080 と言うわけでして。
先日来たパーティーは本当にカジュアルなものだったんだなと思わせる雰囲気漂う、皇帝陛下の誕生の日を祝うパーティー。
会場の飾り付けもひときわ豪華で、集まった貴族や王族なども、正装と呼ばれるカッチリした服装をしている。
で、何故か俺もカッチリした衣装を纏ってここにいる。
それは何故か。
父さんに泣きつかれたから。
まさか父親に泣きおとされるとは思ってませんでしたよ。
今日はコニーへの挨拶はなく、コニーが誕生日の挨拶をする日。
フロアより一段高い壇上で、皇帝の誕生日に皇帝がやる儀式的なものをやったり、振り返って俺に気付き、そして俺の隣にいる人に視線を向け、それからまた俺の方を困惑気に見ながら感謝の言葉や抱負を堂々と語っている。
器用な皇帝様だな。
それらが終わればあとはご自由に、といいつつ、ダンスが始まる。
世界が変わってもダンスの形は変わらないようで、優雅な感じやしっとり系の社交ダンス的な物が始まった。
「せーちゃん、せーちゃんッ、おばぁちゃんとダンスしましょっ!」
ばーちゃんは初日以外パーティーには参加しないとか言っといて、俺が仕方なく父さんにつきあってパーティー参加すると言ったらばーちゃんも参加する事にしたらしい。
そしてダンスになって、父さんは仕方なさそうにパルフェさんとダンスに行って、それをつまらなそうに眺めていたばーちゃんだったが、そのうち「いい事を思いついた!」みたいな顔をして、こうして俺に絡んできた。
「簡単なのしか踊れないよ」
「簡単なのしかないから大丈夫よ!さっ、行きましょ!」
楽しそうで何より。
そして俺がばーちゃんをダンスにお誘いする形を取って、フロアに出、無難極まりないダンスをする。
「せーちゃんダンス上手ね」
ダンスしながらばーちゃんが話しかけてくる。
「学校の授業であるからね」
うちの学校、結構幅広いダンス教えてるんだよね。
「いまどきの学校ってすごいのね」
「俺が通ってる学校がちょっと特殊なだけだよ」
「そうなの?」
「うん。あと、母さんのダンスの練習にもつきあったからかな?」
「まぁ、ちゅーちゃんダンスするの?」
「うん。付き合いでパーティー行く機会が増えて、踊れないとダメだとか言ってへこんで帰ってきた次の日から社交ダンス習い始めたんだ。1年ちょっと前くらいからだったかな?」
「ちゅーちゃんには苦労かけるわね…」
「そう思うならちゃんと俺達が帰れる方法一緒に探してね」
「わかってるわ。自国に帰ったらそういうのにお詳しそうな方がいるから相談してみるわ。せーちゃんもその方にいろいろお聞きしてみるのもいいかもね」
「うん。ありがとう」
召喚魔法に詳しい人だったらいいな。
話を聞いてみてよくわからなかったらガチ賢者なマモルに来てもらえばいいしな。
ダンスを終えて戻ると、本日の主役がいた。
さっきまで俺がいた場所を陣取っている。
なので俺は違う場所に行こうとしたら、
「セージ」
声を掛けられてしまった。
俺より先に不機嫌そうに振り向くばーちゃん。
ばーちゃんが何か言うより先に、俺が答えた方が無難そうだ。
「あ、誕生日おめでとう」
「あ、あぁ。うん。って、違う。…ん?良いのか。じゃなくて、何故今度は東大陸の王族との列席だったんだ?」
「あぁ、ちょっとワケアリで」
「他国の人間に言うわけがないでしょう?というか、聞かなくても情勢に気を付けていれば気付けそうなものよ?」
泣きつかれたとは言え、俺がパルフェさんの国側でパーティーに参加した事がちょっと嫌だったばーちゃんが良い八つ当たり先を見つけたようだ。
コニーもばーちゃんにまっとうな事を言われたと思っているようで、ぐぬぬ顔をしている。
「まぁ、別に秘密にする事じゃないから、そいつに聞いてくれ」
そう言って俺はコニーの久遠の騎士を指した。
「よろしいのですか?」
コニーの久遠の騎士が、確認を求めた。
「この国にいる間だけの人間関係ぐらいなら、皇帝陛下だけに言ってもいいよ」
「承知しました」
「え、なんでお前が知ってるんだ?」
自分の久遠の騎士に聞くコニー。
相変わらず久遠の騎士事情を知らないようだ。
学習すればいいのに。
ってそんな暇無いのかもな。
それより何より、いい歳したおっさんなのに、コニーの周囲には妻子の姿が見えない。
側室とかそんな感じの人も確認できない。
え、まさかそっち?
