115 ダンジョン散歩1
まずは【聖女の輝導】でなるべく他の探索者と会わないように目的地に行くルートを出す。
「とりあえず今日は人の少ない一層から五層を探索する」
簡単に予定を言ってみる。
マップ情報誌では六層からだと入場料のもとがとれるとあった。
このコインダンジョンでドロップするのは倒した魔物相当の魔石とコイン、たまに一緒に素材が落ちる。コインは一層から五層は銅貨。六層からが銀貨になる。入場料を考えると六層からが稼げるんだろうけど、みんなが六層で稼ぎ始めるんでなかなか混むらしい。
それを避けるためにある程度アンデッド系に強い人達は七層以降で稼ぐ。
それ以降に進むのは攻略メインの人達だと記事に載っていた。
で、俺は攻略したいので浅層はなるべくスルーして、ある程度人がいない層から本格的に探索したい。
宝箱とか宝箱を。主に宝箱。大好き宝箱。
だけど今日は皆がこぞってスルーする銅貨層である一層から五層を探索。
マップ情報誌の【ワンポイント耳より情報】には、みんながコスパを考えてさっさと六層に行ってしまうのでよーく探せばまた宝箱があるかも……? と書かれていた。
探しましょう、宝箱。
「今日は? 数日潜るんじゃないのか? それにここは五層までは銅貨とくず魔石しか出ないから入場料で損するぞ?」
クマ耳の少年ポーターくんが心配気……というよりかわいそうな馬鹿を見る目でこちらを見てくる。ひどい。
「今日は様子見だからいいんだ。もしかして数日分の収入を見込んでのポーターだったか? それならまた次回もポーターの依頼だすぞ?」
「い、いいのか?」
食い気味に聞いてくる少年。
「あ、うん」
引き気味に返事する俺。
もしかして、ひと潜り銀貨10枚って事だったのか?
このコインダンジョン、入場料をよくよく考えたら数日は潜るものなのかもしれない。
ふらっとここに来てしまった俺の杜撰な計画性よ。
そんな杜撰な自分を誤魔化すようにとりあえず移動する。
俺以外には不可視化されている【聖女の輝導】の光の道筋を辿って歩く。
目指すは宝箱の在処。
俺と子供ポーター二人の三人を含む範囲を多めに取って【堅牢なる聖女の聖域】をしているので、その結界にゴースト系やアンデッド系の魔物が触れた瞬間、魔石と銅貨になる。
結界に触れた消えた魔物が落としたドロップ品をオートで回収するように【アイテムボックス術】をパッシブで起動させたので、俺達は目的地までただ歩けばいい。
これは前に漂着した孤島のダンジョンで編み出した。中二っぽく〈横着者の行進〉とでも名付けておこうかな。……全然中二っぽくならなかったけどいっか。
1人納得していると、割りと近くから視線を感じた。
ポーターくんが話しかけたそうにしている。
「なんだ?」
察して相手に話を振れるまでに成長した俺。
母さんが知ったらものすごくほめてくれそうな案件だ。
「魔法鞄持ちってのはわかるけど、急に雇った俺達の食糧とか……その、ポーション類とか地図とか大丈夫なのか? 一層から五層を歩き回るとしても1日かかりだろ?」
「問題ない。……ああ、そうか。子供の体力か」
少年はどう見ても十歳前後。
少女は……というより幼女か。
五歳くらい?
うわ、よく考えたらこんな子供たち連れてダンジョンとか無謀過ぎた!
って顔をしてるのバレたみたいで、
「よ、妖精族には劣るかもしれないけど、俺達獣人は子供だとしても只人の大人より体力はある! ……その分食うけど、でも体力はあるんだ!」
何故ここで妖精族?
とも思ったけど、なるほど。
身長差の関係でローブフードの下から俺の顔を見れるのか。俺、妖精顔らしいし。
だが誤解だ!
あと体力はある! って2回言ったな。
きっと大事なことなんだと思う。
「なら大丈夫だな。俺はたぶんその只人とかいうヤツでお前ら獣人より体力ないからな。お前たちでも充分ついてこれるだろ。あと食料も水も余分にあるし、地図も前もって購入してある」
只人ってのは初耳な単語だけど、なんとなく種族的特徴のない人間の事なんだろうなと察する。
食料の心配は、例え魔法鞄持ちでも腐ることを考えれば必要以上のものは持ち歩かないらしい。
普通の魔法鞄は時間停止とかないみたいだし。
魔法袋みたいなのもあるらしく、そちらはたまーに時間停止機能がついてるとかついてないとかまことしやかな噂があるとかないとか。
で、俺が今腰から提げているのが腰鞄。魔法鞄に見えるらしい。
てかしっかり魔法鞄なんだけどね。以前海底ダンジョンで大量に入手したマジックバッグシードでマジックバッグ化させたやつ。もちろん大容量だし時間停止機能もついてるよ。
ちなみに某賢者謹製のスタッズ型のマジックアイテムが取り付けられ、持ち主以外には取り出しはできないけど、物を入れるのは持ち主以外でもできる謎魔法効果付き。そして手元から離れても持ち主のところに戻ってくる仕様となっております。
すごいよね! その仕様を実感できるイベントには、まだ遭遇してないけどさ!
地図は信頼と実績のマップ情報誌。ここの領地編のやつ。街の宿評価や特産品、土産物はもちろんのこと、きちんとここの領地にある全ダンジョン網羅されてるよ。マイバイブルだよね。
「そう、なのか? そうか。わかった」
まだ疑問はあるものの、これ以上なにか言うことはないようで、少年はとりあえず納得しておくことにしたっぽい。




