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アフター6:【コミカライズ3巻&ウェブトゥーン版連載開始記念】 キノコの奇病



 養成所で若者達の指導を終えた後、汗でベタついたシャツを変えようと騎士団本部の更衣室へ向かっている最中だった。


「グレイウォード様!」


 廊下を歩いている途中、若い女性騎士に声を掛けられた。


「どうしたんだい?」


「騎士団長が探しておりました。時間がある時に執務室へ来てほしいと」


「うん、分かった。着替えたら向かうよ」


 女性騎士は綺麗な騎士礼を見せる。


 彼女にニコリと笑ってから再び歩きだし、シャツを着替えた後にベイルの執務室へ向かう。


「ベイル、呼んでたって聞いたけど」


「ああ、アッシュ。指導後にすまないね。えーっと……」


 執務机には相変わらず山盛りの書類。


 その中から目的の物を探す彼の姿を見ていると、ハンター業の傍ら若者の指導が仕事となっている自分は恵まれていると思えてしまう。


 騎士団長ってのは前線で『最強』を示す存在だと勝手に思い込んでいたが、実のところ書類仕事の方が圧倒的に多い。


 オラーノ侯爵も「忍耐力が養える」なんて言っていたこともあるが……。


 俺なら三日で投げ出しているだろうな。


「ああ、あった。あった」


 ベイルは『北部国境警備隊 報告書』と書かれたファイルを手渡してくる。


「国境警備隊? 聖王国関連か?」


「うん。ちょっと中身を見てくれる? 三ページ目だ」


 報告書の作成者は北部国境警備隊司令官となったアフレート殿。


 それを確認しつつも、言われた通りに三ページ目に目を通す。


 そこに書かれていたのは――


「……キノコ?」


「そう。キノコ」


 報告書の内容はこうだ。


 最近、聖王国との国境付近で不審な死体が発見されたという。


 死体にはキノコが生えており、どれも聖王国人――国境付近の村に住んでいると思われる人達だと推測される。


「聖王国人の死体ってところは一旦置いといて。死体の方は身に覚えがないかい?」


「……第四ダンジョンか?」


 俺達が第四ダンジョンを攻略中、中で見つけたのは骨からキノコが生えた死体だ。


 それだけじゃなく、ダンジョンの地下にはキノコの楽園もあった。


「次のページに検死官が描いたスケッチがある」


 ページを捲ってみると、そこには死体の肌から無数のキノコが生えているスケッチが描かれていた。


「第四ダンジョンのキノコと関連していると思う?」


「……どうだろう。あの時に見つけたのは白骨化した死体だったからな」


 骨からキノコが生えているというのも異常だが、肉体からキノコが生えるのも異常である。


 しかし、人の体にキノコが生えているという事実は共通しているわけで。


「アルフレート殿からの助言を求められていてね。明日、北部国境警備隊へ向かえないかい?」


「分かった。現地で確認してくるよ」



 ◇ ◇



 翌日、俺は列車に乗って王国北部を目指した。


 北部の終点で一泊し、そこから騎士団の馬で北部国境警備隊の要塞まで移動。


「アルフレート殿!」


「アッシュ殿! 久しぶりです!」


 久しぶりの再会に熱い握手を交わすと、俺達は早速『キノコ』について話し合うことに。


「死体が発見された場所は要塞から東に数十キロの地点。第四ダンジョンの傍に聳える山の横と言いましょうか」


 地図を広げて発見現場を確認すると、確かに第四ダンジョンから近い位置だ。


「現地には小さな小川が流れておりまして、死体は小川の傍に倒れておりました」


 現地に流れる小川は国境線の目印にもなっているのだが、発見された死体はローズベル王国側へ向かって倒れていたという。


「最初の死体は頭からキノコが生えていました」


「頭から……」


 何とも奇妙な死体だ。


 アルフレート殿だけじゃなく、北部警備隊が騒ぐのも納得の死に様である。


「最初の死体から一週間毎に死体が発見されまして、先日で四体目です」


「どれも国境付近で?」


「ええ。どれも水の上か、こちら側の岸に倒れていますね」


 これは聖王国の仕業なのか? ローズベル王国に対して何かしらの策を講じているのか?


「一応、死体はすぐに焼却処理しましたが……」


 現在、警備隊や検死を行った軍医などに特別な症状は出ていない。


 伝染病の類ではない、と軍医も判断を下したという。


「第四ダンジョン内でも似たような死体を見たことはありますが……」


「ううむ……。ダンジョン内の魔物が氾濫した、ってことも無さそうですよね」


 アルフレート殿は腕を組みながら唸る。


「はい。現在の第四ダンジョンは騎士団管理下で閉鎖中ですからね」


 閉鎖の理由はダンジョン内に魔物が発生しないからである。


 俺達が調査した際に狩った分に加え、その後に騎士団が追加調査した際に討伐したことで魔物の姿はほとんど見なくなってしまった。


 そのため、ハンターがダンジョン内で活動する理由もなく。


 王国上層部は騎士団による管理の元、ダンジョンを閉鎖しながら定期的な監視を決定。


「となると、聖王国特有の病気でしょうか?」


 魔物の仕業ではないとしたら、自然的に発生した病気?


「……頭からキノコが生える病気ですか?」


 お互い顔を見合わせてしまう。


 体からキノコが生える病気がいきなり発生するのも不思議……というか、意味不明だ。


「現地へ行ってみましょうか。何か分かるかもしれません」


「ええ」


 翌日、俺はアルフレート殿と数名の騎士と共に現地へ。


 小川に到着すると、まず最初に惹かれるのは国境の向こう側――聖王国側にある森だろうか?


