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107 それではちょっとお隣の大陸まで

 


 冒険者ギルドに入ると、受付の人が別室に案内してくれていて、そこに依頼を受けてくれる獣人パーティー3組が待ってくれていた。

 そのうち一組はいつもの人達だ。


「よお、セージ様、久しいな」


 ああ、熊の人。

 うん。久しぶりー。


「毎度ウチらのパーティー指名してくれてありがとうございます」


 ツチブタの人も久しぶりだねー。

 ちょっと装備品良くなった?


「どうも。依頼受けてくれてありがとうって事でいいんだよな?」


「ああうん。おおむねその通りなんだけど、俺達が一方的にヒュームに暴言を受けるってことか?言い返したりすることなく」


 クマの人が再確認に俺に聞いてきた。

 なのできちんと答える。


「そうだ。手出しされるかもしれないがそれについては結界で対応する。物理・魔法的な攻撃からは一切守ることを約束する」


「で、受けるのは精神的苦痛、と」


「ああ。それからその人族至上主義国の町や村で炊き出しもする予定だ。調理補助や配膳補助もしてもらいたい」


「それはかまわねぇんだけどよ…」


「なにか問題がありッスか?」


 ここでシロネがかわってくれるようだ。

 お願いします。


「護衛、とは違うよな?」


「そうでもないッスよ。見た目護衛というやつッス」


「あー、なんとなくわかる、ような? あと、途中離脱とか、反撃しちまったとかの場合はすぐにこっちに戻してくれるっていうがよ、戻らない場合はどこまで行くんだ?」


「あ、その説明してなかったッスね。西大陸のランクルン王国、ツァツィー領ッス」


「はぁ!? …マジかよ」


 他の冒険者も驚いているようだ。

 まさか別の大陸に行くとは思ってもなかったって顔だ。

 うーん、俺、依頼票に書かなかったっけか?


「はい、セージ様がダンジョン都市のダンジョンに行きたいって言うので」


「にしても遠すぎる。1カ月やそこらでいけるとこじゃねーだろ」


「そのへんはチョチョイと例のアレッスね」


「…あー…」


「で、依頼受けてくれるって事でいいッスか?」


「目的地まで行ったとして、帰りはどうするんだ?」


「帰りはー…」


 とそこでシロネが俺に視線を向ける。


「しばらく皆でダンジョン都市に留まるか、帰りたいんならすぐにこっちまで送るぞ?」


 と俺が答えると、熊の人たち他、冒険者たちはちょっと話し合う。

 すぐに答えが出たようで


「せっかくだから俺達もダンジョン都市でダンジョン巡りするよ。あそこは初心者から入れるダンジョンがあるし、コイツらにもちょうどいいだろう」


 と言ってクマの人が初見の冒険者を指す。

 指された人がこちらに会釈してくれたので俺も会釈。


「コイツ等は一応初心者を脱したレベルで、暴言を聞き流せるくらいには耐性を持ってるやつらを選んだつもりだ。何を言われても手はださねぇようにきちっと言い聞かせている。暴力はそっちで防いでくれるとは説明したが、改めてそっちの口から説明してもらったってとこだ」


 またこちらに視線が集まったので、俺が発言。


「なるほど。ええっと、厳密には暴力を受ける寸前で結界によって防がれるという感じなんだ。反射で反撃してほしくないんだけど大丈夫か?」


「ああ、たぶん大丈夫だ。少なくとも俺達はあんたの力を信じている。コイツらは俺達の話は信じているが、あんたに対してそこまで信頼しているわけじゃないから実際どうなるかわからんがな」


 視線を向けられて、さっきの初見の冒険者代表っぽい人が不安と緊張とともにこたえる。


「いっ、いえ!大丈夫です!てか、わたし達、対人に自信なくて今まで護衛依頼受けられなかったんです。でも今回護衛依頼ってことだし、ヒューム相手には暴言さえ我慢すればこっちから手出ししなくても大丈夫な上に高度結界で守ってもらえるって。それで長期護衛依頼1件稼げるんだっていう下心もあって依頼を受けたんで、その…すみません」


 あー、たしか長期の護衛って期間によっては普通の護衛依頼の数件分になるって聞いたことあったな。

 そしてその護衛依頼は冒険者ランクを上げるのに必須の依頼とかなんとか?

