092 西大陸上陸
俺にとっては3つ目の大陸となる西大陸。
港におり立ってまず驚いたのはその人種族の豊富さだ。
中央大陸は人族支配で人族が多くいた。
北大陸は人族に近い種族が多く見られたが、それでも人族の方が多かった。
しかしこの西大陸は人族は少ない感じだ。
いや、少なく見えるだけかも。人族と同じくらい他の人種が多い。
獣寄りの獣人種が多かったり、ピクシー=ジョーみたいなサイズの妖精族も多いし、エルフもいる。
こちらのエルフは空想上のエルフらしい見た目のエルフでちょっとホッとした。
北大陸の港でみたあの見た目とテンションが暑苦しい無理に日焼けしたゴリマッチョのエルフはちょっと苦手だったので。
ドワーフは思ってたドワーフと違うんだよな…。
あの身長が人族より少し高めでガチムチなのがドワーフなんだろ?
せっかくなら低身長でずんぐりむっくりなヒゲモジャ頑固親父系ドワーフを見たかった。
港の様子に驚いている俺達だが、港にいる人達は俺達が下りてきた船に驚いていた。
戦争でもはじまるのかという勢いもあったが、降りてきたのが少数で、しかも他国の王族とわかってからは、多少落ち着いた感じだ。
船はしばらくしてからアーシュレシカが【アイテムボックス】に収納。
それにも港町の人達は大騒ぎしていた。
こればかりは船をそのままにしておくわけにもいかなかったので、【アイテムボックス】に入れるしかなかった。
船員として出していた配下久遠の騎士は、何人かは護衛として出したままにし、他は親であるシェヘルレーゼとアーシュレシカが一旦吸収。
配下久遠の騎士は出し入れ自在という事実が判明した瞬間だった。
さすがに人前ではしてなかったが、ビビった。
途中まで乗ってきた商船での出来事もあったので、ばーちゃん達の護衛は厚めにした。
とりあえず、久遠の騎士たちにはばーちゃん達の護衛を優先してもらう。なんとなく。
俺の護衛はシロネもいるしティムトとシィナもいるからさ。
2~3日はきちんとした入国の手続きがあるとかで、この港町に滞在。
ばーちゃんの護衛の一人が先行してばーちゃんの国まで馬をトバして帰国がスムーズにいくように通りすがる国や地域に先触れを出しに単騎で出発。その人だけはさっさと一番に入国手続きしていった。団体行動だと手続きに時間かかるみたいだ。
それを見送り、俺達は宿へ。
雑多な雰囲気な町だけど、明るさと活気のある港町だ。
そんな港町にも貴族御用達の宿屋があり、俺達はその宿に泊まる。
「じゃぁ、俺達はこれで」
船からここまで一緒に過ごしてきたおっさんが軽く別れを告げる。
「えー!おっさん、もっと遊ぼうぜ!」
そんなおっさん達に絡むティムト。
子供らはおっさん達に物凄く懐いていたからなー。
寂しいのだろう。
「そうしたいのもやまやまなんだがな。俺らすぐ戻るって国もと出てきたもんでな。ここまで来たら早く帰国せにゃなんねーんだ。入国手続きしたからここにいるのすぐばれるしな」
「えー」
「まぁ、でもアレだ。いつでもウチに遊びに来い。お前らなら大歓迎だからな!がはははは」
おっさん、ティムトに惜しまれてまんざらでもなさそうだ。
「絶対行く!」
「おう!んじゃこれ渡しとくか。これを見せれば俺んとこまですぐ話がつくからな!」
そう言っておっさんはティムトとシィナ、ついでに俺にも大人の手のひらサイズの黒い板をくれた。
もってみると、ガラスのようなプラスチックのような、不思議な素材でできた板だ。その表面はなめらかで、厳つい紋章が描かれていた。
「ありがとう!」
ティムトに続いてシィナと俺もおっさんにお礼を言った。
それからおっさんは仲間とともに上機嫌で人ごみの中へ消えていった。
ちょっとだけしんみりしてしまったので、このまま宿へ行く気にもなれず、気晴らしに町を探索してみることにした。
これには子供らも同感だったようで、俺に付いてくるようだ。
シロネはばーちゃんの従者に宿の場所をしっかり聞いて、あとから向かう旨を伝えていた。
ばーちゃんの傍にはばーちゃんの従者も久遠の騎士もいるので大丈夫だし、俺のそばにも久遠の騎士並みのレベルを誇るシロネと子供たちがいるので問題ない。
それにきちんと通信、通話が出来るスマホも持っているので迷子になっても大丈夫だ。
宿へと向かうばーちゃん達を見送り、
「さてと」
と俺は気を取り直す。
「どこか行きたいとでもあるんスか?」
「うーん、マップ情報誌でこの町の事見たけど、特にこれと言った掘り出し物的な特産物はなかったような。港町はどこも似たようなもんだったから、これと言ってあてはないかな」
「んじゃ買い食いしようぜ!屋台!あっち!うまそうなにおい!」
「そっちの屋台も変なのあった!行こー!」
両側から子供たちに腕を引っ張られる。
うまそうなのは良いけど、変なのはいやだな。
「きちんと順番ッスよ!近いところから回れば良いじゃないッスか」
「なんだよー、シロネだってうまそうにみてたじゃねーか」
「うっ…。そ、それはそれ、これはコレッス。はいはい。じゃぁ、シィナのトコがここからだと近いッスね。さぁ行きましょう」
