073 誕生祭6 知らぬ間に農地が進化してるっぽい
オークの大集落は小一時間ほどで片付いた。
それはもうきれいさっぱりと。
「ははは、6000体規模のオーク集落が半日どころか半刻もかからず消えるのか…」
「俺達もセージ様の結界や装備のおかげで100体は倒せた」
「もうオークみるのもいや」
「しばらくはお金に困りそうもないですね。新しい装備を買ってそれの維持を心がけたところでもまだお金に余裕が持てます。もう少しいい宿で生活できそうですね」
獣人パーティーはどこか遠い目をしながらそれぞれ感想を述べた。
てかオーク、6000もいたのか。
獣人パーティーはオークを倒すのにも余裕を持ち、要領を得て1体1体を的確に素早くチームで倒していた。
それを真似たのか、うちのシロネと久遠の騎士チームも、連携を取っていた。
小回りの利くシロネとアーシュレシカとピクシー=ジョーがオークの首を刎ねていき、シェヘルレーゼが水魔法を駆使して首を刎ねられたオークから血抜きを施し、大地に大穴を開けてそこに抜いた血を集め、後から高火力で燃やし、大穴も埋め戻していた。
血って燃えるんだ…。
っていうのを異世界に来て初めて知った。
ヒューイはレーダー的な物で索敵を行い、シロネ、アーシュレシカ、ピクシー=ジョーに常にワイヤレスイヤホンタイプの通信機器で指示を出し、合間に獣人パーティーにオークが群れで向かわないように、獣人パーティーが倒しきれるだろう適度な数のオークを獣人パーティーに流していた。
めっちゃ気が利くイケてるロボだった。
最後にアーシュレシカとシェヘルレーゼが俺と共有されている【アイテムボックス】に倒したオークを回収、自分たちと獣人パーティーに【クリーン】を掛けて戻ってきた。
村にオーク討伐が完了したことを報告に行ったら物凄く疑われたが、実際に村人数人連れて確認してもらってようやく納得してもらえた。
そんな感じで、この国、本当に大丈夫だろうか?
かなりギリギリで保っているんじゃないだろうか?
と、冒険者ギルドの依頼を受けながら村々の現状を見て、依頼を受けまくり、肉を卸しまくり、時々農地の野菜を卸しまくっていたらあっという間に誕生祭前日となった。
「冒険者ギルドも商業ギルドもセージ様にはとても感謝してたッス。セージ様がアレから農地開拓した時の肉も卸してくれたんで、余裕を持って誕生祭を迎えられるって泣いて喜んでたッスよ」
「城からも大量の酒を卸したことに感謝状が届いております」
酒も農地で作ったものを城に卸した。
いつの間にか配下久遠の騎士がつくっていた酒だ。
酒樽は【異世界ショップ】で買うよりも帝都や討伐依頼で行った村などで買った方がかなり安いらしく、でそちらでシェヘルレーゼが買い求めて酒を作ったと。
他にもりんご酒日本酒、ビール、それから焼酎、ウイスキー、ブランデー、ジンやラム酒、なんなら梅酒も作ったみたいで、城に売り込みを掛けたらめっちゃ食い付いてきたので、めっちゃ売ったらしい。
酒の熟成なんかは前にマモルからピクシー=ジョーと一緒に送られてきた魔道具があったので出来た。
俺は何の魔道具かよく見てなかったけど、シェヘルレーゼなんかはしっかり把握して、使っていた。
その中に【マジックバッグシード】を改良して【ミニチュアガーデン】と同じ機能を持たせた【時間加速式空間拡張型マジックバッグシード】というのが何粒かあったらしく、【異世界ショップ】で超巨大倉庫を購入してそこにその【時間加速式空間拡張型マジックバッグシード】を使い、酒造りしたらしい。
俺の知らない間に農地が物凄い進化してるっぽい。
砂糖とかの栽培もしてるっぽいし。
山の斜面を使ってブドウ畑を拡張しようとしたら鉱山見つけてそこを掘ったら金山だったらしいし。
金の他にもミスリルが出てきたらしいし。
普通に鉄なんかも出るみたいでなんかすごい事になっていた。
鉄も帝都では需要あるし、ミスリルは冒険者に需要あるし、金は世界でかなり需要あるみたいだし。
けどシロネの話を聞く限りこれ以上この国で荒稼ぎしても良いことなさそうなんだよなー。
そんなよそ様の事を考えながら朝食後のお茶をしている時だった。
「セージ様、こうて…お客様でございます」
少し顔色を悪くした部屋付きメイドさんが来客を告げる。
こうて…。
皇帝陛下的な何かかな?
