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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-2

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第七十二話 投石

 俺は『連撃の剣』のメンバーと共に森の中で狩りを行った。

 残飯漁りという通称の魔物と戦う、『連撃の剣』のメンバーの確かな実力に感心した。特に、噂以上のフレィの剣の腕には感嘆させられた。


 しかし、剣の腕はともかく、戦い全体で見ると『連撃の剣』の戦い方には不安を覚えるのも確かだ。

 何よりも魔物の発見が遅いのはかなり拙いと思う。


 今回は残飯漁りの動きが特に速くはないので、フレィの剣技によって倒せたけど、明らかに残飯漁りの方がこちらの発見が早かった。

 最初に攻撃を仕掛けてきたのも残飯漁りの方で、もし初見の敵なら、あのジャンプに驚いて攻撃を食らっていたかもしれない。


 これがなんの前触れもなしに、突然襲ってきたホブシャウワーレのような魔物だったら、完全に致命傷を負っていただろう。


 生死を掛けた魔物との戦いでは、敵を先に発見して先制攻撃を仕掛けるのが何よりも重要だ。そうする事で主導権を握って有利に戦える。俺は森をさ迷いながら魔物との戦いで嫌というほど学んできた。


 そういう意味では、《フィールド》による探知がいかに重要かが理解できる。

 フレィは今のパーティの実力では危険地域に入れないと言ってたが、その《フィールド》による探知の差が、そこに表れているのだろう。



 俺たちが話をしている間に、バゲージスは残飯漁りの魔石を回収して、その死体を運搬袋に詰めて荷車に乗せていく。慣れているのか、その作業は素早い。


 本来は血抜きをしてから内臓を取り出すのだが、フレィや他のメンバーによって頭と尻尾を切り落とされたために、放血は殆ど済んでいる。

 できれば内臓をこの場で取り出して処理するのが適切だが、他の魔物が集まって来るので、この時点で袋に詰めていく。


 運搬袋を荷車に積み終わると、荷車の荷台の底に置いてあった板で蓋をして積み荷を覆い隠す。そんな機能があったのかと感心する。

 『森の暴れん坊』と運んだ時には荷物を山にして運んだだけだったからな。


 これは、更に狩りを続ける時に、この場所に荷車を置いておくための処置だそうだ。こうしておけば、他の魔物に死体を襲われ難いという。


 他の請負人に盗まれる懸念はあるが、他のパーティの獲物には手を出さないというのが、請負人同士の暗黙の了解となっている。

 もっとも、それでも盗む奴は後を絶たないので、自分のパーティーの印を貼るのと共に《女神の護符》で鍵を封印するという。


 気休めではあるが、それなりにご利益はあるようだ。女神への冒涜は何より重い罪になるのが、この世界の決まりだ。

 盗みがばれて捕まった者は奴隷にされ、強制労働が課せられるという。


 こういった一連の作業の流れを見ていると、やはり《魔法函(アイテムボックス)》の必要性を感じる。《魔法函》があれば、こういった作業の手間が省けて、盗難の心配もなくなる。また死体の鮮度を保つ上でも、その重要性は増す。


 現代の技術では作る事ができず、過去の遺物を発掘するしかないので、その貴重性は増すばかりだ。簡単に入手できないのが難点だな。



 一休みした後、俺たちは森の奥へと進んだ。

 さっきの会話以降、『連撃の剣』とは考え方の違いが浮き彫りになって、なんとなく若干溝ができたように感じる。


 フレィはともかく、他のメンバーは俺に呆れを感じているようだ。バゲージスも俺とは少し距離を置いている。

 やれやれだ。

 俺は『連撃の剣』にとっては異物だからな。無理に調子を合わせる必要もないだろう。


 サラリーマン時代なら、しょうがなく上司や取引先に調子を合わせていたけど、もうそんなストレスを溜めるような生き方をしたくないしな。自然体で行動して、それで馬が合う者と付き合う事ができれば、それでいいだろう。

