122 ついでだからいっしょにダンジョン
異世界転生・転移組、1人あたりに【異世界ショップ】の使い捨て端末を百枚ずつ、ハルトには千枚ほど融通したところでテント内にいる半数以上が落ち着いた。
一部妖精族信者は落ち着かない様子でこちらをチラチラ見てきはするけども、とりあえずその人たちとはちょっと距離を取っている。一晩寝れば頭が冷えていることを期待しとこうと思う。
ついでに夕食は転生・転移者の希望するものをこちらで用意した。
どこそこの特製味噌ラーメンだとか、世界的有名ファストフードチェーン店のフライドチキンとか、日本で有名な回転寿司のサラダ軍艦だとか日本に住んでいた頃近所にあった喫茶店のナポリタンとかあの牛丼屋の牛めしとか。
それはそれは喜んで食べてくれた。
泣きながら。
異世界人組はそれを見てちょっと引いてた。
ヤバイもんでも入ってんのかと思ってそうだった。
日本人、元日本人が涙ながらに狂喜乱舞しながら食べているものの中で、比較的取っつきやすそうな牛めしをポーターの子供達に出した。
米はおにぎりで慣れているし、醤油の味もおにぎりのおかかとかで慣れた頃だから大丈夫かなーと。
最初はまた初めて見る食べ物に警戒していた子供達。
ちょっと慣れてきた匂いだけど、茶色いナニカが器に入っているのを見て「うええ」っとした顔をしてたけど、俺から出されるものに謎の信頼を寄せるクマ耳兄妹がスプーンで一口食べ、
「お肉? なような気がする!」
と感想を言ったきりバクバク食べ始めたのを見たトラっ子とオオカミボーイも意を決して食べ始めたら止まらず、あっという間にひと丼ペロリ。
クマ耳妹は二杯、他三人の子供達は三杯食べきった。
そして満足そうに腹をさすりながら、でもやっぱり食べすぎたようでテントの床に敷いているラグの上で横になっている。
子供達は薄切り肉を見たことがなかったらしく、見た目でわからなかったようだ。あと出汁の匂いが魚っぽかったのもなんだかわからない茶色い食べ物に見えていたっぽい。
「おー、子供らずいぶん食いっぷりよかったな。ハハッ、腹ぽっこりじゃん」
大の字になってその辺で食べすぎで寝転んでる子供達を笑いながらこちらに来るハルト。
俺達とハルトたちで別れて夕食をとっていた。
ちなみに俺は盛りそばとキノコと野菜の天ぷらを食べた。それを見て日本人組がちょっと悔しそうにしていたのは何故だ。
「見慣れない肉に興奮っぽいぞ」
「なんだそれ」
「薄切り肉もそうだが、たまにもらってた肉はボア系かバード系だったらしい。で、牛っぽいのは食べたことがなかったそうだ」
「それで興奮か! なるほどなー。で、セージ」
「なんだ?」
「ついでだし、明日からいっしょにダンジョン進まん?」
「いいけど、俺たち金貨層で稼ぐつもりだから急ぐぞ?」
アーシュレシカのひく人力車のスピードについてこれるのかしら?
「え、てかお前もしかしてこのへん余裕で移動できる感じ?」
俺の「もっと下の階層で荒稼ぎするつもりですよ」発言にちょっと引くハルト。
「このへんってか、このダンジョンでは無双できる気しかしないな」
面白いのでちょっとドヤってみる。
うざい自覚あります。
「あーー、そうか! そうだよなー、お前にはそれがあったかー!」
俺のうざさに一瞬イラァっとしたハルトだったけど、すぐに俺がドヤる理由に思い至ったようで。
「むしろこれしかないから入れるダンジョンは限られてるんだよ」
「そっか……」
なまあたたかい目で見られ、同情的な言葉をかけられた。
今度は俺がイラァっとした。
自分で言った事実だけどさ!
この見下された感よな!
で、翌日。
「ちょ、おま……」
俺たちのダンジョン移動様式にドン引きするハルトたち。代表のハルトさんからそんな声が漏れた。
「色々あってこれに至るんだよ」
もう俺は人力車に関しては考えることを放棄している。
歩くのダルいし、人力車は見た目(年端もいかない可愛らしいメイドさんが牽いている)の罪悪感さえ目をつぶれば楽で快適。もうそれでいいことにしている。
「ハルト様方の分の人力車もお出ししましょう」
ご満悦のアーシュレシカを見たハルトは何かを察した。
「あ、うん。ありがとう」
人懐こいハルトにしてはよそよそしい返事をした。
そして俺はまたハルトになまあたたかい目で見られた。
今回はそれを甘んじて受け入れた。
ハルト達の分の人力車を出したのはいいけど、「誰牽く」問題がでた……のも一瞬。
アーシュレシカがさっさと人力車を魔改造して連結。それをアーシュレシカがまとめて牽くことで解決してしまった。
仕事が早い。
「じゃねーだろうがよ!」
「じゃあどうしろと?」
「お前の騎士だろ!?」
久遠の、とは言わないのね。
そういえばハルトの久遠の騎士が見当たらないことに今更気づいた。あのロボどこ行った?
「うちは比較的自由なんで。あといつも頑張ってくれてるんで、やりたいって言われたら断るのもアレじゃん。そちらの騎士さんは?」
適当なこと言ってみたけど結構的を射てると思う。
たぶん。
「はあ、もー、理由薄過ぎんだろ、もっとやる気出せよ。うちの騎士は地上待機だよ。お前と入れ違いでダンジョン入るかもしれなかったし」
なるほど。
しかし、やる気かー。
少なくとも今現在はコイン稼ぐ気満々だよ?
またスマホの確認問題をぐちぐち言われそうだったのですまんすまんと適当に謝ってダンジョン攻略? を再開した。
「なあ、これ、攻略か?」
「マップ片手に進んでるし、魔物も結界に当たってドロップ落としてるし、一応攻略の部類ってことにしといてくれ」
「まあ、そういうことで勘弁しといてやるか」
ハルトもなんかいろいろ諦めたらしい。
ハルトのパーティーメンバーは呆気にとられて未だ口をポカーンとあけて代わり映えしない流れる景色を眺めていた。
ちなみに席は俺とハルトとマーニが一緒の人力車に乗っている。
とくに積もる話もないんだけど、皆が謎の気を利かせてくれたんだよ。
そんな感じで1日1層のペースで攻略? をし、ついでに宝箱回収をしていった。
皆にジト目で見られたがこればっかりはしょうがない。俺がサクサク宝箱を見つけまくるんで。皆もそれがわかっているので宝箱は全部俺の収得物となった。
「すみませんね。攻撃系と職業チートが無いぶん、俺の数少ない使える方のチートがこれなんで」
って言い訳したら、なんとも言えないかわいそうな人を見たような顔をされてしまった。子供達以外は皆、俺の残念な職業とスキルを知っているらしい。異世界には個人情報もへったくれもないらしい。どこのハルトだよ、俺の個人情報ばらしたのは!
そんな皆さんの態度でお分かりのように、転移・転生組はもちろん、勇者パーティーに入れるような人達はそれぞれチート級の職業とスキルもちばかりだった。
「わかってる。大丈夫だ。お前には他に……あー、ほら、ちょっとぷふっ、う、浮くスキル、ブハっ、あるじゃんかよ、くくっ」
唯一同情的でないハルトには思いっきりバカにされた。いつかこの勇者に呪いをかけてやろうと思うよ。