 たしかハルト辺りがそんな事言っていたような。


「いや、いいんだ。こっちはそういう人材を探していたことだし。出来れば何を言われても気にしていないように振舞ってほしい。無表情か笑顔で。それと、皆にこれを渡しておく」


 そして俺は考えていたものを今回の護衛を受けてくれた人達に渡す。

 あとシロネにも。


「なんスか? これ」


 ころっとした銀色の物体。


数取器カウンターってやつ。数を数える道具だ。今回の依頼中、人族…ヒュームだっけ? に暴言や悪口を言われたら1回にあたりポチっと、暴力振るわれそうになったらポチっと。1ポチあたり銅貨1枚支払う。ちなみにヒューム以外にされたのはノーカウントな。っつってもそっちの手心ひとつなんだけど。とにかく、ヒューム相手に嫌な気分になった分だけポチポチしてくれ」


「おいおい…これって最大9999銅貨ってことか? 一日銀貨1枚の他に?」


「いや。それを超えたらシロネか俺に申請してくれさえすればまたカウント再開で。何人に何回何を言われるか分かったものじゃないからなー。一日銀貨1枚は基本依頼料だ」


「マジかよ…」


「うん。マジ」


 はー。

 つってもなー。俺もこの顔だからなんやかんやいわれんだろーなー。

 それ考えると今からしんどいなー。


「なんだよ、金払いに渋るって顔でもねえな。なんでそんな嫌そうな顔してんだ?」


「あっちじゃ俺、妖精族と勘違いされんだよ。この顔が妖精族顔らしくてな」


「あー…確かに西出身のやつらがあんた見てビビってんの見たことあるな。ワケ聞いても口つぐむし。そういうことか」


「そ。依頼しといてアレだが、俺もあんたら同様に言われる立場なんだよ。それが憂鬱」


「それでも今回わざわざそういうトコで慈善活動みたいなことすんのはなんでだ?」


「詳しい事はまだ言えないけど、しいて言うならウチの騎士ッ子たちがやりたいんだと。その国な、王都以外はほとんど飢えに瀕してるんだよ」


 戦争の事知ってたとしても、俺達と戦争がどうかかわるかはまだ他人には言わない方がいいだろう。

 知ってる人だけ知ってればいいよ。コニーとか立場が立場な人。


「だとしてもたった一度の炊き出しでどうなるわけでもないだろう?」


「しないよりはした方がいいだろ。少なくともその日は生きていられる。それにアレ、畑直した時の応用ってやつもあるし?」


「あー…。なるほどな。それにしても割を食うのはあんただけだろ。子供たちの願いだとしてもあんたの負担が大き過ぎねぇか?」


「正直面倒だな」


「正直ものだな」


「けど、もしかしたら何かがうまくいくかも知れないからな。無駄になるかもだけど、しないよりはしといたほうがいいかもしれないってやつだな」


「随分漠然としてんな。けど、そっちに何かしら利益があるならいいけどよ」


 なんだよ。

 やさしいクマさんじゃん。


「では、改めてこれでいいッスか?ちゃんと依頼受けてくれるって事で」


「ああ、いいよな」


 クマの人が振り向き後ろの冒険者たちに同意を求める。


「「「「「はい」」」」」


 いい返事だ。


 そうして俺と彼らできちんと書類を交わし、俺が依頼主とする依頼を彼らが受けてくれることになった。


「んじゃ改めて。俺達の事はもう知ってるだろうから端折るが、コイツらを紹介するよ」


 え、待って、ごめん、知らない!

 あんた達の事、俺たぶん名前とか知らない…!


 とは言えないので、キリッとした顔で厳かに頷いておく。

 シロネの視線が痛い。

 たぶん俺が知らないか忘れているのに気付いている。

 あとで聞こうっと。


「まずこっち。パーティーランクD、<金色の翼>リーダーで魔法剣士、ドラゴニュートのプロメ。それから斥候でスカウト、山猫人族のワトル。弓術士で山エルフ族のサリーロ。魔術師でハーフリングのエイチェだ」


 紹介された人から順に握手をしていく。

 だいたいどこかしらが金色な人達だから“金色の”なのかな?

