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076 誕生祭9 初日

 


 いよいよ今日から誕生祭本番となる。

 宿の外はいつもよりかなりにぎわっているように思える。


 ここは貴族街にある宿なのでそこまでうるさくないが、下町に出ればかなりにぎわっているんだろな。


 子供らは朝から張り切って屋台に出かけた。


 同い年の子たちと一緒に屋台やって、競うのが楽しいらしい。


 変にレベルが上がり過ぎた分、他の子達と張り合うことも出来なくなっていたので、こういうのが嬉しいみたいだった。


 パーティーは夕方から。


 なんだかシャクだが良い服着てコニーへのプレゼントを持って城まで行かなくてはならない。


 服はシェヘルレーゼが選んでくれた物を着る。

 いつもの服装をちょっと豪華にしただけのものだ。


 シェヘルレーゼとシロネも今日はドレスを着て行くらしい。

 アーシュレシカだけはいつも通りメイド服を着て行くようだ。


 コニーへのプレゼントは、欠席するといって送ったものとは別に、手土産的に持っていくことに。

 シロネが「これが一番無難ッス!」と言いきる海底ダンジョン産のレアスキルブック2冊にした。

 レアなので自分に適性がある中級クラスの魔法やスキルを使えるようになる不思議な本だ。


 あとはおまけ的に【異世界ショップ】産のバースデーケーキでもあげることにした。



 夕方までにとくにすることもないので宿の中でのんびりする。

 わざわざ祭で人の多い下町などには行かない。


 それでもなんだかんだと忙しかった。


 対応したのはシェヘルレーゼとアーシュレシカだったけど、挨拶に俺の所に来る人が多かったので。


 まずは朝一でキンバリーさんが徹夜明けの顔で遠い目をして泣き笑いしながら追加で食材を頼みに宿までやってきた。


 次に店を任せていた夫人が。こちらもどこか疲れたような()で立ちでやってきて、店が繁盛しすぎてヤバいという報告と、祭の間だけでもどうにかアテナ達に施術師として店に出していいかお伺いを立てに。


 それに関してはシェヘルレーゼが拒否。

 そのかわりに農地から祭の期間限定で20名程店の施術師として呼び寄せ、とりあえずそれで回すことに。


 それから冒険者ギルドの副ギルドマスと名乗るいつもの受付の人が来て、魔物の素材…主に魔石を売ってほしいと来た。


 その後に宝飾ギルドからも人が来て、宝石を売ってほしいとか、錬金術師ギルドでも触媒に使う宝石や魔物の素材が欲しい、鍛冶師ギルドでも鉱石類を売ってほしいとか来た。


 毎年売って完売になればそれで終わりとなっているのだが、今年は何故か頼めば頼んだだけ素材を卸してくれる俺がいるので、作れるだけ作って売りまくろうという魂胆らしい。


 あと、今年はやたらと人が多いらしく、例年になくにぎわっているのに何故か例年より比較的治安がいいとか。


「中央大陸が内戦で忙しい事に周辺大陸の気が緩んでいるのでしょう」


 というのはアーシュレシカの見立てだ。

 それにもともとこの帝国というのはたくさんの種族がいる国で、他国からの人族至上主義の冒険者が感じ悪くしていたのであって、その主たる中央大陸の冒険者がいなくなったことで亜人に人族が高圧的にケンカをふっ掛けることも少なくなり、結果治安の良さにつながったとか。


 中央大陸の冒険者が一気にいなくなったことで、食材集めが大変だったが、治安が少しでも良くなったのなら、このまま戻ってこない方が良いんじゃないかと思えてしまうな。


 あとなんかみんな和気あいあいとしているみたいだし。


 それが貴族側にも出ているようで、今年に限っては人族至上主義国家からの賓客が少ないし、来ても大人しいという話だった。


 下町から貴族の事情まで網羅しているアーシュレシカの諜報力がすごいね。


「と、ピクシー=ジョーが言っておりました」


 違ったらしい。

 あのニヒルな妖精、ピクシー=ジョー氏からもたらされた情報のようだ。


 そんな彼の妖精型配下久遠の騎士は今朝、子供たちと外に行った。

 こんな人出の多い日こそがたくさん情報が出回る絶好の機会とか何とか。小さな体でブツブツと人に聞こえるように言っていた。


 で、イケてるメンズ風のロボはシェヘルレーゼに言われて完全に人の形態にさせられて執事服を着せられている。でもメカってのは隠さず、堂々とメカメカしている。顔とか手とか、服から出ているところは金属丸出しだし。でも顔はイケメン。


