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105 のんびり帝都気分2 のんびりなんてしてられない

 


 帝国では適当に人員確保して、ランチ食べて、あとは宿でゴロゴロしている予定だったんだけどなー。


「お前、そんな事考えてたのかよ」


 声に出ていたみたいだ。


「なんだコニー、まだいたのか。暇なのか」


「忙しい!」


 やかましい! みたいにいわれた。


「あんまりイライラすると禿げるぞ? あ、そういや俺、いいもの持ってる。毛生え薬だ。これやるから落ち着け」


「っ~~~お、落ち着いてられるかー! なんでそんなもん持ってんだよ? たぶんアレだろ!? お前の事だから紛い品とかじゃないんだろ!? 純正品かつ高品質のアイテムだろ!? 欲しいよ! よこせよ!」


 おほう…お年頃かよ。

 情緒不安定かよ。


 急に親心的な心境になって、【アイテムボックス】から毛生え薬を出してそっとコニーに渡した。


 それをコニーは奪い取るように受け取り、マジマジとみたあと、


「いくらだ?」


 バッキバキの目で問いかけてくる。


「あ、いや、いいよ。ほら、アレだ、癇癪起こした子供にクッキーあげるとか、そんなアレだし。ほれ、ほしいならもっとやるから、落ち着け、な?」


 ジャラジャラと【アイテムボックス】からだしてコニーにあげる。


「お前、これがどんなものかわかってるのか? 前にお前から試しにちょっと買って取引に使ったらとんでもないことになったんだぞ!? すんげーうまくいきすぎて敵対国の敵対貴族に忠誠誓われて敵対国を内側から崩壊させたほどだぞ!? おかげで今じゃ友好国だよ、チクショー!」


 やだまじそれこわい。

 コニーのキレ具合や毛生え薬云々じゃなく、「敵対国まだいたんだ、この大帝国」という意味で。

 あと、ブチギレしながらそっと受け取るコニーにも。

 本数多いからね。落とすと壊れちゃうかもだからね。


「いや、マジで。これ1本で国落とせたんだ。金払う」


「あー、カネね。うん。とりあえず今渡した分はやるから。次の分から売ることにするよ。売り物は治療院の職員に預けておくから必要だったら買いに行ってくれ」


「いや俺あそこ入れねーんだけど!?」


「権力振りかざすから入れねーンだよ」


「俺生粋の権力者なんですけどねえ!?」


「だったらヒト使うとか」


「こんなヤバいもん他人に任せられるかっての!」


「交換した久遠の騎士がいるだろうに」


 俺の久遠の騎士達は、俺が言わなくても色々やりすぎるくらいしてくれているけど、コニーのところは違うのか?

 オリジンタイプとカスタムタイプの違いだろうか。


「あ、そうか…」


 俺に言われてやっと気付くくらい追い詰められてる系かなにかか?


 …めんどくさそうなので何も聞かずにそっとしておこう。


 ようやくしてキンバリーさんが箱を抱えて戻ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。それからさらに申し訳ないのですが、当ギルドで即日ご用意出来る金額がこれしかございませんでした。預金の五分の一程度となっております」


 箱に入れたのは袋のままだとここまで一気に持ってこられないから入れ物代わりに使ったみたいだ。

 箱を開けたら小袋に小分けにして金貨が数枚ずつ入っていた。それが数十袋。

 なるほど、箱に入れて持ってきた方が持ち運びしやすいね!


「お前、ギルドの事も考えてやれよ。この大帝都のギルド本部だからこれほど用意出来たが、ここじゃなかったら金貨20枚程度しか用意できなかったぞ?」


 そーですねー。

 明らかに金貨数百枚はありそうですよねー。


「すみません。まさかそんなに預金があるとは思ってなくて。金貨100枚くらいあればいいなと思ってたんですけど」


「………100枚でも大概だからな」


 皇帝に呆れられるって、俺そんな金銭感覚破綻してるのか?

 そんなまっさかー。

 ……ねえ?


 シロネをチラリとみると、アルカイックなスマイルを向けられた。


 ごめん、よくわからないよ。


「セージにーちゃん、知ってるか? 金貨12枚って、大金なんだぜ?」


「金貨10枚あれば帝都の“こーがい”ってとこに家たてられるんだ。でっかいやつ」


 え、まじ?


 余程呆れたのか子供たちが年下の子にものを教えるかのように俺に教えてくれる。


 ティムトに至っては前に俺が、残金が金貨12枚でショックを受けていたのを覚えていたらしく、それを例にしたらしい。


 でもさ、ゾーロさんと普通に金貨1000枚単位で取引してたけどなー?


 俺が余程不思議がっている風に見えたのか、シロネが慈愛の眼差しのまま、俺の思考を察したのかの如く追加情報をくれた。


「セージ様、ゾーロさんたちは大商家の商人たちッスよ?隊商の馬が全部馬竜って、普通あり得ない規模の隊商ッスからね?」


 うん、ごめん、イマイチわかんねー。


 なんでそんな大店の大商人達が隊列組んだりしてんだ…ってばよ?


「大陸間移動をして商売を広げるということは、貴族にお伺いを立てるということです。そうなれば商家の主本人がお伺いに行かなければ無礼にあたり、商売どころではなくなります。普通の行商のまねごとをしていたのは、ただ顔を売って販路を増やすだけじゃもったいないという商人としてのさがというものでしょう。馬竜はともかく、セージ様はそれで大商家の隊商をただの行商の隊商と間違えたのではございませんか?」


 ここにきてキンバリーさんが俺にフォローを入れてくれた、だと?

