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063 お茶会

 


 海虫買い取会の翌日にはシェヘルレーゼを迎えに【聖女の願扉】を出して、さっくりお迎えを済ませ、彼女が持ち帰ってきた野菜や穀物を孤児院に差し入れして、余った分の3分の1程度を商業ギルドへ売りに行ったらキンバリーさんが狂喜乱舞した。


 北大陸ではこのなんでもそろうと言われている大帝国であってもここまで新鮮な野菜を数トン単位で大量に入荷出来るというのは今まで無かったことらしく、なんでもするからこれからもまた野菜類を卸してほしいとめちゃくちゃ懇願された。


 怖かったので苦笑いで答えを濁し、そそくさと商業ギルドを後にした。

 それにしてもなかなかの大金を稼げたぜ。


 それに味を占めてコニーの城に直接売りに行ったらいい感じに買ってくれたのでここでも大金を稼げた。

 ついでに以前売った「満腹レーション」を追加で1万個頼まれたので売って、さらに稼げた。


 もう一生働かなくていいんじゃないかなってくらい稼げたかもしれない。


 稼いだ半分をシェヘルレーゼとアーシュレシカに運用を任せて預ける。


 店でも孤児院でも金は掛るし、解体要員とか月一の海虫買い取会とかでもお金がかかるのでそれに回してもらったりするので。


 残りの半分の半分はシロネに任せる。

 シロネはシロネで独自に情報を集めるのにお金を使ったり、細かい事に気付いて俺の為に買い物してくれたりするので、それ用にと。


 残りはポケットマネーとして【アイテムボックス】や魔法鞄化してある腰鞄にザクっといれとく。


「そう言えば夫人から『セージ様はお茶会に招待して下さらないのかしら?』というお茶会に招待してほしいという催促的な言葉を掛けられたっス」


 身も蓋もない言い方だけども。


 それよりもお茶会?

 なんで?


 っていう俺の顔に気付いてかどうかはわからないが、シェヘルレーゼが解説してくれた。


「一定以上の富、ならびに身分を持つモノが義務的に開催するサロンです。開催する側は見栄だったりもするのですが、開催を望まれるということは、セージ様との繋がりを得たい、もしくは招待される確信を持つ者にとっては…周囲に仲良しアピールする、という感じでしょうか」


 最後の方は俺にでもわかるように噛み砕いて説明してくれたのでなんとかわかった。


「義務とかどこぞの貴族じゃあるまいし、やらないよ。しらない人に見栄はってもしょうがないし、そんな事にお金を使うくらいなら農地に牧場作るよ。…あ、牧場…いいね」


「承知しました。後ほど扉を出していただけるのなら早速牧場を作ってまいります」


 シェヘルレーゼの忖度具合がエグイ。

 アーシュレシカも忖度したくてうずうずしている様子を出さないでほしい。


「よろしく。ジャージー的な牛を飼ってミルクを売ろう。そのミルクでソフトクリームとかいいと思うんだ。ソフトクリームの機械あったよね?」


【異世界ショップ】のレベル上げをした際、なんとなく買ってみたやつがあったハズ。


「乳牛をご希望ですね。肉牛や養鶏や養豚、養羊などは如何いたしましょう?それに白雲蚕や黒天蚕などの養蚕、白銀糸蜘蛛なども養蜘蛛して糸類の生産もよろしいかと」


 そこまでは考えてなかった…。

 それと後半よく分からない生き物出てきてるけど。


「あ、うん。その辺は任せる」


「お任せいただきありがとう存じます」


 帰ってきたばかりのシェヘルレーゼだが、夕方からまた農地へ向かうことが決まった。

 翌朝また【聖女の願扉】を開ければお迎え完了なんだけどね。


 ちなみにシェヘルレーゼの言っていたよく分からない生き物の事を聞いたら、白雲蚕の繭からは上質な白い絹糸を作ることが出来るらしく、黒天蚕の真っ黒な繭からは、漆黒の上質な絹糸を作ることが出来るらしい。