 翼はプロメさんとエイチェさんが担ってる感じか、たぶん。


「で、こっちがパーティーランクE、<素材第一>リーダーで鍛冶師兼重戦士、ドワーフのカルミラ。錬金術師兼シーフ、森エルフ族のナツキ。薬師兼陰陽師、鬼人族のギラク。付与術師兼魔導師、吸血鬼のレイブン」


 こちらも順番に握手。

 さっき代表だと思った人はこの森エルフのナツキって人だったのか。

 こっちは堂々と素材メインに活動してますよアピールしているパーティー名だな。それとついでになんとなく戦えますよという職業の人たち。


 …陰陽師って、鬼を退治する職業じゃなかったっけ?

 鬼が陰陽師でいいのかな?

 あと吸血鬼なのにレイブン。カラスなの? そこはコウモリ由来じゃないの?


 いや、自由さ!

 なりたいものになればいい!

 たぶん。


「この3パーティーで護衛依頼につく。俺達とプロメたちは同じクランだ。<素材第一>はあんたのトコの治療院の食堂でたまたま知り合って、それ以来何度か一緒に依頼を受けたりしてな。その縁で今回誘った」


「えっと、あの治療院が併設されている孤児院からの依頼で、鍛冶師や薬師、錬金術師の授業の依頼を受けさせてもらってます。あと、あの食堂、おいしいから依頼達成のたまのご馳走で食べに行ってて…それとレイブンの体調とか…その…」


 あそこに出入り出来るくらいならそれなりの信用はあるか。

 レイブンっていうと、吸血鬼の人か。

 何かあったのか?


「いやその…情けない話、吾輩、血が無いと生きられない癖に血が苦手でな。今まではなんとか動物や魔物の血で種族的な飢えを凌いでいたのだが味や匂いがもう嫌で嫌で…それで嫌になりすぎて血を断っていたら死にかけてな。仲間にあの治療院に運ばれたのだ」


「あの治療院、特殊な治療もしてくれるって聞いたから、ダメもとで駆けこんだんだ。もうその頃には無理に口に魔物の血を入れてもどうにもならない感じで、焦って。そしたらあそこの治療師の人、すごくて!」


 それから森の人は輸血について説明してくれた。


 うん。

 あったね。

 輸血。


 そしてあったね、食堂に張り紙。

 献血の。

 《人差し指1本~2本分の献血にご協力ください。

 報酬:食券1~2枚とポーション1本。1人月1回まで。

 ※健康体の方に限ります》

 とか。


 急にどうしたと思ったらこういうことか。

 配下久遠の騎士達の回復魔法ならある程度の貧血も治るだろうにと思って不思議だったんだよなー。なるほどな。


 そういうわけでレイブンさんはわざわざ吐きたい思いをしなくとも腕から血を取り込めるようになって元気になった。

 代わりに報酬としての食券やポーション、それから治療院での輸血手数料の出費は増えたが、獣の匂いと血の匂いを我慢しつつ血を摂取しなくて済む事を考えたら何と言うこともないらしい。


 ちなみに吸血行動については、人の首に牙をあててまで吸血したくないということだった。

 都会派の吸血鬼はだいたいそうらしく、そういう吸血鬼は血の料理を食べるか、魔物の解体時に渋々その血を啜るんだとか。一応コップに入れて。



 話の大半がレイブンさんに持って行かれた気もしなくもないが、話が一段落ついたところでこれからの予定について話していく。

 主にシロネが。


 そして移動は大型バスに変更となった。

 アーシュレシカが用意していたやつ。


 アイラに聞いたら普通にデラックスな観光バスなのでご安心をって言われた。


 普通にデラックスってなんだろ?



 明日の朝一番に帝都大門の外に集合という話で終わり、その日は解散となった。



 そして次の日。


「では改めましてみなさんおはようございます。これからこのバスでお隣の大陸の人族至上主義国まで行って通りすがりの村や町で炊き出し活動していくっスよー。お忘れ物はないッスかー? お手洗いは後部の小部屋ッスよー。皆さんいるッスね。大丈夫っスね。じゃ出発ッスー」


 皆に聞こえるように、大きな声で出発を告げるシロネに合わせて、俺はバスの前に【聖女の願扉】を出した。


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