屋台めぐりに決まってしまった。
小腹も空いていることだし、いいのかな。
「おっと、お客さん、大陸外のお人らかい?」
「はい?」
シロネが屋台で串焼きを注文し、お金を払おうとしたら店主に言い当てられた。
「まぁ、この町はまだ大陸の玄関口だからこのままでもいいが、この町から大陸内に行くなら早めに両替しといたほうが良いぜ」
どうやらお金は世界共通ではないようだ。
中央大陸のお金が北大陸の帝国で普通に使えていたから知らなかった。
どうやら大陸ごとに通貨が違うようだ。
北大陸の帝国は国家としてカジノを経営していたからどこの国のお金も普通に使えていたっぽい。
「失礼しました」
教えてくれた店主にシロネがぺこりと頭を下げる。
「おう、いいってことよ。こうやって教えるのもこの町の俺達の仕事だしな!」
店主はわはははと笑って焼けた串焼きをシロネに渡す。
「ありがとうございます。早速商業ギルドで両替をしてきます」
「まいどっ!」
ついでなので店主に商業ギルドの場所を聞き、串焼きを食べながら俺達は早速商業ギルドを目指す。
「気付きませんで、申し訳ないッス」
「俺も知らなかった。帝国では普通に使えてたし、誰にも言われなかったからなー。稼いだお金も普通に中央大陸のコインだったし」
「そうッスよねー」
「あー、そーゆーことだったのか!」
「絵は違うけど、色は同じだったから気にしなかったかも!」
「えー?どういうことっスか?」
俺とシロネの会話に、ティムトとシィナが分け知り口調で混ざってきた。
「帝都で屋台やってたら、見たことない銅貨渡されてさー、でも銅貨だろ?不思議だったんだけど、銅貨だからいっかーってなってたんだよ」
「先生たちも何も言ってなかったもんね」
なるほど。
そこもっと気にしていこうぜ!
ちなみに先生とは孤児院の職員や屋台を手伝っていた配下久遠の騎士。ティムト達は先生と呼んでいる。名前がある配下久遠の騎士は覚えている限りは名前で呼んでいるっぽい。
ティムトおすすめの骨付き肉の香味焼きの屋台を経由し、商業ギルドへ着いた。
それにしても串焼きも香味焼きもどちらもおいしかったなー。
西大陸では食べ物の味に困ることはなさそうだ。
商業ギルドではシロネが恙無く両替してくれた。
子供らもふんふん言いながら両替というものをしてみていた。
「えー?なんか少なくなったー!」
「手数料?」
「手数料分も払っただろ!」
「あははー、それはね、他の大陸の通貨はこの大陸の通貨より、主鉱物の含有量が少ないからだよ」
なるほど。銅貨なら銅の割合が他の大陸よりこの大陸の方が多いということか。
「しゅこーぶつがんゆー?」
「はっはっはー、君らにはまだ難しいか!とにかく、この大陸のお金の方の価値が高いってことさ!」
両替をしてくれたお兄さんはなんか得意げに子供らに説明してくれている。
子供好きなようだ。いい人っぽい。
ちなみにお兄さんはエルフっぽい。
シロネに両替されたお金をいくらかもらい、【アイテムボックス】に入れて商業ギルドを出る。
俺はとくに両替はしなかった。ほとんど【異世界ショップ】でしか使わないからな!
というか、こっちでも何かして稼がないとなー。
豪華客船でかなり散財したし、また岩集めしないと。
ばーちゃんに頼んで余ってる領地開拓させてもらおーっと。
あ、でもあの孤島のダンジョンで手に入れたいくつかのアイテムをアイテムチャージしとくのも手か。
「これからどうするッスか?」
俺にこれからの行動を聞くシロネ。
だが応えたのは子供らだった。
「もっと屋台行く!」
「次はあっち!」
二人はまだ食べるようだ。
若いっていいな。俺はもう腹いっぱいだよ。
いや、俺も一応10代半ば。若い部類に入るか。
わかりました、食べましょう。若者アピールしときましょう。
子供たちに手を引かれ、屋台をめぐる。
シロネは苦笑していたけど、なんだかんだ彼女もよく食べるので嬉しそうだ。
屋台6軒目にして俺の腹は限界に達した。
久々に腹いっぱい食べて動けない。
調子乗って若者アピールしすぎた。
よく考えたら俺、そもそも若者なのでアピールする必要なかったんだよな。
これが若気の至りっていうやつだろうか。きっと将来黒歴史として思い出し、ふとした瞬間悶え苦しむんだろうな。
子供らとシロネが元気に屋台のおっちゃんに料理を注文し、お金を渡しているのを眺めつつ、俺はその辺にある木箱の上に腰かける。
ふと、足元を見ると小さな髪飾りが落ちていることに気付いた。
こんなところにこの世界ではちょっと高価そうな髪飾りが落ちているなんて。
誰にも拾われなかった不思議な奇跡感と、なんだかちょっと謎のほっこりまで感じてしまい、拾い上げる。
髪飾りを手に取り、体勢を元に戻そうとした時だった。
頭に強い衝撃が走る。
通りを行く人の荷物に頭をぶつけた。
誰だよ、拾いものしている人の頭上を動線に木箱もって通り過ぎようとしたやつは!
という長めの心のツッコミをもって俺の意識は暗転した。




