101 他の村々へ
俺の農地で農業を熟知した配下久遠の騎士の手にかかれば小一時間ほどで村規模の畑は完成する。
すでに村の畑の作物は収穫時だ。
そして既に村の大人たちにも話が行き届き、みんなで収穫作業に勤しんでいる。
もちろんその作業には配下久遠の騎士も村の子供たちも参加している。
「ようせいすげー!」
「ほうさくだ!」
「くだもののきがある!」
「あまいおいももある!」
いや、配下久遠の騎士がすごいんだからね?
そもそもこの収穫作業に妖精族なんて1人もいないじゃないか。
みんなでワイワイ収穫作業をしていると、村長とばーちゃんがやってきた。
「せーちゃん、次の村に移動するにあたって、人員貸してくれないかしら?村の護衛にね?」
「配下系でよかったら」
むしろ俺にはそれしかない。
「たすかるわー!やっぱ持つべきものは孫よね!」
うん。ギャンブルに使うカネを渡した時もそれ、言われた気がする。…気のせいだといいけど。
とりあえず村馴染み良さそうなシブめな見た目年齢の男女、それぞれの姿の配下久遠の騎士を村におくことにした。
彼らの為の住居も村の畑のそばに作った。生活用品もそろえ、それでも足りなかった時の為にお金と【異世界ショップ】の使い捨て端末もいくつか常駐する配下久遠の騎士に渡した。
しばらく村で生活するにあたって名前がないと不便ということで、シブい美おっさんスタイルの配下久遠の騎士を<ニッシン>、若めな美熟女スタイルの配下久遠の騎士を<ユキジ>と名付けておいた。
二人には私服の他に冒険者が着るような装備や、必要に応じて習得できるようにスキルブックもいくつか渡しておいた。
まぁ、配下でも久遠の騎士。その辺のレッドドラゴンくらいはワンパンで伸せるだろうけど、一応ね。
それから村長をはじめ、村人たちにも注意事項を。
「これは俺の騎士です。あなた達に命令権はないし、見た目がエルフ族だからといって亜人として差別されたり、強制的な労働を強いられるいわれもない。普通に人として接してください。もし差別的な事を言われたり強制された場合、ただちに撤退するように言っておいてます」
こういうのは最初が肝心だからな。
しっかり言っておく。
というか、そもそも配下久遠の騎士は俺以外の言うことはほとんど聞かないと思うけどな。俺の意にそわないもの以外ならコミュニケーション次第では善意で村人たちのお願いくらいは聞くかもしれないけど。
「あの…それは大丈夫だとは思うのですが、もし、この国の軍人にこの村の現状が見つかり、作物やその方達を渡せと言ってきたらどうすればよいのでしょう」
「それはばーちゃん…えぇっと、そっちの偉い人達と話し合った通りにしてください」
「『言うことを聞く必要はない』と言われましたが、たった二人では…それにこの村に軍に対抗できる戦力もありません」
「それは心配いりません。このどちらか一人でも大国のひとつや二つ、半日で落とすことが可能な戦力を持っていますので」
本人達から聞いた話だと配下程度でもこのくらいは簡単なことらしい。
「それは…なんという…。なんとも恐ろしい力をお持ちなのですね」
ですよね。
俺もそう思いますよ。
「信じてないですか?」
「いえ。あなた方の事を疑うことはもはやありません。しかし、それほどまでの戦力をもった国を相手に、この国はなんと愚かなことをしたのでしょう」
そう村長は嘆く。
「そうですね。せめて情報収集くらいはしておくべきでしたね」
村長の嘆きに、シェヘルレーゼが謎のドヤ顔で上から発言。
そしてばーちゃんがトドメをさす。
「その点、この国はこちらが情報収集しまくって遊べるくらい、情報管理はずさんだったわよねー?内紛が起こってないのが不思議なくらい、中央はボロボロよ?地方貴族にいたってはこの国の南東にある獣人王国と仲良くして貿易で栄えていたくらいだし?」
あ、そんな事になってたんだ?
