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106 のんびり帝都気分3 配下経由のシェヘルレーゼの不安

 


 夫人達の業務報告が終われば企画のプレゼンが始まってしまった。

 一部は俺に負担がありそうなことだったので没にして、この店とここで働く配下久遠の騎士で事足りそうなことであれば許可した。


 夫人としてはそれで大満足の結果となったみたいで、とっても張り切っていた。


 あのコニーに説教する時の表情は何だったのかってくらい、少女めいた喜びようだ。キャッキャしている。


「セージ様」


 自分の侍女たちと喜びあう夫人をよそに、アテナとダヴィデが不安そうな顔で俺に声をかけた。

 とくにアテナの方が深刻そうな顔をしている。


「なんだ?」


「その…シェヘルレーゼはセージ様に見限られてしまったのでしょうか?」


「え?」


 思ってもみない事を問われた。

 何故急にシェヘルレーゼ?


「彼女を邪魔に思い、祖母様に仕えるようにしたのでしょうか? 我々はセージ様に不要と思われているのでしょうか」


 ああ、なるほど。

 今はシェヘルレーゼの配下は俺の傍にいないからなー。

 アイラはアーシュレシカの配下だし。

 だから同じ配下のダヴィデは多少の余裕があるのか。


「いや、そういうわけではないよ」


「では、なぜ…」


 どこか怯えた様子で問われる。

 うん、人間らしくなってきたなー。

 環境のおかげかな?


「俺の職業は知ってるか?」


「【男子高校生】という類まれなるジョブであると認識しております」


 そうかー。

 たぐいまれとか思っちゃうのかー。


「類まれかどうかはさておき、うん、それは正解だ。そしてそのジョブは、耐性がほとんどないジョブなんだ」


「……はい」


「だから俺はシェヘルレーゼには俺の代わりを務めてもらっていると思っている」


「セージ様の代わりに、祖母様の身の回りのお世話、と?」


「それはばーちゃんの侍女さんがしてくれるから、ばーちゃんの身の回りの世話はシェヘルレーゼの任意だな。でもシェヘルレーゼにはばーちゃんに良くしてやってほしいとは思っている。ばーちゃんの侍女さんの仕事をとらない範囲で」


「は、はい、それはもう…」


 心得ている、とは言えないよなー。

 こうして聞いてくるってことは、俺の意思を汲んだ上で人格形成されていると言っても、多少は変化してきているらしい。


 やっぱ日々学習して人っぽくなってきてるってことなのかもな。


「で、今回の戦争だ。俺は正直人同士の殺し合いを近くで見るのは出来ない。血の匂いもだけど、あーゆー雰囲気も無理っぽい。だからシェヘルレーゼなんだ」


「……」


「俺の代わりに戦争がどういうものか見てきてほしい。だからばーちゃんはハルトとマモルの配下久遠の騎士を連れて行った。戦争とはどういうものか、間接的に俺達に教えるために」


 …たぶん。


「我ら久遠の騎士の力を利用するためではなかったのですか」


「それは微妙かな。お手伝い程度はしてもらうかもしれない。けどたぶんばーちゃん達の戦力で事足りるよ。王都落とすだけだって言ってたし。仮にも陰口で魔王とか言われてたくらいだし」


「祖母様がウラで魔王と呼ばれていた事は聞き及んでおりました。それをセージ様に知られないようにしていたようでしたが」


 なるほど。

 それでも俺に害はないだろうと言うことで口をつぐんでいたのかな。

 やっぱ俺の久遠の騎士は心づかいが違うよね。


「うん。そういう優しさでなら無理に報告はしなくて正解だな」


「ありがとうございます」


「うん。で、戦争ね。ばーちゃんはその戦争での立ち回り方、手順、作法、戦法、戦果の上げ方、その他細かいこと…まー、俺は戦争の事はマジわかんないけどさ、そういうの、本当の戦争じゃないと分からないこともあるだろ?」


「はい。実際では本などの文章には載せていない暗黙の了解ごとや当然とされる作業などもあると思います」


「だよね。今回はたまたまふっかけられた戦争で、それなりに被害も出ているから回避も出来ない。だからついでに丁度いい教材にしようと思ったんじゃないかな、と思う。うまくは言えないけど」


「教材、ですか」


「言い方は悪いけどな。俺達の久遠の騎士に、戦争の進行などを見せたかったんじゃないかな?」


「見せて、どうするのですか?」


「ハルトとマモルはどうするか分からないけど、俺はシェヘルレーゼにはばーちゃんのところで学んだことを俺のもとで生かしてほしい。俺が異世界(ここ)にいる間、如何に戦争に巻き込まれないで済むか、という方向で」


 今回で改めて分かったけど、面倒じゃん、戦争。

 少なくとも俺はそう思った。


「っ!」


「戦争のどの過程でどうすれば相手の隙をつけるか。俺の久遠の騎士なんだから、それくらいできるはずだ。夫人…エストラ夫人に少しは戦争の事も習っていたんだろ?」


「はい。帝国式のものですが」


「いいね。いろんな戦争の知識で、戦争回避の方法を学んでいってほしいよ」


「セージ様は人同士の殺し合いに耐性が無いからですね」


「まー、それもあるけど、俺の久遠の騎士には武力で全部片付けるだけじゃない久遠の騎士になってほしいと思った」


「…我々は、どうすればよいのですか」


「んー、戦争に対してはとくにどうしてってのはない。俺は関わりたくないと思ってる」


 と言うと、なんとなく俺達の会話を聞いていた全員が「え!?」みたいな顔をした。


 それどんな心境ですかね?


