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078 再会

 


 まだ誕生祭真っただ中にあるが、俺の中では誕生祭は終わった。


 パーティー翌日には町の祭りも満喫したし、なにより祭の原因である本人におめでとうを言ったし、プレゼント渡したし。…ケーキは渡しそこねたけど。


 ばーちゃんの中でも終わってるようで、アレからずっと日中は俺にへばりついている。


 俺にというかシロネとかシェヘルレーゼとかヒューイとか。

 主におしゃべり担当の人達とキャッキャしてる。


 お茶にケーキにお菓子と、【異世界ショップ】産の物に大いに盛り上がっている。


【聖女】スキルの事はもちろんだけど、【異世界ショップ】の事は言ってないので、俺の従者が頑張って元の世界の物を再現していると思っているようだ。


 その辺のスキルの事はシェヘルレーゼやヒューイでも言わない。

 そのかわり一般的に知られているスキルや、俺の日常、果てはギルドカードのランクの事までベラベラと、それはもう楽しげにしゃべっているけど。


 おかげで今度ばーちゃんを農地へ連れて行くことになってしまった。



 それはともかくとして、今日は父さんが帝都に着く日だ。


 もしかしたらもう着いているかもしれないのでピクシー=ジョーに頼んで偵察に行ってもらっている。



 そしてそろそろ戻ってくる頃かなと思っていると、高級宿なので普段足音なんて聞こえないのに、ドタドタ音が響くほどの勢いで部屋に向かっている者が。


 宿の従業員にも止められているようだが「大丈夫だ!」という何が大丈夫なのか分からない言葉とともにバタンっと、勢いよく俺が宿泊している部屋の扉が開いた。


「セージがいるって?!」


「いるよ」


「サーくん、ダメよ。宿の人に迷惑かけちゃ」


「セージ様、大変申し訳ございませんっ!お客様の勢いをお止めし切ることが叶いませんでした」


「キャンキャンッ!ウゥゥー、キャンッ、キャンキャン!」


「…混沌ってこういうことを言うんスよ、きっと」


 切迫した表情で俺を確認する父さん。

 来ることがちょっとわかっていたので余裕で返事をする俺。

 父さんの振舞いを窘めるばーちゃん。

 父さんの行動を止めることが出来なくて青い顔して俺に謝る従業員の人。

 父さんに吠えまくるテンちゃん。

 乾いた笑いで状況にコメントするシロネ。


 それから皆がまたそれぞれに返事をするので場はさらに混沌と化す。


「いえ。逆にご迷惑をかけてすみません。たぶん身内です」


 と宿の従業員さんに謝る俺。


「セージだよな?!パパだよ?!セージ?!」


 息子に対して自己アピールの激しい父さん。


「サーくん、そんなガッついちゃだめよ。お年頃の子には、もっとスマートに話しかけなきゃ返事をしてもらえないどころか嫌われちゃうのよ?」


 我が子に子供との接し方を伝授するばーちゃん。


「あ、ありがとうございます。また後ほど改めて謝罪に…」


 場の様子を察して一旦引き、改めて謝罪を申し入れに来ようとする宿の人。


「なんか従業員の人が可哀想ッス…」


 従業員さんに同情を始めたシロネ。


 シェヘルレーゼとアーシュレシカは何事もないようにお茶の用意を始めている。

 部屋付きのメイドさんも一瞬動揺を見せたが、根性で動揺を振り切り、自らの仕事を全うするべくシェヘルレーゼ達の手伝いを始めた。


 ばーちゃんの従者の人も何かしようとしているけど、何も出来そうにない事に「しまった…」みたいな顔をしている。


 この状況において何か出来ることがないと負けな感じがするようだ。


 それにシェヘルレーゼ達が用意するお茶やお菓子の方がバリエーションが多いので、この宿にいるときは彼女たちがもっぱらお茶を用意しているので今更感だが。


 なお、テンちゃんはずっとキャンキャンと父さんに吠えて続けている。


 てか、キャンキャン吠えるんだ、テンちゃん。

 ずっと一緒にいたのにしばらく声聞いてなかったから忘れてた。

 テンちゃん、基本大人しいし。



 従業員さんが一旦引いたことで、場も落ち着く。


 それでもばーちゃんの小言が優先され、父さんはとりあえず大人しくばーちゃんの小言に付き合ってから、改めて俺に向き合った。


「セージっ!」


