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第10話 高級酒場の情報収集

『盗聴眼』


 『盗聴眼』。この眼を使えば、悪い人達の内緒話も聴けるんだ。


 秘密の盗聴開始だよ。情報収集って大事だからね。


「フム。あれが黒色髪の極東美人と言う一族か。美しいな」


 バ美肉ちゃんが美しいって、目が腐っているのかな?


「ファースト店長。良いんですか? オーナーの許可無しにVIPルームにお客様をお連れするなんて」


「シケル、あの極東美人と一緒にいらっしゃった方々は、王都の検問兵の方々だぞ。検問兵の方々にはいつも《《裏取引》》でお世話になっている。ないがしろにするわけにはいかない」


 ん~? 検問兵との裏取引? なんだか怪しいワードが飛び出してきたね。


「……ファースト店長。そんな事をここで話しても良いんですか? 誰かに聴かれでもしたらオーナーに消されますよ」


 ふむふむ。この高級酒場エルドランには店長の他にもオーナーって人が居るんだね。メモメモ。


「アホゥ。ここは防音障壁が張られたVIPルームだぞ。誰に聴かれる事があるんだ?」


 僕がバッチリ聴いてるよ。ファースト店長さん。


「そ、そうですよね。失礼しました」


「それよりも。あの極東美人の接客には細心の注意を払え、あれは見た感じ相当な金持ちだ。是非とも常連客になってもらい、お近づきになりたい。キキキキ!!」


「本音が駄々だだもれですよ。ファースト店長。その笑い声誰かに聴かれた不味いですって」


「おっと! すまん。すまん……あの極東美人様は俺が落とす。だからオーナーには黙っておけよ。シケル、できた料理は俺が運ぶ。お前は、あの3名のドリンクサービスに集中しろ」


「はい。ファースト店長。(店長の黒髪好きにも困ったものだな)」



《VIPルーム》


「会話終わっちゃった……」


 ……会話終わったね。気になるワードは検問兵、裏取引、オーナーくらいかな。


 まだまだ喋ってもらって王都の情報を集めないとね。


「? どうされますか? ライト様」


「うん。まだ情報収集が足りないと思ってね。オディちゃん」


「うふん……何でしょうカァ? ご主人様」


 ……妖艶な姿をに変身したせいで、謎の自信に満ち溢れてるのはなんなんだろうね。僕の使い魔さんは。


「後でオディちゃんの大好き小白鳥リトルバードの鳥の唐揚げをいっぱい食べさせてあげるからさ。さっきのオーナーって人を誘惑して、色々と王都の裏情報を聞き出してよ。お願いできるかい?」


「うふん……容易いです。今のオディちゃんに不可能はありませんカァら~!」


 ……なんでそんなに自信満々なんだろうね。本当にさ。まさかオディちゃんって、姿まで変わると性格まで変わったりするのかな?


 コンコンッ!と、VIPルームの扉から音が聞こえてきたね。


「どうぞ……カァ」


「失礼致します。本日はご来店頂きまして、まことにありがとうございます。遠き極東の地から、こんな中央大陸までの道のりさぞ大変だったでしょう」


「カァ? 道のり?……いえ、私はただクラウディア領地から……ピギャァ?!」


「そうなんですよ。この方は、お忍びで極東からのやって来た大貴族でしてね。観光案内で僕達が付き添っているんです」


「おぉ、そうだったのですね。検問兵の方々にはいつもお世話になっておりますので、今日は盛大にサービスさせて頂きます」


 危ない危ない。そうだったね。オディちゃんはアホの娘だから、変な事を口走るかもしれないんだった。警戒しとかなくちゃね。


(カァ……酷いです。ご主人様。オディの足を踏むなんて。カァ)

(なら。変な事は言わないようにしてよ。疑われて、王都の《《本当の現状》》が知れなくなるでしょう)

(カァ。わ、分かりました。気をつけますカァラ)


「おや? どうされましたか? 極東の貴婦人……こちら当店のドリンクメニューになります。それとお料理がこちらになります」


「カァ……ありがとうございます」


 僕達を接客してくれているサービスマン。さっきからオディちゃんの胸元しか見てないんだけど。下心丸見えじゃん。


「カァ……どれを選べば良いかしら? ライ……検問兵さん」


 店のメニュー表を見てオドオドし始めるオディちゃん。


 ……そういえば。オディちゃんにはこういうお高そうな店連れてきた事がないんだよね。不味い。オディちゃんの動き、不自然そのものだ。店側に怪しまれ……


「……食前酒は入りません。この後に会議がありますので、変わりにこの店で1番のホワイトジンジャーを3つ頂けますか。それと従業員の方々と本日ご来店されているお客様にワインベレーを一杯を私達の方でおごらせて頂けますか。VIPルームへとご招待頂いたお礼として……とさっき極東の貴婦人様はおっしゃっておりました」


 さっきから静かにしていたアリアが、サービスマンに超早口でそう告げてくれたね。ナイスアシスト。アリア~!