 白銀糸蜘蛛はミスリルの糸が取れるらしく、防具を作るのに優れているんだとか。


 どれも魔物だが農地の近辺に生息している魔物なので集めるのは簡単らしい。


 牛や豚、鶏、羊は【異世界ショップ】で買えるのでそこで揃えるとシェヘルレーゼは説明してくれた。


 なんかすごいね、って思った。

 普通に俺のしょうもない思い立ちから出た農業に真摯に向き合ってくれることに感謝しかない。


 俺の思いつきで振り回している感はあるのだが、なんだかそれでも嬉しそうにこなしてくれるんだよね。シェヘルレーゼもアーシュレシカも、その配下達も。


「あのー、ハルト様もマモル様もお茶会やパーティーを開くことなく旅に出られたので、セージ様だけでも、せめて昼のお茶会ぐらいは開いてほしいと他の貴族の方々からも催促されてるッス…」


 申し訳なさげにシロネに言われると、なんだか開かないわけにはいかない気がしなくもない。


 かといってお茶会なんてまともにしたことないし、招待されたこともないから開催しようがない。


 ってことを言ったら、


「ハー様の所に行った時、アレはお茶会ッスよ?それに皇帝陛下にお昼お招きされた時も、あれもお茶会名目ッしたよ?」


 え?

 嘘だよね?!


 ハーちゃんちは…なんとなくそうだったかも?

 と思わなくもないが、コニーは違う。


 だって俺が昼食用意したじゃん?


 でもそういう名目を持ってシロネ達の身分証をもらえたからいいのか?


 でも久遠の騎士あげたし…。


 うん。

 やっぱコニーのトコだけ納得いかないな。


 という結論に至ったが、だからなんだという話ですね。


 とりあえず、ハルトとマモルに外回り任せてる分、ここで俺が少し頑張った方がいいのか?

 それで少しでも二人に貢献できるならいいか。


「そうだったんだ。わかった。お茶会しよう。ここでの作法と日本とアメリカンなホームパーティーの混合技でお茶会しよう。縁日屋台出したり、遊具出したり、立食式でたくさんの種類の軽食やプチケーキ出したり、バーカウンター作って軽いアルコールを提供したり、ドリンクバーも作ろう。見た目も華やかで賑やかにしてしまえば色々誤魔化せるかもしれないし」


 最後に本音をぶっちゃけた。


 それだけ用意しまくれば、軽い挨拶程度で済むんじゃないだろうか。


「「承知しました」」


「貴族街の中心にある邸宅でのお茶会を準備いたします。招待客をリストアップし、招待状を用意します。フリーの招待状もご用意しますので、お知り合いにお配り下さい」


「配下も足りないようなので茶会に必要とされる数を出します」


「じゃぁ自分は関係各所に茶会を開く旨を報告に言ってくるッス」


 テキパキ決まっていった。


 え、誰もツッコミいれないの?

 縁日だよ?アメリカンだよ?

 いいの?このままだとホントに破天荒なお茶会なっちゃうよ?!






 というわけで、その日から2週間が過ぎまして本日、ついにお茶会の日を迎えてしまいまして。


「混沌だな」


「随分と陽気な混沌ッスね」


 思った以上に挨拶は早く軽く済んでしまい、招待客は皆縁日風屋台めぐりや軽食やお菓子、珍しい酒や遊具に夢中。


 遊具は基本子供向けだったのだが、大人が幅を利かせて我先にと遊んでいる。

 昭和なレトロ系やアクティビティー系やゲーセン系などを取りそろえてみた。


 縁日風屋台では目の前で調理され、香ばしい香りや甘い香りに引き寄せられ、料理が出来ていく様を至近距離で興味深く見つつ、ひとつひとつ注文する貴族達。

 自分で注文するなんてほとんどないので新鮮らしい。


 焼きそばやタコ焼き、焼きトウモロコシ、フライドポテト、フランクフルト、アメリカンドッグ、今川焼など熱々なものを熱々な状態で食べるというのもいいらしい。


 それにタピオカ入りドリンクや、バナナジュース、ソフトクリームやわたあめ、りんご飴やベビーカステラも見た目と味のギャップに驚きつつも喜ばれた。


 射的や金魚すくいなんかも人気だ。

 …大人たちが遊具に夢中なので、こちらに子供たちが集中している模様。


 疲れた人用に用意したソファーや椅子を並べている場所を何箇所か作り、その中でも高級高機能マッサージチェアが20台くらい置かれているブースがあり、そちらも人気が高い。

