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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-2

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第六十七話 カーミュイル

 請負人組合内部にある女神の掲示板を見ている間に、カーミュイルが居る8番受付に並んでいた最後の者が用を終えたので、俺は受付に向かった。

 他の受付を見ると、まだ結構な人数が列を作って並んでいる。


 1~6番受付は初級クラスと中級クラスの誰もが受付をするので混雑している。7番は指定された銀鉄(しろがね)ランクと銅鉄(あかがね)ランクが使用し、8番は金鉄(こがね)ランクが使用する。俺は黒鉄(くろがね)ランクだが、特例で8番を使用する。


 列に並んでいる者たちは俺を恨めしそうに見るので、申し訳ないと思う。

 以前、その事を受付のカーミュイルに告げたら、俺は直ぐに金鉄ランクまで上がるので気にしなくていいと言われた。


 それよりも、俺が上級クラスの魔鉄(まがね)ランクになるまでに、わたしも上級クラス専属の受付になって2Fに行くので、どっちが速いか競争ですねと言われた。


 成程、1Fは初級と中級クラスの受付で2Fに上級クラスの受付があるのか。

 請負人にランクがあるように、受付嬢にもランクがあるんだな。そういう意味では、カーミュイルは中級クラスのトップを受け持つ受付嬢という事になる。

 まだ二十歳前後なのに凄いな。受付嬢の出世頭なのかもな。


 今後、俺がダンジョンに挑むのなら、上級クラスの請負人になっておく方が良いだろう。上級クラスになって、ようやく〈冒険者〉と名乗れるようだからな。その〈冒険者〉になる事で、ダンジョンへの挑戦は勿論、各都市への移動も簡易な手続きで済むらしい。様々なリスクを避けるためにもその方が良いだろう。


 ちなみに、上級クラスは3つのランクの請負人からなっている。

 下から順に、魔鉄(まがね)ランク、天鉄(あまがね)ランク、神鉄(かんがね)ランクとなっている。

 対応する金属と色が、ミスリル(青)、アダマンタイト(藍)、オリハルコン(紫)になっている。


 アダマンタイトの金属はハルバードの部材として俺も持っているが、ミスリルもあるんだな。多分《魔法杖》等の《聖遺物》の魔法アイテムの材料を指していると思われる。それと、俺の左腕に嵌めている腕輪を《神鉄の腕輪》と言っていたので、オリハルコンで出来ているのかもしれない。


 いずれもファンタジー金属だが、異星人が扱っていた加工金属を指していると思われる。



 俺が受付窓口に顔を出すと、カーミュイルは特上の笑顔で迎えてくれた。


「ようこそ、ディケード様。流石ですね、いきなりホブシャウワーレの退治とは恐れ入りました。」

「たまたま襲い掛かってきた魔物を倒したら、それがホブシャウワーレだったんでね。運が良かったよ。」

「まあ!ほほほ、普通は出遭った時点で運が最悪なんですけどね。頼もしいですわ。」


 そりゃそうか、何人も犠牲者が出てるんだったな。

 それはそうと、カーミュイルの笑顔の破壊力は凄いな。尊敬の念を込めた情熱的な眼差しに、心を鷲掴みにされそうなくらいにドキリとさせられる。


 元々特別な美人だが、その笑顔は更に美しさを際立たせている。それに、キラキラと光りを反射する銀粉をまぶしたウサギの垂れ耳、ロップイヤーが最高のアクセサリーとなっている。


