154 生物型ダンジョン6 あーでもこーでもなんでもない、比較的健全な、たぶん年相応の定期的な悩み。こんなところでぐだぐだしている場合ではなさそうなんだけど。
誤字報告ありがとうございました!
俺の前には汗と涙と鼻水を垂らしながら正座して俺を見上げ、懇願する友人が2名。
念のため言っておくけど俺はこんなことしろとか言ってないからね。むしろ俺が悪者みたいになるからこーゆーのやめてほしいと言った後だからね。
「ぼうががばば言いばでん。結界がげだぼじでぐだだい」
もうわがまま言いません。結界かけ直してください、って言ってるんだよな?
「でも少しだけわがままが許されるならー、環境だけの結界とかかけてくれたら嬉しいでェす」
……。
だからあれだけ確認したのに。とか言わないよ。
わがままじゃん! とかも言わない。
こういうことってさ、ほら、お互い様だから。
でもさ、一応確認しておく。
「もう少しこのままにしてたら二人ならきっと耐性スキル取得できそうだと思うんだけどそういうのはいいの?」
「「!!」」
二人の心の揺れがはっきりとわかった瞬間だった。
俺ならスキル取得より速やかなる快適さを求めるけど、異世界にはまっている二人には響く言葉だったらしい。お互いに目を見合わせて励まし合うように頷いている。そこにかっこよさとかは見当たらなかった。
翌朝。
朝の日差しとかは全くなく、途中、照明担当のマモルが臭気に呻いて魔法どころではなくなったときにシェヘルレーゼが照明係を代わり、一晩が明けた。
「明け方ごろにようやく耐性スキル生えた。すげーくさい」
ちょびっとだけ涙目でハルトが安心したように言った。
マモルも同じくらいに生えたらしい。
勇者と賢者にしては耐性生えるまで長かったな?
「しかも耐性ついても臭いものはくさい……ひどい。くさい」
うっわ……。
「臭気耐性って上がりにくい上に地味にきつい。耐性レベルを上げるためにずっとくさい」
「精神苦痛耐性の二段目が伸びるみたいだからやめるにやめられないんだよねー。あー、くさい」
嫌なサイクルができあがっている。
職業極まるとこうゆうことになるんだー。妥協を許さなくなるんだね。
てか二段目ってなに。
俺のスキルにそういう項目ありませんが?
「スキル上げって大変なんだな」
「お前、相変わらずこういうの人ごとだよなー」
もう俺の知らない次元の話だからな。根に持とう。二段目。
でもなんかすぐ忘れそう。
「レベルとかスキル上げるのハマらない? 結構楽しいよ?」
「そうか? いつの間にか上がってるって感じだし、それでいいよ。俺の場合、上げてもあんま役に立たないやつばっかだからなー。あ、でも【異世界ショップ】と【アイテムボックス術】は便利かー」
レベル上げなんてもうどうでもいいと思っている。
俺はレベルだけは上がるんだ。内容がほとんどともなわない。そんなレベル上げなんて全然楽しくないよ。レベルの数字以下のHPとかMPって見るのツラいまである。現在現実から目を背け中なんだよ。
「【アイテムボックス術】ねー。アレ頻繁にアイテムボックス使わないと生えてこないやつ。それのレベルが結構上がってるっぽいセージってどれだけアイテムボックス使ってんのさー」
「お前らみたいに大物の魔物回収とかに使ってねーからな。こちとら種粒一個レベルからの使用だから」
あ、大きいやつも入ってるっちゃ入ってる気もしなくもない。
なんか……農地あたりででっかいのゴロゴロしてた気がする。
ダンジョンでも大木まるごと収納とか。
「いえ、砂粒単位でございます」
アーシュレシカから訂正が入った。
種粒以下があった……。
「というか、主のスキル使用を《許可》された久遠の騎士にもその主のスキルを使用させればそれだけスキルレベルが上がりましょうに」
なぜかシェヘルレーゼはマモルやハルトに微妙にマウントとるんだよな……。
なんて恐ろしいやつなんだ。
俺の性格を多少反映させたとしても俺、二人にマウント取ろうなんて思ったことないのに。久遠の騎士の個性、ということでいいんだよな?
久遠の騎士の説明書とかダンジョンに落ちてないかな。
まあたぶん読まんけど。
うん。
たぶん。
「「なん、だと……!?」
勇者と賢者、すごいシンクロすんじゃん。
でも、え、マジ?
自分の久遠の騎士が使用許可した自分のスキル使うと久遠の騎士が同スキル使った分の経験値みたいなのが入ってくるってこと!?
