077 誕生祭10
「え? なんで?」
きょとんとした顔でコニーが俺とばーちゃんを見る。
西大陸パルセティル王国という国が「お誕生パーティーに呼んでくれてありがとう」という感じの挨拶をしにこの国の皇帝陛下にご挨拶をする番になり、ばーちゃんをエスコートして俺がコニーの前に行ったらそんな顔された。
俺とコニーの感じを見て、ばーちゃんもきょとんとした。
「あら? せーちゃん、この国の皇帝とお知り合いだったの?」
俺には不思議そうな顔をし、コニーには冷たい眼差しを向けるばーちゃん。
いったいどんな政治的関係があるのかわからないが、俺は一応頷いておく。
「俺の商売のお取引先の1人だよ」
「まあ、そうだったの」
ちょっとだけホッとした様子のばーちゃん。
しかし俺の回答にツッコミなのか何なのか、訂正を入れる彼の皇帝陛下。
「違うだろ!? お友達だろ!?」
今度は俺がきょとんとする番だった。
「そーなの、せーちゃん?」
「まさか。初耳だよ」
国の偉い人とお友達だなんてそんなのあるわけないじゃん?
この封建社会のような異世界でさ。
「オイぃぃぃっ」
そしてまた俺の回答にキレ気味でツッコミのような何かをアピールする皇帝陛下。
「ばーちゃん、次にコーテーヘーカに挨拶する人の邪魔になるから俺達は早々に捌けよう」
「そうね。それでは改めまして、コーウェニーク皇帝、お誕生日おめでとう。これからも健やかなる生を」
ばーちゃんがそう言うと、ばーちゃんの侍女の人がコニーの傍にいる文官さんに目録を渡す。
それを文官さんが確認してからコニーが確認し、感謝の言葉を述べる。
その流れに沿って、俺もコニーに誕生日の挨拶をする。
これは誕生パーティーが開催されている期間、1度だけ行えば良いらしい。
誕生日当日はコニーが招待客に挨拶する日なので、こうしたお誕生日おめでとうの挨拶はその日以外に随時行われる。
一日に全員挨拶はしきれないので、国力順みたいな感じで挨拶していくらしい。
その初日の一発目がばーちゃんだった。
ばーちゃんの国は西大陸の大国とか言ってたし、そうなると、国力順の挨拶って、もしかするとめっちゃ権力ある順番て事なのか?
俺のばーちゃんめっちゃ権力ある人なのか…。
その事実にちょっと引いてる俺がいる。
「コーウェニークコーテーヘーカ、タンジョービオメデトーゴザイマス」
俺のやる気の無い棒読みセリフの後に、アーシュレシカが速やかにコニーの文官さんに豪華のし袋入りの目録を渡す。
初めて見る封筒に困惑する文官さん。
最近出回っている便箋の封筒ともまた違った形式に驚いている。
アーシュレシカがそっと開け方を教え、やっと開封。
そして中に書かれた内容に驚きを通り越してドン引きしている模様。
そしてそれを見なかった事にしながらコニーに見せた。
「なあ、これ……マジか」
「マジですが」
シロネチョイスに何か問題が?
あるわけないですよね?
「それでは我々はこれで失礼いたしますね」
俺とコニーを見て、色々早く説明してという顔をして早々にコニーとの挨拶を切り上げるばーちゃん。
なるほど、国力がこの帝国より上っぽいふるまいだな。
コニーの方も何か物凄く聞きたそうにしているが、マジで俺達の後ろに挨拶待ちをしている人達で列をなしているので移動しなければならない。
他の国は大貴族が国主の代理で来ている風だが、ばーちゃんはコニーの誕生パーティーを理由に毎年父さんと待ち合わせしているみたいなので国主という立場でもここにいるようだ。
あ、だからか。
国主自らが参加してるから序列が前になってるのかも。
父さんはコニーの誕生日当日の朝にはなんとかここに到着出来るような事をばーちゃんから聞いた。
スマホも無いのにすごい情報力だと感心した。
コニーへの挨拶が終わり、さて飲食でも…となったところで、ばーちゃんからの
「せーちゃん、おばぁちゃんはせーちゃんに聞きたいお話がたくさんあります」
というお言葉が。
「なに?」
「んもうっ! せっかくおばぁちゃんがこの国の皇帝とお友達アピールしようと思ったら、なんだかおばぁちゃんよりせーちゃんの方が皇帝と親しげなんですもの! 教えてくれても良かったじゃない!」
「俺も知らなかったんだ。まさか皇帝陛下が俺を友達認定してるだなんて」
ほんと、物のやり取りする程度の間柄なんですが。
「……せーちゃん、それはそれでこの国の皇帝が可哀想に思えてくるわ。相手がそう思っているなら察してお友達として振舞ってあげてって思えちゃう」
