第三十四話 魔法杖
朝、目が覚めるとライーンが身支度を整えて出ていくところだった。
「あ、ディケード様おはようございます。お暇するところでしたけど、あの、まだいたしますか?」
「へ?」
半分寝ぼけていたが、どうやら俺はまたやってしまったらしい。ここはジリアーヌの馬車の中で、隣にはその持ち主が力尽きた様子で寝ている。
「い、いや、もうしないよ。あ、ありがとう助かったよ…」
「フフ、ディケード様は本当に凄いですね。それでは失礼します。」
頬を染めながらカーテシーに似た挨拶を済ますと、ライーンはそっと馬車を出ていった。
俺は頭を抱えた。
昨夜は良い感じでジリアーヌと盛り上がったが、また途中から我を忘れた猿状態になってしまったらしい。一応、ジリアーヌは普通に寝ているようなのでホッとする。またバーバダーが気を利かせて応援を寄越してくれたんだな。
それにしても、最後に居たのがシーミルではなくライーンでまだ良かった。彼女は18歳を超えているようなので、俺的には一応ギリギリセーフだ。
といっても罪の意識は拭えないが。
ライーンは三人の少女の中では年長で一番常識的だ。
俺が貴族でないと判ってからも同じように接してくれるし、ジリアーヌにもちゃんと体が冷えないように毛布を掛けてある。気立ての良さからも、生まれはそんなに悪くないのだろう。詮索はしないが、彼女にもそれなりの事情があるのだろうな。
なんにせよ、ジリアーヌを壊さなくて良かった。我ながら、この精力には呆れてしまうな。
水場で顔を洗って歯を磨く。
周りを見ても歯ブラシを使っている者はおらず、塩とお茶の葉を混ぜたような粉を指先に付けて直に磨いている。この世界には砂糖を含んだ食品はあまり無いようなので、虫歯予防というよりは口臭予防の意味合いが強いと思われる。
実際、インドでは紀元前500年頃には歯ブラシっぽい物を使っていたようなので、この世界でも貴族や金持ちなんかは使っているのかもしれない。
出来れば歯ブラシを使いたいが、下手に催促して他人が使用していた物を渡されると困るので、街に着いたら探してみようと思う。
周りを見ると、多くの者が出発の準備をしている。
馬の世話係のガルーから馬を受け取って、各自自分の乗る馬車に繋いだりしている。この商館馬車の御者はクレイゲートの小間使いたちが行う。
まだ出発には時間があるはずだが、早めに準備をしているようだ。昨夜のミョンジーの大規模襲撃が影響しているのだろうか?
バーバダーが朝食の準備をしているので、お茶をもらってテーブルに付く。理由を聞いてみると、早めに出発をするとだけ言われているという。
テーブルにドンと朝食の乗った皿を置かれて睨まれてしまった。やはり怒っているな。当然、ジリアーヌやライーンの事だよな。
「済まない。また夢中になってしまったよ。」
「まったく、お前さんには呆れるねぇ。若いから夢中になるのは解るけど、限度ってものがあるだろう。わたしも長いこと娼婦をやっていたけど、こんな絶倫男は見た事がないよ。」
最初に謝ったせいか、バーバダーの態度が幾分軟化した。
「まあ、後2日でジリアーヌの役目も終わりだ。それまでに壊すんじゃないよ。」
「あ、ああ、気をつけるよ…」
そうか、ジリアーヌとの関係も後2日か…
そうだよな、なんかいつの間にかずっと一緒にいるような気になっていたな。
バーバダーが使わない調理器具を片付け始める。
「しかし、お前さんも大変だね。最低でも三人は嫁さんを貰うか、多くの愛人を囲わないと精力を持て余してしまうね。
まあ、稼ぎは問題ないから嫁の成りては幾らでもいるだろうけどね。」
思わず噴飯しそうになった。
「ここって重婚は問題ないのか?」
「なんだい、お前さんの国はダメだったのかい?
