111 金貨一枚
子供らとアイラを待つ間、【異世界ショップ】の専門店で、オリジナルブレンドアメリカンコーヒーと、有名パティスリーのプチシューを買ってシロネと二人で飲み食いしてたら、この町の子であろう子供達が1人2人と来て、最終的に10人くらいの集団になった、身分もまちまちな子供達におやつをねだられる羽目になったりして休めたもんじゃなかった。
その後、ティムト達とアイラが戻ってきたことによりなんとか町の子供達を解散させることができた。
同じ場所で動かずいた甲斐あってはぐれなくて済んだよ。
そしてアイラの仕事の早さよ。
子供たちが探索者登録して戻ってくる間に、宿も良い宿をとれたようだし、良さ気な商会もみつけ、さらには約束も取ってきたとか。
なんて約束の取り方をしたかは怖くて聞けないが、既に取っちまったんだから仕方ない。
今更ながらもっときちんと交渉の仕方をシロネに教えてもらうんだったと後悔しかない。
アイラの詳しい報告は後回しにして、子供らの話を聞くことにした。
「探索者ギルド、どうだった?」
「んー、おもしろかった! とおもう!」
ん? 「と思う」ってなんだよ。
「荷物もち専門のひととかいた!」
ポーター的な?
「そか。嫌な事言われたりしなかったか?」
「ぜんぜん! 探索者登録タダだった! ダンジョンごとにちがう、にゅうじょうりょうってのさえ払えればいつでも誰でも入れるって! ジコ責任だって!」
「依頼ないんだって! あとパーティー組んだら報告だって!」
楽しそうに報告する子供たち。
シィナはとくに嬉しそうだ。折を見て冒険者ギルドに復帰させてあげたいな。
あのなんとかピ…えーと、中央大陸の港町の…コニーのお友達のバ…………バール! よかった、思いだした。
うん。そう、そのバールのおっさんとこの冒険者ギルドならたぶん融通利かせてくれそうだな。
と、悪だくみをしておく。
それにあの港町ならティムト達の里帰り的な事も出来るだろうし。
それも二人にきちんと聞いてからだな。
入場料?
入場料をとって探索者ギルドを運営してるのか。
あと…うん。冒険者ギルド同様自己責任ね。
でもあれだな。
冒険者ギルドとは別の組織だというのは良かったな。
子供たちも好きな時にダンジョン入れるし、毎日遊びに行くとも言っていた。
これが冒険者ギルドが縄張りを張っていたら、シィナの為に俺が毎日ダンジョン入りしなきゃいけないとこだった。
ほら俺、変なギルドカード持ってるから、シィナを護衛としてダンジョンに入れるんだよ…。
でも登録して入ダンジョン料を払えば誰でも入れる探索者ギルドなら、子供らも自由にダンジョン入りさせられ、俺も子供らに気兼ねなく宿でダラダラ出来る。
金を稼ぐためにダンジョンに入ろうとは思っているけど、毎日は嫌だ。たまには…時々は休みたい。
子供らの嬉しそうな報告を聞いた後は、アイラの報告だ。
まずはみんなでアイラがとった宿に向かう。
「やっぱり…」
シロネがげんなりした様子でぽつりとこぼす。
「この町で一番ランクの高い宿です。しかし一番いい部屋はとることが出来ませんでした」
とアイラはしょんぼりしながら報告する。
しかし宿の人に案内されたのは2番目にいい部屋だった。
広くて豪華、従者用の部屋も4部屋あるし客室も2部屋あり、もちろんマスターベッドルームもある。その上当然のように広いリビング、ダイニング、応接室、給湯室、簡易キッチンという名のちょっとした厨房、風呂が大小2つ、トイレも3か所にあるし、部屋付きのメイドさんも2人いた。
「………」
「申し訳ございません。一番いい部屋を融通してもらおうとも思ったのですが、セージ様は部屋からの景色には然程興味はないですし、ここでもよろしいかと思い、妥協させていただきました」
とても悲しそうに言うアイラ。
アイラのその表情に謎の感情移入しつつもうっとりする部屋付きメイドさん達。
見た目だけならスタイル抜群のものすごいイケメンだからね。
普段は麦わら帽子に作業着姿だけど、俺達と行動するにあたってオシャレ騎士の休日みたいな格好してるからね。ちょっと色気も醸し出している。なにかと学習しているらしい。
そんなアイラを俺とシロネとティムトとシィナは呆れ見る。
俺は高級宿でいい部屋なんだからそこまで卑下するか? という呆れ。
シロネ達は───
「アイラくん、この人数でこの部屋って…ちなみに一泊おいくらの部屋ッスか…?」
呆れつつもびくびくしながら聞くシロネ。
「金貨1枚…でしたよね?」
何かを察したのか部屋付きメイドさんを巻き込むように確認をとるアイラ。
やめてやれ。
…いや、アイラの顔面をみながらポーっとして頷いているからいいのか。プロフェッショナル的にはよくないけど。
「アイラにーちゃん…」
「セージにーちゃんといい勝負だな」
「おい、なんでだよ!」
「だってセージにーちゃん、いま金貨に驚かなかったろ」
なんという観察眼…!
