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075 誕生祭8 祖母

 


 異世界でばーちゃんと会った。

 そして父さんもいるような事を聞いた俺は、よく分からないので宿に帰ってとりあえず寝ることにした。



 そして目が覚めたら、


「せーちゃん、やっと起きたの?もう夕方のお茶時間よ?」


 俺が寝ていたベッドの側に椅子を構えてそこに座っていたらしいばーちゃんに声を掛けられた。


「ばーちゃん、ずっといたの?」


「えぇ。だってやっと孫と長い時間一緒に過ごせるんですもの。孫の顔はずっと見てたいわ。それに急にパパの事を聞いてびっくりしすぎちゃったのよね?おばぁちゃんせーちゃんに会えて嬉しすぎてベラベラとたくさんお話ししすぎちゃった。デリケートな事はもっと落ち着いてお話しすべきよ」


「あー、うん」


 その割には賭け事に夢中で第一に再会より金を貸してくれだったけど。


「というわけで、せっかくこうして落ち着いた環境があるからおばぁちゃんのこととサーくん…せーちゃんのパパの、ここでの事を教えちゃうわね」


「いいの?」


 さっきは説明しづらそうだった。

 今も微妙にばーちゃんの後ろにはばーちゃんの従者がいる。

 人数はさっきより少ないけど。


「もちろん。それにこの子達は大丈夫よ。部屋の外で待機してる子たちはあまり内情を知らないから、あの子たちがいる前ではお話しできなかったの」


 そう言って俺を安心させるように微笑むと、まずはばーちゃん側の事情や情報を教えてくれた。


 ばーちゃんは西大陸にある3大大国の女王であるということ。

 だから結構偉いし、国を跨いだ権力も持っているということ。


 父さんは幼い時に命を狙われていたため、やむを得ず、禁術を用いてこことは違う世界である地球に避難させ、現地人として育てられたこと。

 だけどそれが数十年経ってからこちらの神に見つかり、連れ戻された。


 父さんは母さんや俺達と離れて暮らさなければならない事もそうだけど、急にわけのわからない異世界出身だと聞かされ、それらを受け入れるまでしばらく憔悴しきっていたらしい。


 でも王族という立場だったため、いくら地球で結婚歴があろうと子供がいようと、ここでは関係なかった。

 政治的な理由で東大陸の小国の姫君と結婚する事になった。


 自暴自棄気味の父さんはそれを受け入れ、数年前に東大陸へ婿に行った、というざっくりした経緯を聞かされた。


 ばーちゃんの話を聞く限りでは仕方ない事とは思うけど、やっぱり母さんと俺達兄妹を置いていなくなってほしくなかった。


 あと、カミサマ出てきちゃったよ。

 俺の心情的な事をいってしまうとこの星の神様、めっちゃ感じ悪いんですけど。


 自分の星の人間は取り戻すクセに、他の星の人間は攫いっ放して。

 たとえ自分の星の人間が勝手にやったことと言うならば、自分の星の人間を取り戻す力があるんだから俺達を地球に返してくれても良いと思う。


 よし。

 このモヤ付いた気持ちをクラスチャットにぶちまけよう。


「せーちゃん?何してるの?」


「連絡。ハルトとマモルもだけど、俺達、クラスの半分の人数が中央大陸のローザング聖王国ってところに召喚されたんだ。ハルトとマモルは帰る方法を探して旅してる。クラスの女子達は召喚主である聖王、ひいては聖王国に対して報復している最中」


「あら、うふふふ、とーっても楽しそうな事をしているのねぇ?そうよね、報復、大事よねぇ。おばぁちゃんも手伝うわ」


「ありがとう。じゃぁ帰る方法一緒に探して」


 そう言うと、ばーちゃんは少しだけ悲しそうな顔をした。


「せーちゃん、帰っちゃうの?」


「母さんと妹が心配だ。父さんがいなくなって、母さん大変だったから。生活よりも、精神的にきつそうだった」


「そう、よねぇ…」


「でもばーちゃんがウチに来れた方法で帰れるんじゃない?」


「それは出来そうにないわ。目的地に行くことは出来るけど、時間が経てば強制的にこの地に引き戻されるんだもの。じゃなきゃサーくんが戻った時にあなた達を迎えに行ったし、そうじゃなくてもあなた達を放っておかないもの。どうにかあなた達のもとで暮らすか、迎えに行くかくらいしたわ」