 とくに高齢の貴族がとりわけ気に入ってずっと座っている。


 意外にウケがいいのがカードマジックだった。

 魔法を見なれている世界なのでどうだろうと思ったが、魔法も使わないでカードが消えたり、まさかと思うカードが目の前にあったりするのを不思議がりつつ興奮してみていた。

 俺もそれは普通に不思議だと思う。


 あとはシロネの歌も素晴らしいという評価をたくさんもらった。


 数日前にシロネが歌唱を披露してくれることが決まり、衣装を用意するにあたってシロネが女性と判明。


 物凄く驚いた。


 シロネも「やっべ、バレた」みたいな顔と申し訳なさそうな顔と、これからどうしようみたいな複雑な表情を浮かべていたが、俺が普通に受け入れたことでほっとした様子だった。


 一応は女性であることにずっと気付かずに申し訳ないと謝りながらも、これからも普通に今まで通りに接するつもりだということを言った。


 コニーの時と同様に、あとから態度は変えられない。


 そしたら何故かとても嬉しそうにされたのでちょっとシロネが心配になったのはしょうがないことだと思う。


 てな訳で、煌びやかで美しい舞台セットの上で豪奢な舞台ドレスを身にまとい、下品にならない程度にアクセサリーをつけ、シェヘルレーゼに化粧を施された姿で堂々と歌うシロネはとても神々しく見えた。


 歌うシロネのバックで楽器を演奏している配下ドール達もなかなか目立っていた。

 みたこともない楽器に聞いたこともない曲に曲調。

 それに重なるシロネの優美な歌声は多くの貴族を魅了した。

 最後の方にはJ-POPなんかも歌っていたりしたのはとても興味深かった。


 そして主催者という肩書を持つ俺はコニーと夫人に捕まっていた。

 一昨日たまたま商業ギルドでばったり再会したゾーロさんを道連れに。


 商業ギルドへ野菜や肉や卵、牛乳、チーズ、麦類や糸などを種類を増やしてまた大量に売りに行ったら、ゾーロさんにばったり会った。


 近況報告をしあい、お茶会を開くことになったから良かったらどうぞとゾーロさんにフリーの招待状を渡したらとても喜んでもらえたと思ったんだけど…。


 今日来てみて物凄い数の貴族がいて、そのうえよりにもよってあの時騎士として一緒に旅をしたコニーが皇帝陛下と知って、そしてその皇帝陛下なコニーまでいたので一瞬にして顔を青くし、今もぶるぶると震えているゾーロさん。


 ゾーロさんの息子さんのミケロくんも一緒に来たのだが、ティムトとシィナが気を利かせて一緒に屋台めぐりや遊具で遊ぼうと誘い、一緒にどこかへと行ってしまっているので、現在ゾーロさんが頼れるのはとても頼りない俺しかいない状態。


 コニーと夫人には、中央大陸からこの大陸までゾーロさんには大変お世話になったということを俺は頑張って伝えた。

 俺にしては結構長くしゃべったハズだ。

 ゾーロさんの商売の事もアピールしたし、きっと大丈夫だろう。


 ゾーロさんはこの大陸に来て一昨日俺と再会するまで、北大陸帝都支店を作るのに奔走し、忙しくしていたらしい。

 やっと一段落着いたところだと言っていた。


 ゾーロさんも俺達の事を気に掛けていたらしく、情報を集めていたようだが、俺達が貴族街にいるという情報を得てからは気後れしてなかなか会いに行けなかったと悲しそうな顔で言われた。

 だからこそせめてもの埋め合わせとして、貴族集まるこのお茶会に招待したんだけど…。


 この国の貴族と繋がりが出来ればいいなーと。


 貴族どころか皇族と繋がりが持てそうだね!

