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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第2章 -商隊-

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第二十三話 疑惑

「ディケード、お前さんに商隊を救って貰った事には感謝しているが、あんな所に人間が一人でやって来るなんて有り得ない事だ。何をしていた?」


 クレイゲートの言葉は優し気だが、放つ雰囲気は殺気が込められている。


 確かに今なら俺もそれが理解できる。

 この世界の獣は凶悪すぎる。人間を見ると襲って来るし、いったん戦いを始めると死ぬまで止めない。そんな所を一人で歩き回るのは自殺行為以外のなにものでもない。普通に考えるなら、他に仲間がいると思うだろう。

 クレイゲートは俺が商隊に害をなす存在の一味だと疑っているようだ。


「信じて…貰えないかも…知れないが、俺は気がついたら…一人で山の中で…(オゥス)に襲われていたんだ。」

「何だと…」

「はあっ!?」


 ある程度は正直に話した方が良いだろうと判断した。

 しかし、人格が入れ替わった事や、研究所のような場所の事は伏せておいた方がいいのかも知れない。


「命からがらに…逃げきって、それからずっと…森の中をさ迷って…いたんだ。」

「………」

「そんな事ある訳ねぇだろう!生きていられる訳がねぇ!嘘を付くならもっとマシな嘘にしろ!」


 まあ、普通はそう思うよな。

 とはいえ、このルイッサーという護衛隊長はやたらと喧嘩腰だな。《フィールドウォール》だったか、あの件から俺が気に食わないみたいだ。

 トラ耳の付け耳はいい加減外したほうがいいと思うんだが。

 それに比べてクレイゲートは落ち着いているな。理性的だ。殺気を除けばだが。


(オゥス)に襲われる前はどうしてたんだ?」

「思い出せない。何故そんなところに…居たのか、自分でも不思議で…しょうがない。」

「お前なぁ、いい加減にしろよ!そんな事誰が信じるって…」

「ルイッサー!少し黙っていろ。」

「へ、へい、すみませんボス。」


 ルイッサーは武力がかなりのものみたいだが、性格が直情的すぎるな。

 30代半ばくらいだろうけど、いわゆる脳筋といわれるタイプだな。この手の人間がトップにいないのは僥倖だと思う。


「ディケード、お前さんは飛竜を倒した後の事を覚えているか?」


 クレイゲートは探るような眼差しで俺の目を覗き込んだ後、ジリアーヌに視線を移した。

 視線を受けたジリアーヌは赤くなって顔を逸し、目を閉じて俯いた。

 なんだ?ジリアーヌのあの態度には何か意味があるのか?

 訝しく思いつつも、飛竜を倒した後の事を思い出そうとしてみる。


「いや、思い出せない…何かあったのか?」

「だそうだ、ジリアーヌ。」

「………」


 クレイゲートはにやりと笑いながらジリアーヌを見た。

 ジリアーヌは真っ赤になってプルプル震えている。

 俺が何かしたのか?したんだろうな、周りの態度から察するに…


「ディケード、お前さんはそうやって記憶を失う事がよくあるのか?」

「いや、そんな事は殆どないが…」


 クレイゲートは俺の真意を探るようにじっと見つめる。


「クレイマート、お前はこんな症状があるのを知っているか?」

「ん〜、確かアカデミーで聞いた事がある。人間は強いショックを受けると記憶を失ったりするとか…」

「ほう、そんな事があるのか…そういえば、昔そんな奴が何人か居たな。」


 クレイゲートは何か納得したように頷いている。

 この凶悪な獣が存在する世界なら、襲われてPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったり、ショックで記憶を失ったりする者が居るんだろうな。