 これはどういうことだ?


 ……いや、視線が生あたたかい。

 コニーにも目を向けると、やつも生温かい目をしてこちらを見ている。

 バカにしやがって!


 キンバリーさんは善意かご機嫌取りだろうけども、コニーは違うと思う。絶対。


 少々不機嫌になってしまった自覚はありつつ、コニー達といくつか情報を交わして商業ギルドを出た。


 うーん。あとは宿に行って連絡待ちか。


「次は宿…」


「セージ様」


 次の行動を口にしようとしたら、アイラに呼ばれた。


 彼の方を見ると、通りに視線を向けていたのでその視線を追うと、一台の馬車が停まろうとしているところだった。


 成り行きを見守っていると、きちんと馬車が停まり、中から見覚えのある人が出てきた。


「お久しぶりでございます、セージ様」


 ネイルサロンを任せている俺の教育係に任命されていたエストラ夫人の侍女のミスティアだった。


 彼女が下りてきた馬車の中から、ご夫人も顔を出してこちらに優雅に会釈をし、馬車から出て改めて礼をとって挨拶してくれた。


「アテナからセージ様がいらっしゃると聞いていたのですが、まさかこんなに早くお戻りになるとは思ってもみませんでした。それにご友人の方のほうがお早く再会を果たせたようで」


 チラリと夫人が俺の後ろを見ている。


 もしかして…と振り返るといた。

 全身甲冑の物騒な人が。

 それ変装か。夫人にバレてるけど大丈夫か。


 あと夫人は敢えて帝都大門で待ってないで、様子を見計らってここまで来てくれた感じか。

 すごい気配りだな!


「良ければ騎士様も御同乗いかがですか?」


 全身甲冑姿の人がコクリと頷く。

 いや、声出せよ。声くらいでバレやしないって。


 俺も含め、皆で馬車に乗る。


 馬車内は案の定というか、魔カスタムされた空間拡張されているやつだった。

 一瞬それに驚いたコニーだったが、俺の方をみて、それから諦めたのか頭の甲冑をだけをとった。


「いや、助かったぞ、夫人」


「いえね、陛下が単騎で城下に降りて商業ギルドへ向かったと報告があったもので」


「そ、そうか」


「ああ、密偵とかではございませんよ。城の窓際部署の指導員という老後の暇な役職を務めていた夫が『陛下がソワソワしながら“たまに馬の様子でも見に行くか”と人に聞こえるような独り言を言っていたので、城の窓から様子を窺っていた』んですって。そしたら陛下に姿格好がよく似た、戦時下でもないのに全身甲冑姿の騎士が出て行ったから、わたくしに教えてくださいましたの。『今なら貴重な格好をした騎士が見れるぞ』って。わたくし、それより前にアテナから『セージ様が帝都にいらっしゃる』と聞いていたので、もしやと思っておりましたの」


 夫人が懇切丁寧に、コニーに…いや、子供に言い聞かせるように、説明をした。


 その説明をする夫人にたじたじになるコニーというのもまたなかなかな風景だな。


 あ、コニーの馬はあとで商業ギルドの職員が夫人が一筆したためたモノと一緒に送り届ける予定だ。


「それはだな…」


「ご公務、まだたくさんありますわよね?」


 にっこりとほほ笑む夫人。

 なかなかの凄味があるぜ。


「あ、ああ、すこし息抜きだ」


「言ってくだされば夫もお伴しましたのに。そのような姿では、その装備をなくした騎士がどうなるか、わたくしとても心配ですわ」


 頬に手をあててちょっとため息交じりに言う夫人。

 そこから始まるやんわりとした説教は城に着くまで続いた。


 あー、これ、俺の為のお迎えじゃなくてコニーを捕まえるためのお迎えだったんだなーって、途中から気付いたよ。


 俺のお迎えだったらわざわざ夫人が来るまでもなく、アテナか邸宅にいるユオ達が来ればいいだけだからな。


 いわば俺は巻き込まれた感じか。

 迷惑な皇帝だなあオイ!


 そんな事を思っていると


「セージ様もですことよ? 帝都に来たならばただ用事を済ませてさっさと出て行くなど言わずに陛下に面会するぐらいはして差し上げませんと、陛下も御友人を心配してこのような………忠臣に迷惑をかけてまで城を抜け出すようなこともございませんでしたのに」


 とんだ飛び火もあったもんだよ!


 夫人は俺にもちょっとだけ苦言を呈し、それを横目にコニーがニヤ付いたところを夫人にみつかったため、改めて夫人に説教されていた。


 ザマーと思いつつも口にも顔にも出さないでいた俺は利口だと思う。

 俺だって学習するんだぜ。




 コニーを城に送り俺はついでにネイルサロンの視察をしてほしいと夫人に頼まれたので、実行。

 あまり変わってないようだが従業員が少し増えたようで、その増えた分の従業員を事務室に呼んでオーナーである俺が紹介される。


 驚く従業員さん達。


 そうですよね。こんな男子高校生がオーナーとかイカレてるよねー。


 俺もちょっと挨拶して、従業員は仕事に戻る。

 入れ替えにアテナとダヴィデが入ってきたのでちょっと労う。

 いつもありがとう、ご苦労様です。


 そうして場がなんとなく和んだところで怒涛の報告が始まった。


 ああ、うん。

 シロネさん、よろしくお願いしますね。


 俺は早々に聞く事を放棄し、今日食べたい晩ご飯の事を考えた。

 報告を聞いている風な顔をしながら。


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