151 生物型ダンジョン攻略3 赤の若君
誤字報告ありがとうございました!
ええ。あのシュラマルさんでした。
こないだまでマモルの奴隷さんしてくれていたあの彼でした。
マモルはシュラマル氏を奴隷から解放してからはそれっきりだったらしい。
マモルから感謝と労いの言葉を受け奴隷から解放されたシュラマルは、一度奴隷になった身だが、己の無事を世話になった人たちに知らせるため、故郷である東大陸に行く途中だった。運良く東大陸行きの商船に乗ることができ、運悪くこの生物型ダンジョン、ヴェルファンドラに飲み込まれ今に至る、と。
「いやいやいや、端折りすぎじゃない? ここまでこれだけの人数が生き残れたのはシュラマルが魔法鞄に入れていた大量の魔道具や魔法薬、食料のおかげで、それらのほとんどをこの人たちに使用したりあげたりして、食料に至っては自分は若返りの実で食いつないでいたんだよ。若返りの実をおいそれと他人にあげて無駄に幼児化してもここでは危険でしかないし、アレだから自分で消費してなんとか生き残って……ってなんで僕が説明役ぅ……」
そりゃ賢者なので甘んじて説明してほしい。なるべく簡単に。俺にわかりやすい感じに。
俺もあまり話を聞く方じゃないし、シュラマルも話が得意な方じゃない。
俺もシュラマルもじゃない方なのだ。仕方がないのだ。
「大量の食料ってアレっすよね。セージ様がやたらたくさんくださったおにぎりとかッスよね」
ぼそりとシロネ。
なにその「実はちょっと迷惑に思ってたけど思いのほかこんなところで役に立った」みたいな表現。
お前らおにぎり好きだろ? おやつとか言いながらすげー食ってたじゃん。めっちゃおにぎり好きなんだなってこっちは思うじゃん。おやつ切らさないようにしとこうって思ってですね、せっせと渡していたわけですけども。
それにシュラマル氏、おにぎりの他にも食料持ってましたよね? お小遣いでけっこう海産系の乾物買ってましたよね? ほかにも討伐したオークのお肉とかめっちゃ持ってましたよね? もちろんマモルが奴隷から解放するに当たってそれなりの魔道具や日用品、食料、金銭を餞別にお渡しされていたと思うんですけど。決して俺からのおにぎりがすべてではないと思います。
「ああ、それももちろんあるが、菓子類もあったからな。それでなんとか今日まで食いつないでこれた」
「それもセージ様がもりもり分けてくださったやつッスね」
ファミリーパックの個包装のお菓子。
ちまちま分けるのが面倒で箱買いしたやつ箱ごとゴソっと分けた記憶、一応ありますが。
「あー、あれな。セージが一時期スキルのレベル上げに『めっちゃ買ってたやつシリーズ』じゃん。マーニやシロネ、シュラマル、チビたちがやたら喜ぶから調子こいてめっちゃ配ってたやつ。あのときのいい迷惑がこういうところで役に立つんだなー」
……いい迷惑。
うん。なんとなく「迷惑かもしれないけど」とか気づいていたけど気づかないフリして、おやつのお裾分けを口実にレベル上げとか、お裾分けがしたいのかレベル上げがしたいのかよくわからない本末転倒なことやってましたけども。
「あのー、それで若様、その方たちは……?」
ここまでずっと黙ったまま俺たちとシュラマルとの再会を見守ってくれていたとても忍耐力のある人たちの代表がここでやっと話しかけてきた。
『若様』ワードに周囲を見渡すと、セーフティーエリアの先客組のみんながシュラマル君に視線を向けていた。
その視線を追って俺たちの視線もシュラマル君に行き着く。
改めて見るシュラマル君は、あの『シュラマル』氏を若くした感じだった。
なるほど。だから「若様」か。今のシュラマル、若いもんな。
「戦争奴隷となった私を護衛として買い、護衛の役目を終えると速やかに奴隷から解放してくださってな。とても世話になった方々だ」
シュラマルの説明にマモルとシロネがジト目を向けた。
マモルは「説明が不足だし微妙すぎる」と頭痛そうにしていて、シロネは「あの人護衛、してたッスかね?」とシュラマルの役目に対していた姿勢へ真剣な表情で疑問を持っていた。
……シュラマルってそんな感じのやつだったっけ?