 しかし、アカデミーがあり、クレイゲートの息子はそこに通っていたらしい。

 この世界には教育機関があり、一般庶民と思われるクレイマートが履修していたようだ。歳はまだ20代半ばのようだが、インテリっぽい雰囲気を醸し出している。


 会話から、少しずつこの世界の事が解ってくるな。

 って、今はそれどころじゃないか。少しでも俺の疑惑を晴らさないといけない。


「森の中をさ迷っていたらしいが、『魔物』が襲って来なかったか?」

「魔物?獣の事か?色んなのが…次々に襲いかかって来たよ。」

「おいおい、魔物も知らねぇのかよ!とぼけるのも…すみませんボス!」


 黙っていたルイッサーがまた口出ししてきたが、クレイゲートに睨まれて口を噤む。こいつはかなり出しゃばりな性格をしているようだ。それで護衛隊長が務まるのかね。


「そうだ、魔物は凶悪な獣の事だ。これを見る限り、ディケードは『冒険者』をやっていたように思うがな。」


 クレイゲートはテーブルの上に沢山の念動石を広げた。

 それは俺が獣から抜き取って集めていた物だ。


「悪いがディケードの持ち物は一通り調べさせてもらった。」

「うおおっっ!すげぇっマジかよ…」

「これは…」


 ルイッサーとクレイマートが目を見張る。


「これを一人で戦って手に入れたなら、相当なものだぞ。」

「もしそうなら、飛竜を一人で倒したのもなんとなく頷けるぜ…」

「初めて見る物が幾つかある。興味深いね…」


 なんとなく興味が湧いたので集めていたが、思った以上に価値があるようだ。

 しかし、〈冒険者〉ってなんだ?魔物と戦って念動石を集める者の事か?


「これは何の『魔石』かな?」


 息子のクレイマートが訊ねる。

 ふむ。どうやら、この念動石は魔石というらしい。魔物の体内にある石だからか?


「それは確か、猪もどきだったかな。」

「猪もどき?」

「ああ、三角形の鼻が…正面を向いた奴で…真っ直ぐに走って…突っ込んで来る奴だ。」

「『グロゥサングリィ』の事か、『サングリィ』の魔石にしては色が随分と緑がかっているね。これは大物だったかい?」

「ああ、このテントの半分…くらいだったかな。」

「そんなに…」

「おいおい、そんなデカいのが居るわけ…いや、そうでもないのか…」


 ルイッサーはクレイマートにまで睨まれて意気消沈する。

 クレイマートは魔石に詳しいようで、どの魔石がどの魔物の物なのか大体判るようだ。

 ただ、どの魔石も通常のものより大きかったり色が若干違っていたりしたようで、その確認の聞き取りを行った。


「最後になるけど、この魔石は凄いね、初めて見るよ。ただ、割れているのが残念だね。」

「それはサーベルタイガーの物だ。」

「サーベルタイガー?」

「巨大な(ティーゲル)で…こんなに…デカい牙を持った奴だ。割れているのは…項に槍を、突き刺して殺したからだ。」


 俺は手を広げて牙の大きさを示した。危うく50cm位と言いかけて焦った。地球での単位を言ったって通じる訳がないし、変に疑われるだけだ。


「ああ、成程ね、納得したよ。多分、それは『レジョンティーゲル』だね。『ティーゲル』の中でも一番強いとされている幻のものだよ。本当にいたんだね。」

「それが本当なら、割れてなければ金貨30枚はしただろうにな。」


 ピュー〜…

 ルイッサーが驚きながら口笛を吹く。

 こいつはどうにも自己主張がしたいらしい。


 クレイゲートとクレイマートの親子は頷き合っている。二人の中でなにかの合意に達したのだろう。

 クレイゲートが鋭い目つきで俺を見る。


「ディケード、お前さんの主張は理解した。一人でいたという確証は持てないが、森の中をさ迷っていたのは確からしいな。着ていた物や履いていた靴など、他の持ち物もある程度はそれを裏付けていると思える。また、魔物の名前を違う呼び方をしてる事からも、この国の人間では無いようだ。」


 本当に色々と調べたんだな。

 着ていたタスマニアタイガーの毛皮は、返り血を浴びたりして何度も戦った痕があるしな。手作りの靴だって散々森や山を歩き回って磨り減った痕がある。ちょっとした工作で作れるものじゃない。


 それと、タスマニアタイガーは『シッドティーゲル』と呼ぶようだ。

 しかし、《魔法の毛布》については何も言ってこない。特に珍しい物でもないのか?


「どうやらお前さんは『魔物の森』をさ迷っていたようだな。それで生き残ったんだ、大したものだよ。」

「魔物の森?」

「人間がまだ足を踏み入れてない場所の事だ。この世界は魔物で満ちている。人間の活動する場所など高が知れているからな。前人未到の地を魔物の森、魔物の山、魔物の大地などと呼んでいる。」


