第4話 精霊眼と幼子勇者(♀)
《ユグドの樹海》
【ルオオオオ!!】【アー、アー、アー!!】
【キュルルル!!】【アアアアアァァ!!】
うんうん。凄い大型や特殊なモンスターがそこら中に跋扈しちゃってるよ。怖いね。
まあ、僕は『迷彩眼』で姿と気配を消してるから襲われる事はないけどね~!
【オァァア!!】
「キャアアア!! 来ないで下さいです。カァ~!」
……なんか後ろが、カァカァうるさいけど気のせいだよね?
どんどんどんどん先に進むよ。
この『ユグドの樹海』は凄く入り組んだ構造をした道でね。
1度でもゴールに辿り着く為のルートを間違えると、迷ってこの森から出れなくなっちゃうんだ。
「カアァァ!! ここはどご? 私はダアレ? カアァァ!!」
そうそう。変なルートに入るとね。森の主の幻影にやられて徐々に自分が分からなくなっていくんだ。
さっきから僕の近くで叫んでる焼き鳥君みたいにね。
『爆烈眼』
【ギギギイィ?! ギャアアア!!】
僕の周りを走り回ってた鬼目を爆発させた。別に焼き鳥を助けたわけじゃないけどね。
「タオセタァ……マリョクマダイッピャィ。オンジョン」
「カァ~! カァ~! イヤ~! どこの誰か存じませんが助かりました。このご恩は一生忘れません。カァ~!」
なんで『迷彩眼』で姿を隠している僕にすり寄って来れるのさ。しかも、この焼き鳥さん。さっきまでの自分の記憶全部飛んじゃってるしさ。
「カァ~! カァ~! ご主人様はどこまで行かれるのですカァ? この森の奥はヘンテコな泉しかありませんよ。カァ~!」
何がご主人様だい。
カァ~!カァ~!うるさいね。右目の新しい視力を手に入れたら。美少女鳥にでもジョブチァンジしてあげるからね。焼き鳥君。
それにしても自分の記憶を忘れても、知識は覚えてるんだね。この焼き鳥君は。
「…………ミェテキタァ」
「カァ?」
カァ?じゃないよ。なんで着いてくるんだい。この子は?
暗い森の奥。1ヶ所だけ異様な光を放つ泉があるんだ。
その泉の名前は《ミミルの泉》て言ってね。霧の巨人が住んで居るんだよ。
「カァ?! この気配……主。逃げた方が良いですよ。あれはこの泉の主で名前は」
「キリュノキョジィンダネェ」
ボクと焼き鳥君が騒いだせいかな? 泉の底から
泉の水面が震え始めて、泉の中から灰色の巨人が……日本の怪談話に出てくるようなダイダラボッチみたいなのが現れたんだ。
【バアァアアアアア!!…………何の様だ? オディ……まさか私に渡した片目を奪い開始に来たのか?】
「カァ? 何の事ですカァ?」
『爆滅眼』発動。
【カァ?……貴様。まさか禁断の場所に入ったの……ガアァ?!……身体が押し潰され破裂するだと……があぁあ?!】
ダイダラボッチの身体が光出したと思ったら突然、破裂しちゃったよ。怖いね。
「カァ~! カァ~! 泉の主が破裂したのですカァ~?」
そして、うるさい焼き鳥君。この子も一緒に破裂させとけば良かったかな?
「……スイミャクギャン」
『水膜眼』。身体の周りに空気をまとわせて、水中でも活動できる水系統の魔眼の力。
「ヨショットォ……」
トプンッと泉の水底へと入って行くよ~!
「カァ~! 私もお供しますよ。ご主人さ……ゴボボボボ!! 今の姿では無理ですカァ?」
◇
水中……泉の底にある眼。僕はそれが欲しい。それがあればまた右目が見える様になる。
僕が原因でお母様の悲し顔やお父様の苦しんだ顔を見なくて済むんだ。
だから。だからお願いだよ精霊の眼。僕が君を手に取った時、主人だと認めてくれないかな?
僕はお母様やお父様には幸せであってほしいんだ!
【貴様!! よくも私の身体を爆さんしてくれたな!!】
嘘おぉぉ! 僕の今の最大火力の『爆滅眼』を喰らって、思念体で生き延びてるですけど? どうなってるの?
【これでは身体の修復に何年も……幼子だと? それにお前右目が見えていないのか?】
あれ? 僕を幼子だって認識して心配してくれてる? もしかして、ダイダラボッチさんは対話が可能な精霊なのかな?
