102 別行動
ばーちゃん達妖精族的には妊婦や子供が飢え死にしたり、それを吐き捨て当然とするというのは人殺しより許せないことらしい。
未だ基準がよくわからない妖精族だけど、ばーちゃん達は本気で憤慨してるッぽい。
この国の村や町をめぐる間、その闘志に火がついたらしい。
既に本国に連絡をしていたみたいで、2日後にはばーちゃんの国の兵が合流した。
「ってわけでね、せーちゃん。ここで一旦お別れなんだけど、お別れついでにね、あっちのあのあたりに結界と、それから砦とか築いちゃってくれないかなーっておばぁちゃん思うんだけど、どうかな?」
酷い!
この計画はあんまりにも杜撰過ぎるよ、ばーちゃん!
孫の懐ありき…!
「お任せ下さい、ララリエーラ様。砦の件に関しましてはセージ様にかわり、このシェヘルレーゼがその願い、叶えましょう」
「きゃっ!さすがよ、シェリーちゃん!」
キリッと前に出るシェへルレーゼにきゃぴきゃぴするばーちゃん。
なんか、ぐだぐだだ…。
これからばーちゃん達が向かう戦争には、ばーちゃんなりの俺への配慮があったみたいだ。
マジな殺し合いに、俺が参加しないように。
もしも、万が一に俺が人を殺してしまわないように。
『だってせーちゃん、元の世界に…日本に戻りたいでしょ?理性無き魔物はまだしも、人同士の殺し合いを見て、日本で普通にしてられる?絶対思い出すわよ?家族と居る時とか。ここでは確かにヘタレとか甘ったれとか言われるかもしれないけど、ここの価値観に合わせる必要はないのよ?せーちゃんのスキルやジョブではメンタル補正はほとんどないからそれも心配というのもあるのだけれどね?』
って、あれからそう言われて気付いた。
ばーちゃんは、俺の事をきちんと考えてくれていた。
「…そうですね、少し予算が足りないので、足りない分は我々でこなしましょうか」
「え、ちょ、予算が足りないって…?」
ここに来るまでも畑やらを(配下久遠の騎士達が)耕しまくった時に石や岩や土、それから魔獣や草木を【異世界ショップ】にチャージしまくってそれなりに稼いだはずなんですけど?
「はい、海を手中におさめるということでしたので、小型の中古戦艦を購入いたしまして、その改装にも少しかかってしまい…」
はい、でたよでた。でましたよ。
なに最後の方ちょっと照れた感じに言ってんの?
そんな風に言われたって言われてる内容に納得とかまずないからね?!
あと海を手中におさめる気満々?!
取らぬ狸の皮算…なんとか並みのフライングで軍艦購入って…あれって数千億とかするやつじゃないの?いくら小型とか中古とか並べ立てても…いや。まって、この感じ…謙遜みたいな雰囲気出してるけど、まさか「小型」ってところを遠慮して言った訳じゃないよな?!
実は空母買ったとかないよな?!
嫌な予感に残金を確かめる。
怖いので【アイテムボックス】内を確かめることはしない。
あったら怖いじゃん。
ジョブ【男子高校生】が個人で空母所有とかワケわかんないし。
あ……………………、残金が…。
しばらく確認してなかった自分も悪いけど、それにしたって残金が少なすぎる!
「金貨12枚…?」
「それだけございましたら手持ちと合わせて、新たに作る砦の備品を最低限揃えることがかないましょう」
「まさか、この残金すら使いつくそうというのか」
「え?はい。もちろんでございます。セージ様の祖母様の願いなので」
あー、はい。そうですか。
そうですよね。
俺がシェヘルレーゼにばーちゃんを頼む的な事を言ったもんね。
「そう、か。うん。そうか…。そうかー」
としか言えない。
そして―――
「うん。ダンジョン行こう」
という結論に至る。
そうだ。
ダンジョンで稼ごう。
あそこはいい。
ロマンだ。
たぶんきっとあそこにはロマンがいっぱい詰まってる。
宝箱を根こそぎ取りつくそう。
そして【異世界ショップ】のアイテムチャージで…
「…自分、ダンジョンが可哀想になってきたッス」
シロネが何か言ってるが、ダンジョンがなんだ。
ダンジョンより俺の財布が可哀想な事になってるっての!