 そうなのか、俺の推察は正しかったようだ。だからあれだけ歩いて探し回っても人のいる痕跡が無かった訳だ。


「ただ、遥かな大昔に俺たち人間の祖先とされる『半神や英雄』と呼ばれる者たちが居て、魔法で栄えた文明を全世界に隈なく作り上げていたと云われている。」


 なんだ、急に神話みたいな凄い話になったぞ。

 クレイマートもルイッサーも頷きながら聞いている。


「その証拠となるものが、今でも天を支えて聳え立っている『天柱』だ。」

「もしかして、あの黒い柱の事か?」

「そうだ。」

「おいおい、それも忘れちまったのか?」


「他にも《半神や英雄》たちが作り出した様々な魔法の建造物やアイテムが世界中の至るところに《聖遺跡》として埋もれている。

 それらを調査したり発掘するのを生業にしている〈冒険者〉と呼ばれる上位の請負人たちがいる。ディケードはその〈冒険者〉の生き残りなのかも知れないな。」

「ああ、そういう事か、その時に魔物に襲われたのが原因で記憶を失ったって訳か。さすがはボスだ。」

「確かに、〈冒険者〉なら飛び抜けて腕が立つのも納得できるね。」


 クレイゲートが導き出した答えに、ルイッサーは感心しきりだ。クレイマートもしきりに頷いている。

 成程、面白い話が聞けたな。


 何気に、あの黒い柱について聞けたのが一番だが、《半神や英雄》か…成程なぁ。

 すると、俺が目覚めた研究所みたいな所も、魔法の建造物という事になるのか?あの瞬間移動は確かに魔法だと思えるが。


 しかし、クレイゲートは俺の話を元に、森でさ迷った理由を上手く筋立てて推察したな。さっきの、俺が貴族じゃないと判った時の切り返しの話作りも上手だったし、そこら辺はやり手の商人というところか。


 もっとも、周りの者は納得しているようだが、言った本人のクレイゲートは全く納得してないぞ。その証拠に、じっと俺の目を見ながら反応を伺っている。


 サラリーマン時代にも、取引先にこんな食えない親父がいたな。

 一見筋が通っているような話を持ち出して、相手の反応を伺い本音を引き出すやり方だ。


 多分だが、クレイゲートは俺が記憶を失ったとは思ってないのだろうな。そりゃそうか、最初に貴族でもこの国の者でもないとか言っちゃってるものな。

 ちっ、中々に頭の切れる、頭毛の薄いオッサンだ。


 しょうがない。出来ればもっと話を聞いてこの世界の情報を手に入れたかったが、こちらからもカードを切ってみるか。

 クレイゲートとしては、この商隊に俺が害をなす存在じゃないと納得できればいいんだろうからな。


「この際だからはっきり言うが、俺はこの商隊に興味が無いし、飛竜が狙っていた()()にも用はない。」

「ほう…」


 クレイゲートの目つきが険しくなり、底冷えするような眼光を放つ。

 やはりな。クレイゲートが一番危惧しているのは、その積荷を奪われる事なのだろう。


 飛竜と戦おうとして馬車の上に登った時、クレイゲートは何かを怒鳴っていた。

 あの時は解らなかったが、今なら何を言っていたのか解る。

 〈その馬車から離れろ!それに手を出すな!〉

 クレイゲートは慌ててそう怒鳴っていた。

 そして、戦いの後でその馬車に積まれている荷物が、()()()()だと知った。


「ディケード、お前はその積荷の中身を知っているんだな。」


 クレイゲートの殺気が大きく膨れ上がる。

 俺がコクリと頷くと、護衛たちが一斉に武器を構えて俺に向けた。ルイッサーの動きが一番早く、俺の首元に剣先を突き立てようとする。

 が、俺はその剣を指で挟んで動きを封じる。


「な、何だこいつ!剣が動かねぇ!」

「俺は話し合いをしたいんだけどな。」


 ルイッサーを睨みつけて脅しをかける。が、実際は心臓がバクバクして気絶しそうだ。

 確かにルイッサーの動きはそれなりに早かったが、森で戦ってきた獣に比べたらスローモーションのように見えた。それだけ魔物と言われる獣と人間には力の差があるという事だ。


 だからこそ咄嗟にこんな芸当が出来たが、人間に殺されるなんて冗談じゃない。

 さっき、《フィールドウォール》があると攻撃が通らないと言っていたが、剣に対しては確証が無いので、そんな物に頼ってられない。


「お前たち、殺…」「おい、止め…」


 ルイッサーは部下に俺を殺すように命じようとしたが、クレイゲートはそれを止めようとする。

 俺は二人よりも早く《プレッシャー》を放った。


「「「「「 ぐおおっっっ!!! 」」」」」


 全員が金縛り状態になり身動きが取れなくなった。

 護衛たちは次々と泡を吹いて気絶し、倒れていった。最後に残っていたルイッサーもしぶとく抵抗しようとしたが、さらに《プレッシャー》を強めるとようやく気絶した。弱い獣たちが身動きの取れなくなる程度の《プレッシャー》だが、人間だとそれにも耐えられないようだ。


