135 シロネ8 商談はダンジョンの中で 前編
誤字報告ありがとうございます!
シロネです。いろいろあってちょっと前までソロでダンジョン攻略を覚悟しておりました。
率先してダンジョンに入ったわけではないですよ? 不可抗力です。人間の偉くて……偉そうなおっさんがなんか怒っちゃって。そしたら足下に急に大穴があいて座っていたソファーごと下にヒューンしてドシャですよ。びっくりしました。ヒューンの時間が少し長かったですが、壮大な落とし穴と考えればまあ。
どうりで安っぽいソファーだと思ったんですよねー。
あとワタシが獣人ってのも相手方が気にいらなかったようで。そういうのはもう慣れっこなのでスルーしたらそれでも怒っちゃった感じですね。逆ギレというやつです。
こちらもアリストリオ商会さん達を逃がすのにちょっと時間稼ぎついでにおちょくっちゃったのも悪かったとは思うのですが、あんな高いところから落とすことはないと思うんですよね。
無事だったのでいいですけど。
これもセージ様のおかげです。以前のダンジョンで上がったレベルもそうですけど、無造作に渡されたダンジョン産のゴッズ級アクセサリー類の効果もありましたね。
『シロネも商人なんだからゴテゴテしとかないとな』
とか言いながら、たくさんアクセサリーを渡されたときはそのセンスと正気を疑いましたが、なるほど。こういうときのためだったのですね、と目からウロコが。
違いました。これ、目から出た汗ですね。
一人でダンジョンとか心細すぎます。ワタシは商人であって冒険者ではないのですよ?
冒険者ではないですがダンジョン踏破経験は何回かあるので多少の小慣れはありますが一人は寂しいです。
一応アーシュ君(※シロネはアーシュレシカをアーシュ君と呼んでいる)たちに連絡は入れたのでそのうちなんとかなるとは思うのですが、それまでは一人です。
こんなの久々ですね。セージ様と行動を共にするようになって長時間完全に一人というのはなかった気がします。他人であっても近くに人がいました。
他人……ゾーロ氏、お元気でしょうか。彼は善いカモでした。またお取引したいです。
話を戻しまして、落とし穴の先がダンジョンとわかったのはゴーレムがいて、とりあえず砕いてみたら魔石が落ちてゴーレムだったモノが消えたからです。
びっくりしましたが納得もしました。あの貴族からの呼び出しで結構な数の商人が行方不明になっていると噂がありました。こういうことだったんですね。
純粋な商人ならあの高さから落とされたら命はないでしょう。というか、あの穴の下にはたくさんの家具の残骸や亡骸がありました。そういうことなのでしょう。
「ふう。ゴーレム多いですね。ロックゴーレムはワンパンで砕け散る感じが爽快感あって殴りごたえあります。いい感じにストレス解消になりますが金属系は砕けないのでちょっとストレスがたまりますね」
ひとは完全に一人だとわかると独り言をいいたくなるみたいです。
どうでも良いことを独り言してしまいました。
「そしてここはどこでしょう」
風の通りを感じながら進んでいるので行き止まりは回避できていますが、ここちょっと前に通った感じもしなくもないです。
「左手を壁につけて進めばいつかは目的地にたどり着くって前にヒュー君が言ってましたが……ここはやはり左手を壁から離してこの三叉路の真ん中の道に行ってみましょう」
あのメカ(※シロネはセージがハルトにもらった配下久遠の騎士のヒューイを声に出して呼ぶときはヒュー君、心の中ではメカと呼んでいる)ちょいちょいテキトーなこというときあるんですよね。でもセージ様はなぜかお気に入りなんですよね。メカなのに気遣いできるくせにそこまで賢くないところがいいとかなんとか。セージ様のそのコメントにハルト様はぷんすこしてましたが。どちらもよくわかりません。でもセージ様が楽しそうだったのでよかった思い出とします。
しばらく通った記憶のない道を進んでいますとゴーレムとは違う気配を感じました。
「そっちに行ったぞ! 衝撃に備えろ! ゴーレムが転がった隙に撤退! 撤退っ!」
ほ。
ひとの気配です。
お取り込み中な感じもしなくはないですが、問題ありません。
ワタシのこの孤独に比べたら空気読まずに声をかけて変な雰囲気になることなんて怖くないです。張り切って積極的に関わりに行きましょう。
声のする方へ行くと戦闘中でした。
クラッシュの爽快感があるストレスフリーのロックゴーレム数体と獣人達です。
そのロックゴーレムが地べたに転がり、起き上がろうと蠢いている感じですね。そして戦闘していた人たちがそんなロックゴーレムから遠ざかっていきます。
「あっ、待ってくださいっ!」
「なにっ?! ひとか! クソッ、ゴーレムの向こう側かよ! 待ってろ、今そっちに……っ」
こちらに気づいて迎えに来てくれるようなことを言ってくれてます。
でもロックゴーレムが今にも起き上がりそうになって、お迎えに来てくれそうな方がちょっとたじろいでいます。
「あ、大丈夫です。こちらからお伺いしますので」
複数人の方がこちらに来るより、単独のワタシがそちらに行った方が効率良いです。
「待て! 早まるな!」
「いいえ、待てません!」
ようやく見つけた話せる人です!
