがたい。良い物はこちらも気持ちを込めて使いたいと思うからな。

 俺は普段の手入れ用の道具を受け取り、その説明を受けて、靴屋『ショシュール』を後にした。


 気持ちが逸って、街を歩きながら軽くスキップする。

 早く森に行って思いっ切り走ってみたい。全力で駆けて跳んで戦ってみたい。そんな気持ちが溢れ出す。


 実際のところ、未だに本気で脚を使った動きや戦いはしたことがなかったので、それが試せると思うと、身体がウズウズして仕方がなかった。

 こんな気持ちは、子供の頃に野球用のグローブを買って貰った時以来かな。そう思うと、可笑しくて笑みがこぼれた。




 ☆   ☆   ☆




 武器屋『アーセナァラ』に寄って、メンテナンスを終えたハルバードと出来上がった鉄球を受け取った俺は、狩りをするために南門にやって来た。


 靴を手に入れたことで、一通りの装備が揃った訳だ。旅立つ準備ができたともいえる。

 が、一番必要なパートナーが居ないので、完全とは言えない。こればかりは、全く目途が立ってないので困ったもんだ。


 いつものように屋台で弁当や運搬袋を買っていると、男女の請負人に声を掛けられた。


「よう、ホブシャウワーレを倒したディケードだよな。スゲーなぁ。」

「お、おう、ありがとう。」

「俺は『ロースティク』だ。俺たちのパーティ『森の宴』に入らねーか?」

「あたしは『オムジョエ』。ねえ、あたしたちと一緒に楽しくやろうよぉ。」


 突然の勧誘に面食らってしまった。

 男女とも二十代前半のようだが、派手な原色の防具を身に着けている。持っている武器も同様で、男の剣の鞘は金ぴかで光を弾いている。女の《魔法杖》は真っ赤な鳥の羽で華美に飾り付けられている。はっきり言って、下品で悪趣味だ。


 人間性も同様に、ノリと調子の良さだけで生きているような感じの若者だ。後ろには仲間と思われる同様の格好をした連中が三人居て、イキりポーズを取っている。現代日本で言うところのヤンキーみたいなもんかな。


 はあ~…

 思わずため息が出てしまう。

 なまじ名前が売れてしまうと、こういう連中が寄って来るんだよな。鬱陶しい。


 ロースティクという男は銅鉄(あかがね)ランクだけど、他のメンバーは黒鉄(くろがね)ランクだ。もっとも、カードを見るまでもなく実力がないのは《フィールド》の在り方からも見て取れる。

 俺を利用しようとしているのが丸判りだな。


「悪いが、俺はソロで活動してるんだ。仲間は必要ない。」

「なんだよ、ノリ悪りーなぁ。一人なんて寂しーじゃねーかぁ。一緒にワイワイやろーぜ、なぁ。」

「そうよそうよ。楽しまないと、人生損しちゃうよぉ。」


 何が楽しいのか、変なポーズを取りながらしつこく誘ってくる。

 思わず『惨殺の一撃』のケルパトーとジョージョを思い出してしまったけど、彼らほどの実戦経験がないのか、余計に軽薄で薄っぺらく感じてしまう。

 こりゃあ、はっきりと断らないとしつこく付き纏われそうだ。


「断る!もう俺に構わないでくれ!」


 俺は強く言うと、屋台の売り子から弁当を受け取って南門へと向かった。


「なんだよ、ノリ悪ーなぁ!がっかりだぜ。」

「ほんとー、楽しくなーい!」


 彼らは肩を組んで去って行く。

 俺は遠ざかる彼らを確認しながら南門の中へと入って行く。

 幸い、彼らはこれ以上しつこくする気はないようだ。俺のノリの悪さに呆れて諦めたのかもしれない。

 やれやれだ。


 彼らが諦めてくれたのは良かったが、今の一件で周りから随分と注目を集めてしまった。これで余計に俺の顔が広まってしまったような気がする。

 そのせいで、ちょっかいを掛けてくる連中が増えるのかね。そう思うと気が重いな。


 それと同時に、仲良さそうにする彼らが少し羨ましかった。

 女性のパートナーを必要としている俺にも、できるなら俺を理解して寄り添ってくれる相手が居て欲しいと思った。


 はあ〜……


 グリューサーは、このディケードの身体を使って浮名を流してたようだけど、俺にそんな真似は難しそうだ。

 ソープや娼館などの嬢なら、最初から拒絶されないと判っているから、けっこう大胆なこともできるけど、一般の女性となると、恐怖心が先だって身構えてしまうからな。


 それ程、離婚した妻のことや、サラリーマン時代の女性たちの態度が相当なトラウマになってるんだな。ついつい関わらないように行動してしまう。

 まったく、狂ったような性欲が恨めしい。それさえなければ、今すぐにでも冒険に出てみたいって思うのにな。


 やれやれ、せっかく出来上がった靴を試せると思ってテンションが上がってたのに、今のやり取りで気分が萎えてしまったな。

 『春風と共に』でのこともあり、今日は朝から感情の振れ幅が半端ない。

 厄日…なのかねぇ……


 買った靴がなんともなければいいんだけどな。




突然ですが、活動を暫く中止します。

環境の変化によるストレスが一番の原因ですが、体力と時間のなさに消耗してしまいました。

これまで応援してくれた方、コメントをくれた方、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。

また、自分の小説を楽しみにされていた方には、大変申し訳ありません。

執筆意欲は衰えてないので、新しい環境に慣れて余裕ができたら活動を再開します。


  時空震


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いつまでも待ってますまた更新されるのを楽しみに待ってます
めっちゃたのしみにしてるのでそのうちまたよろしくおねがいします
また書くのが楽しめるようになったら再開してくださいね。 楽しみに待ってます。
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