 俺はソファに座り直してクレイゲート親子に顔を向ける。二人とは話を続けたかったので、気絶しないように《プレッシャー》は弱めておいた。


 驚いたのはジリアーヌだ。

 ジリアーヌには普通に《プレッシャー》を掛けたのに、腰を抜かしただけで意識を保っている。本当にただの奴隷で娼婦という訳では無いらしい。


「これで話し合いの続きが出来るな。」

「あ、ああ、そうだな…」


 クレイゲートは度肝を抜かれて、振りまいていた殺気が霧散していた。クレイマートは仕掛け人形のようにコクコクと首を縦に振っている。


 ふう〜…


 まったく、まだ心臓がバクバク鳴ってる。

 向こうが攻撃を仕掛けてきたから対応したけど、本来俺は上司とかに叱られても、ただじっと口先だけで謝りながらやり過ごすだけの小賢しい人間だ。基本的に荒事は向いてないし、成人してからは喧嘩もした事が無い。


 この世界に来てから生き延びるために止むなく獣と戦ってきたけど、出来るなら揉め事を起こさずに済むのが良いと思っている平和主義者だ。

 なので、クレイゲートとは穏便に接したいと思っている。


 クレイゲートは大きく息を吐き出した。クレイマートも俯いて震えている。


「まったく…ここまで実力差があるとは思いもしなかった。完敗だな。」

「いや、別に俺はあなたに戦いを挑もうと思っている訳じゃない。」

「確かにな。ディケードの実力なら有無を言わさずに、私たちを倒して目的を達成できただろう。積荷に用が無いというのも本当なのだろうな。」


 クレイゲートはやれやれという感じで脱力した。組織を率いるボスの顔から商人の顔になっていた。

 結局、力を行使する事になったが、俺が商隊に対して害意が無い事は理解して貰えたようだ。

 もっとも、危険という点では更に要注意人物になってしまったが…

 あ〜あ、俺のキャラじゃ無いんだけどな、こういうのは。


「クレイゲートさん。」


 俺が敬称を付けて話しかけると、クレイゲートは少し驚いた顔をして俺を見た。


「最初に言ったように、俺は貴族でもなければこの国の人間でもない。森の中をさ迷っていたのも事実だ。

 そして、もう帰る場所が無いのも確かだ。」

「成程。嘘は言っていないようだな。」


 クレイゲートはその経験から、相手の目を見ただけで大体の嘘を見抜けるようだ。それはさっきからの俺とのやり取りで十分に理解した。


「出来るなら、俺は過去を捨てて、この国で一から身を起こして行きたいと考えている。」

「ほう、その為にこの商隊の窮地を救ったというのか。」

「結果的にそうなったと言うところかな。俺は単純に孤独に耐えかねていたので、久しぶりに見た人間を失いたく無かったというのが本当のところだ。」

「成程な、飛竜に立ち向かおうと思うほどに、孤独は辛かったか…」


 神妙な顔でクレイゲートは俺を見つめる。

 この状況になって、ようやく俺の話を先入観なしに受け入れている。


 人は守るものがあると強くなれるが、その分思考にバイアスがかかるからな。年を取ると余計に頑なになって人の話や意見を受け入れようとしない。いわゆる頑固老人というやつだ。

 実際に俺もそうなりかけていたからな。


 クレイゲートにとって、飛竜の雛という積荷を守るのは、何をおいても優先するべき重要事項だ。得体の知れない人間は全て、その積荷を奪いに来るという前提で物事を考えていたのだろうな。


「そうか、身寄りも伝手も何もない状態で新しい国で生きて行くには、なんらかの後ろ盾が必要だな。」

「確かにそれがあれば心強いが、そこまででなくても生きて行くためのアドバイス等を貰えるとありがたいと思っている。

 なにせ、この国の事は右も左も全く分からないからな。」


 俺の言葉を受けて、クレイゲートは少しの間考える素振りを見せた。


「それじゃあディケード、少しの間この商隊で護衛をやってみないか?」

「護衛?」

「そうだ。この商隊は『エレベートゥ王国』の王弟都市、『エレベト』の街に向かっているが、まだ3日程の行程が残っている。その間も魔物は襲って来るからな。それを撃退していって欲しい。」