「アゥ……ウン……トリアタマにトラレタァ」
【鳥の頭に?……未来ある幼子の眼をか?】
「ウン……ミギメミェナィカラケンカオキリュ」
【喧嘩?……そうか。喧嘩は良くないな……そうか。少し待っていろ。幼子よ】
あれ~? 結構心配してくれてるんだけど。
ダイダラボッチさん。水底に潜ってちゃったよ。
「ドゥショゥ……」
少し待ってようかな……でもさっきの『爆滅眼』で結構な魔力を使っちゃったんだよね。
早く上に戻らなくちゃ息が……
【すまん。待たせてしまったな。赤子よ。全ての眼を拾い上げるのに時間がかかった。幼子で眼が見えなければ困るだろう…好きな眼を選べ】
「スキナモノ?」
思念体のダイダラボッチさんが水底から持ってきくれたのは、色とりどりの『眼』だったよ。
【多種多様な七つの精霊眼だ。考えて選ぶといい】
『色彩の眼』これはお前にあらゆる色を与える。
『未来の眼』これはお前に少し未来を見せるだろう。
『再生の眼』これはお前に死なぬ程の超回復の力を与える。
『天候の眼』これは今は小規模の天候を操れる。
『紋様の眼』これはあらゆる魔法陣を書けるだろう。
『顕現の眼』これはあらゆる獣を喚べる。
『叡知の眼』これはあらゆる知識の神髄を知れるだろう。
【さあ? どれにする?】
パキンッ!
説明が長すぎて『水膜眼』で作った水の膜に亀裂が入っちゃってるよ。オマケに……
「……イキヤババ」
まだ成長途中の身体だから息もそんな続かないよね。
【どうした? 早く選ぶと良い】
いや、急かされても。困るんだけど……なら全部欲しいとか無理難題を言って、早く地上に帰らせてもらおうっと。
「ジェ、じぇんぶぅ!」
【ほう! 全部か?……ククク。お前、面白い幼子だな。気に入ったぞ。心も背負ってる運命にしては透き通っている。これをやる予定の馬鹿共に託すよりはよっぽど面白いわ】
パキンッ!パキンッ!
マズいよ。マズいよ! 割れ始めた水の膜から水が入って来てるよ~!
「イキギャアゥぁ!!」
【あぁ、授けよう……7つの輪廻をお前に託す。上手く使い―――オーディンと共に世界を救え。去らばだ! 面白き幼子よ】
「キョポポポポ……ミギュメミエリュ?」
薄れ行く意識の中で、自分の右目に新しい視力が宿っていたのを感じ取ったんだ。
〖固有能力『輪廻』の取得を確認しました。ライト・クラウディアの固有能力『魔眼』と結合します―――結合に成功しました。これよりライト・クラウディアの固有能力は『魔眼輪廻』へと至りました〗
世界代行者の声が僕の頭の中にうるさく響き渡って来た……
◇
「カァ~! カァ~!ご主人様。 ご主人様。起きて下さい。カァ~!」
「ケホォ……ケホォ…ミエリュ……イキテリュ……」
焼き鳥君の声? 誰がご主人様だい。焼き鳥く……ん?
「しっかりして下さい。ご主人様。大丈夫ですカァ?」
焼き鳥君が。黒髪美少女に変身してる? しかも全裸だし。何その劇的ビーフォーなアフターは……服着てくれないかな?