「お茶を飲んだら対応しますので応接室で待つようにお伝えください」
「おい、一応俺はこの国の皇帝だぞ」
知ってた。
部屋付きメイドさんの後ろにいたの。
「マジか。知らなかった」
「ンなわけあるか!てか誕生パーティー不参加ってなんだよ?!」
「お誕生日会来てくれない人、ひとりひとりに不参加理由聞きに来るの?お金持ちも大変だね」
「お前ほど金持ってねぇわ!不参加者1人1人にわざわざこうして理由聞きに来る訳もねぇし!てかこの状況でも呑気に茶ぁ飲めるお前の神経疑うわ!」
ツッコミのオンパレードか。
「仮にも皇帝陛下が1人で一個人の宿泊する宿に来る神経も疑うけど」
「んぐっ…」
「あ、不参加の理由は偉い人たくさん来るみたいだし、皇帝陛下のお誕生日会だなんて恐れ多くてとてもじゃないけど参加出来ないと思ったんだ」
「え、お前どの口が言ってんの?」
ドカリと俺のテーブル向かいの椅子に座るコニー。
すかさず部屋付きのメイドさんがお茶とお茶菓子を出す。
お湯を注ぐだけのインスタントコーヒーとアーモンドが入ったチョコだ。
コーヒーには砂糖とミルクを添えてある。
コニーは砂糖もミルクも全部入れて飲み、一旦落ち着く。
「やっぱこれうまいな…じゃなかった!パーティーはとりあえず当日だけでも参加してくれ」
本題を思い出したらしい。
「その当日ってのが一番招待客が多い日だろ?やだよ」
「…はぁ、やっぱりか。俺ではお前に強制させることはできないからな。ダメもとで頼みに来たのと息抜きに来ただけだから別に良いけどな。まぁ、気が向いたら来てくれ」
「ダメもとはともかく、息抜きでここに来るってよっぽどだな」
「ここが一番安全だからなぁ」
まぁ、確かに。
「でも一番安全と言えば孤児院兼治癒院だけどな。魔物はもちろん悪人も権力者も将来的に敵対するやつも入れないようになってる上に配下久遠の騎士が20人も常駐している」
「俺あそこ入れねェし」
「将来の敵か…」
「それはない!引っ掛かるとしたら権力だろ?!そこは信用しろよ!」
それもどうかと思うとは言わないでおこう。
「あれ?コニっち今日はどうしたんスか?」
朝も早くから料理ギルドへおつかいに行っていたシロネが戻ってくるなり人懐っこくコニーに声を掛ける。
「シロネか。シロネからもこいつに俺の誕生パーティーに参加するように言え。てかシロネ、お前って久遠の騎士とタメ張れるくらいの力量があるんだな」
「あっははー、自分はセージ様が嫌がることを無理に促すようなことはできないッスよー。ちなみに自分を褒めてもセージ様に口添えなんて出来ないッスからね!」
「くっ、ダメか…」
「わかったら城帰れよ。文官さん可哀想だろ」
「前々から思ってたが、なんで皇帝である俺よりもスピルに気遣う?まず俺だろ?!」
「俺は前々から皇帝陛下よりもあの文官さんの方が偉大だと思っていた。そもそもはじめから皇帝陛下として対面していたのなら多少は敬えたけど、騎士として自己紹介受けたし、勝手気ままな上に酒癖悪いのも知ってるから今更じゃん?コニーが騎士してた時、あの文官さんの苦労ったらなかったと思うぞ?」
「正論か!」
「セージ様が正論言ってるッス…」
「これを正論と取ったってことは、肯定してるようなもんだぞ?」
「あっ…」
「さすがセージ様ッス!皇帝陛下にも容赦ない!」
「マモルにコニーをあまり甘やかすなって言われてるからな」
それについては誰もが沈黙した。
この沈黙は何だ?
俺がコニーを甘やかしてるってことか?
それとも甘やかす方面が違うってか?
…どっちもどうでもいいな。
「それについては、本当にお前には助けられた。この帝都の住民や、祭にやってくる者達に行きわたるほどの食材を卸してもらった。高レベルの魔物の肉も、素材も、魔石も。それにパーティーで出す料理のレシピや目新しい菓子なども、何から何まで、お前がいなかったら今年の誕生祭を無事に迎えることが出来なかった。本当に感謝している」
急にコニーがキリっとした顔をしたと思ったら殊勝な事を言われた。
そんな事を考えての沈黙だったのね。
そして自覚はあったのか。
それはさぞ祭りを迎えるにあたってやきもきしていただろうな。
「落ち着いたら国の状況を精査した方がいいと思うぞ。今回冒険者ギルドの依頼を受けまくってわかったことだが色々ヤバそうだった。それについては今説明が面倒なので、小鳥のシエナを通してお前の久遠の騎士に聞いてくれ」
「わかった」
皇帝陛下からいい返事が聞けたので、お土産を渡して帰らせた。
一応シロネを護衛に付けておいた。
よし。
なんだかんだパーティー不参加な件をうやむやに出来たのではないだろうか?
シロネが城へコニーを送り届け、戻ってきた。
「今日は何するッスか?今日も魔物狩りッスか?」
「いや。今日はたまった現金をパーっと使おうと思う」
「パーっと、ッスか?金の像でも作るんスか?」
「俺はそんなナルシーマンじゃない。そういうんじゃなくて、国営のカジノでも行ってみようかと」
「…それこそコニぽんの甘やかしにならないッスか?別にセージ様、カジノとか興味ないッスよね?セージ様が仕方なく稼いだお金をこの国の為に散財するってどうかと思うッス」
「まぁ、そうなんだけどな。せっかくカジノで有名な帝国にいるんだから一回くらいは行っておこうかと」
「それなら見学だけで無理に使うことないッスね。興味あったら使うことにして、セージ様は「カジノでパーっと」とは考えない方が無難ッス。それたぶんカジノで荒稼ぎフラグっスよ」
シロネがフラグの使い方をマスターしていた。