金持ちが多くの女を養うのは当然じゃないか。女だってその方が幸せってもんさ。誰も貧乏人になんて嫁ぎたくはないさ。
若い頃の惚れた腫れたなんて一時に気の迷いみたいなもんだからね。」
身も蓋もないな。
でも、俺も歳を重ねた分、納得できる部分は多々あるな。愛だ恋だと騒いだところで、食っていけなければ意味が無いからな。
食っていける上で、相手を裏切らない誠実さがあれば十分だよな。
妻だった女が良い例だ。
浮気相手に入れ込んだあげく、離婚して俺にも浮気相手にも縁を切られて、残りの人生一人で慰謝料の支払いに明け暮れるだけだ。哀れな女の末路だよな。
まあ、またどうにか男をだまくらかして居場所を作るんだろうけどな。
「お前さんはまだ若くてこれからなんだ。色んな女を経験していくといいさ。」
「助言、痛み入るよ。」
「ふん、解っているならいいさね。」
態度が気に入らないのか、生意気なガキだね、という風に不機嫌に鼻を鳴らす。
ようするに、娼婦のジリアーヌに入れ込まないで一般女性を見ろ、いう事だよな。今までなら文句と忠告だけしか口にしなかったのが、まさか俺の心配をしてくれるとは驚きだ。
まあ、実際はジリアーヌの身を案じて、俺に気を向かせないようにしろという警告なんだろうけどな。
それだけ、若造に見える俺の暴走を危惧してるんだろうな。若造は感情と思い込みだけで突っ走ってしまう事がままあるからな。
バーバダーとそんなやり取りをしていると、ジリアーヌが慌てて走ってきた。
「ご、ごめんなさいディケード!わたし、また寝過ごしちゃって…」
「まだ朝食には間に合うから大丈夫だよ。」
「いえ、そういう意味じゃなくて、わたしあなたの世話係なのに、これじゃ…」
「まあ、俺のせいでもあるからな。あまり自分を責めるなよ。」
そう言いながら椅子を引いてやると、ジリアーヌが恐縮しながら小さくなって腰掛ける。
「本当にごめんなさい。」
「いいって、昨夜はあれだけ頑張ったんだから、無理ないって。」
ドン!
バーバダーが俺とジリアーヌの間に割って入って、皿が割れそうな勢いでジリアーヌの朝食を置く。
驚いて二人して飛び上がってしまう。
バーバダーが俺とジリアーヌを交互に睨みつける。
「………」
「………」
「ジリアーヌ、お前は自分の立場をわきまえな。」
「っつ!…分かってるわ…」
バーバダーはそれだけ言うと、場を離れて黙々と片付けを続けた。
気まずいムードが漂う。
やれやれ、警告されたばかりなのにやっちまったな。
世話する者とされる者。立場が逆転したような行動が不味かったな。
俺は何気なく妻や恋人に接するように椅子を引いてしまったし、慌てていたせいでジリアーヌが普通に受け入れたのが不味かった。
間が悪かったが、娼婦の世話係のバーバダーとしてはジリアーヌの言動が目に余ったんだろうな。
ジリアーヌも解ってはいるんだろうけど、一人の男に掛かり切りで世話をするのは、また普段とは勝手が違うのかもな。
確かに、俺もジリアーヌもお互いに入れ込み過ぎだろうとは思うけど、ジリアーヌといると、何ともいえない心地好さがあるんだよな。
難しいもんだ。
会話もなく、黙々と朝食を口に運ぶ。
「よう、ディケード。」
ルイッサーがやってきて、向かいの席に腰掛ける。
ルイッサーの登場で、気まずいムードが緩和した。
「飯食ってるところ悪いな。少しいいか?」
と思ったのだが、ルイッサーの雰囲気も少し重い。
「今日の護衛は特に気を付けてくれ。もしかしたら、盗賊の襲撃があるかもしれない。」
「盗賊?」
「ああ、そうだ。」
ルイッサーの顔に緊張の色が見える。
最初、盗賊と聞いてピンと来なかった。
盗賊って、人を襲って金品や女を強奪する集団の事だよな。そんなものは映画や漫画などのフィクションの世界のものだと思っていたけど。本当にいるのか。
俺のいた日本では強盗とかはあるけど、盗賊は聞かないよな。途上国では、たまにそんな話をニュースで聞いたりもするけどな。
ルイッサーの説明によると、ここ最近の魔物の襲撃の仕方が明らかにおかしいという事だ。
この辺りには居ない魔物が襲ってきたり、普通ではありえない大群の魔物が襲ってきたりと、こっちの戦力を削っていく戦法を取っているように見えるらしい。