 頑張れゾーロさん!


 あ、ダメだ。たぶん立ったまま気絶してる系だ…。


 …あとで格安でハチミツ卸そうと思う。

 あと魔法鞄も破格値で売ってあげよう。



 それにしても、ゾーロさんじゃないけど、貴族が多すぎて怖いな。

 帝国の性質上多いのは仕方ないけど、これでも半分も招待してない。


 寄り親という地方の貴族のまとめ役みたいな貴族しか招待していないのだが、そのほとんどが参加するとは思ってもみなかった。


 高位貴族だけしか呼んでなくとも、その周囲には従者として下級貴族の系譜の人もいるのでこれでいいとシェヘルレーゼが言っていたから油断してたけど、多すぎる。


 もっと俺達に害の無さそうな人だけを呼んでくれても良かったのに。


 明らかに敵意むき出しの人や、素行の悪い人がいたりするんですけど。


 てかなんで会ったこともなく、素性も怪しい俺の招待を受けたんだろう?

 基本貴族とは関わらないでこれまで過ごしてきたのに。


 と思っていたら、


「この館はここ最近有名だったからな。この屋敷の主人を値踏みしてやろうという輩が多いんだよ」


「格安で高品質の聖水を卸していることも、ネイルサロンのオーナーということも知られてますし、そこで興味を持たれた方も多いと思いますわ」


 という答えが来た。

 俺の心の声が出ていたらしく、コニーと夫人が反応してくれた。


「それにしても派手な茶会を催したものだな」


「お茶会と言われれば疑問がわきますけれども」


「こうやってエライ人達に付きまとわれるのが嫌だから目移りするような物を用意しまくったんだよ。二人も楽しんできたらいいのに」


「こういう場所で皇帝である俺がはしゃぎ倒すわけにはいかない。その為に主催者であるお前に我々を会場案内させている」


「ふふふ。少なくとも陛下がいらっしゃれば変な輩からは声が掛らないのですから観念して案内役に回られるのがよろしいですわよ?」


「なるほど。……ありがとう」


「んお?やけに素直だな?」


「あら陛下。セージ様はいつだって素直で誠実な方よ?」


 夫人には後でもう何粒か若返りの実を進呈しようと思う。






 まぁ、そんな感じでお茶会という催し物はある意味としては成功という形で終えられた。


 ハーちゃんちも来ていたんだけど、コニーがずっと俺のそばにいるせいでハーちゃんははじめの挨拶以降は俺と接する機会はなかった。


 こういう場ではきちんと淑女なハーちゃんは大人しくクマのぬいぐるみをギュッと抱いてはじめの方は涙をこらえ我慢していたが、周囲の物珍しい屋台や遊び場にそのうち夢中になって遊んでいて、帰るころには侍女のメリッサの腕の中で眠っていた。


 会場から帰る人達には主とか従者に関係なく、全員に海底ダンジョン産の万能傷薬(深めの傷でも一瞬で治る。ペットボトルのキャップぐらいの容量しか入らない容器に入れた)を中身が見える感じにラッピングして、ここの館の管理を任せているユネとユオの手からお土産として渡した。


 当初は無難にワインとチョコレートをお土産に、という発想になってたのだが、そう言えばこの大陸の貴族には飲食物のお土産は地雷だったことを思い出し、無難な傷薬にしておいた。

 しかも小さい容器に詰め替えて。


 ダンジョンで拾ったままの容量を渡しても良かったんだけどシロネに物凄い勢いで止められた。


 回復術師や薬師の仕事が減る事もそうだが、小分けして転売などされたら目も当てられないとかなんとか。

 キャップ1杯程度なら、大きい傷に1回使ったら終わりだし、小さな切り傷だったら数回使えるくらいで丁度いいという判断でそのくらいにしたらしい。


 そのシロネの判断は正しかったようで、後日、この万能傷薬が裏で高値で売られていたらしい事をコニーから聞いて、シロネの言うことはこれからもしっかり聞こうと心に決めた。


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