「成程。」

「今回の戦いでかなり戦力ダウンしたからな。それを補う意味でもぜひ働いて欲しい。さっき皆の前でも言ったが、お前さんに仲間になって欲しいと思ったのは本当だ。疑いが晴れれば話を持ち掛けようと思っていたからな。

 まあ、当初の予定とは違う力関係になってしまったがな。」


 クレイゲートは苦い笑みを浮かべた。

 悪い話ではないので、俺は話を受ける事にした。数日間とはいえ、これで衣食住をゲットだ。やっと原始人のさ迷い生活におさらばできる。

 オッサンは更に進化するぜ。




 ☆   ☆   ☆




 クレイゲートとの話し合いの時に俺の能力についても訊かれたので、答えられる範囲で話をした。あの、投げた石を自由に動かす能力だ。


 俺の能力は基本的に《念動力》と《場》の組み合わせで物体を動かしたり相手の動きを止めたりするが、この世界では《念動力》を《センス》、《場》を《フィールド》と言うらしい。


 成程、夢の中で元々のディケードが父親と話をしていた中に出てきた単語だな。そのまま通じるようだ。俺も今後はその単語を使用するとしよう。


 で、貴族の多くはある程度その能力を使えるらしいが、庶民や奴隷などの一般人には使える者が極稀にしか居ないらしい。

 貴族が特別な力を持っているというのはそういう事か。


 一般人であるクレイゲートやクレイマートは当然その能力を使えないので、具体的な力の働きは理解できないようだ。また、その知識を持つ一般人は更に少ないという。


 ただ、〈冒険者〉というのはその能力を使うのが前提となっているので、俺の事を最初は貴族だと思い、違うと解ってからは〈冒険者〉だと思ったらしい。

 そういう意味では、俺が貴族でないというのがまだ完全には払拭出来てないんだろうな。




 そんな訳で、俺はこの商隊の護衛をする事になった。

 護衛代金は俺の能力と実力を鑑みて通常の10倍払ってくれるらしい。太っ腹だな、クレイゲート。働き次第では後ろ盾にもなってくれると言うので、頑張ろうと思う。

 実際、全く知らない世界の人間社会で生きて行くには、後ろ盾がなければまともに生きて行けるかどうかも分からないからな。


 唯一厄介なのは、護衛の仕事をするに当たって、護衛隊長であるルイッサーの指揮下に入る事だ。どうにもアイツには良い印象がないので気が重い。

 まあ、理不尽な命令をしてきたら無視だな。


 アイツは目が覚めてからクレイゲートに散々ド突つかれていたからな。

 ボスであるクレイゲートの命令無しに、俺を殺そうとしたしな。いい気味だ。もしかしたら降格かもな。はっはっはっ…


 それとだ。クレイゲートは世話係兼教育係としてジリアーヌを専属で付けてくれた。ジリアーヌからこの国について教えて貰えという。


 それにだ。それに、ジリアーヌは娼婦でもあるので、夜の世話もしてくれるらしい。マジかよ!スゲーっ!!

 クレイゲートは超ウルトラ最高に太っ腹だ!!!


 まあ、実際の所は俺の監視役なんだろうけどな。それともハニートラップかな?

 なんにせよ、寝首を掻かれないように気をつけないといけないな。ジリアーヌが単なる奴隷でも娼婦でもないのは明らかだからな。


 ふうううぅぅぅ〜〜〜………



 色々と紆余曲折はあったが、ようやく、本当にようやく、俺は人間たちの居る所に辿り着いて受け入れられた。

 やっと、あの孤独地獄から開放されたんだ。


 これから人間関係に揉まれて、辛い目にあったり嫌な思いをしたりするだろうけど、あの絶対的孤独の苦しみを思えば乗り越えていけるだろうさ。




 ☆   ☆   ☆




 リュジニィ…


 出来る事なら、一緒に君を連れて来たかったよ。

 俺は、必ず君を人間の居る所に連れて行くと自分に誓ったのに、それを叶える事が出来なかった。


「………ラウェンジィ………」


 君の最後の言葉。今ならあの言葉の意味が解るよ。


「………ありがとう………」


 俺の方こそ、ラウェンジィだよ。

 君には本当に救われた。

 月並みな事しか言えないけど、俺は君の分もこの世界で生きるよ。

 今度こそ、この誓いを守ってみせるよ。


 リュジニィ…安らかに。




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