幸い、俺が加わった事で戦力の減少がかなり抑えられているらしいが、日程的に今日明日が襲撃の最後の機会らしい。
ルイッサーが声を潜めて話しかける。
「ディケードもこの商隊の最重要貨物が何か知っているだろう。」
「あ、ああ、例のアレだよな。」
そう、飛竜の雛だ。ルイッサーが頷く。
詳しくは言えないが、と前置きしながら、あれはさる大物貴族からの依頼によるものらしい。
もしそれを奪われるような事があれば、クレイゲート商会は取り潰しになり、クレイゲートも斬首されてしまうという。
なので、どんな事があってもそれを守らなければならないと厳命された。
「そんな訳だ。ディケードの働きには期待しているぞ。」
「ああ、解った。全力を尽くすよ。」
去り際にルイッサーが俺の肩に手を置いた。
「最初はお前を敵だと思ったが、今はお前が居てくれて良かったと思ってるぜ。」
ルイッサーの歩き去る後ろ姿を見ながら、じわりと心が熱くなるのを感じた。
どうやら俺の働きは、ルイッサーとクレイゲートの信頼をそれなりに得られたようだ。
まだ完全に信用された訳じゃないだろうが、戦いに於いては頼りにされているようだ。まあ、それで十分だな。
俺自身もこの優れた身体のおかげで、この世界でなんとかやっていけそうだと目処が立ってきた。
しかし盗賊か、どういった連中なんだろうな。
百人規模の護衛がいる馬車隊を襲うなんて、盗賊もかなりの規模なんだろうな。下手をすると、ちょっとした戦争や紛争といった規模になるのかもしれないな。
武器は剣や槍や弓といった物なんだろうけど、大規模魔法を使う者がいるとかなり不味いな。
ジリアーヌの話だと、そういった連中の中には殆ど居た例は無いそうだが。ルイッサーの見立てでは、計画性の高さからみて傭兵経験があるように感じられると言う。
なんにせよ、まともに正面から戦いを仕掛けてくる事は無さそうだ。
人間同士の殺し合いになるんだろうな…
俺に出来るのか?
今まで経験した事の無いザワザワした恐怖がこみ上げてきた。
☆ ☆ ☆
商隊の出発する準備が整って、俺は先頭の護衛馬車に向かう。
ジリアーヌに見送られていると、バーバダーが少女たちを起こしてきて、一緒に見送りをしてくれる。少女たちは一様に不安そうだ。
「気を付けてね。戦いは何が起こるか分からないから。」
「ああ、皆ありがとう。ジリアーヌたちも十分に注意してくれ。」
「いざとなったら、わたしも弓や短剣なら扱えるから。この娘たちは守るわ。」
「「「 ディケード様…… 」」」
「決して無茶はしないようにな。バーバダー、三人を頼む。」
「あいよ。」
挨拶を済ませると、俺は動き出した護衛馬車に飛び乗った。頑張ろうとは思うが、不安が拭えない。
戦争に出兵する時の気持ちってこんな感じなのかと思った。
俺が幼い頃は戦争経験者が周りにいっぱい居た。
ど田舎なのでそれほど被害は無かったようだが、たまに大きな街に行くと戦争被害で傷害を負った者を目にする機会があった。戦争の話もよく聞かされた。
子供心に、ああはなりたくないと思ったものだ。
とにかく戦う者に生産性がないのが戦争だ。
人間同士で殺し合いなど真っ平御免だが、身を護るためには戦うしか無い。それは魔物との戦いで嫌というほど思い知らされた。
護衛馬車には俺の他に《雷魔法》を使う男とその相棒、それに男女二人のパーティがいた。
「ディケードだ、よろしく頼む。」
「『アレイク』だ。」
「『ルシュー』だ。」
「『サミュリ』だ。」「『ノアレイ』よ、飛竜殺しさん。」
〈雷魔法士〉はアレイクという名前だ。〈魔法士〉だからなのか、やはりマントを纏って帽子を被っている。その相棒がルシューで、こちらは槍士のようだ。二人とも二十代後半のガッシリした男だ。
男女のパーティは20歳くらいのカップルで、美女と野獣を絵に描いたような感じだ。男はハンマー、女は短剣使いのようだ。
女がウィンクしてきたので、それを見た男がムスッとして俺を睨んだ。
やれやれだ。
見た感じ、皆それなりの実力者のようで、先駆けとなる最前列を守るために選ばれたのだろう。ノアレイは黒鉄ランクの黒いカードを貼り付けているが、他は銅鉄ランクの赤銅色のカードを貼り付けている。