「ばーちゃん。普通国のトップと友達って言いきれるのってなかなかないよ。それに友達ってもっと仲がいい人の事を言うと思うんだ。俺はコニーと仲良くないし、コニーからまともに名前すら教えてもらってないから絶対友達ではないよ」
「そうなの? それは酷いわね。自分の名も名乗らないのに友達ヅラするなんて」
現代において本名知らなくても親友として成り立つこともあるが、ここはオンラインゲームなどがある世界でもあるまいし、そういうことでうやむやにしておこうと思う。
だってコニーと友達だなんて面倒なことしかなさそうだし。
「それとね、さっき言ってた商売って、せーちゃんどんなのしているの?」
ばーちゃんはコニーの話題はもう飽きたようだ。
「魔物の肉や新鮮な野菜を割高で売りつける商売だよ」
「なんだか悪どそうね」
「ここは新鮮な野菜が手に入りにくい都会だからね。割高でもみんな買うんだよ」
それでも一応周辺の村では栽培してそうにない物ばかりを卸しているので、大丈夫だとは思う。
種類が被ったとしても同じ値段で売るようにしているし。
肉も高レベルの魔物の肉だから高いのは仕方ない。
倒す労力は同じなんだけどね。
シロネや久遠の騎士にかかればゴブリンもドラゴンも一撃だし。
的が大きい分ドラゴンの方が倒しやすいとか言ってるくらいだし。
「そうなの。もしかして、最近のこの国の食材が種類も量も豊富なのって、ちょっとはせーちゃんのおかげなのかしら」
「ちょっとじゃなくて大半は俺の農地で採れた肉や野菜だよ」
「うふふ。せーちゃんも大げさな事を言ったりするようになったのね。そうよね。せーちゃんも男の子だものね」
微笑ましそうに俺を見るばーちゃん。
孫の成長を見るような。
そう思われたのならそれでもいいかと流そうとした時だった。
「失礼、マダム。セージ様のおっしゃることは全て事実でございます」
フォローしてくれたのはまさかのヒューイだった。
シロネもシェヘルレーゼ、アーシュレシカもさすがに俺とばーちゃんの会話に割り込めなかったようなのに、爽やかで軽やかにイケメンな感じで会話に混ざるとか、マジイケメンか、このロボ。
「……そうなの? ……そう、わたくしね、あなたの事もとっても気になっていたのよ? ねぇ、せーちゃん、こちらどなた?」
「ヒューイだよ。俺の従者。ロボなんだけど、今日はアーシュレシカと一緒に俺の身の回りの世話をシェヘルレーゼに任されてるんだ」
「まあ、そうなのね。ロボは男の子のロマンだっておばぁちゃん知ってるから大丈夫よ。よろしくね、ヒューイ。あなたってとても個性的だけど、どうしてそんなに個性的なのかしら?」
めっちゃオブラートに包んだ聞き方だな。
為になるぜ、ばーちゃん。
「興味をお持ちいただき光栄に存じます、マダム。私は機械人形型久遠の騎士配下機、ヒューイと申します。以後お見知りおきを」
優雅に一礼するヒューイ。
それを遠巻きに聞いていた周囲の貴族が聞き、ざわつく。
ゴーレムか何かだと思っていた人もいただろう。
久遠の騎士という言葉や存在を知っている人もいただろう。
わざわざ声をひそめることなく言いきったヒューイと、良くやった、みたいな顔をして成り行きを見守るシェヘルレーゼ。
たぶんとくに示し合せたわけでも、企んでいるわけでもないのだろうけど、みる人がみれば、かんぐられても仕方ない。
現にちょっと青い顔してこちらを見ている人もいるし。
その一方でとても無邪気に接するお人もいるんだけど。
「まさかあの久遠の騎士? 主を絶対守りぬく! ってアレかしら? わたくし、久遠の騎士の物語をたくさん読んだのよ? ずぅっと憧れていたの! それがまさか自分の孫の従者をしているだなんてびっくり! ねえねえせーちゃん、どこで手に入れたの? おばぁちゃんもほしいわっ」
「ダンジョンだよ」
「てことはオークションかしら? 久遠の騎士だなんていったいいくらで買ったの? せーちゃんお金持ちって知ってるけど、これお高いんでしょう?」
どこの通販!?
日本滞在時間短い割にそんなセリフ覚えて帰って物にしてるだなんて、やっぱりさすがだよ、ばーちゃん。
「自分でダンジョン探索して見つけた宝箱に入ってたんだよ」
「ほんとに? もしかしてせーちゃん、商売だけじゃなくて冒険者も嗜んでるの? すごいわねえ。もっとおばぁちゃんに聞かせて」
キャッキャするばーちゃんに、ダンジョン探索した時の事を頑張って話したが、要領を得ず、結局シロネが俺の代わりにばーちゃんに話して聞かせていた。
後日、主催者より目立っていたと主催者からクレームを受けた。