 ついつい。アリアに向かってガッツポーズしちゃったよ。


「むん!」


 ……アリアも僕に向かってガッツポーズしちゃったよ。怪しまれるから。そろそろ止めようっと。


「おお! ありがとうございます。流石は極東の貴婦人様」


 いつの間にかオディちゃんが極東から貴婦人呼ばわりされる様になってるけど……まぁ、良いか。


「前菜はマルケルノのカルパッチョ。スープはシュカリのコンソメスープ。魚はトラウータルのポワレ。お肉はバルメカウのフィレ煮込み。デザートはリュカシのパフェで宜しいでしょうか。極東の貴婦人様」


 流石、メイド歴10年のアリア。よく、僕に内緒で、クラウディア領にある美味しいレストランにメイド長のセレスティナと一緒に行ってるだけはあるね。


 こういう場所でのメニュー選びも手慣れてる……僕も貴族じゃなかったら、フッ軽で好き放題街に行けるんだけどね。


 なんで僕が街を歩くだけで騒ぎになるのか未だによく分からないよ。


「カァ?……え、えぇ、それで宜しくお願いします。カァ」


「……素晴らしいコース選びでございますね。お料理は店長がお持ちしますので少々お待ち下さい。失礼致します」


……ガチャッ!


「カァ~! 演技って疲れるますね。ライト様~! カァ~!」


 サービスマンが部屋から出ていった途端にいつものアホ鳥モードになるオディちゃん。


 ……今回でよく分かったよ。オディちゃんが大根役者の演技下手って事がね。


「王都での情報収集は、今度から僕とアリアでやっていかなくちゃね」


「はい。ライト様……オディ様は長年。異空眼よ世界で、組織の皆を育ていましたから俗世ぞくせに疎いのが分かりました」


「組織の子達か……僕はそこら辺ノータッチだし。今まで助けた子達はどんどん異空眼の世界に送り込んでばかりで、たまに顔出すくらいの事しかしてないけど。今どんな感じなの? オディちゃん」


「カァ?……ん~?……皆、世界各地で好きに過ごしてますカァ。ご主人様至上主義。アリアお姉様シュテキシュテキ。オディママ大シュキ。なんて事を言って毎日元気に暮らしてます。カァ」


 ……なんか凄い単語が聞こえたような。


 まぁ、この10年間の"夜な夜な世直し"で助けた子達がたくましく世界各地で生きていけてるなら良かったよ。


 最初の頃は結構心配してたんだよね。ちゃんとご飯とか食べてるのかな?とかね。


コンコンッ!


「ん? もう料理を運んで来てくれたのかな? オディちゃん。入って来た人に、このチップを渡してね」


 僕は1枚の封筒をオディちゃんに手渡した。


「了解しましたカァ……どうぞ……カァ」


「失礼致します。食前のお飲み物と先付け《アミューズ》をお持ち致しました」


 なんて話をしている間に店長さんみずから飲み物と料理を持ってきてくれたよ。


 この高級酒場エルドラン。酒場ではあるけど。貴族や上級冒険者の秘密の会合でも使われるから。コース料理もあったりで、結構な格式ある酒場なんだよね。


 ……なんかだんだんこの店が欲しくなってきちゃったよ。僕。


「ありがとうございます。店長様……少ないですが。予約もせずに、いきなり入店してきた私達をこころよく受け入れて頂いた店長様にこちらを。カァ」


 オディちゃんはそう言うと、僕がさっきオディちゃんに渡した封筒を店長へと渡した。


「極東の貴婦人様……これは?」


「カァ……どうぞ。開けて中身を確認して下さい。きっと良いものかと。(何が入っているか全然知りませんけどカァ)」


「では、開けさせて頂きます……これは?!」


 店長さん。なんか驚愕な表情をしているけど。足りなかったのかな?


「極東の貴婦人様……これ程の額を頂いても宜しいのですか? 先程は店の従業員や他のお客様にお飲み物まで頂いてしまったのですが」


 後でお店後と僕が回収する算段だから全然大丈夫ですよ。心配するなら自分の今後の人生ですね。店長さん。


「え、えぇ、私もこのお店を気に入らせて頂きましたカァラ……それは今後、長いお付き合いをする店長様だけにお渡しする物です」


「あ、ありがとうございます! 今後ともこの店と、このファーストを宜しくお願い致します。極東の貴婦人様!!」


 あ~! 悪い顔し始めたよ。見た目が美人でお金持ちと分かれば下衆な本性を出すかと思ったけど。


 ここまで簡単に本性を出してくれると。こっちも色々とやり易くなるよね。


「……では、店長様《《だけと》》の友情関係もすんだ事ですし。店長様のお話をお聞かせ頂けますカァ?」


「俺…失礼。私のですか? そうですね。ではファースト幼少期列伝でも、吟遊詩人風にお話を」


 そんな、どうでもいい物語お金を払っても聞きたくないよ。


「ごめんなさい。そういうのは、今度私と店長さんだけでお会いした時にして下さい。今は……そうですね。王都の裏事情なんかを聞きたいわ」


「ウヒョ~! 極東の貴婦人様と2人きりになれるんですな。お話します。喜んで王都についてお話致します! はい!」


 ファーストとか言う店長さんがスケベな男で助かったよ。普通はこんな怪しい質問されたら疑うのが当たり前なんだけどね。


 こうして、僕達は明日には首になる予定のファースト店長に現在、王都で起こっている色々な不思議な出来事の数々を聞いたんだ。


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