このメンバー構成は、昨夜不満を述べたベテラン連中と無用なトラブルを避ける為に、俺と一緒にさせないようにルイッサーが気を使ってくれたのかもしれない。
一通り挨拶を終えると、例のごとくルイッサーの部下が焼いているゴブリンの肉片を設置していった。途端に辺りに異臭が漂い、全員が顔をしかめる。鼻が慣れるまでは目を開けているのも辛い。
商隊は山の麓の川沿いの道を進む。
しばらく平坦な道が続くらしい。といっても、舗装されていない道は雨が降ると泥濘んで、日照りが続くと乾いて固まるので凸凹している。
馬車の車輪にサスペンションは無いが、馬車の土台と荷室の間にクッションとなる板バネが設置されているので、多少は揺れを緩和してくれる。
それでも移動している間はなにか作業が出来る程ではなくて、じっと座っている他ないようだ。中々辛いものがある。外で護衛任務をしていた方がマシかも知れない。
さすがにクレイゲートとクレイマートの馬車は特別製で、殆ど揺れを感じないらしいが。
今日の予定としては1日掛けて『女神ジュリの庭』を目指す。
途中3箇所ほど崖沿いの道を通るそうだが、襲撃を受けるならそこが怪しいとの事だ。そのポイントまでにはまだ一刻程あるようなので、俺は〈雷魔法士〉に話を聞いてみる事にした。
俺は銀貨を手に持ってかざす。
「アレイク、ちょっと訊きたい事があるんだが、いいかな?」
「ほう、銀貨とはな。まあ、質問しだいだな。」
普通は銅貨が相場らしいが、銀貨を見て込み入った話だと思ったのか、アレイクは少し身構えて応じる。
「昨夜、《雷魔法》というのを初めて見たんでね、その魔法を使うには何か特別な方法でもあるのかと思ってさ。」
「そういう事か、確かに俺の魔法はレアだからな。よく訊かれるぜ。」
大した理由はないと言いながら、アレイクは話してくれた。
元々は請負人として弓を扱っていたそうだが、武器屋を訪ねた時に妙に惹きつけられる物があり、探してみると《魔法杖》だった。
試しに使ってみたら、《雷魔法》が発生して的を焦がしていた。魔法の素質のある奴は大概が火を発生させるが、彼の場合は雷だった。
一応《火魔法》も使えるらしいが、攻撃に使えるレベルではないという。
それだけだと言うので、本当に大した理由は無かった。
フィーリングだけで《魔法杖》を使っているようだが、他の〈魔法士〉の誰もがそんな感じらしい。ジリアーヌから聞いた話と殆ど同じなので、特に得るものは無かった。
もっとも、話の節々に曖昧にしているような部分があるようなので、肝心な部分を教える気は無いようだ。
無理もないか、自分の手の内を簡単に晒す様な真似はしないだろうしな。
「できれば、魔法を見せてくれないか?」
「銀貨を貰った事だし、どうせ戦いになれば見られるからな。一度だけなら良いぜ。」
奮発した甲斐はあったようだ。戦いの中ではじっくり観察する機会はそうないからな。どこまで理解できるか分からないが、実際に見てみるのが一番だ。ジョージョの時はじっくり見る機会はあったが、まだ魔法について殆ど知らなかったからな。
適当な物がないので、これを的にしようと言って、俺は焼く前のゴブリンの肉片を持って空中に放り投げた。
アレイクは《魔法杖》を構えると、それに向かって《センス》を発した。
すると、《魔法杖》の先端が一瞬だけ輝いて光が弾けた。
それとほぼ同時にゴブリンの肉片が焦げて落ちた。少ししてから嫌な匂いが漂った。
「これで満足したか?」
しかめっ面をしながらアレイクが聞いてきたので、俺もしかめっ面をしながら頷く。本当にゴブリンの肉は焼くと異常なまでに臭い。
「ありがとう、大したもんだな。魔法を使う時、呪文を唱えると思ったがそうでもないんだな。」
「呪文?なんだそれは。掛け声みたいなもんか?」
「そんな話を聞いた事があったんだが、人によって違うのかな。」
「さあ、聞いた事ねえな。」
惚けている訳ではなく、本当に知らないようだ。
アレイクはもう終わりだとして、相棒と共に見張りをしだした。
俺としてはもう少し話を聞きたかったが、アレイクに話をする気はないらしい。金銭分は応えたという事なのだろう。
アレイクとの話が終わると、途端にカップルが文句を言ってきた。