村長さんは落胆を通り越して呆れた顔をした。
村中が豊作に沸くなか、俺達は移動の準備を始める。
村人たちには引きとめられたが、他の村も侵略すると言ったら素直に引きさがってくれた。
侵略って何だろう。
この村の滞在時間は4時間程度。
既に夕方に差し掛かっているが、侵略は早さが大事だと言うので暗くなるギリギリまで移動に時間を使う。
シェヘルレーゼや他、配下久遠の騎士がいる限り、夜を徹してでも移動出来ちゃうからね。
流石にそこまではしないみたいだけど、ばーちゃんは食事と休憩と睡眠時間以外は移動したいと言っているからさて、どうなるか。
主に村の子供達を中心に別れを惜しまれるなか、次の村へ向けて出発する。
「じゃ、ニッシン、ユキジ、村を頼んだ」
「「お任せ下さい」」
「攻撃されたからと言って相手を殺してはなりませんよ。拘束し、尋問し、身ぐるみを剥いだ後に結界外へ放流するのです。心の底から謝罪し、こちらに寝返るのなら村で面倒を見るなり働かせたりすればいいのです」
配下久遠の騎士に対してシェヘルレーゼが真面目に指示を出している。
穏便な指示も出せるんだね。
いや、これは穏便なのか?
あやうく雰囲気にのまれるところだった!
村には【堅牢なる聖女の聖域】を張った。
村に敵対する者、略奪を考えている者、他、村に対して何らかのよからぬことを考えている者は村に入れないようにしてある。
もちろん【堅牢なる聖女の聖域】なので攻撃の類は受け付けない仕様となっている。
そして村人たちが反乱しないとも限らないので俺たちやばーちゃんたちはどんな状況下でも結界内に入れるようにはなっている。
「というわけで、心置きなく次の村へレッツゴーよ?」
ばーちゃんのジャンクな日本語がさく裂。
「れっつごー、でございますか?」
ほら、御者さん困ってんじゃん。
「張り切って次に行きましょう、という意味でございます」
シェヘルレーゼの通訳が入り、グダグダな感じに馬車は走る。
お見送りしてくれた村人たちの表情が明るくなっていたのは印象に残った。
もう村が見えなくなったところで、
「ねぇ、せーちゃん。おばあちゃんに提案があります」
「それはなんだろう?」
きっとロクなことではないんだろうなー。
「あのね、荷馬車の中に、船の時みたいなテントを張って、その中にいれば揺れや広さの心配はないでしょ?だからね、御者をシェリーちゃん達に任せて、おばーちゃん達はテントの中にいれば夜通し移動できると思うの」
ん?結構まともなお話だった?
ばーちゃんにしては効率的な話だな。
「うん。いいと思うよ」
ということで道途中で馬車から馬車へ移動。
「馬車の改装を失念しておりました。セージ様方がお休みの間、箱馬車内を拡張し、整えておきます」
シェヘルレーゼのやる気が漲っている。
やりすぎないでくれるといいんだけど。
もともと北大陸の移動に使った時にちょっと寛げるように広く拡張はされているけど、大人数で寝泊まりできるほどではない。
失念と言う程ではないと思うけど、そう言うってことはちょっとした豪邸みたいな内装にして全員が寛げるようにするんだろうなと察せられた。
翌朝、馬車から出ると次の村付近に着いていた。
夜間には既に到着していたみたいだが、一応常識に則って朝までここで待機していたらしい。
…常識で言うなら夜間馬車を走らせることはないと思うんだけどね。
そして馬も夜間はシェヘルレーゼの、拡張しまくってほぼ牧場と化している【ワンルーム】で休ませ、3台の馬車を連結させて馬型になったヒューイが牽引してくれていたみたいだ。
で、案の定ここに到着後、俺達が起床するまで暇を持て余したシェヘルレーゼは、俺達が日中乗っていたちょっと豪華な箱馬車に超魔改造を施しまくっていた。
確認の為に入ってみたけど、思った以上に豪華で優雅なものだった。シャンデリアはいらないよね。