逃がしてなるモノか! です!
ガゴシュッ、ガシュッ、ゴスッと通り道に転がるゴーレムを粉砕してゆきます。
乾いた土の塊を潰したときのような小気味よい感覚。それをロックゴーレムで味わえるまでになったワタシのレベル。感慨深いです。
しっかりと魔石を回収して獣人達と合流です。あ、一つだけドロップ品が出ましたね。ラッキーです。ただの岩ですが、セージ様がちょっと前まで石とか岩とか集めていたのでお土産にしたら喜んでくれるかもしれません。
「お、おい、あんた強いんだな」
「名のある冒険者なのか?」
「ここで生きていられるということはそういうことなんだろう」
なんでしょう、無警戒にぐいぐい来ますね。
ダンジョンの魔物以外みな仲間みたいなウェルカム感。
危うい感じのする方達です。
なーんて! ここダンジョンにあってワタシも似たようなモノですけどね! 無警戒に早急なる合流をはかりましたからね! まあ一応ワタシはレベル的余裕があるので大丈夫ですが。
……あれ? なんだか『いるのですよねえ、自分だけは大丈夫だと思っている輩が』とか言ってるシェリちゃん(※シロネはシェヘルレーゼをシェリー、またはシェリちゃんと呼んでいる)が脳裏で描かれているんだけど。気のせいということにしておきましょう。
「あ、いえ」
ここは曖昧な返事と苦笑いを添えておきます。人の振り見て我が振り直せではありませんが、少し警戒をにじませておきましょう。
あれよあれよとここに作ったと彼らが言う集落へと案内されました。
道中のゴーレムはワタシが、それ以外を彼らが倒していきます。
というか、いたんですね。ゴーレム以外の魔物。ゴーレム以外の魔物は食料になるモノをドロップすることがあるので、リポップ時期を見て周回して狩っているとのことです。
「村とか町といえるほどに人が多いですね」
「まあな。ここで生まれた者も多い」
そう切なげに言われてしまいますと返事に困りますね。その表情の意味、ワタシ図りかねます。この村、思った以上にデリケートそうです。
「ここがこの集落をまとめている者達がいる集会所です」
あばら屋だらけの村の中でちょっと大きめのあばら屋です。そこへノックもなく皆で入っていきます。
「長ら、失礼するぞ。新しく来た戦士だ」
いえ、商人です。
「ようこそおいでなすった、若き戦士よ」
ゆったりと微笑んでウェルカムしてくれるまとめ役の人たちの5人。
獣人4人と人族1人が慈愛に満ちた顔を向けてくれる。
「あ、はい。いえ、私は商人です」
商人アピールをしてみたら、その5人と一緒にここまで来た獣人が笑顔で固まる。
そしてちょっとだけ「ん?」みたいな顔をする。
「……戦士よ」
そして言い直してみている。
言い直したってワタシのお仕事は変わりませんよ?
「大丈夫です、ちゃんと商人です」
改めて言うと、ショックを受けた顔をされました。
なぜですか。