 今日はアーシュレシカとともに俺の身の回り世話をさせられるらしい。


「マジかよチキショー、機械の俺が執事とかセンスあるぜ!」


 とても陽気なテンションだった。

 最初の頃の「御意」とか言ってたヒューイ、どこ行ったし。


 名付けによって自我が出てきてファンキーになっている。

 でも完全にオリジナルではないので、自我感は薄い。

 しゃべりだけの個性が出た感じだな。

 それはピクシー=ジョーも同じだった。


 シェヘルレーゼやアーシュレシカ、さらにはアテナやダヴィデ、ユネ、ユオのように自分たちで考えて察するということは出来ない。

 あらかじめそれぞれのマスタードールからの指示のもとに動いている節があった。

 その指示も俺の為になるような物だから問題は何一つないんだけどね。




 そして気が休まる暇もない時間を過ごし、夕方となった。

 城からばーちゃんが手配した馬車が迎えに来たのでそれに乗ってコニーの城へ。


 城門をくぐり、城へと着くと、ばーちゃんがいた。

 入り口で待っててくれたようだ。


「せーちゃん、来てくれてうれしいわ。まぁ! 素敵な装いね。フードがないからせーちゃんのお顔が良く見えるわ。アクセサリーも品が良いし、香水もスッキリしたやさしい香りの物を選んだのね。あら?それって……誕生日プレゼント?」


 俺を褒め、それから俺の後ろに控えているシロネやシェヘルレーゼ達を見て、ヒューイを見てから一瞬固まり、ヒューイについては何も言及することなくプレゼントに話を切り替えたばーちゃん。


「うん。一応用意した」


 俺もヒューイについてとくに説明はしない。


「そうなの? せーちゃんの分の皇帝へのプレゼントはおばあちゃんの方で用意したのに。でもせっかくだしせーちゃんのをプレゼントしましょうね。まだパーティーが始まる前だから、控室で待っていなきゃないの。国別の控室になってるから、せーちゃんはおばぁちゃんの国の控室行きましょうね。うふふふ、孫とこうして歩けるなんて幸せっ」


 ばーちゃんは俺の腕に抱きつき、キャッキャしながら歩く。


 こういう時、いつもならコニーでもいそうなのだが、さすがに今日は忙しいとみる。

 ありがたいことだ。


 程なくしてばーちゃんとこの控室という部屋に着いた。


 昨日カジノで見た人の他には数人の侍女がいる程度。

 その侍女も服装の雰囲気が違うので、ばーちゃんのトコの人と、この城の侍女なんだと思う。


 ばーちゃんとこは役職によって決まった服装があるようで、統一性がある。

 ばーちゃんの影響なのか父さんが広めたのか分からないけど、どこか元の世界に通ずる異世界ファンタジー感がある。

 とくにエルフ。神秘性があると言うか、エルフよりエルフ感があると言うか。


 帝国に住むエルフは見たけど、全然エルフしてなくてガッカリしたもんな。


 なんだよ、海エルフて。

 ダークエルフにあこがれて無理に日焼けしてさ。

 やっと日焼けしても、2~3日雨の日続くと白さが戻ってくるって。

 それでまた必死に外の仕事をして焼けた肌とゴリゴリの筋肉を手に入れるのに必死になってるエルフってガッカリだったよ。


 中央大陸では奴隷姿のガリガリで弱々しくてボロボロの服のエルフしか見てなくてとても痛ましい気持ちになってたけど、帝国のエルフはとてもはっちゃけていた。


 そして“全然努力して日焼けしようとしているなんて思ってないんだからね!”みたいな感じを出しているのがまた残念さを誘っていた。


 と、エルフの愚痴を考えていてもしょうがない。


 シェヘルレーゼが俺がソファーに座ったのを見て速やかに俺にお茶を出す。

 ばーちゃんの侍女はばーちゃんにお茶を出す。


 どっちかでよくない?

 と思えるが、そういう作法なのかなと思い黙っておく。


「あら?せーちゃんのお茶って緑茶?」


「そうだよ。交換する?」


 ばーちゃんの侍女さんがせっかく入れてくれたんだから無駄にするのももったいない。

 交換を打診してみる。


「そうね。交換だなんてちょっと楽しいわね? へー。お茶菓子も日本風なのね? この国で材料を手に入れるの、大変じゃなぁい?」


 とても不思議そうにばーちゃんが緑茶とお茶請けのミニどら焼きを眺める。


 ばーちゃんと交換した方は濃い香りの紅茶と、平たく楕円なタマゴボーロっぽいものだった。


「そうかもね。でもこの国のもので作ったわけじゃないから。ばーちゃんのもこの国のお茶やお菓子じゃないよね?」


「まぁ、せーちゃんにはとても腕のいい料理人がいるのね。そうよ、おばぁちゃんのも自国のものよ。それにこのお菓子はちゅーちゃんに教えてもらった、たまごボーロのレシピを参考に作ったものなのよ」


 とても楽しそうに会話するばーちゃん。


 ちゅーちゃんとは母さんの事だ。

 チユリという名前なのだが、ばーちゃんはちゅーちゃんと呼んでいる。


 まさかこんなところで母さんを感じることが出来るなんて。


 と思いつつそのお菓子を食べてみたのだが、全然別の何かだった。


 とりあえず俺はこんな歯ごたえの強い物がたまごボーロだなんて認めない。

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