 今はフレィたちと行動を共にして、狩りについて少しでも多く学べれば何よりだ。


 フレィたちの狩りの仕方は、取り敢えず森の奥へと入って行って、遭遇した魔物を倒すというものだ。それなりに生息する魔物の種類を把握しているようだが、基本的には行き当たりばったりだ。


 まあ、それが悪いとは思わない。

 それでも魔物とは幾らでも遭遇するみたいだしな。


 フレィによると、魔物の成長は早くて、大型のものでも1年もすれば成体となるようだ。しかも多産なので、幾ら狩っても中々数は減らないという。

 食料や素材の確保には良いだろうが、人類の生存圏を広げるという意味では厄介だな。


 しかし、以前にも思ったけど、なんで魔物が蔓延るような世界になってしまったのか、それは謎だな。ディケードたちの時代には、普通の動物が居るだけの自然豊かな世界だったみたいだけどな。

 まあ、それはいいか。今考えても分からないしな。



 ある程度進むと、ほぼ同時に3か所で魔物の動きを捉えた。

 詳しく探ってみると、2時方向500m程の所と12時方向300m程の所、それから9時方向400m程の所にいる。


 2時方向のは5体いるようだが、1体が大きくて4体は小さい。親子かもしれない。12時方向のは1体だが、かなり大きい。グロゥサングリーに気配が似ている。9時方向に居るのは7体だが、この感じからして残飯漁りのようだ。


 俺はフレィにこの事を知らせてどれを狙うか尋ねたが、意外な事を訊き返された。


「その12時方向とか2時方向というのは、なんなのかな?」

「あっ…」


 うっかりしていた。

 時計の無いこの世界では方向を時間に見立てたりしないので、フレィたちにとっては謎でしかないな。


 俺は自分の向いている方向から2時方向を右斜めと表現し、12時方向を正面、9時方向を左と伝えながら知らせた。


 この世界では東西南北の方位は通用するけど、それは絶対方位となるので、常に北なり南なりの方位を把握してないといけないので表現がややこしくなる。方位磁石が無いと、森の中のように太陽の光が届きにくい所では余計に伝えるのが難しくなるので、不便でしかない。


 距離に関しては1mとほぼ同じ長さを1ナーグと呼ぶので、単位の呼び方を変えるだけで済むので楽だ。

 それでなんとか、フレィたちにはどの方向にどのような魔物がいるのかが伝えられた。


 フレィに方向をどうやって他の者に伝えるのか尋ねると、大雑把に右や左と言いながら指差すと答えられた。これで用が足りると言われたので、俺は言葉に詰まってしまった。この世界には相対方位を示す言葉がないのだろうか。

 軍隊のように大勢で行動する訳ではないので、それで良いのかもしれないが、曖昧過ぎてなんだかなぁと思ってしまう。


 それは兎も角、そんなに離れた場所の魔物が把握できる事にフレィは驚いていた。


「それは本当なのかい!何故、そんな事が判るのかな?」

「お前テキトーこいてんじゃねーぞ!」

「そうだ。何も見えねーじゃねーか。」

「森の樹があるだけで、気配も匂いも何も感じないぞ。」

「そうだそうだ。」


 他の連中は端から信用しようとはしない。

 無理もないか。《フィールド》の存在や概念を知らなければ想像もつかないよな。

 が、若干とはいえ《センス》の能力を持つフレィは興味を持ったらしい。


「もしかして、《センス》の能力に依るものなのかい?」

「《フィールド》と呼ばれる能力だね。この世界ではあらゆる生き物に《フィールド》が自然と備わっていて、常に自分を取り巻いている。その《フィールド》を広げたり束ねたりといった変化を自在にできるようになると、ある程度離れていてもそれに干渉する物が感じられるようになるんだよ。」