 とはいっても、時折漏れ出る欲望の色が、俺の気分を冷まさせる。

 ホブシャウワーレの退治証明書を見た時のカーミュイルの視線は、ひたすら賞金額と買取価格に注がれていた。


 その内訳は賞金が金貨10枚で、他に魔石と本体の買取価格が手数料と税金を引いて17,467,840ヤンだ。つまり日本円に換算すると、合計で1千7百万円超になる。


「請負人に登録してまだ2日目なのに、もうこんなに稼いだんですね。初めて見ましたわ。間違いなく振り込んでおきますね。」

「ああ、お願いするよ。」


 冷静さを装おうとしているが、所々で抑えきれない興奮が声や指先を震わせている。ここら辺は若さだな。

 金鉄ランク専用なら、これ位の金額は普通に扱っていると思うのだが、パーティではなく一人で総取りなのが問題なのかね。

 それとも、俺が思ってるより金鉄ランクの収入は少ないのかもな。


「それと、今回の活躍でディケード様のランクが昇格して銅鉄(あかがね)ランクとなりました。これはホッシュイー主任の推薦によるものです。おめでとうございます。」

「あ、ああ、ありがとう。こんなに早く昇格だなんて驚きだね。」

「はい、わたしも初めて見ました。それほどホブシャウワーレの退治には組合も苦慮していた訳ですね。」


 カーミュイルも驚いているので、急遽決まったのだろう。

 カーミュイルの後ろに視線を向けると、奥に座るホッシュイー主任が軽く手を振っている。が、その表情は複雑そうだ。


 本当ならまだランクは上げたくないが、そうしないと周りが納得しないといったところか。彼には疑惑を持たれているからな。


 ホブシャウワーレの件が終わったので、俺はさっき見ていた依頼書を差し出した。


「この依頼を受けてみたいんだけど、いいかな。」

「はい、こちらですね。…って、本当にこれを受けるんですか?」

「ダメかな?」

「ダメではありませんけど、ディケード様には物足りないのでは?」

「そんな事はないと思うけどね。ちょっと試してみたい事があってね。」

「試してみたい事ですか…解りました。」


 カーミュイルは少しの間考える素振りを示したが、特に反論する事なく受け入れた。


「それでは、この依頼を『専属依頼』としますか?それとも『兼任依頼』としますか?」

「ん、それはどういう事かな?」


 不慣れな俺に、カーミュイルは丁寧に説明してくれた。


 『専属依頼』とは、俺だけがこの依頼を受ける契約となり、俺以外の者は請け負えなくなるという。

 これによって、俺以外の者がこの依頼内容と同じ成果を得たとしても、報酬を得る事はできない。


 その代わり、俺が期日までに依頼を達成できない等、失敗に終わった場合はペナルティを科される事となる。その契約のペナルティは、銀貨5枚の違約金の支払いとなっている。当然、依頼失敗の記録も残される。


 『兼任依頼』は、俺がこの依頼を受けた場合でも、他の者も請け負う事ができるという。

 なので、早く依頼を達成した者が報酬を得る事になる。後から達成したとしても報酬は得られない。


 これは違約金が発生しないというメリットがあるが、依頼内容を達成しても必ずしも報酬が貰える訳ではないのがデメリットとなる。


 成程、理解した。

 どちらの依頼の受け方をしても一長一短あるが、確実に依頼をこなす自信があるなら専属依頼を受ければいいし、自信がなければ兼任依頼を受けた方が無難という事だな。


 依頼をした者や請負人組合としては、誰が依頼を達成しようと関係ないからな。要は依頼を達成できれば良い訳だ。

 依頼者は要求を適えられ、組合は信用を失わない。それが一番重要だからな。


 俺は兼任依頼として受ける事にした。

 元々報酬に魅力を感じて受けてみようと思った訳じゃないしな。

 試してみようと思った技の検証を行う為に、丁度良いかなと思った程度だ。

 カーミュイルは特に何も言わずに依頼を受領した。


 依頼書には兼任依頼と判が押されて渡された。それと同時に、カードに依頼内容が記録されているので、依頼書を紛失した時には確認するようにと注意を促された。

 これで依頼契約は完了して、手続きを終了した。


 ちなみに、ホブシャウワーレの退治に対しては兼任依頼として貼り出され、早い者勝ちとなっていたらしい。


 初めて請負人として正式に依頼を受けたが、意外と簡単に終わって面白かった。

 サラリーマン時代にも何度も取引先と契約を交わしたものだが、その都度契約書を作成して上司の承認印を幾つも貰い、取引先には契約印を貰いと、いろいろと厄介だったからな。