…興味ないから聞かないけど、ふと気づいてしまった。
そっとしておこう。
しかし俺の思考に気付いたのか、アーシュレシカがそっと俺に教えてくれる。
「そっちな方ではないようですが、独身のようです。隠し子とかもいないようで、跡継ぎ問題で色々アレなようです。時々平民に変装して市井に出て、高級な大人なお店で発散はされているようですね」
余計な事情も聞いてしまった。
そこまでは聞きたくなかった。
コニーがコソコソと自分の久遠の騎士と話している間に、さっさと俺達はコニーゾーンから脱出し、食事の席に着く。
ばーちゃんとは離れ、父さんが婿に行った国の席だ。
そこで食事を取る。
1つの国ごとにテーブルが用意され、給仕が付き、フルコースがでる。
そこには既にパルフェさんが座っていて、父さんはまだどこかの招待客と話しているようだった。
ちょっと遠くの席ではばーちゃんがこちらの様子を窺っている。
俺にはとても気さくで良いばーちゃんだけど、パルフェさんからしたらキツイ姑っぽいな。
「セージ様は皇帝陛下とお親しいのですね」
パルフェさんが声を掛けてきた。
そりゃそうだよな。
無言というのも感じ悪いし、気づかいで声を掛けてきたんだろう。
「商売のお得意様ですよ」
「まぁ、セージ様はどんな御商売を?」
「色々ありますが、ここに卸しているのは肉、酒、野菜、麦などでしょうか」
「ず、随分多岐にわたっているのですね」
「なりゆきです。…父さんは、どうしてあなたと結婚したのですか」
さし障りの無い会話の流れをぶったぎって聞いてみた。
「っ…!そ、それは…わたくしの切実な事情で、無理を承知でお願いして、来ていただいた次第でございます」
「そうですか。父さんは毎日何をしているんですか?」
「え?…あ、はい、食べ物の研究を主になさっているようです」
切実なる事情というやつを深く聞かない俺に驚いたようで、それでも聞かれなかったことにホッとし、聞かれた事に素直に答えるパルフェさん。
「楽しそうですか?」
「はい、それはもう。思った物を作れなかった時などは気を落としているようですが、それでも何度も挑戦し、出来上がった時はとても喜んでいるそうです」
ふーん。
伝聞形ってことは本当にあまり接点が無いのか。
周囲公認の仮面夫婦というやつか。
婚姻という事実があればいい感じの。
第三王女ということは、周囲からの子宝云々も関係はなさそうだし。
「そうですか。俺はこれからしばらくばーちゃんの所に行く予定なんですが、その後にそちらに遊びに行っても良いですか?観光に行ってみたいと言ったら父さんには良いぞと許可をもらったのですが、婿の立場ですし、勝手に許可しちゃってたけど良いんでしょうか?」
「ふふふ、ええ、是非おいでくださいませ。いつでも歓迎いたします」
「ありがとうございます。…それと、俺が父さんを父さんと言っても大丈夫なんでしょうか?」
「何の問題もございませんよ。むしろサージェル様のお立場も多少は良くなるのではないでしょうか…」
「父さんの立場、良くないんですか?」
「っ、大変失礼いたしました。その、国ではわたくしを擁護下さる方が多いもので、わたくしとサージェル様との間に子が出来ないのはサージェル様がその…」
「なるほど。でもそしたら今度はパルフェさんに問題があると思われませんか?」
「それならそれで全く構いません。サージェル様の不名誉を考えたら。それに無理に婚姻を迫ったのはわたくしでしたのに、周囲に心ない事を言われるのはいつもサージェル様でしたから。わたくしが何を言われようとも、全て受け入れますわ」
「そうですか」
立場云々は男としてどうのってやつか。
それ以外は他国から来た婿という立場以外とくにないそうだ。
むしろ他に言うことがないので、子供の問題でネチネチ周囲が何か言っているっぽい事を聞いた。
なんだ、父さんは婿入り先でとりあえずはそつなくふるまってはいたのか。
「お?二人して何を話していたんだ?」
あいさつ回りみたいのが一段落したらしい父さんが戻ってきた。
「父さんの事。いつも何してるのかなって」
「それだったら本人に聞けばいいだろう」
「え、それはちょっと…」
「なんでだよっ」
「話長くなりそうじゃん」
「いいじゃないか。親子の語らいだぞ?スキンシップだぞ?」
「はいはい。で、なに研究してたの?」
父さんが来たことで、料理が運ばれてきた。
話しながら食事をすすめる。
「それはもちろん味噌に醤油にみりんに日本酒、出汁になるようなものとか、海から塩を作ってみたりだな」
「海から塩?」
「あぁ、ここじゃぁ岩塩が主流でなぁ。それで味噌を作って、一応はうまく行ったんだが思った味じゃなくてな。それで海水から塩を作ろうとしたんだけど、これがまたなかなか大変だったんだ」
「へー」
「え、反応薄くない?そこはもっとこう、どう大変だったか聞くとこじゃない?」
「マモルに勧められてラノベ結構読んでたから、大変だろうなと」
「ラノベ…」
父さんの年代でもラノベくらいは知っているだろう。
反応見ても知ってそうだし。
「異世界知識チートの宝庫だね」
「そ、そうか…」
「マモルに連絡して良さそうなラノベ送ってもらいなよ。てか、塩や味噌、醤油、みりんづくりの本とか、その他レシピ本とかもあげようか?」
「セージはそんな物まで持ってたの?!」
「あ、うん。チート持ちなんで」
認めましょう、ネタスキルと言えど、チートには変わりないと。
俺の言葉に納得行かないような表情を浮かべた父さんだったが、提案はとても魅力的だったらしく、素直に受け取ることにしたようだ。