てかシュラマル氏、速やかどころかすんごい年月をマモルと過ごしてなかったっけ? マモルのスキル、【ミニチュアガーデン】の中(中での1日が外ではたった数分という便利スキル。時間調節も可能とかいうやつ)で。
アレこそいい迷惑そうって思ったんだけどシュラマルからすればそうでもない感じなのか。なんという大らかさだよ。
「セージ、お前が他人に興味ないのはわかるけど、こーゆーとき不思議そうな顔するくらいだったらちゃんと普段から他人に興味持っとけよな」
ぽかんとしてたらハルトにポンと肩をたたかれながらそう言われた。
とても上から目線。すがすがしいまでのやつ。
でもちょっと悔しいので反論しとく。負け犬の遠吠え感が否めない感じにはなるけど、やむなし。
「おいおい、何言ってやがる。お前、俺よりもシュラマルと関わってねえじゃんか。自分の取り残された感を俺になすりつけるなよな」
ゾンビ映画で一番にやられる小物みたいなセリフ感しかない返しになってしまった。
俺は居残り組とか船から落ちた組でシュラマルに護衛してもらうこともあったけど、ハルトはマーニと一緒か、慣れてくると一人でさっさとどっか行って魔物狩ってきたり幼女拾ってきたり、犬のような毛玉……毛玉のような犬? ……犬? 拾ってきたり、冒険者ギルドのクエストしたり、それに中央大陸を出てからはシュラマルとほとんど関わってないよね?
ってな視線をハルトに向けると、笑ってごまかされた。
「まあアレだ、俺とお前は仲間だってことだよ」
これがアレか。なあなあでごまかされたというやつか。
しかもしょーもない理由のやつで!
いや、ここはむしろしょーもない理由での方がダメージは少ないからいいのか。そういうことにしておこう。
俺とハルトが空気読めない感じにじゃれている間、シュラマルの短い説明を丁寧に読み解いてマモルが周囲に説明、さらにシュラマルたちの状況なども、ここにいたシュラマル以外の人たちからいろいろ聞いたマモルたち。マモルたちというか、マモルとシロネ、カジュたち文官エルフとハルトのパーティーメンバー(マーニ含む)だけだけど。
海エルフも子供たちももう自由にセーフティーエリアをものめずらしそうに歩き回ってはしゃいで……、うん。自由だ。
久遠の騎士達はセーフティーエリアの出入り口に陣取って安全の確保をしつつ、多分こちらの会話はしっかり聞いているだろう。
このセーフティーエリア、改めて見ると結構広いし、端っこの方、上からパラパラと何かが落ちてきている。船の残骸だったり、骨だったり、いろいろ。まるごと全部落ちてくるわけではなく、ランダムっぽい。
そういう落ちモノの中で使えそうなのを拾ってここでなんとか生き延びているのかと、改めて人のいる方を見てみれば、ほとんどシュラマルが放出したっぽい生活用品が並んでいた。テントとかいろいろ。水もペットボトルで並んでたりするし。
マモル達がシュラマル達の話を聞き終わったくらいでふらふらと戻ってきた。
最初からずっと話聞いていましたヅラをしておく。ハルトはさらにキリッとした表情もつけている。上手いな。俺もそれすればよかった。……てかなにその小脇に抱えているマーブル模様のような迷彩柄のような感じのでっかい卵。いつの間に。え? さっき拾った? 変なもん拾ってくんな。あったところに戻してきなさい。
俺たちが何食わぬ顔で戻ってきたところにすかさずシロネがコソっと概要を教えてくれた。
こういうところなんだよ、シロネさん。さすがだよ、シロネさん。
ハルトとともにありがたく聞いた。
「つまりアレだ。シュラマルと一緒にいたヤツら全員を一旦西大陸のダンジョン都市に連れてきゃいいんだろ? ほらセージ、お前ずっと転移扉のスキル使いたがってたじゃん。それ使って西大陸に転移させたがってたじゃん。よかったな、使いどころ見つけたな! この人達西大陸に送り届けてやれよ! ってことでシュラマルはどーする? 俺たちこのままダンジョン攻略進めるんだけど」
……ちがう。そうじゃない。そういうことじゃないんだよハルトくん。
俺がずっと『覚えたての転移扉の魔法を使ってみたいよー、お願いだよー、頼むよー、ねー、みんなー』みたいなわがままを言ってみんなを困らせてたみたいになってんじゃん。
ちがうんだよ。俺はここから全員で一旦このダンジョンを脱出しませんか? と言っていたわけで。
……え、もしかして違くもないのか?
9月15日 TOブックス様より第1巻発売します!