 そういう意味では、ようやく念願だった個人事業主として、仕事を請け負ったという気分だ。


「ありがとう。初めての依頼契約だ。不履行とならないように努力するよ。」

「ディケード様なら大丈夫ですわ。心配しておりません。」


 ニッコリと安心させるように微笑むカーミュイルは、実に魅力的だ。


「でも、ディケード様は年齢の割に随分と大人びた話し方をされるのですね。」

「ああ、よく言われるよ。癖みたいなものかな。不愉快に思ったらすまないね。」

「そんな事はありません。むしろ頼もしく思いますよ。請負人はどちらかと言うと粗野な方が多いですからね。」


 確かにな。その為にマッチョオヤジが総合受付に居るみたいだしな。また、クレイゲートの商隊にいた請負人は殆どが腕力自慢みたいなのばかりだったしな。

 そういう意味では、俺の好感度は上がったのかね。カーミュイルが意味深な視線を送っている。


 全ての手続きを終えたカーミュイルが、赤銅色になった俺の新しいカードを渡してきた。

 俺がカードを受け取ろうとしたら、カーミュイルの手が触れた。

「あ…」と言いながら手を引っ込めて恥ずかしそうにする。触れた指先をもう片方の手で包みながら、俯いて恥じらいの表情を浮かべる。


 おや、ナンデスカ、その態度は…ま、まさか俺に惚れたとか………?


 な~~~んて、思う訳がない。思わず、あざといと感じてしまった。

 初めて会った時は、途中から肉食系女子を露わにして積極的にアプローチしてきたのに、今回のこのブリっ子な態度は余りにもワザと過ぎるだろう。


 チラチラ俺を見ながら様子を窺っているようだ。

 いろんな形でアプローチしながら俺の好みを探っているのかな。と、オッサンは穿(うが)った見方をしてしまう。


 はは…

 まあ、可愛いとは思うけどね。

 ジョージョのように露骨に肉体(からだ)を使った色仕掛けをしてこない分、気が楽だしな。


 日本に居た時は、若い時にこんな風に女の子からアプローチされる事なんかなかったからな。なんか、甘酸っぱい気分になってしまう。

 実際のところは、俺が稼いでくる男だと知って、気を持たせようとしてるんだろうな。取り敢えず、俺は恋人候補のキープ君といったところかな。


「少し話を伺ってもいいかな?魔石について知りたいのだけど。」

「は、はい、魔石ですか……」


 俺は雰囲気をぶち壊すように事務的に質問をした。

 カーミュイルは一瞬だけ驚いた顔をしたが、直ぐに受付嬢の顔に戻った。


 これだけの美人だからな。自分から何かしらのアクションを仕掛けて、乗ってこない男は居なかったのだろう。

 でも、頭が良いだけに切り替えの早さは大したものだ。


 俺はホブシャウワーレの魔石の買取価格が金貨5枚、約5百万円だった事を告げて、その引き取り先はどういった所なのか訊いてみた。


 税金や手数料を抜きに考えて、単純に40%の売り上げを得ようとするなら、買取所は取引先に金貨7枚で販売する事になる。それだけの金額となると、個人が取引先とは考えにくい。一体、どんな所が買い取って何に使用しているのか興味が湧いたのだ。


「高額な魔石の販売先は、主に3つだと言われていますね。」


 カーミュイルがすらすらと答えてくれる。


 一つは、街のインフラを維持するための《魔道機器》のエネルギー源として、行政が買い取っている。街の水道網を維持したり鉱山などの採掘等に使われる、《魔道機器》と呼ばれるアーキテクチャの燃料となっているという。


 もう一つは研究用だ。レア物の魔石は研究機関が買い取って、分析や様々な実験用に使われているらしい。詳しい内容までは知らないという。

 最後は、貴族や金持ちが趣味として収集しているようだ。自身のコレクションを披露したりマニア同士で交換したりしているらしい。


 成程な、そういった用途に需要があるのか。

 どういう原理なのかは俺には解らないが、魔石は魔法のエネルギー源になっている。収集の趣味は兎も角として、《魔道機器》と呼ばれる異星人が残した大型機械の様なものを動かすために使われたりしてるんだな。