馬車というつくり的にホテルっぽい仕様には出来なかったみたいだけど、馬車に入ってすぐはちょっとしたお茶会でも開けるような広々としたサロンっぽいつくりとなっていて、その奥に大浴場と大階段があり、そこを上がると生活スペースになっていた。キッチンならびに食堂が当然のようにあり、ほか、寝泊まりできる部屋があった。1人部屋、2人部屋、4人部屋が各4部屋ずつあり、それぞれが風呂トイレ付きだった。
「すごいッスね」
シロネが乾いた笑いで受け入れているのが印象的だ。
ばーちゃんはただただ喜んでいたけどさ。
その新しい馬車の中で、シェヘルレーゼが用意した、家で食べるような普通の朝食をとり、朝早くではあったが村に行く。
最初の村の時みたいにはじめは警戒されたが、交渉担当の文官さんが頑張ってここでもばーちゃん達の国へ下ることに。
つくづく国や領主から冷遇されている土地なんだなっていうのがわかった。
炊き出しをし、一週間以内の遺体があれば蘇生し、すぐ収穫できるような畑をつくり、次の村へ。そしてまた次の…。
何ヵ所かの村をまわったら次は町へ。
既に全軍が王都方面へ移動してしまっているので余裕で町をも掌握できてしまった。
これでいいのかこの国は。
町の方でも結構な…いや、食い気味に受け入れられてしまった。
よっぽどのことがあったのか、町長や自治会長が憤慨していた、と後から聞いた。
町でも食料問題は深刻だったので、訪れた村々同様の措置をとった。
しかし町は村と規模が違うので配下久遠の騎士は10名ほど配置し、空き家を魔リノベーションしてなるべく配下久遠の騎士達がくらしやすい環境を整えた。
「町の守護とて配下1体でも充分なのですけど」
頬に手をあてながらこてんと首をかしげて「わたくし、不満です」アピールしながら、シェヘルレーゼが配下久遠の騎士を送りだす。
「まぁ、人は数で安心するものっスからね。こればっかりは仕方ないッスよ」
その考えでいくと守護が10人でも不安に思う人が多いんだろうな。
「これでこの国の南側、三分の一を掌握できたわけだけど、どうしようかしら?このままこの国とっちゃう?」
ちゃめっけを出し、ワクワクしながらばーちゃんがエグイ事を言いだした。
「なんで?金かかるだけじゃない?」
たぶん既に財政破綻しているはずのこの国をとったところでばーちゃんの国への負担が増える以外、うま味はないと思うんだけど。
「そうなんだけどね?でもね、この国の東北にはね、海があるのよ?」
「へー。塩でも欲しいの?」
「あら、塩?それも良いわね!」
え、違うの?
「塩目的じゃないんだ?」
「当り前よー!妖精族がそんな下世話な目的で行動するわけないじゃない?」
…妖精族的にカジノでギャンブル三昧は下世話な行動ではないらしい。
「そ、そうなんだ」
「なぁに?せーちゃん。なにか言いたそうね?」
「ううん。」
祖母思いの俺は否定を口にしておくことにした。
「そ?まぁいいわ。でね、おばぁちゃん、ほら、女王なんかやってるじゃない?ほんとは立場上ダメな事もあったんだけど、結構色々出来たのよ。それでね、まだやったことないのが国盗りなのよねー」
「へー」
何を椅子取りゲームみたいなことを…。
……え?まさか、妖精族的にはこの状況って…
「こんなゲーム、滅多にできないじゃない?だからこの際、やってみようと思うのよー?『海がほしかったの!』って名目があればいいじゃない? ね? ついでよ、ついで。ここまで来ちゃったんだもん、しかたないわよねー?」
なにが「だもん」で「ねー?」だよ!
ついでが酷過ぎる!
ばーちゃんが周囲へニコニコしながら視線を巡らせ、だけど次の瞬間にはサッと冷たい視線に切り替え、遠く北を見つめる。
「だからね、せーちゃん。しばらくおばぁちゃんたち、忙しくするからせーちゃんとはここで一旦お別れしようと思うの」
「え?なんで?」
「ここまではただ敵の背をとった陣地取りだけど、ここからはちゃんと戦争しようと思うの。せーちゃん、苦手でしょ?人と人が殺し合うの」
そんなの、あたりまえじゃないか。