その後、シェヘルレーゼが追加で数十体ほど配下を出し、その辺の石や岩を削りブロックを作って作って作りまくって組み立て、小一時間ほどで巨大な砦を作り上げた。
「まぁ!ウチの砦より随分立派ねー?すごいわ、シェリーちゃん!すっごく素敵ね!砦内も機能的で住み心地良さそうだし、そのうち町でも出来そうね?」
「おほめにあずかり光栄にございます。ご所望とあらば町をもおつくりいたしましょう」
もうこの二人は放っておこうと思う。
楽しそうだし。
「セージ様、これからどうするんスか?」
「「ダンジョン?!」」
シロネとティムトとシィナが今後について聞いてくる。
目的は決まっているけど行き先はまだ決まってないからなー。
「ばーちゃんの国にもダンジョンあるらしいんだけど、どうするかなー」
「えーっと、この雑誌によると…」
シロネが観光マップを出してきた。
シェヘルレーゼ辺りがシロネに預けたんだろう、この国の観光マップ雑誌だった。
「あ、ありましたッス!この国のツァツィー領と言うところにダンジョン都市があるみたいッスね!」
「「「ダンジョン都市…!!」」」
俺と子供たちでハモる。
だってねー、心躍る言葉だよね“ダンジョン都市”って。
ここにハルトとマモルがいれば喜びを分かち合えたかもしれない。
俺と子供たちでは喜びの種類が微妙に違うからなー。
俺は「あー、これがラノベでとかでおなじみのアレか!」とか「あの名セリフ、リアルで言えたぜ!」的な興奮で、子供たちの方は「知ってる!ダンジョンがたくさんあるあの憧れの観光名所!」的な興奮だ。
「うん、そこ行こう。せっかくこの国にいるんだし、そこにしよう」
子供たちもいい感じに頷きまくってる。
「了解ッス。ではヒューくんに…」
「あっ、まって、シロネちゃん。ねぇ、せーちゃん。しばらくおばぁちゃんにヒューイくんとピクシー=ジョーを貸してくれないかしら?」
うーん?
…なんでピクシー=ジョーは呼び捨てなんだろ?
とかどうでもいい疑問が。
「うん。いいよ」
ガチで戦争するって言うなら、ヒューイとピクシー=ジョーにばーちゃんと行動してもらえばハルトとマモルにリアルタイムで情報が行くってことだからふたりに有益になるかもしれないし。たぶん。
俺と行動するより断然能力を活かせるはずだし。
「ついでにシエナもつけようか?」
「えー? どうしようかしら? その子、北大陸の坊やの配下なんでしょー?こちらの情報ながされてもねぇ…?」
ばーちゃんは久遠の騎士の仕組みをよくご存じなようで。
「んー、まぁ、情報収集とかはピクシー=ジョーがいれば事足りると思うから良いけどさ」
「ええそうするわ。シエナちゃん、見た目は小鳥かわいいし癒されるからほんとは一緒にいたいんだけど、戦争となると機密事項も出てきちゃうから、ね?」
小鳥可愛いってなに…。
まんまじゃんか。
それから数時間後、俺達はばーちゃんと別行動となった。
ばーちゃん達は砦で今後の事の話し合いに。
俺達は旅に出る。
主に金策だけどね。
しかしまた大金を手に入れても今度は「戦闘機も良いですね」とか言ってシェヘルレーゼが夜な夜なポチりそうなんだよな。
「しかし、一気に寂しい人数になってしまったッスねー。海底以来っスかね?」
そうッスね。
「うん…たしかに。ちょっと心もとないな。移動手段も微妙だし」
そう、我々の中に車を運転できる人材はいなかった。
仕方なくてくてく歩いている。
振り向けば数百メートル後方に真新しい砦が見える。
「あはは、自分はこのまま徒歩でも良いんスけど」
「え、やだよ。地図的に結構遠いじゃん。徒歩何カ月だよ。移動大変だよ。あるツールは使いたいよ」
「そーっスよね、セージ様って、そうでしたッスよね!」
「なんだよ、藪から棒に。改めて納得しやがって…」
ブツブツとシロネに聞こえるか聞こえないか程度の声で反論にもならない反論をしてしまう。
いつの間にかシロネとの距離感が縮まっている。
それでも苦にならないのは慣れだろうか。
…違うな。シェヘルレーゼというちょっと距離を置きたい感じのやつが近くにいたからだな!これはいわば連帯感的な距離だな!