 多分、この組合のシステムを動かすのにも使われているのだろう。

 小さくて安い魔石なんかは、〈魔法士〉が使う《魔法杖》のエネルギー源になってるしな。魔石は日本で言う所の電池やバッテリーと同じような物なのだろう。


 他には、《魔道具》と呼ばれる魔石をエネルギー源にした様々なアイテムがあるようだ。クレイゲートが持っていた《魔法函》も《魔道具》に当たるのだろう。


 しかし、カーミュイルの知識量は凄いな。

 まさか直接業務に関係のない魔石の用途について、これほど明確に説明されるとは思わなかった。本当にこの娘は頭が良くて優秀だ。伊達にこの若さで、このフロアのトップの受付嬢をしている訳ではないようだ。


 俺が感心しながらカーミュイルを見つめていると、ほんの少しドヤ顔をしながら微笑んだ。ついでに、ロップイヤーがピョコンと跳ね上がる。


「!」


 ヤバい、マジでドキリとしてしまった。

 やはりカーミュイルは女王様的な雰囲気が良く似合っていて魅力的だ。


 これで一人の相手を一途に思うようなら、お嫁さんにしたい女性ナンバー1になるんだろうけどな。

 残念ながら、カーミュイルはそういう女性ではないだろう。


 カーミュイルを見ていると、サラリーマン時代の男にモテるOLたちを思い出す。

 彼女たちは入社当時は張り切って仕事に臨むが、若く魅力的なので、当然のように次々といろんな男からアプローチを受ける。ただ居るだけでモテて、なんの苦労もせずに男たちとデートを楽しむ。


 それだけならなんの問題もないが、何人もの男と関わるうちに自然と男を見比べるようになっていく。こっちの男は甘やかしてくれる。あっちの男は贅沢をさせてくれる。そっちの男は様々な遊びを教えてくれる。てな感じだ。


 そのうち、もっと良い男が現れるはず、もっと素敵な男が現れるはずだと思うようになって、簡単に男をとっかえひっかえする我儘で贅沢な女になっていく。


 そうして、男遍歴を重ねているうちに、気が付いたら30歳を過ぎて誰からも相手にされなくなっている。

 その時にはもう遅い。お局OLの完成だ。


 それでも、仕事ができるならまだ救いがあるが、仕事なんかそっちのけで男遊びを重ねていたので、全く使い物にならない。単なる口うるさい年増なので、厄介な事この上ない。


 カーミュイルにはそんな風になって欲しくないと思う。

 ただ、彼女は人一倍上昇志向が強いようなので、そっちの方を目指して欲しいものだ。


「あの…どうされました?」

「いや、仕事ができるステキな女性だなと思ってね。」

「まあ、ありがとうございます。そう言って頂くと嬉しいですわ。」


 勝手な想像を巡らせて見ていた俺に、カーミュイルは怪訝そうにしたが、俺の賛辞の言葉を素直に受け取ってくれた。

 まあ、褒められるのは誰でも嬉しいからな。それで、より一層仕事に精を出してくれればと思う。


 仕事ができる女性が俺の好みだと思ったのか、その後カーミュイルはテキパキと仕事を進めていった。

 本来の仕事内容である組合員の保険制度や積立金制度などについても、俺の質問に対して的確に説明してくれた。


「ご理解いただけましたでしょうか?」

「ありがとう。便利な制度がいろいろある事が解って良かったよ。」

「いえいえ、ディケード様の為ですもの。どうって事ありませんわ。」


 にっこり微笑むカーミュイルは、ひたすら可愛くて美しかった。

 瞳には欲望が見え隠れしていたが。


 ふう…


 カーミュイルとは、あくまで組合員と受付嬢という関係を維持するのが良さそうだ。深く関わると火傷しそうな気がする。

 幸い、彼女は仕事柄多くの金鉄ランクの男性と接する機会があるので、俺だけに拘るという事もないだろう。俺はその他大勢の中の一人で十分だ。


 とはいっても、カーミュイルは美しさに加えて女性的魅力のフェロモンが溢れ出ているからな。見ているだけで、ムラムラしてしまうのがヤバいよな。

 カーミュイル、恐ろしい()……




読んでいただき、ありがとうございます。

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