 そして思いっきり抱きしめられた。


 父さん。

 この歳でこれはキツイです。


 それからグイって持ちあげられ、高い高いされ、ぐるぐる回された。


 マジでキツイです。

 テンちゃんもめっちゃ吠えまくってるし。


「あはははははは、セージ、パパだぞー!大きくなったなー!セージだ!セージ…!会いたかった…!」


 そして高い高いから下ろされついでにまたギュッと抱きしめられる。


 俺は精神的にも物理的にも死にそうになった。





 目が覚めると、ソファーに寝かされていたようで、皆が一斉に俺の目覚めに気付いてまた騒がしくなる。


 マジで死にそうになったみたいだ。

 気を失っていたらしい。


 ばーちゃんが、父さんが俺に接触しようとするのを、小言で牽制し、かわりにばーちゃんが俺に抱きつく。


 それを悲しそうに、羨ましそうに見ている父さん。


 父さん。

 思い出の父さんより体形とテンションが違った。


 俺の思い出の父さんはひょろひょろで、ほんわかした、明るくとても穏やかな感じの不思議な人だった。


 けど今の父さんは、マッチョな熱い男になっていた。

 手もごつごつしている。

 変な場所にタコも出来ているし。


 きっとこの世界に来て大変な思いもしてきたんだろう。

 その剣ダコと思しきものが手に出来るほど、ましてやそんな体格も良くなっちゃうほど肉体的にも大変だったんだろう事は窺える。


 窺えるけども、ちょっとシルエット変わりすぎじゃないかい?


 顔と声は父さんなのに体はパワー系アスリートマッチョなのって、物凄く違和感が…。


 俺が戸惑っていると、父さんは泣きそうな顔をして俺の顔を見る。


「セージ、もしかしてパパの事忘れた?」


「覚えてるよ。でも記憶と父さんのシルエットが一致しないから戸惑いを隠せないだけ」


「そんな…昔はパパって言ってたじゃないか!」


 えー。

 そこー…?


「サーくん、せーちゃんはお年頃なのよ?まっとうな思春期よ?そんな親の呼び方出来るわけないじゃない」


 それはそれでどうなのばーちゃん。

 出来る人は出来るんだよ?

 思春期だってパパママ言う人は言うんだよ?


 あとまっとうな思春期てなに。


 ちょっとうんざりして、気が抜けたところでふと、気付く。


 部屋の人口密度が異様に高い事に。


 宿のリビングにあたる所にあるソファーに寝かされていた俺なわけだけども、その一般のご家庭じゃまず見ない広いリビングにはたくさんの見なれない大人がいた。


 俺がボーっとその人達を見ていると、その中の女の人が、にっこり笑って、座っていた椅子から立ち上がってこちらに来た。


「驚かせてしまい、大変申し訳ございません。わたくし、サージェル様の伴侶で、東大陸レイメル王国、第三王女、パルフェと申します」


 サージェルというのはこっちでの父さんの名前だというのは知っている。


 で、その伴侶というのは…父さんの奥さん?


 なんか変な言い方になってしまったが、そういうことなんだろう。


 それにしても第三王女に婿入り?

 ワケアリなのかな?

 それとも女系の女王国?


 ばーちゃんの国が確かそうだったはずだから、その線もあるか。


「セージです」


「サージェル様が慌てて走って行かれたもので、我々も慌てて後を追ってこちらまで押しかけてしまいましたの」


 どちらかと言うと、この人が実は父さんだと言われても納得できてしまう程、仕草も表情も落ち着き様も俺の知ってる父さんのような感じの人だ。


 母さんほどではないが、美人の部類の人だとは思う。

 何より落ち着いた感じがそうみせる。


 そして父さんはと言うと、ばつが悪そうにしている。


 で、俺はどう反応すればいいか正直分からない。


 ということで、俺はチラリとシロネを見る。


 するとシロネが「ここで自分ッスか?!マジすか?!正気ッスか?!」


 みたいな顔をしつつも、俺の傍に来てくれた。


「ご家族、ご親戚での御歓談のさなか、わたくしが発言する事をお許しください。わたくしを含め、大勢の中でセージ様がご家族の方とお話しするのはとても難しいようです。日を改めていただくか、それともセージ様、ララリエーラ様、パルフェ様、サージェル様のみで応接間でお話しする事は叶いますでしょうか?」