「けど万が一関わってしまったって時、逃げるにしてもどうするにしても今、ばーちゃんのとこで学んで損はないと思う。将来の選択肢が広がるだろ? ただ、学ぶにしても俺は血みどろとか無理だから、ばーちゃんの周りにいても違和感ない上に俺のスキルの一部を使えるシェヘルレーゼにお願いしておこうと思っただけ。…って言うのを本人にきちんと言ってなかったな。ごめんな」


「そんな! 我々がセージ様のお心をはかりかねただけでございます。セージ様が我々に謝ることなど…」


「悪いと思ったらきちんと謝る。これは基本だぞー」


「は、はい…!」


「ってことでね、俺はいかにチキンと言われようとも真面目に戦争に関わる気はない。でも知ってる人が巻き込まれたら、その時どうするかまた改めて考える。俺の久遠の騎士達も俺がそういう方針でいるって事で、その範囲で適当にしてくれていたらいいよってことでどうだろう?」


 これ以上俺から出せる答えなんてないんだからね!

 というか、そもそも俺は答えなんて持ち合わせていない。


「「承知しました」」


 俺の回答に納得したのか、それとも一応そういうことにすることにしたのか、アテナもダヴィデもそう返事をしてくれた。


 なんならキラキラした笑顔を向けてきている。


 …どゆこと?


「セージ様、治療院のほうにギルド職員が依頼の件で話があると」


 話としてのキリがいいのか悪いのかってところでアイラから業務連絡が。

 一応俺と一緒にいるということでまずはアイラが俺に言ったのだろう。


「わかった。なんだろ? まだ夕方だけど」


「まだ目の前にいるようなので聞いてみます」


 いいね。こういう、連絡が早く行き来できるのって。

 ここじゃスマホとかの連絡手段ないから、手紙や言伝だからなー。


 ややあり、また連絡が入ったようだ。


「思いの外依頼に対しての応募が殺到したようです。如何いたしましょう」


 え、マジか。


「えー、じゃあいつもの獣人パーティーの人がこの依頼に参加しているようならその人達に適当に2、3組のパーティー見つくろってもらうことって出来るか?」


「伝えます。少々お待ち下さい…………はい。大丈夫なようです。ギルドでそのように取り計らうとのことです。その場合、今日中には依頼が確定するとのことですが、今からギルドに向かいますか?」


「んー、そうするかな」


 そしたら明日にでも出発出来るし。

 帝都でゆっくり出来なかったけどそれでもいいか。


「では、ギルドに依頼をお任せするパーティーに残ってもらうことにするそうですので、日没までには来てほしいそうです」


「んじゃ今からいくかな」


「承知しました」


「では夫人、そういうことなので、俺達はこれで失礼しますね」


 既にこちらに注目してしまっていた夫人に(いとま)を告げる。


「あら、そういうこととは? これからまたどこかへ行ってしまうのかしら?」


「はい。ちょっとダンジョン巡りでもしようかと」


「まぁ、そうでしたのね」


「ええ、その辺りはアテナかダヴィデにでも聞いてください。落ち着きなくてすみません。ではまた引き続きよろしくおねがいします」


「ええ、それはもちろん。セージ様、改めましてわたくしに楽しみを与えて下さりありがとうございます。誠心誠意この店に尽くそうと思います」


 そうして綺麗にお辞儀してくれた。


 俺はそれに照れ気味にその場を後にした。


 冒険者ギルドへは徒歩で行く。

 歩いて数十分はかかるが、それくらいの時間があればいろいろまとまってくれている頃だろう。


 ついでにガイドブックを開いて通り道で帝都土産になりそうなものを買っていく。

 帝都土産と言えば布や宝飾品の類のようだ。

 シロネとアイラにも頼んでそれぞれのセンスで良さ気なものを買っていく。


「こんなに買ってどうするんスか?」


「え、ほら、ここ見てみろよ、帝都の宝飾品、西大陸では人気らしいよ。あの西大陸の入り口の港町やばーちゃんの国ならともかく、今から行くツァツィー領ではあまり手に入りにくそうじゃないか?」


 ガイドブックの小さな記事を指してシロネに見せる。


「良くこんな細かい記事見つけたッスね」


「うん。なんか見つけてしまった。あの国でなにがあるかわからないから、張れる予防線は張っておこうかと思ってな。もし無駄になってもあっちで仲良くなった人に渡しても良いぞ」


「あ、そういう。そういやセージ様のなんとなくの勘は大事にしといた方がいいッスよね。何度かその通りの事あったッスし」


 半パッシブの【聖女の勘】とかいうやつだろうけども。

 けどこのスキル、結果がどうなるか分からないからイマイチ使い勝手が悪いんだよなー。


 そんなこんなしているうちに、日没ギリギリになってしまいつつ冒険者ギルドに到着した。



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