言い訳させてくれ。
金銭感覚はそれなりにあるとは思うけど、コインだと現実味が感じられないんだよなー。お金ってやっぱ札のイメージだし、金貨って言ってもコインだとゲーム的な感覚になってしまうんだよ。
ほんと、この世界の人達の感覚からしたら申し訳ないと思うよ。
…でも俺は、ここでは異世界人なんだよ。
・・・・・・・・・・
改めてシロネと子供たちに金銭感覚であきれさせてしまった後、子供達には早々に自由行動を言い渡したら、喜び勇んでダンジョンに出かけていった。
子供たちを見送ってしまうと、広い部屋には部屋付きメイドさん2人と俺とシロネとアイラだけ。
そのうち椅子に座っているのは俺だけだ。
気まずいな。
みんなが普通そうな顔しているのが余計気まずい。
「アイラ、報告」
気まずい上に面倒なお話は早めにさっさと終わらせてベッドにごろ寝してゲームするんだ、俺。
ぞんざいな対応しても目をキラキラ輝かせて嬉しそうにするアイラとか、面倒でしかない。
せめて商人探しはシロネに任せるんだったと後悔してももう遅い。
「はい。市井での噂や実際商店に赴いて調査してまいりました。中堅どころの商家で、アリストリオ商会がよろしいかと。大手の商家というわけではないのですが、実直な商売をすることに定評があり、本人も誠実で気の良い人物でした」
「本人に会ったんだ」
会っちゃったんだねー。
そこで働いている人に繋ぎを取って会ってくれるかどうか聞いてくるとかじゃなかったんだー。そっかー。
…どうかアイラが強引な手段に出ていませんように!
「聞き込みの評価の真偽を確かめるために商会をたずねたのですが、たまたま商会長であるアリストリアさんがいらっしゃいまして。北大陸のラザーレンス帝国で作られた宝飾品を卸したいと申し出たところ、商会長に通してもらうことがかないました」
これは…まっとうなやり口か?
わからん。
シロネをみると、とてつもなく胡散臭そうにアイラを見ている。
なんか…わかる。
「商談はいつになるんスか?」
「セージ様のご都合に合わせてくれるそうです。今日でしたらまだ時間もございますし、夕食を共にしても良さそうですし、明日なら午前中ですとたっぷり時間を取れるそうですよ」
なんで俺!?
商売系はシロネに丸投げ計画なんですけど。
シロネに任せておけば間違いないからな。
「…アイラくん。それはセージ様のご都合という言い方をされた相手の都合ッスよ。アイラくんを通してセージ様を見定めようという魂胆が見え見えじゃないッスか」
げんなりしてシロネがアイラに教える。
「っ!?」
驚いて、顔を蒼褪めさせるアイラ。
そのまま死んでしまうんじゃないかってくらい顔色が悪い。
そのうち段々ガタガタ震え始めた。
「アイラくん!?」
「あ、僕…僕はなんということを…」
いやいやいや、そんな恩人を誤解して殺してしまった犯人みたいなテンションで思い詰められても。
バッと勢いよく俺の前に跪いたアイラだが、すぐにシロネが止める。
「アイラくん、セージ様は怒ってないッスからそういうのはやめて下さいッス。セージ様が嫌がります。そんな事をするよりも今回の事をきちんと学習して次にいかして下さいッス」
流石シロネ。わかってらっしゃる。
「アイラ、シロネからしっかり学べ」
「はい」
俺が怒ってないとわかったことと、学べる機会を与えられたと思ったらしく、最初は悔しげで悲しそうに泣いていたのが、今は嬉し泣きしながらいい笑顔で返事をするアイラと、俺のアイラ丸投げ発言にショックを受けるシロネとの表情の違いが印象的なひと時だった。