「戻って馬車借りてくるッスか?」
「いや、今から戻るのもちょっと恥ずかしくない?」
「それもそうッスけど、セージ様、歩きたくないんスよね?」
「そりゃもう心から」
「じゃぁやっぱり戻るしか…」
「いや、それよりもこっちの方が近い」
俺は【聖女の願扉】を農地に開いて近くにいた配下久遠の騎士に声をかける。
「…またずぼらな使い方をするッスね…扉の中にすら入らないで事をすすめるって…」
シロネがぶつくさ言っているが気にしない。
「おーい、馬車と馬用意してくれ。あと御者に俺より年上で見た目も地味めなやつ。アーシュレシカの配下で頼むー」
マスタードールのアーシュレシカならアーシュレシカ同様に男性タイプ、シェヘルレーゼならシェヘルレーゼ同様女性タイプの配下がつくりだされる。
俺が指定したのはアーシュレシカの配下で、見た目が地味な20代以上の男性タイプが来るはずなのだが…
「お待たせしました。僕が運転手を務めさせていただきます」
馬車じゃなく、ゆったり快適そうな車内のファミリーカー。
そしてその運転席から顔を出して挨拶をする金髪碧眼で、爽やかな白シャツにジャケットを着たキラキラしたイケメン。
「え、地味めなアーシュレシカの配下って言ったじゃん…あと馬車って…」
「この国では僕の姿が一般的で馴染みがあるとの事でした。それと、セージ様が移動されるのに馬車では退屈かと思いまして、自動車にさせていただきました」
「…………………………………………なるほど」
色々な言葉を飲み込んで、それだけを言葉にした俺は結構大人だと思うよ。
いや、やっぱダメだ。
モヤモヤする!
いくらこの国で金髪碧眼が一般的だと言っても顔がイケメンすぎるだろ?!
白シャツにジャケットってそれどこのオフ日の騎士もしくは王子様?!
俺が移動に馬車だと数時間で音を上げるってよくご存じで!
しかも予算が無くて魔改造しきれないからって、魔カスタムしなくても素で快適な乗り物をチョイスしてくれるありがたさよ!
そして金銭的な事は敢えて言わず、俺が退屈するだろう的な言葉に濁してくれている…。
完璧か!
笑顔が爽やか煌びやかか!
「あー、よ、良かったッスね、農地魔開拓しまくった時に揃えた車ッスよね。備えあればなんとやらと言うやつで、こうして旅の役に立つとは流石セージ様の久遠の騎士、先見の明ッスね!」
シロネの配慮が俺の心の傷にブートジョロキアをすりこんでくる。
そもそも俺の思っていた農地とは違う進化を遂げている農地。
あの地にあんな予算を…いや、もう今更か。
なんだかんだ受け入れていた自分がいたし。
あれがなくともシェヘルレーゼは軍艦だか空母だかを購入していたさ。
うん。そうだな。
バスじゃなかっただけでもいいか。
あれよりは目立たないだろうし。
…いや、目立つよね?!
この世界に車なんてまず見ないからね!
かといって馬車だと確かに飽きる。
馬の手入れに何度も休憩をとらなきゃならないし、馬の手入れをしてもらっている時の手持ち無沙汰感に小心者の俺はちょっと罪悪感あるし。
馬車もシェヘルレーゼの魔改造がなければいくら日本製の馬車で乗り心地が良くても、快適さが足りない。
だったら車の方が気兼ね無い気がしてきた不思議。
…うん。ま、いっか。
心の中で少しでも愚痴をぶちまけたらちょっと気分が落ち着いてきて、自動車もイケメン配下もだんだんどうでもよくなってきた。




