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118 ダンジョン散歩4

 

 その後、暗くなってから帰ってきたアイラに物騒な視線を向けつつ今まで以上に甲斐甲斐しく且つ適度な距離感で俺の世話をやくアーシュレシカに時々なま優しい視線を向けるシロネから商売の進捗を聞いたり明日からの俺の予定を聞かれたりしてその日を終えた。

 なんだかとっても疲れたよ……。


 翌日はアーシュレシカをお伴に買い物に出掛けた。

 ダンジョン都市だけど港町としての機能もある町なので活気がある。

 からっと晴れているけど海からの風でちょっと湿気っている感じが日本を思い出す。

 街並みは全然違うし、獣人ちょい多めだけど。


 マップ情報誌片手にこの街でおすすめの物を買い進めていく。内陸部やばーちゃんの国で売ると儲けられるって書いてあるので。

 もちろん北大陸でも売れるみたいなので、後でシロネに買えるだけ買っておいてもらおう。


 屋台巡りもした。

 ここでもマップ情報誌に依存し、記事に掲載されている『この街で行っておきたいおすすめ屋台』で買いまくってどんどん【アイテムボックス】に収納していく。そのうちのいくつかをもぐもぐと味見ついでに食べ歩きつつ。ほんとだうまい。

 さすがマップ情報誌。ハズレがない。いったい誰が取材してマップ情報誌を編集して出版し、【異世界ショップ】で売っているんだろう。ありがたい。お世話になってます。これからもお世話になります!


 買い物が終わって宿に戻ったら【聖女の願扉】を出して農地へ。アーシュレシカにやってもらいたいことを思い出したんだよ。


 土がむき出しになっている公園を選び、その広場に昨日手にいれた宝箱をひとつだけ出す。

 ダブルベッドサイズのやつ。


「アーシュレシカ、悪いがこれの中身だけをまたこの魔法鞄に入れてくれ」


「承知しました」


 やっぱり魔法鞄に宝箱ごと入れてしまうと、宝箱に入ったままで銅貨を出すことはできなかった。【アイテムボックス】内だったら【アイテムボックス術】を使って取り出せるんだけどなー。


 笑顔で俺の頼みを引き受けてくれたアーシュレシカは数分もしないうちに依頼を完遂してくれた。

 やはり物理的な力ってスゴいよね。

 あの数の銅貨が入った宝箱を持ち上げられる、見た目華奢なメイド服男の娘すげえ。久遠の騎士は見た目に左右されない強さがある。


 中身の銅貨をすべて魔法鞄に入れおわり、残ったのは銅色の大きな宝箱。

 大きすぎて使い道がなさそうで、持っていても邪魔だ。でもあれだけたくさんの銅貨が入ってても底が抜けることもなかったこの宝箱のポテンシャルを考えると捨てるのもなー。ってことで、空の宝箱もまた魔法鞄に入れた。使い道ができるまでこの魔法鞄の中の肥やしにしとこう。


 農地からまたダンジョン都市の宿に戻る。


 戻ったらシロネがいたので、忘れないうちにマップ情報誌に載っていた商品の仕入れをお願いしといた。


「セージ様、いくつかマジックバッグを売り出してもいいッスか?」


「ん。シロネに任せる」


「ありがとうございますッス! 売り方っスが、アリストリアさんに手数料払って委託しようと思うんスけど」


「いいんじゃないか。入手先を秘密にしてもらえばこっちに変なやつや面倒なやつ来ないで済むしな」


 それとアリストリオ商会に恩を売ることもできる。

 マジックバッグって超レアアイテムみたいだから、小出しに委託販売を頼めばさらにまたマジックバッグを仕入れたいからアリストリオ商会はこちらとうまいこと付き合いを続けてくれるだろう。

 アイラで迷惑かけたぶんもきっとチャラにできるよね?


 そんなやり取りを経て1日を終えた。

 俺がベッドに入ってウトウトしてた頃に子供たちとテンちゃんが帰ってきたみたいでシロネに説教食らっていた。それを聞きながらいつの間にか俺は眠っていた。





 次の日。

 コインダンジョン前。

 待ち合わせ場所には既にクマ耳兄妹がいた。


「……増えてる」


 一昨日のクマ耳兄妹の周りに数人の子供達。

 え、連れてけとか言わないよな?


「あ! セージ様!」


 こちらに気付いたクマ耳の兄の方が駆け寄ってくる。他の子も一緒になってこちらに来る。


「ふむ。よい心がけです。みどころがあります。きちんとセージ様をセージ様とお呼びするとは」


 アーシュレシカの琴線がイマイチわからない。

 スルーしとこ。


「セージ様、あの、仲間達がセージ様にお礼を言いたいからって付いてきちまって」


 俺のそばまで駆けてきたクマ耳ポーターくんことクマ耳の兄の方がもじもじしながら言う。

 思春期の謎の恥ずかしがりかな。家族とか仲間とかを第三者にみられるの恥ずかしいって言うよね。


 そう考えると俺にはまだ思春期来てないかも。反抗期とか一生来ない気がする。ただし母親に限る。

 父さんとか正直今さらよくわかんないし。異世界で離ればなれになっても、大人の事情があったとしても母さん一筋を貫いてほしかった。それがあったら俺もこの世界で父さんを状況込みで受け入れられたと思う。


 って、ちょっと鬱になるのがちょうどいいくらい子供達にもみくちゃにされてます。


「ごはんありがとう!」

「黒三角おいしかった!」

「果物もね、甘かったの!」

「靴買えたの!」

「おなかいっぱい食べれた!」


 喜びを全身で表す子供たち。

 みんな獣人なので何気に力が強い。

 結界で事なきを得ているが、生身だったら今頃俺は吹き飛ばされているだろう。


 騒がしくなってしまったので、少しわきによけ、通行人の邪魔にならないように今更配慮してみたり。


 とにかく、子供達はありがとうと言いたいらしかった。


「貰った報酬でたくさんパンを買えたんだ。串肉も1人1本食べることも出来た。ボロボロで穴の空いた靴も買い換えることができた。セージ様が俺達を雇ってくれたおかげだ。ありがとうございます!」


 聞けば子供達は共同生活をしているようだった。

 お隣、獣人国から出稼ぎでダンジョンにきた冒険者たちの子供で、親はもう何年もダンジョンから帰ってこない。たぶんダンジョンで亡くなっているのだろう。この子達はダンジョン孤児たちだった。


 この子たち以外にもいくつものコミュニティーがあって、それぞれ共同生活しているらしい。

 孤児院はこの町出身の子だけで手一杯で、出稼ぎできた親が連れてきた子供達の面倒まで見きれない状態なようだ。


 働けるようになった子供達はポーターとして生計をたてるがなかなか仕事は見つからない。

 レベルが低く足手まといになるから連れていってもらえない。レベルをあげようにも雇ってもらえないから上がらない。そんな感じらしい。

 コミュニティー出身の、独り立ちした子がたまに少ない生活費から食料を寄付してくれているからギリギリ生きていけている、というようなことまで教えてくれる。

 できれば聞きたくなかったよ。




 結果、俺はクマ耳ポーター兄妹の他にもポーターの仕事希望の子供たちを連れていくことにしてしまった。


 ちょっと心に余裕があるのはアーシュレシカがいるからだ。引率を任せようと思う。

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