「それじゃあ、僕たちにも《フィールド》があって、それをディケードは感じているのかい?」

「そうだね。全員感じているよ。フレィはメンバーの中で特に強いけどね。」

「成程、凄いね!もしかしてディケードが放った《プレッシャー》もその《フィールド》を使った能力なのかい?」

「そうだよ。《プレッシャー》は自分の《フィールド》で相手の《フィールド》を縛りつけるものだ。これは単純に《フィールド》の強度が強い方が勝つね。」


 俺は軽く《プレッシャー》を放って皆の動きを封じ込めた。


「うっ!」

「な、なんだよこれ!」

「体が動かねー!」

「こ、これって強い魔物と戦う時に感じる圧力そのものじゃないか!」

「た、確かにそうだ!」

「ううっ…い、痛いよ~!」


 軽くかけたつもりだけど、バゲージスには厳しすぎたようだ。俺は慌てて《プレッシャー》を解いてバゲージスに謝った。

 バゲージスは半泣きになっているし、他の皆は膝を落として肩で息をしている。


「こ、これは凄いというか、凄すぎるね…請負人組合でゲッシュームが受けていたのがこれなのか…」

「そうだね。」


 ゲッシュームって、あの総合受付のマッチョオヤジの事だよな。名前なんてすっかり忘れていたな。

 でも、あの時ほど強くはしてないんだけどな。やはりあのオッサンは相当の強者だな。


 フレィは立ち上がりながら俺に話しかけようとしてきたけど、その時、強烈な《プレッシャー》が迫って来るのを感じた。


「正面からでかいのが1頭迫ってくる。サングリーのようだ。」

「えっ!?」

「なにっ!」

「本当かよ!」

「何も見えないぞ。」


 『連撃の剣』の連中は目を凝らして前方を見つめるが、何も見えないのでフレィ以外は疑わしそうに俺を見る。

 まだ200m程距離があるからな。視界が樹々に阻まれて見通せない状態だ。


 サングリーは俺の《プレッシャー》に反応して、敵と認識したらしい。

 俺は戦闘態勢に入って鉄球を準備した。幸い、じっくりと《念》を込める時間がある。


「次は俺の番だったな。」

「あ、ああ…」


 フレィたちには、まだ魔物が迫っている実感がないようだ。

 が、少しして葉擦れの音と地響きが伝わってきた。


 俺は投球モーションに入る。鉄球に相手の《フィールドウォール》を打ち破る《センス》を乗せる。

 そして、俺が全力で投球すると同時に樹々の向こうに魔物の姿が現れた。


「サングリーだっ!」

「ま、マジかよっ!?」

「本当に来た!」

「「 おおぉぉっっ! 」」

「うわあぁぁぁっ!!!」


 体長2m程のサングリーが樹々の隙間を縫いながら突進してくる。

 こいつは、俺がホブゴブリンから逃げ出した後に襲ってきた猪もどきだ。もっとも、あの時の奴に比べたら半分程しかないが。


 俺が全力で投げた鉄球は、途中で更に加速しながら針の穴を通すように樹々の隙間をサングリーに向かって飛んで行く。


 《プレッシャー》を纏った鉄球にサングリーは気づき、慌てて回避しようと《スライド》をかけるが、俺の《センス》による操作によって鉄球は軌道を変化させながら向かって行く。


 パッ―――――ン!!! パ―――ン!!  パ――ン!    パーン…


 サングリーの頭蓋骨を砕く破裂音が森に響いて木霊する。

 鉄球はあっさりとサングリーの《フィールドウォール》を打ち破って額にめり込み、頭部を抉りながら後頭部から抜けて、彼方へと飛んで行った。


 あちゃーっ…勢いをつけ過ぎてしまった。これじゃあ、鉄球の回収は無理だ。思ったよりもサングリーの頭蓋骨は脆かったようだ。

 サングリーは死体となって樹々の中を転がり、やがて仰向けになって止まった。俺たちからは、まだ30m以上の距離が残っていた。


「えっと、も、もしかして、倒したのかい?」

「ああ、サングリーは死んだよ。」

「「「「「 ……… 」」」」」


 フレィたちは暫く呆然としながらサングリーを見ていたが、全く動く気配がないので、俺に確認をとった。

 いつものように黒いモヤが現れて消えたから、死んだのは間違いない。


 あれ、そういえば魔物は死ぬと黒いモヤを発するけど、やはりフレィたちには見えていないのだろうか。今まで俺は当然の事として受け入れていたけど、クレイゲートの商隊の護衛たちも見えないと言っていたけど。


「黒いモヤ?何だいそれは…」


 訊いてみると、フレィも他の者も見た事はないと言う。やはり、見えているのは俺だけらしい。どういう事だ?

