表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/155

085 座礁して孤島

 


 2回目の船旅は、数日間平穏に過ぎた。

 変な貴族に会うこともなく。


 そこでちょっと安心し、気を緩めたって普通じゃん?


 気を緩めて慣れた頃にやられたね。


 夜中、グッスリ寝ていた時だった。


「セージ様、セージ様っ」


 ペチペチとほっぺたを叩かれる。


 目を開けてみると、至近距離にピクシー=ジョーが。


「うわっ」


「海の魔物が船に気付いた。船の揺れが予想される。船とこのテントの固定を解いた方がいい。結界はこのまま維持。出来るなら海水が浸入しない結界に切り替えることを勧める」


「わ、わかった」


 まだ微妙にぼんやりする頭だが、緊急事態ということはわかった。

 ピクシー=ジョーはシェヘルレーゼやアーシュレシカにも伝えてまわる。


 ヒューイはシェヘルレーゼの【ワンルーム】の中で馬竜達の世話をしている。

 たぶんあちらは平和そうだ。

 放牧に適した環境に【ワンルーム】を改造してあるので、過ごしやすいだろう。


 久遠の騎士達が皆を起こして回る。

 そして皆をテント内のリビングに一旦集めた。


「これより魔物の襲来に備え、セージ様が結界を施します。バラつかず、一か所に集まっていた方が海に放り出される心配もないでしょう」


「船全体に結界を掛けた方が安全なんじゃ…」


「ダメよ! そんなことしたらせーちゃんが魔力枯渇で倒れちゃうわ! アレってとっても苦しいのよ? どんな薬でも効かないのよ? せーちゃんが苦しむのなんておばぁちゃん、見てられないわ!」


 小規模の結界で固定式なら一度魔力を使えば結界はそこに残り続けるから、テントを固定する結界を作った時はとやかく言われなかったが、皆を守るための結界や船に結界を張るとなれば、常に結界を張り続ける事になると思ったばーちゃんが、必死に俺に結界を張ることをやめさせようとする。


「魔力の心配はいらないよ。普通の人よりかなり多いから」


「でも結界よ?魔力をバカみたいに使用する魔法よ?そしてこの船は結構大きいわよ?無理よ!」


「大丈夫だよ。それより衝撃に備えて。海の魔物は大きいからね。こんな船なんて海の魔物に比べたら石ころみたいな物だから。船は壊れないように結界を張るけど、衝撃に対して結界がどう作用するか分からないから。荷物も全部動いちゃうかもだから、一度テントをしまった方が良いよね」


 前半はばーちゃんに、後半はアーシュレシカに言う。

 ばーちゃんは納得してないけど、アーシュレシカは頷いた。


 それから皆で夜中にゾロゾロとテントから出て、テントを仕舞い、ジッと魔物を待つ。


 すると十数分後。


「来た」


 とピクシー=ジョーがいつものようにぼそりと呟く。

 夜なかでシーンとした中だと、彼の声がよく通った。


 そして間もなくグググググ…と船体が傾いた。


 ばーちゃんやおっさん達を含め、俺達の周囲にも【堅牢なる聖女の聖域】を張ってある。

 船内には物も多いので、それが当たらないようにだ。

 その他の人にも一応【聖女の守護】を掛けてある。

 同じ室内の人限定だけど。


 他は船全体に【堅牢なる聖女の聖域】を掛けてあるからいいよね。



 何度か大きく船体が揺れ、それも無くなり、波が静まりかけた時だった。


「下から突き上げが来る」


 またもやピクシー=ジョーが予言者めいた事をいう。

【索敵】スキルのおかげだとは思うけど、言い方がそれっぽくてちょっと笑えてしまった。


 それからドーーーーンッ…と、下から衝撃が来たと思ったら、宙に浮く感じと、Gを感じる。


 前に母さんに連れて行ってもらった『宇宙飛行士体験』の時にやった、G体験室を思い出す。

 あの時は体に固定器具を付けて安全な感じだったが、これは違う。

 掴まるところも固定器具もなにもない。


 とっさに“ちょっと浮く”効果のある【聖女の輝き】を発動。これは船内にいる人全員にだ。

 とっさのとっさに“ほのかに体が発光する”効果は消した俺、ナイスだ。





「海の巨大な魔物のおもちゃとなって飛ばされたようだ」


「船底が浅瀬につきだした岩岩に上げられていました。船を海に下ろそうにも人手では無理でしょうし、下ろした先も浅瀬なので船は浮きませんね。座礁、というところでしょうか」


「人が生きているのが不思議ッスね」


「セージ様の御慈悲ですよ。感謝するといいです」


 ドシン、と着地した感じがして、数秒ほどで察するピクシー=ジョーからのアーシュレシカ、シロネ、シェヘルレーゼの瞬時に理解コンボ。


 すごいよね。


 子供たちはキャッキャしてるし。

 そこ!もう一回とか言わないの!