「ミギュメ……ミエルュ……」
「綺麗な虹色ですね。カァ~!」
黒髪美少女になってもカァ~カァ~! うるさいね。声は綺麗だけどさ。
あれ? でも此処……《ユグドの樹海》の中じゃないよね。不気味な雰囲気も感じないただの森だもん。
「待てや! コラァ!」
「だ、誰か助けて下さい! 盗賊に終われています!!」
「ウエェェンン!!」
「馬鹿かよぉ! こんな夜に森の中に人がいるわけねえだろう!」
「シャアハアァ! オラオラ! 馬車もねえのにどこに逃げようってんだよ? 王家様よう!」
「アゥ? ニャニ?」
遠く方から女の人が小さい子供を抱いて逃げ回ってる? それを追いかける盗賊さん達だね。
「カァ……盗賊ですね。やりますカァ?」
その全裸姿で何をやる気だい? 変態かい。この焼き鳥く……オディ君はさぁ。
「ヤリャナィ……ボクガヤリュ……イクゥガン」
僕は盗賊達に向かって『異空眼』を発動させて、彼等を特別な世界へと送ってあげたんだ。
「シャハァァ!!……ハァ?」
「ギャハハハ!!…ギャ?!」
うん。空間をグルグルさせながら、どっか行っちゃったね。
「はぁ……はぁ……はぁ……誰か……助けて」
「ウェエェ!!」
「泣かないで、アリア……お母さんが貴女だけでも必ず救ってあげるんだから」
追われてたせいで、お母さんも女の子の方もボロボロだね。可哀想に……そういえば。ダイダラボッチさんに貰ったあの眼の力試してみようかな。
『恢復眼』
「ハァ……ハァ……ハァ……もう少しで隠れ家に…………あら? 身体が楽になっていくわ?」
「ウェェ……アゥ……」
おぉ! 凄い。あんなに傷だらけだったのに、一瞬で傷が治っちゃったよ。それに顔に生気が出て元気にもなってる。
僕の魔力を凄く使ったけどね。これは魔力増強のレベルアップが必要だね……
「汝。王家の者だな」
「アゥ?……ァノヘンタィ?……イチュノマニィ?!」
「えっと?……貴女は? 何で裸に?」
「キャゥァ?!」
黒髪美少女に何で受肉したのかしらないけど。
なに堂々と人前に出てるんだい。あの元焼き鳥君はさぁ!!
「私は黒眼鳥。汝の味方なり―――私に姫を託しに来たのか?」
「え? 貴女が黒眼鳥様?……こんな裸の女の子が? 変態なんじゃ?」
「マゥ……」
……親子にまで変態呼ばわりされてるじゃん。オディ君……あれ? なんだろう?……いきなり回りの霧が濃くなって眠気が……
「変態……人を見た目で判断するな。それよりも私にその幼子を託しに来たのだろう? ソフィアよ」
「……私の名前を何で知っているのですか?」
「私には何でも見透す目があるからだ。安心しろ。ちゃんと育てる……お前の立場が落ち着いたら、クラウディア公爵家を訪れよ」
「なんであんな。クラウディア公爵に? 意味が分からないわ……確かにあの公爵家には親友が居るけど」
「左様か……そこの物陰に隠れている幼子は次期、クラウディア公爵の者だ。それと一緒に育てさせる……あの子は『輪廻』を与えられた存在」
「『輪廻』を?……分かりました。この娘……アリア・ミーティアスを貴女に託すわ。表の世界に居ては殺されてしまうもの」
「知っている……そして、託されよう。ではな……ソフィアよ。王政に負けるでないぞ」
「……はい。黒眼鳥様」
オディ君の……口調も可笑しいし……王家って……どういうこ……と?……
霧が濃くなって……女の子を抱いていた女の人もどっか行っちゃったよ。それに、その銀髪の女の子はいったい誰なんだい? オディ君……
「スゥースゥー……」
「主も寝たか………それでは今夜の冒険もこれにて終わりだ。しっかり尽くすのだぞ。オディよ……あれ? 私は今まで何をしていたのでしょうカァ?」
こうして僕は『輪廻』という新しい右眼を手に入れて……自称使い魔のオディ君と銀髪の女の子を保護したんだよね。めでたしめでたし? なのかな?
◆
ライト・グラウディア
種族・人間
レベル310
筋力5
魔力100000
知力109
体力15
運 105
スキル 漏らし
称号 漏らしの達人
固有能力『魔眼輪廻』
◆
◇
《次の日の朝》
「ライト~! 朝よ~! おはよう~! ママですよ?……女の子と黒い鳥?! 何で~?!」
「アゥ?……オカァシャマ……オハァ」
「ファ……オハァ~…ニャゥ……スゥースゥー」
「カァ~……ZzzZzz」
え? 僕専用の赤ちゃんベッドに女の子とカラスが寝てるんだど? 何で?
「……あ、貴方~! やっぱり浮気してたでしょう!! なんでライトの隣に女の子がいるのよおぉ!! 光魔法『光弓』!!」
……お母様の手から、矢の形をした光が、屋敷の通路に放たれたよ。それから数秒後にね。
「ギャアアア!! 何の事だ? イリア!!!」
お父様の断末魔の声が屋敷に響いたんだ。
……それにしても。銀髪のこの女の子。ゲーム《ゼロ・スフィア》の僕の宿敵。アリア・ミーティアスに似ているのは気のせいだよね?
「ダゥシュ……」
「アゥ……」
「貴方~! 浮気は許さないわよ~! この女の子はいったい、何処の娘なの?」
「誤解だ。イリア~! 俺は君しか愛していない!!」




