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140 フラグさん

誤字報告いつもありがとうございます!

 

 宿の部屋に戻って少しぐずぐずしつつだらけていると、


「セージ様、落ち着いているところすみませーんッス。北の冒険者さん達がそろそろ本拠地に戻ろうかというお話なんスけど」


 ダンジョンのときのような作った笑顔ではない、晴れやかに、そして裏のないにっこにこな笑顔でシロネがそう話しかけてきた。

 シロネに悪気はない。嫌味を言ったわけではなく、ただすこぶるご機嫌なんだ。

 よかったですね。雰囲気が開放感に満ちあふれていますね。

 大変でしたよね、お偉いさんに囲まれてあれやこれに奔走してましたもんね。

 ほんと、お疲れ様でございました。

 でも休む間もなくマネージメント業務とは頭が下がります。


「わかった」


 俺はそう言って【聖女の願扉】をひらこうとしたら


「あっ、ここではまずいんで、外のどっか人目のないとこでお願いしゃッス」


 しゃッス。

 ご機嫌だねえ。うん。


 ここでの人目なんて部屋付きのメイドさんくらいしかいないけど、まあ人目っちゃ人目か。

 部屋から出たくないけどしょうがない。やっぱり横着はダメなんだね、ごめんよ。


「おーい、ハルトー。北の冒険者さんたち送ってくるけど、ハルトのメンバーで北行きたい人とか、他にどっか送ってほしいひといるー?」


 部屋から出てリビング的な場所に行き、ハルトに声をかける。


「おー、それなんだけどオレ達も何人か南大陸行きたいなって。他はここでしばらくセージのばーちゃんに雇われる予定なんだわ。まあ、その雇われにあぶれたやつでお前と一緒に南大陸に挑戦したいって話だな」


 そういうハルトの周りには女性ばかりが4人集まる。そのうちの一人はマーニだね。うん。見慣れた人がいてよかったよ。

 って……え、嘘だよね? またハーレムパーティーですやん。


 悲痛な顔でハルトを見る。

 かわいそうな子を見る目最大MAXで見る。


「な、なんだよ」


「……なんでもございません、テンプレ勇者様」


 そう言いながらさっとさりげなく視線をそらし、「こいつもうダメだ」と言わんばかりに悲壮感を漂わせてやる。

 事実、こいつもうダメだと思う。だってマジ勇者してんだもん。あの頃のハルトはもういない。こいつはもう勇者ハルトなのだ。ダメなのだ。なんとなく。……たぶん。


「含みのある勇者呼びやめろっ」


 顔を真っ赤にしながらそう言ってくるってことは、自覚はあるんですね。よかったよ。無自覚だったら手に負えないところだった。危なかったー。


 てか、うん。こればーちゃんのおちゃめな采配を感じる。『勇者といったらコレよね?』とかいって女性が残るように差し向けた感がある。

 遊ばれてんなあ、ハルト。かわいそうに。


 真面目にかわいそう。


「だからっ、そんな目で見るなっての!」


 でもま、もともとハルトは自分が周囲から可愛いと言われる自分の見た目を利用して女子とうまくやってきた類い希なる男子だ。もとからこういうところはあったんだから今更気にすることもないか。うんうん。


「だいじょうぶだよ、はるとくん、ぼくはわかっているから。だいじょうぶ」


 そっと優しくそう言うと、ハルトはがっくりと項垂れた。

 無自覚もアレだけど、自覚あるってのもアレだなあと思う瞬間だった。


 北大陸の冒険者さん達を街の外でサクッと【聖女の願扉】で北大陸の帝都街門前に送り届ける。あまり絡むことはなかったけど、また機会があればよろしくとご挨拶をした。獣人さんや亜人さん達はそれなりに嫌な思いもしたけど、相応以上の報酬をもらってご満悦の様子。ダンジョン都市ではいくつかのダンジョンにアタックし、それなりに稼げたみたいだ。稼いだお金でお土産まで買えたと喜んでいた。あとばーちゃんから追加報酬ももらったらしい。よかったね。


 で、気づいたときには既に出発日時だった。いつの間にか2日過ぎてたよ。

 おかしいな。ちょっと部屋でゴロゴロだらけていただけなのに。


「まあ、準備するようなモノもないからいいんだけどね」


「はいッス。一応この街でお世話になった方々には街を出ることにしたと昨日中に挨拶まわりをおわらせたッスよ。あとダンジョンで遊んでいた子供らも回収してきたっス」


 シロネさんはしっかりお仕事をしてくれていたみたいっス。

 そういえば昨日、シロネとヒューイを見なかった気がしないでもない。あとハルト達も見てなかったような……? ハルトはハルトで挨拶回りでもしてたのかな。コミュ力勇者だから冒険者仲間とか知り合い多そうだし。


 宿を出て、ばーちゃんとの待ち合わせ場所に行く。

 ダンジョン都市には港があり、そこで待ち合わせしていた。

 着いたらなんだかたくさん人がいた。近づきがたく、見なかったことにしたい感じのヤバそうなのもチラホラ。

 その集団の中にいたばーちゃんが俺達に気づいて俺の近くまで来てくれた。


「せーちゃんおはよ。いい船出日和ね」


 うっすら曇ってますよ?