 《超越者》とかそういった類の人間だけが見えるのだろうか?これも謎だな。

 どうにも俺の身体は未知の部分が多いな。


 俺がそんな事を考えていると、サングリーの死体を見に行ったフレィたちが驚きながら話をしていた。


「これはサングリーというより、グロゥサングリーじゃないか。」

「ああ、先日俺たちが一日掛かりで倒した奴と同じだな……」

「このでかいのを、あの距離で仕留めたのかよ。それも、たった一発で……」

「はは…スゲーっていうか、もう呆れるしかないな……」

「全くだぜ……最初、投石なんて言うから、なんの事か解らなかったけど、これがその正体かよ………」

「僕たちは、こいつが近づいて来る事すら気づかなかったのにね……」

「「「「「「 …………… 」」」」」」


 皆が一斉に俺を見るが、その眼差しは今までのものとは全く違っていた。そこには、多少の羨望が含まれているものの、殆どが畏怖や畏敬といった恐れを抱く感情が籠っていた。


 やれやれこうなってしまうのか…

 人は余りにも違う実力差を示されると、大半が拒絶反応を示すからな。あるいは利用しようと近づいて来るか、だな。


 俺もサラリーマン時代に同じような経験をした事があるのでよく解る。

 元同僚だった男は数か国語を自在に操り、多くの資格を持っていて、一般人の何倍も仕事ができる奴だった。社交的で人当たりも良かったから、あっという間に出世していった。しかし、それでは満足できなかったのか、直ぐに会社を辞めて海外へと行ってしまった。


 そいつとは入社時期に少し話しただけだが、余りにも自分とは次元が違っていて、こいつは別物だと思い、他の人間とは区別して見るようになった。しかも、そいつの話す内容が高度過ぎて着いていけないので、会話すらしなくなった。

 そんな人間も居るんだと、感心しながらも畏敬の念を抱いたものだ。


 こうなるのもしょうがないかと思ったが、フレィだけは瞳を輝かせながら近づいて来た。


「全く、ディケードには恐れ入ったよ。僕よりも強いとは思っていたけど、それはほんの少しだと思っていた。でも、違ったね。君は遥か高みに居たんだね。」

「あ、ああ、そうなのかな……」

「できれば、ディケードには僕たちのパーティに加入して欲しかったけど、これだけ実力差があるんじゃ僕たちは君の足を引っ張るだけだね。残念だけど、それは諦める事にするよ。」

「ん…そうか、そうだね……」


 こうもあっさり引っ込まれると拍子抜けだけど、でも、そうだな、フレィの言う通り、その方がお互いの為だろう。極端な実力差は軋轢が生じるだけだからな。


 クレイゲートの商隊に居た時に、元金鉄ランクのルイッサーやジリアーヌも俺の実力を上に見ていたけど、《センス》の有無はそれ程までに決定的な違いを生じさせてしまうのだろう。


 とはいえ、それは《センス》を扱った狩りに於ける実力差だ。

 もし《センス》を使わずに、単純にフレィと一対一の戦いになったら、俺が勝てるとは思えないけどな。

 長年に渡る研鑽は、身体能力の高さに任せた俺の戦い方を、付け焼刃と感じさせるには十分だ。それほどフレィの剣技は卓越している。



 俺はもっと基本的な戦い方を学んだ方がいいのかもしれない。

 今のまま身体能力に頼っただけの戦い方では、同じ能力を持つ者と戦いになった時、待っているのは敗北だ。

 フレィとの出会いは、それを実感させられたな。




読んでいただき、ありがとうございます。

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