 こちら側に関しては特に何もなく、地面も荒い砂と土が敷かれているだけ。


 更に言えば、こちら側には近くに人の住む場所がない。


 アルフレード殿は奇病をローズベル側に持ち込み、王国内部に病を蔓延させるという懸念を特に気にしていたが……。


 近隣に住む人がいないどころか、小川を渡った時点で倒れ込んでしまっては意味が無いのではないだろうか?


「この小川を汚染するって線もあり得ますかね?」


「……無くはないと思いますが、数体の死体で汚染できるのでしょうか?」


 正直、現場に来たものの答えは得られない。


 これは学者さん案件じゃないだろうか?


 王都の研究所に報告して、数名の学者を派遣させた方が――と、考えている時だった。


 森の奥から草を踏む足音が聞こえた気がした。


「…………」


 俺はすぐに手を上げ、静かにとジェスチャー。


 小川のせせらぎが聞こえる中に足音が混じって聞こえる。


 しかも、こちらへ近付いて来る。


 しばらく待っていると、森の中から現れたのは――人とキノコだ。


「え……」


 森の中から姿を見せたのは、頭にキノコを生やした老人。


「ア、アァ……」


 老人は白目で口から泡を吐いており、ヨタヨタとおぼつかない足取りでこちらへ向かって来る。


 その傍らにいるのは、赤と白のマーブル模様の傘を持つキノコの魔物。


「だ、第四ダンジョンの魔物!?」


 そう、紛れもなく第四ダンジョン内にいたキノコ。


『ムー!?』


 俺がキノコを指差すと、向こうは「え!? ボクですか!?」みたいなリアクションを見せてくる。


「ま、魔物!? 魔物の仕業なんですか!?」


「と、討伐しないと!」


 アルフレート殿と騎士達が慌てて剣を抜く。


 すると、キノコの魔物は再び「ムー、ムー!」と騒ぎだして。


「ムー!!」


 短く太い手を掲げると、手の先にはキノコが生えた。 


「ムムーッ!」


「アヒャッ!?」


 そして、そのキノコを老人の頭にぶっ刺したのである。


 キノコが刺さった老人の体は激しく痙攣を始め、次第に体の動きは糸で操られた人形のような挙動を見せると――


「アヒヒヒッ!!」


 バタバタと気色の悪い動きで俺達へと迫って来たのだ!


「うおわああっ!?」


 反射的に剣を抜き、老人の頭部を斬り飛ばす。


 跳ね飛ばした頭部が宙を舞っている間に体は地面へ倒れ、舞っていた頭部はアルフレート殿の傍に落ちた。


「キノコ、お前の仕業か」


 剣先をキノコに向けて問う。


「ムー!」


 すると、キノコはその場でバタバタと暴れ出し、森の方向へと体を向ける。


「ムーッ!」


 最後に俺達へ「アバヨ!」と言わんばかりに手を挙げて、バタバタと森の中へと逃げて行ってしまった。


「追いますか!?」


 剣を鞘に収めながらアルフレート殿に問うと、彼は「いえ!」と俺を強く制止した。


「森に入れば国境を越えたことになってしまいます。今、聖王国に隙を与えるのは避けたい」


 森の中に進入し、そこで聖王国の住民に見つかりでもすれば即座に聖王国側へ通報されてしまうだろう。


 となれば、騎士を無許可で越境させたローズベル王国は侵略と見做される。


 聖王国との危ういバランスを崩しかねない切っ掛けを作ってしまうだろう、と。


「原因は分かりました。ここは退きましょう」


 アルフレート殿は「魔物がこちら側に渡って来たら討伐する」と判断を下す。


 それまでは監視を置いて対策するしかないとも。


「しかし、まさか人の頭にキノコをぶっ刺すとは……」


 奇妙すぎる行動を見たアルフレート殿は深いため息を吐く。


「第四ダンジョンでは見られなかった行動ですね」


 もしくは、運良く見なかったのか。


 どちらにせよ、魔物というやつはこちらの予想を軽く越えてくる。


「アルフレード殿、十分にお気を付けを。何かあればすぐに駆け付けます」


「ありがたい。頼りにしておりますよ」


 ――二か月後、王都に再びアルフレート殿からの報告書が届いた。


 俺達が遭遇して以降、キノコの魔物は小川に姿を見せないらしい。


「ねぇ、アッシュ。これ見てよ」


 アルフレート殿の報告書を確認していると、ベイルはたった今届いたばかりの報告書を手渡してくる。


「これは諜報部隊からの報告書なんだけど……」


 中を読んでみると、報告書には――


『アロン聖王国東部で謎の奇病が発生。病人の体にはキノコが生えているとの報告アリ』


「…………」


「東へ向かったみたいだね」


 俺とベイルは顔を見合わせて、同時に深いため息を吐いた。


短編を読んで下さりありがとうございます。


本日からピッコマさんでウェブトゥーン版の灰色のアッシュが連載開始されました。

原作版を元にウェブトゥーンらしい構成になって描かれているので、是非とも読んで頂ければ幸いです。

最初の3話は無料公開されているようなので、お暇な時にも!


コミカライズ版 3巻も最近発売されましたので、こちらも店頭や各通販サイト等で見つけたら是非ともお手に取って頂けたら嬉しいです。


来週頃にコンテストに向けた作品も投稿予定です。

よろしくお願いします。

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あー、いつだったか逃げたキノコかー。
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