「ちょっと!それでなくても臭いのに、余計に変な臭いを巻き散らかさないでよね!」
「まったくだぜ、魔法を見てみたいなんて、ビギナーかお子ちゃまかよ。」
「ああ、済まない。」
ようやく臭いに鼻が慣れた頃だったので、新たな臭いの追加にムカつくのも無理はないだろう。ここは素直に謝る他ない。
しかし、女が文句を言うと男も相乗りして文句を言ってきたが、その目は笑っている。女が俺に攻撃的になったのを喜んでいるようだ。
やれやれだ。
俺も見張りに着く事にした。
確かに請負人や護衛をやっている者には魔法なんて珍しくも何とも無いだろうからな。
しかし、目の前で実際に見てみると、色んな事が解ったな。
☆ ☆ ☆
昨日のジリアーヌの説明でもある程度解ったが、この世界の魔法は異星人が作った魔法アイテムの《魔法杖》によって作り出されている。
ジョージョの《魔法杖》は《火魔法》を作り出し、アレイクの《魔法杖》は《雷魔法》を作り出している。
要するに、人間である〈魔法士〉が魔法を生み出せる訳ではないという事だ。
魔法を生み出すのはあくまで《魔法杖》であり、魔法に見えるエネルギー体を生成しているという事だ。
では、〈魔法士〉たる人間は何をしているかというと、《魔法杖》に《センス》を送り込んでそのエネルギー体を生成するトリガーになっている。
どれだけの《センス》の量を送り込むかでエネルギー体の生成量が変わり、魔法の威力が変化する。
〈大魔法士〉と呼ばれる魔法使いはその《センス》の量が大きいので、その分大きな魔法を放てるのだろう。
そして、その生みだしたエネルギー体を目標に誘導するのが《フィールド》だ。
さっきアレイクが《雷魔法》を放った時に、ゴブリンの肉片へと繋がる《フィールド》が発生したのが見えた。その《フィールド》に沿って《雷魔法》のエネルギーが放射されて肉片を焦がした。
どうやら、《フィールド》を操る力が魔法の射程と命中率に影響するようだ。
今の攻撃はゴブリンの肉片と小さいだけに、かなり威力を絞ったようで《センス》の量はわずかで、命中させるために《フィールド》に力を入れたのが伺えた。
確か、ミョンジー戦の時はもっと威力があって容易に命中させていたからな。
ある程度の魔法のカラクリが解ってホッとした。
要するに魔法は銃などの飛び道具と一緒だという事だ。
生身で火や水を生み出す訳ではないので、〈魔法士〉も道具が無ければただの人間という訳だ。
これなら〈魔法士〉が敵対した時に戦いようはある。
《魔法杖》さえ奪ってしまえば魔法は使えないし、使われたとしても事前に《フィールド》が発生するので察知できるはずだ。
後は魔法の特性を知っておくべきだな。
ジョージョの放つ《火魔法》は単体で飛んだり分裂したりと厄介だが、大きくないし速度が遅いので避けるのは容易だ。
アレイクの《雷魔法》は殺傷力は低いようだが、ほぼ光の速さで移動するので避けるのは困難だろう。《フィールド》を察知した時により大きな《フィールド》で干渉して軌道を逸らすしかないな。
他の風、水、土の魔法に関しては見てないので何とも言えないが、基本動作は同じだろう。
要は他の武器の剣や弓矢と同様に隙や不意を突かれない事だな。
これである程度の魔法対策はできたと思うが、とてつもなく大きな魔法を放つ〈魔法士〉がいたら対処は難しいだろうな。
ディケードの記憶にある〈魔法士〉(マジシャン)だと、誰もが普通に魔物の群れを一撃で葬り去る魔法を放っていたりするからな。
しかも、使用している《魔法杖》(マジックワンド)は今ある物と殆ど同じ物のようだしな。
ジリアーヌやルイッサーの話では、そんな魔法を放つ〈魔法士〉は殆ど居ないという事だから、変に不安がってもしょうがないしな。
俺は考えるのを止めて視線を前方の道に戻した。
この世界の盗賊がどんなものか、俺には全く想像がつかない。
いろいろと想定しながら考えるのは悪い事ではないと思うが、出来るなら盗賊などとは関わり合いたくないというのが本当のところだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
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