 世の中うまくは出来ていないか。


 そうだよな。

 2年に1回、たった数時間しかばーちゃんとは会えなかった。

 会えた日の別れ際、いつもばーちゃんはもっと俺達と一緒にいたいって言って本気で泣いてたよな。


 ここ異世界でばーちゃんと会えたのは物凄く驚いたし、父さんがいると聞かされてさらに驚いた。

 ばーちゃんも嬉しそうにしてるし、俺の幼い頃の記憶を信じるなら、たぶん父さんも俺との再会に喜んでくれると思う。


 でもずっと一緒に暮らしてきた母さんや妹とずっと離れてここで暮らしていくということは考えられない。


 …それにばーちゃんのテンションはたまに会うから楽しい物であって、ずっと一緒となるとアレだよね。


 父さんだってやむを得ない事情だろうと再婚しちゃったのなら仕方ないし。


 だったら再婚もせず女手一つで俺と妹をここまで育てた母さんに心を寄せるのは俺としては当然。

 マザコンが理由だからとかではない。


「そっか。いろいろ模索してくれててありがとう」


「当然なことよ?…ところでせーちゃん、それ、おばぁちゃん知ってるわ。スマホよね?」


「うん」


「これもおばぁちゃん知ってるんだけど、ソレ、でんぱってのが無いと使えないんでしょう?」


「うん」


「どうやって使ってるの?それに電気がないと使えないこともおばぁちゃん知ってるのよ?」


 ですよね。

 父さんがいなくなった時にスマホとか持ってたはずだし。


 でも、そうか。

 父さんがこちらに引き戻された時はスマホが魔道具化されたわけではなかったのか。


「これは魔法で動いてるんだよ。魔道具化されたスマホなんだ。充電は回復魔法でも出来るし、魔道具化されている充電器で充電出来るよ」


 充電て言うか充魔というか。


 充電器は【異世界ショップ】で買えた。

 魔石を交換して使えばいいやつ。

 ゴブリンの魔石が丁度いいんだよな。





 それからしばらくの間、ばーちゃんとゆっくり話すことが出来た。

 外も暗くなり始めたところで、ばーちゃんは城へと戻った。

 一応賓客なので招待されている間は城で寝泊まりしなきゃならないみたいだ。


 ばーちゃんとの話は、シロネやシェヘルレーゼにも一応話した。

 驚かれはしたが、異世界召喚という魔法が存在するので、そういうこともあるんだね、世間て狭いね、みたいな話で終わった。


「てことはセージ様は王族ッスかね?」


「それはないな。異世界出身だし」


 微妙な気持ちになるが、文字通り、世界が違うので父さんと母さんの結婚はノーカウントにされてるし、父さんは他国へ婿に行ったみたいだし。


「出自はどうあれ、セージ様のお立場はこれまで通り変わることはありません。むしろ王族だと騒ぎ立てられると面倒になりかねません」


 そもそも説明が面倒なので騒ぎたてようもなさそうだけど。


「えー、にーちゃんが王族なら俺達高給取りの騎士になれるのにー」


「ざんねん」


「ティムトもシィナも今では充分高給取りじゃないッスか。魔物を売ったお金や屋台のお金でもう一生働かなくても生きていけるんじゃないッスか?」


「シロネ、それはダメな感じの人間の言葉だぞ?」


 ティムトの言葉にドキっとしてしまう。

 まさしく俺ももう働かなくていいじゃんとか思ったし。


「働いてこその人生じゃない?」


 いや。シィナよ、俺は働かなくていいなら働きたくない。

 出来れば一生引きこもっていたい。


 てかシィナはどこでそんな言葉覚えたんだ?


 レベルが上がって出来ることが増えた子供達だけど、本質的な考えは変わってないようで安心。


 きっとシロネとシュラマルがレベル激上がり時にいい感じに言い含めてくれたからだろう。



 その話は適当にうやむやにし、明日仕方なく城のパーティーに参加する旨を話したら、子供たちは


「そんなのより屋台がいい!」


「屋台楽しいし!お城は前に行った時つまんなかった!」


 と元気に答えた。


 だよね。

 俺もそんなのより部屋でゴロゴロしてたいよ。

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