120 コインダンジョン内の快適で高速な移動方法と懐かしみ
れれれれレビューもらえた!
なんかすごい! ありがとうございました!
誤字報告ありがとうございます!
俺はアーシュレシカの提案を即採用したことを早速後悔している。
「思ってた移動法と違う」
想定では自転車だった。
「子供達もいますし、これが安全かつ効率がよろしいかと」
しかしアーシュレシカが出してきたのは人力車だった。
階移動の階段以外に起伏らしい起伏のない、オール石畳なダンジョンだからそれを可能にした。
いや、だったら自転車でもいけるはず。
人力車を出されてすぐに自転車を提案したけど、やんわりと却下された。
理由としては自転車に乗れるようになるのに時間がかかるから。
しかし俺は知っている。
獣人の身体能力を。
子供の柔軟性を。
なのでこの子たちなら五分も掛からず自転車に乗りこなせると断言できるよ。
「人力車一択です」
でも何故かアーシュレシカは頑として譲らなかった。
たぶんだけど、ただ牽いてみたいだけなんだろうな、と思えた。
ヒューイ(ハルトから貰ったロボ型配下久遠の騎士)が馬になったとき、シェヘルレーゼと二人して羨ましそうに見てたもんな。
しょうがないので乗ったさ。
アーシュレシカの牽く人力車に。
三人乗りの人力車だったので、俺の膝に兄クマ耳、トラのこの膝に妹クマ耳、オオカミのこはそのまま乗って出発。
意気揚々と人力車をひくアーシュレシカはご機嫌だ。
アーシュレシカの視界に【聖女の輝導】を指定して目的地までの光の道が見えるようにした。
迷いなくガンガン突き進む。六層にはもう用はないから七層まで最短距離で移動。
現代日本製の人力車の乗り心地はとてもいい。
コインダンジョンもしっかりとした人工的な石畳なのでガタつきや斜めになることもなくすいすい進む。
すれ違う冒険者に二度見されるけど気にしない。
気にしたらきっと涙が出るので気にできない。
こんな俺でもハートは脆いんだよ?
一応アーシュレシカも加減というものを心得ているようで、心地いいと思うスピードで牽いてくれている。
アーシュレシカが本気出したらとんでもないことになるからな。
子供達は最初こそ驚いていたけど、今は楽しんでいる。
次は自分が牽きたいとかはしゃいでいる。
そっか、牽きたい方なんだね。
入り組んだ迷路状のダンジョンではいくら最短の道筋をえらんだとしても、たとえ人力車のスピードをもってしても簡単に次層への階段まで行くことは出来ない。何度も曲がり角を曲がるし、戦闘中の冒険者を避けて通らなきゃならないし、その度にギョっとされるし。
それでも夕方には次階層手前の安全部屋にたどり着いた。
夕方っていってもダンジョン内じゃ一定して薄ぼんやりした明るさだから時計頼りなんだけどね。
あと安全部屋ってのはセーフティーゾーンのことらしい。いろいろ呼び方あるんだね。
逆に魔物がぎっしり詰まった魔物部屋なんてのもあるらしいよ。怖い怖い。
人力車を降りて【アイテムボックス】に収納し、安全部屋に入るといくつかの冒険者パーティーがいた。
めっちゃジロジロ見られるー。
その中のごっついお兄さんパーティーの1人の青年がこれみよがしに言った。
「おいおい、メイドとガキ連れの御大層なボンボンが来やがったぜ」
お……
おっし! ボンボンきました!
いやー、最近「男? いや女?」みたいに思われること多かったから嬉しいね!
服装結構大事かもしれない。
今は冒険者風な軽装にしているんだよ。
ベースは村人スタイルで、日本製の高級コスプレ専門店の革の胸当てと革のブーツ。それからポンチョみたいな旅人風フード付きマント。腰にはプラスチック製のレプリカ魔法杖を提げている。
そしてほぼいつも通りと化しているフードを被った状態。
やったね! あーでもないこーでもないと頭を悩ませ服を選んだ甲斐あった!
嬉しさを噛み締めながら、空いている場所に陣取った。
今回はここで一晩過ごすため、大きいテントを設置。
中は外から見たテントの大きさ以上に広いリビングがあり、キッチン、バス、トイレ完備で六人まで個室がある、マジックバッグシードで作ったテントだ。
早速このテントにも結界張って……っと。
場所決めからテントの設置まで全部アーシュレシカがやってくれた。
子供たちはアーシュレシカの段取りを見ていた。
俺はアーシュレシカが出してくれた椅子に座り、まったりとお茶を飲みながら他の冒険者達を眺めていた。
俺達の他には七グループ。
結構多い。
始めの銀貨階だからこんなもんか。
次の階から段々人数減るのかな?
情報では六層では魔物が一体ずつ出没で銀貨一枚と魔石をひとつ落とす。
七層では二体行動の魔物が増え、八層では三体行動の魔物、九層からは魔物が強くなって……みたいな感じになりつつハードルが上がるぶん、獲られる銀貨が増える。
安全に銀貨を稼ぐなら六層メイン、たまに七層ってのが無難かもしれない。
その分エンカウントする魔物は取り合いになってそうだな。
冒険者たちは最初こそ俺達を野次ったが、それだけだった。なぜかすぐにおとなしくなった。
不思議に思っていると、近くにいた冒険者が教えてくれた。
と言うか、その冒険者がこぼした言葉が耳に入った。
「チッ、今日も奴らここ使うのかよ」
冒険者の視線を追うと、俺達の後からもう一組、冒険者パーティーが入ってきていたようで、荷物を下ろしていたところだった。
その中の一人と目が合った。
はて?
どこかで見たような。
気のせい……
「おい! 今お前、オレを認識したよな!? 何で目ェ逸らした!」
「あ、いえ。一瞬知り合いに似てるなーって思ったんですが、でもやっぱり自分はハーレム勇者に知り合いなんていないことに思い至り、見るに耐えなくなって目を逸らした次第であります」
「こ、このセージヤローめ! これは違う! ハーレムとかそんなんじゃねえよ! たまたまじゃんけんでこのグループになっただけで、も少ししたら他の奴らと合流すんだよ!」
セージヤローてどんな悪口だよ。
その後あわあわと説明臭く説明する勇者。
すっかり異世界に染まってしまったな。
前はもっと……もっと?
前は小柄で可愛い系の顔面を生かして女子に媚びつつうまいこと人間関係こなしてたな。
……なんだ。
変わってなかった。
ハーレム勇者ことハルト。
ハルトはハルトだった。
「なんだ、ハルトじゃないか! 久しぶりだな!」
「なんでジト目で見てから何か察した風に生あたたかい眼差しで懐かしんでくるんだよ!」
「あっはっは、それそれー、そのツッコミ懐かしー」
なんとなく空元気風テンションで対応。
何をどうしたところで女子が四人に男一人のハーレムパーティーに変わりはないのでちょっと引くよね。
「無理に合わせようとすんなよ! 余計傷つくわ!」
「てかなんでここに?」
「お前探してたんだよ!」
「わお」
「だからお前と面識のあるマーニとふた手に分かれてお前探ししてたんだ」
なるほど。
「おい、いっきに興味なくなった顔すんなよ」
「なんかごめん」
なんかは余計だ! と言いながら、ハルトは俺と再会出来たことにホッとしてるようだった。