 シロネが堂々と言ってくれた。

 ヤケクソに見えなくもないが。


 ちなみにララリエーラというのはばーちゃんの名前だ。


「護衛なしに、よく知りもせぬ若者と、密室にパルフェ様を押し込めろと申すか?」


 青年がイラつきもあらわにシロネに食ってかかる。


「あら?それでは仕方がございませんね。多少なりとも血縁があるというだけで下界の者と話しあおうというセージ様の御慈悲を疑うだなんて。こちらとしても許せる行為ではございませんことよ?」


 今までずっと大人しくしていたシェヘルレーゼが口を開く。


 ホントに彼女は俺の思考をトレースしているのだろうかと疑いたくなるような話し方をするな。


 アーシュレシカでさえ「また始まったよ」みたいな顔でシェヘルレーゼを見ている。


 シロネは自分の仕事はもう終わったからいいよね!みたいな感じで清々しい、やりきった感を出して後ろに控えた。


「貴様っ…」


「マイロ、やめなさい」


 パルフェさんが真剣な顔で自分の従者である青年を止める。


「しかしっ!」


 それでも青年は食い下がろうとしている。


「彼女の言葉は事実です。セージ様は稀人です。何においても我々が敵う相手ではありません。そして彼女を含め、セージ様には複数の久遠の騎士が従者としてつき従っています。言葉には気をつけなさい」


「っ!」


「パルフェさん?どうやらあなたの従者として分不相応な方がいるようね。お気をつけなさいな。主の言葉に従えないような者を側におくことほど危険な事はないわ」


「お義母さま…はい、肝に銘じます。セージ様にも大変申し訳ございませんでした。この者はまだ若い身の上故に…」


「まぁ、体は立派なのに、その方はまだ赤ちゃんでしたの?ウチのティムトとシィナはまだ7歳にもかかわらず、聞きわけよくここでお話を黙って聞いていてよ?」


 場が収まりかけたのに、シェヘルレーゼが燃料投下しやがった。


 俺の従者はシェヘルレーゼを除いて全員が「お前もうやめろよ」みたいな顔でシェヘルレーゼを見やる。


 ばーちゃんの従者はちょっとオロオロし始めている。


 父さんとパルフェさんの従者は顔を青くしている。


 俺はもう一度意識を失いたくなってきた。

 ばーちゃんは何故かシェヘルレーゼを応援。

 父さんは状況に追いついてないし、パルフェさんは顔を真っ青にしてガクブルしている。


 ティムトとシィナは本日分の屋台の営業を終えて帰ってきたところにこの現場に遭遇したので良い迷惑をしていることだろう。


 未だに俺の謎人物設定をマモルからシェヘルレーゼが受け継いでいて、わけわからん状態だし。


 そもそも下界ってなんだよ。御慈悲って。

 それで通用しているパルフェさん御一行もどうかしてる。


「ティムト、シィナ」


「「はい」」


 ほら見ろ。

 いつだって子供らしくしていた子供たちが、「はい」とか言っちゃってる。


 いつもなら「んー?」とか「なんだ?」とか「なにー?」なのに。


 こんなわけわからん場所に子供がいたら良くない。


 そしてその中には俺もいる。

 だって職業的にも男子高校生だし。


 やむを得ないよね。


「孤児院に出かけるぞ。シロネとシェヘルレーゼとヒューイは穏便に話し合い、もしくは情報交換。ララリエーラ様を始め、パルフェ様とサージェル様にも失礼の無いように対応するように。それでは皆様、子供は外に行ってますので、大人同士で仲良くお話し合いしてくださいね」


 とりあえずそう言うだけ言って、俺は宿から出た。

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