 ばーちゃん達もおっさん達も顔を青くしているが、一応【堅牢なる聖女の聖域】と【聖女の輝き:輝き無しVer.】のおかげで怪我などはしていないはず。

 振動すら感じなかったからね。


 すごい音は聞こえたけど。


 しばらくして船の中も騒がしくなり、さらに時間が経つと、船は無事だがどうやって船から脱出するのかとか、脱出できたとしてもどうやって船を岩から下ろすのとか、海に出るのとか騒がれるようになった。


「しばらくは騒がしいようですし、如何いたしましょうか。またお休みになりますか?それとも少し温かいものでもお飲みになりますか?」


「寝るよ」


 俺は寝る事を選ぶ。

 海の上じゃないなら家具も動かないだろうし、もう一度テントを出してもらい、さっさとベッドに入った。


 テントを出した時に、ばーちゃん達もテントに入るようにシェヘルレーゼに促されていたので大丈夫だろう。

 ばーちゃんの護衛の人やおっさんらは船の状況を確認しに行った。


 まだ暗くて周囲も見えないのに、いまから騒いでもどうしようもないのに。


 それに岩に乗り上がっているなら魔物の心配もないし、安全だろう。





 そして朝。

 船内の騒がしさで目が覚める。

 いつもより遅い時間っぽいな。


 まぁ、昨日途中で起きることになってしまったから寝坊するのは仕方ないよね。


 もそもそと着替えて【クリーン】を掛けてテント内のリビングに行くと、みんな揃っていた。

 あ、ばーちゃんの護衛の人が2人居ないか。


「せーちゃん、おばぁちゃん、こんな時にぐっすり寝ているのはどうかと思うの。起こしてしまうのが可哀想になるくらいすやすや寝ていたから、おばぁちゃんも起こせなくて困ったわ」


 ばーちゃん。俺、それもどうかと思うんだ。


 その後もおっさん達にも同じような事を言われ、ばーちゃんの従者の人にはちょっと呆れ気味に見られた。


 うちの久遠の騎士は俺のすることには特に何も思わないらしく、澄ました顔をしている。


 シロネも子供達も慣れたモノなので特に何も言わない。

 自分、慣れてるッス。みたいな顔をしている。

 あ、これもたぶん澄ました顔の内に入るのかもな。


「ちょっと浮く魔法は解いたけど、結界は張ったままだから大丈夫だよ。それに夜中に騒いでもどうにもならなそうだし、朝早くだってこの船の所有者や船長の判断も無しに騒いだってどうにもならないでしょ?結論も出てなさそうだし」


「それはそうだけど、それにしてもせーちゃんは落ち着き過ぎだと思うのよ。だって海に落ちたら死んじゃうのよ?海の魔物は怖いのよ?」


「海ならとりあえず結界を張ってれば大丈夫だよ」


「んもう。これは城に帰ったらわたくしがきちんとせーちゃんに常識を教えなければ!教えることがたくさんありそうね!いっぱい一緒に居れそうね!」


 だんだん主旨から外れた、というか目的はそれだったのかというか。


 俺が言うのもなんだけど、この状況でそんな事を口走れるばーちゃんも結構余裕だなと思う。


「お待たせしました。大体の事は聞いてきました」


 ばーちゃんの護衛の2人が帰ってきた。

 船長と商人の話を聞いてきたらしい。


 あと、ちょっと怒ってる様子だ。


「御苦労さま。どうでした?」


 ばーちゃんが二人をねぎらい、様子を聞く。


 すると結構困った状況だった。


 この船が、ある意味座礁状態となっているこの岩群は、「死の孤島」と呼ばれている島の海域の一部だということ。


 船は助けが来るまでどうにもならないこと。


 出発前に航海中、水の面倒を見てくれるということで高い料金を出したのに、水はこの船所有の商人達と、その懇意にしている貴族。それに船長らが独占してしまったこと。


 緊急脱出用、ならびに買いだし用の小舟も彼らによって独占されていること。


 などなど。


「とにかく、この船に乗っているのなら言うことを聞けということでした」


「まぁ、信じられない言い草ね。普通、乗客の安全を確保するのが船長ならびに船員の役目じゃなくて?所有者や貴族を優先するにしても、お金を払って乗った乗客に酷い仕打ちね」


 いつになく真剣な表情のばーちゃん。


「背に腹は代えられねぇってんで乗った船でコレかよ。数週間待って別な船に乗りゃぁよかったってか?」


「それはどうかしら。それはそれでしばらくは国に帰ることは出来なそうよ?」


「永遠に帰れなくなるよりはマシってもんだぜ」


「それは結果論よ?」


「まぁ、確かにな。あの街に長居して夜盗に寝首かかれるか身ぐるみ剥がれるか、このイケ好かねぇ船に乗って先を急ぐかだったからなぁ。どっちも先がねぇぜ、まったくよ」


「あぁ、わたくし達だけならまだしも、孫まで巻き込んでしまったわ。わたくしが国へ連れて行こうなんて思わなければこの様な事にならなかったのに…。わたくしはなんてことを…」


 ばーちゃんとどこぞの王様だという中堅冒険者みたいなおっさんがまた神妙な顔で話し合っている。


 そこへピクシー=ジョーが周辺を探索し終えて戻ってきた。

 ばーちゃん達が話し合っている間に、こちらはこちらで話し合うことに。


 そうか。

 そう言えば起きた時、ピクシー=ジョーもいなかったのか…。


「小さな島で、ダンジョンが1つあるだけだった。北側に森があり、小動物や小魔物の住処となっていた。南半分は岩場で、そこにダンジョンがある。そしてここは東側。船を出て右に行けば森、左は岩とダンジョン以外何もない」


 ピクシー=ジョーが言う小動物や小魔物ってどのくらいの大きさの事を言うんだろう。


「ダンジョンは危険なのですか?」


 ピクシー=ジョーの情報に、シェヘルレーゼが質問する。


「闇系のダンジョンだな。普通なら詰みだ」


「あ、自分、わかるッスよ。それまたセージ様無双のフラグっスよね」


 シロネがどこか諦めたような、慈愛を秘めたような、遠くを見るような目をして呟く。


「なるほど。セージ様は如何なさいますか?」


 シェヘルレーゼよ、やけにキリッとした顔で俺に振らないでくれ。

 あと子供達も、キラキラした眼差しを向けないでほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