「あ、うん。おはよ。ずいぶん人が多いね」


 天気には触れないでおいた。

 あとばーちゃんの背後に執事のような格好をしたアイラがいるのもあえてスルー。きっとそういうことなんだろう。

 助けてほしそうな目でこっちを見るんじゃない。


「ええ。船乗りと外交要員ね」


「船乗り多くね?」


 ざっと数十人。

 え、数人って話じゃなかった?


「……どうしてもって聞かなくて」


 そっと目をそらしながら言うばーちゃん。

 女王陛下の言うこと聞かないって手に負えないじゃんか! てか明らかにやっかい者を押しつけてませんかねえ?

 めっちゃ楽しそうにざわざわしている、船に乗る気満々な乗組員になりたい人たち。……さっき見なかったことにしたいと思った人たちだ。


「船乗り、そんなにいらないよ? シェヘルレーゼたちいるから操船は間に合ってるし」


 彼女たちのことだからきっと豪華な客船とかちょっとした島くらいありそうな大きさの戦艦で行くんだろうし。その操船となると専門知識を身につけた久遠の騎士じゃなきゃねえ?


「まあまあ、そんなこと言わずに、ね? 船には海の男がいないと始まらない! とか、海が、南大陸が俺を呼んでいる! とかよくわからないこと言って理由つけて南大陸行きの船に乗ろうとするのよ。拒否すれば密航しかねないから仕方なく人数決めて乗せてしまおうかなって」


なにその「乗せてしまおうかな」って。やっぱやっかいばらいだよね?

 てかいったいどれほどの人数に決めたんだよ……。


「うーん。こっちの世界の船じゃないから彼らいてもなー」


 そう、奴らは自称海エルフの人たち。そんな彼らを悲しい目や冷めた目で見ている数人の外交要員の人たち。どちらも同じエルフ。共感はなさそうだ。


「おねがーいっ。責任や管理は外交員に一任するからーっ、ね?」


 え? 聞いてませんけど? みたいな驚愕の顔でばーちゃんを見る外交員さんたち。

 ばーちゃんに無茶振りされてる。とってもかわいそう。

 てかその中に見知ったエルフがいた。牢屋仲間だった少女に見える年上エルフさんだ。

 一瞬目が合うけどそっとそらし、


「なるほど。そういうことならわかったよ」


 と俺は答えるのだった。




 アーシュレシカが大型クルーザーを出し、


「今回乗る船は大きすぎてこの港には出せません。なので、沖に出たら乗り換えますのでまずはこの船にお乗りください」


 と声をかけると、海エルフ達の歓声があがる。テンション爆上がりだ。

 それから船長争いが起きる。もう既にぐだぐだだ。


「あんまりうるさいと置いていきます。船長はわたくしです。異議がある方はお帰りください。ご納得いただける方のみ乗船を許可します」


 シェヘルレーゼの冷ややかな声でピタリと争いが止まる。

 そして粛々と船に乗り始める海エルフたち。船に乗れるだけでも嬉しいのか、ニヤニヤが止まらないようだ。

 そのあとをすまなそうな顔で船に乗り込む外交要員のエルフさんたち。そして俺たちが最後に乗……ん?


「ちょっと待て。なあハルト。そいつは……?」


「ああ、こいつ? なんか一緒に行きたいっていうからさー。親も家族もいなくて行き場がないから一緒に連れて行ってほしいって必死に言うもんだからさ。ははは」


「はははじゃねえ! このテンプレ勇者! テンプレすんな!」


 つい全力でツッコミを入れてしまう程度には「あーあ」感がすごい。あと「やりやがったな」という思い。油断しちまったぜちきしょー!

 そうだよね。勇者ってそうだよね!


 ハルトの後ろに隠れるようにしていたのは、亡国の転生幼児だった。


「うー。どうしてもお前達と行動をともにしたかったんだ」


「……」


「まあいーじゃねーか。オレがちゃんと面倒見るからさっ。てかたぶんこいつお前追いかけてきたみたいだぞ?」


「そうねえ。せーちゃんのスキルでこっちに来る一団にこっそり紛れてこっちに残ったみたいよ? どうしてもせーちゃんのそばがいいんですって。いいじゃない、せーちゃんの結界とハルトちゃんの勇者パワーがあればきっと大丈夫よ」


ウィンクしながらサムズアップするばーちゃん。テキトー感ったらないよな。

 で、勇者パワー。

 この勇者パワーってやつでこの因果なのかなって思うわけなんだけど、どうよ?





「じゃあせーちゃん、気をつけていってらっしゃいな。何かあったらすぐに帰ってくるのよ? おばーちゃんはしばらくこの街にいるし、もし急用で国に帰らなきゃならなくなってもうちの国の文官や騎士を常駐させるからすぐに連絡つくと思うから」


「うん。わかった。それじゃいってくるね」


 そうして俺たちはいよいよもって南大陸に向けて出発した。

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