俺もハルト達同様に遅れてきて「なん、だと……!?」状態になる。遅れて理解した手前、声には出せなかったけど。
豪農がここにきて生きてきた感じ? 全然違うか。
農地では初期の収穫くらいしかシェヘルレーゼは参加してない。あ、でもそのあとすぐに収穫したいから【草木魔法】とか使ってたって言ってたような。
今はスキルブック使用で別で【草木魔法】を取得した配下久遠の騎士任せだけど。
スキルが上がるタイミング……北大陸から西大陸へ渡るときの航海で難破っぽいことがあったときのあの島のダンジョンとダンジョン都市のコインダンジョンに入ったとき、アーシュレシカかシェヘルレーゼとどっちかとダンジョン入った。
銅貨一枚、魔石の欠片一つだってめざとく見つけて回収してきたのはそういうことだったのか!
あとアーシュレシカもシェヘルレーゼもものすっごい買い物して【アイテムボックス術】を使ってる。他のスキルもなにかしら使ってくれててレベルもきっと上がっているのだろう。
でもやっぱり俺にはあまり使いどころのないスキルばかりなのでイマイチありがたみが……。
「さすがのセージも気づいてなかった感じ?」
「でもコイツ反応薄すぎねえ?」
「いや、驚いたよ、普通に。でもよく考えたら俺のスキルあんま使い道ねーな、と」
「あー。相変わらずスキルを持ち腐れてるのかー」
「お前がもっとテンプレに積極的ならそのスキル全部チートだと思うぜ?」
テンプレ……。
「きょとん、だ、と……?!」
「う、うん。これはマジなやつだね。この世界で草木魔法とかマジチートだし、無属性魔法も日本人の知識あったら無双に近いことできるよね」
ああ、うん。そう、なんだ?
し、知ってるよ? 異世界系のマンガもラノベも読んでたから。
それにこの件はもう何度か考えた。そして諦めてる。
そもそも俺はここに永住するわけではない。
ほら、俺は母さんや妹がいる日本に帰るって決めてるから。
ここに根ざそうとか思ってないから。だからそう、テンプレとかしている場合ではないんだよ。ちゃんと最後までできるやつがやったらいいんだ。
そりゃちょっとは迷走していろいろやろうと思ったさ。その結果が現在である。
だからもういいんだよ。
商売とかはほら、シロネが得意だということがわかったから任せたし、治癒魔法チート? 蘇生もできちゃうよ、ってやつ。
でもこれは「コレジャナイ」感があるんだよなー。最終的に崇められるのが微妙。
かといって正体隠して辻ヒーラーもめんどくさそうだし、下手したらなんらかの宗教ができあがりかねない。いや、既にシェヘルレーゼあたりを少し怪しんだ方がいいかもしれない。
……チラリとシェヘルレーゼを見る。
めっちゃ目が合った。
もちろん俺はすぐに目をそらした。
「あー、ほら、俺、不器用じゃん? 無理よ?」
「「え?」」
「お前ほど器用なやついなくね?」
「なんでも平均以上に作業的にこなせるよね?」
作業。なんだそのロボみたいな人。
「とにかく、俺チートでほいほいやる系は失敗する未来が見える。失敗というか、新たな勢力を創りかねない。創ろうとは思ってないんだけど、ダンジョン都市までに来る間にいろいろテキトーかましちゃって」
「テキトーかますって……」
「子供たちに頼み込まれて聖者ムーブしたんだよ。そのままほったらかしにしてきたから今頃どうなっているのかわからない」
知ろうとしてはいけないと確信がある。
「ほったらかし、て」
「蘇生させてもそこから生活大変じゃない?」
「生活はわかんないけど、住人の分をまかなえて多少おつり出るくらいはその土地その土地で聖水散布して食える野菜や穀物植えたし、二周くらい刈り取りしたから一冬越せるくらいの在庫はきちんと抱えられてるはずだよ」
「異世界やりっぱなしあるあるじゃねえか……」
勇者がレベル上げのために魔物倒したら倒しっぱなしで周囲になんたらってやつ?
うちはそんなもったいないことしないよ。
魔物は倒したら【異世界ショップ】で換金できるサイコーの産物だ。ぐちゃぐちゃでもなぜか査定が落ちない優れものなんだよ。
まあでもこれってテンプレ一つクリアだよね。
やな感じのほうの……。量産型黒歴史風味だよね。
思い出すと涙出るからちょっと斜め上見とこう。
「ばーちゃんが統治するまで当面の配下久遠の騎士のサポートがあるよ」
「久遠の騎士の使い方が行政……」
「え、北に続いて西まで手に入れたの?」
なんか過大な評価通り越して失礼な感じがするー。
一応その後の食料だけは考えたんだ。それだけでも俺にしては上出来じゃないか。
食物育てたのもあるけど、盗賊とか盗賊まがいの貴族が何をするかわからないから配下久遠の騎士置いた。あとはその久遠の騎士が考えてなにかしらしてくれるから大丈夫なはずなんだよ。たぶん。
「んなわけあるか。俺が大陸手にしたらアレですよ。全力で聖水スキル使ってきれいさっぱり浄化して魔物のいない世界にしてやりますよ」
大陸飛び越え世界に届け、聖なる光よ!
なんてね。
「「ひえ……」」
なぜか勇者と賢者がドン引き通り越して涙目になって震えた。




